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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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番外編・転生マールの冒険記36

番外編・転生マールの冒険記36になります。

よろしくお願いします。

「アゥラララァ!」


 美しい咆哮と共に、アメルダス陛下の均整の取れた肉体にある赤い模様が輝いた。


『肉体強化』の魔法だ。


 そして彼女は、編み込まれた白い髪をなびかせ、『猿王ムジャルナ』の前に立つ3体の『銀大猿』へと突進する。


 ダンッ


 蹴った大地が陥没し、アメルダス陛下は、一瞬で魔物の1体の懐に迫った。


「ラアッ!」


 ギィン


 陛下の振り下ろした刃を、『銀大猿』は岩のような手のひらで、辛うじて弾いた。


 けれど、その威力は凄まじく、銀毛の魔物の巨体は、大きく後ろ側によろめかされている。


 ガンッ ギィン


 すかさず、アメルダス陛下は連撃を繰り出す。


 さすが『強さ』を国是とする『トルーガ帝国』の女帝陛下だ。


 その剣技は冴え渡り、『肉体強化』の魔法と相まって、繰り出される攻撃は『銀大猿』を圧倒していた。


 このままなら勝利も近いだろう。


 ……これが、1対1の戦いならば。


『ホギャア!』


「っ」


『銀大猿』と戦うアメルダス陛下に、別の『銀大猿』が襲いかかった。


 途端、戦局が変わる。


 2体の『銀大猿』は互いに連携し、片方がアメルダス陛下の死角に回り込んで、攻撃を行うようにしていた。


「くっ」


 ガシュッ カィン


 さすがのアメルダス陛下も、防戦一方になってしまう。


 そんな人間の女帝の置かれた苦境を、『猿王ムジャルナ』は満足そうに眺め、その人面の口元を笑みの形に歪めた。


 ズン


 そして、残ったもう1体の『銀大猿』は、僕へと足を踏み出した。


(…………)


 僕は動かない。


 ただ、静かに呼吸する。


 近づく魔物の表情には、圧倒的優位に立つ側の余裕と、それが生み出す悪意が滲んでいた。


 ズン ズン


 足音が迫ってくる。


(大丈夫。焦るな、マール)


 僕は、自分に言い聞かせた。


 この時のために、ここまでずっと『温存』してきたんだ。


 失敗すれば、あとはない。


 だから、必ずここで仕留める――その覚悟を決めろ!


 ギュッ


 僕は、手にした『妖精の剣』を強く握る。


 その場から動かない小さな人間に対して、近づいた『銀大猿』は笑いながら、その岩のように硬い手のひらを、大きく振り上げた。


 その黒い影が、僕の上に落ちる。


 そして、その巨大な手のひらが、僕めがけて振り落とされた瞬間、


「――神気開放!」


 僕の口は、自らの内に秘められた『神狗』としての能力の最大限の開放を告げたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 茶色い髪を押しのけてピンと立った獣耳が生え、お尻からはフサフサした太く長い尾が伸びてくる。


 周囲には、放散した神気が白い火花を散らす。


 そして、


(――究極神体モード!)


 願うと同時に、小さな僕の全身へと、虹色の粒子が渦を巻いて集束する。


 次の瞬間、僕の身体は『虹色の外骨格』に包まれた人型の『いぬ』と化していた。


 兜の青い眼球が輝き、


 ガシィッ


 そんな僕の左手は、振り下ろされた『銀大猿』の手首をあっさりと受け止めていた。


『グギッ!?』


 驚きの表情をする人面。


 次の瞬間、その銀毛の頭部が胴体から切断される。


 斬ったのは、僕だ。


 振り抜かれた僕の右手には、『妖精の剣』が神化した『虹色の鉈剣』が握られていた。


 ブシュウウ


 噴水のように、残された魔物の胴体から紫の血が吹き上がる。


 雨のように、それは虹色の鎧に身を包んだ僕の全身へと降り注いだ。


『!?』


『猿王ムジャルナ』が驚いた顔をする。


 カンッ ギィン


 そんな僕の後ろでは、トルーガ帝国の女帝アメルダス陛下が、2体の『銀大猿』に追い詰められそうになっていた。


「くっ」


 彼女の剣が大きく弾かれる。


 がら空きとなった胴体に、『銀大猿』の1体が大きく口を開けて、噛みつこうとした。


(させない!)


 僕は、自分の背中に展開されている『金属の翼』を大きく広げた。


 ヴォン


 同時に、跳躍する。


 ドパァン


 僕の放った飛び蹴りは、アメルダス陛下を襲った『銀大猿』の頭部を、柘榴のように弾けさせた。


「な……っ!?」


 陛下の驚いた顔が、スローモーションのように見える。


 そして、その後ろから襲いかかろうとしていた、もう1体の『銀大猿』も、まるで瞬間移動のように姿を現した『虹色の狗』と、それに殺されてしまった仲間に驚愕の表情を浮かべていた。


 タンッ


 頭部の爆ぜた肉体を足場に、僕は、アメルダス陛下の頭上を舞った。


 ヒュルン


 縦に回転して、その勢いのままに3体目の『銀大猿』の巨体を真っ二つに斬り裂いた。


 そして着地。


 着地した瞬間、銀毛の巨体は左右に別れて、地面の上にドシャリと崩れ落ちた。


(よし)


 僕は、大きく息を吐く。


 狗の形をした兜の隙間からも、白い蒸気のようなものがブシュウウ……と溢れた。


 アメルダス陛下が、呆然とこちらを見る。


「……マール、なのか?」


 そこには驚きと共に、かすかな恐怖があった。


 …………。


 僕は頷いた。


 それから、ゆっくりと最後の敵へと向き直る。


 最後の敵。


 それは『猿王ムジャルナ』だ。


 巨大な『黒大猿』は、突然、変身した僕の姿に、そして、3体の側近が一瞬で倒されてしまった事実に、唖然としているようだった。


「…………」


 ジャリッ


 僕は、そちらへと足を踏み出した。


(あと150秒……)


 この『究極神体モード』でいられる時間は、それが限界だ。


 その先は、神気が枯渇し、肉体も消耗して、もはや普通に戦うことさえできない子供の肉体だけが残される。


(その前に、決着をつけるんだ!)


 僕は足を進める。


 そんな僕の圧力に押されたのか、『猿王ムジャルナ』は後方へと下がった。


 ドン


 その紫色の体毛をした背中が、巨岩を積み上げた城壁に当たる。


 もはや、下がる場所はない。


 ムジャルナは、酷く焦った顔をして、城壁を登ろうとし始めた。


(させるか!)


 僕は前傾し、そちらに跳躍する。


 その瞬間、『猿王ムジャルナ』は城壁を構成する岩の1つを握って、こちらに放り投げてきた。


(!?)


 ドガシャッ


 思わぬ攻撃に、飛びかかろうとした僕はカウンターで撃墜され、地面に落とされてしまった。


(誘われた!?)


 その事実に気づき、慌てて起きあがる。


 そんな僕の視界いっぱいに、『猿王』の吐き出した黒い火炎息ブレスが映った。


(うわっ!?)


 ボバァアアン


 凄まじい炎に巻き込まれる。


「マール!?」


 アメルダス陛下の焦ったような声が聞こえた。


 だ、大丈夫。


 僕の全身は『金属の翼』に包み込まれて、その熱を遮断していた。


 バフッ


 翼を大きく開放し、残り火を吹き飛ばす。


『グギィ……』


 そんな僕の姿に、『猿王ムジャルナ』は目を瞠っていた。


『化け物か……?』


 まるで、そんな表情だ。


 僕は構わず、そんな『猿王ムジャルナ』へと襲いかかった。


 ヒュッ ドゴン


 振り下ろした『虹色の鉈剣』は、『猿王ムジャルナ』にギリギリで回避され、けれど、その足場であった城壁を吹き飛ばす。


(逃がさない!)


 兜の青い瞳を輝かせ、僕は『猿王』を追う。


『猿王』は、必死に逃げ続けた。


 ヒュッ ドゴン バゴォン


 その巨体に反して、『猿王』は素晴らしい速さだった。けれど、僕の攻撃を回避し続けることで、城壁が次々と破壊されていく。


 時折、投石や炎で反撃されるけれど、僕には通用しない。


(このまま追い詰め、狩る!)


 そう思った時だった。


『ホギャッ!』


 ヒュボッ


『猿王ムジャルナ』は、僕ではなく、アメルダス陛下に向かって巨大な岩を投げつけた。


「!?」


 突然の攻撃に陛下は反応し切れない。


(陛下っ!)


 ダンッ


 僕は大地を蹴り、慌ててアメルダス陛下の正面に移動した。


 ズガンッ


(がっ!)


「マール!?」


 自分の身体を盾にして、なんとかアメルダス陛下は守れたけれど、その衝撃で、僕は動きを止めてしまった。


 その隙を『猿王ムジャルナ』は逃さない。


 メキメキィッ


 城壁の一部を破壊しながら、奴はそこから長さ10メードはある棍棒を取り出した。


 隠し武器だ。


 いざという時のために、『猿王ムジャルナ』は、城壁の中に自身の武器を隠していたのだ。


 そして奴は、それを僕らめがけて振り落とす。


 ――逃げられない。


 その事実に、アメルダス陛下が蒼白になった。


 僕自身、その迫る威力に、直撃すればただでは済まない予感があった。


(負ける……?)


 その未来を感じた。


 その恐ろしい未来を思った瞬間、僕の中に、あの人の笑顔が甦った。


 ここで負けたら、あの人の笑顔は消えてしまう。


 一生、消えない傷を心に残してしまう。


(そんなの駄目だ!)


 それにもしここで負ければ、女帝アメルダス陛下が殺されれば、『トルーガ帝国』はどうなってしまうのか?


 そんな未来は、絶対に受け入れられない。


「あぁああああ!」


 僕は、軋む身体を強引に捻った。


 右手にある『虹色の鉈剣』に、光の粒子が集まり、そのサイズが膨張する。


 長さ7メード。


 かつて、アルン神皇国の大迷宮にて『暴君の亀』を両断した『虹色の大鉈剣』――それを、僕は下段から思い切り振り上げ、『猿王の巨大棍棒』を迎え撃った。


 ガォオオン


 虹色の剣閃が、デメルタス山脈の空に走った。


『猿王の巨大棍棒』は、美しい切り口を残して切断され、その向こうにいた『猿王ムジャルナ』の左上半身を消滅させていた。


 驚いたようなムジャルナの顔。


 そして、その巨体の傷口から、大量の紫の血液が溢れる。


 グラッ ドシャン


『猿王』の巨体は、地面へと倒れた。


 同時に、僕自身も無理な肉体操作を行ったことで、全身が痺れて動けなくなっていた。


(う、が……)


 痛い。


 どこかの筋肉や腱を断裂してしまったかもしれない。


『虹色の大鉈剣』も、光の粒子が剥がれて『虹色の鉈剣』へと戻ってしまっている。


 そして、瀕死となった『猿王ムジャルナ』は、


 ズル…… ズシャ……


 地面の上を這いずりながら、山頂の傾斜に穿たれた洞窟を目指していた。


(……逃げるつもり?)


 それを許すわけにはいかない。


 ギッ ギキィン


 痛みを堪え、僕は『虹色の外骨格』を軋ませながら、『虹色の鉈剣』を引き摺って、奴を追いかけた。


 アメルダス陛下が、慌てて肩を貸してくれる。


 巨体の半分が、洞窟の影に入ったところで限界を迎えたのか、『猿王ムジャルナ』は動かなくなっていた。


 かすかな呼吸だけが続いている。


 その生気を失った眼が、近づく僕らを捉えた。


 目が合う。


 その瞬間、僕の頭の中に、不思議な声が聞こえてきた。


(ヤメロ……)


 ……これは?


(近ヅクナ……。我ハ、王ナリ。……コノ地ヲ守リ、平和ヲナス……王ナリ)


 まさか、これは『猿王ムジャルナ』の声?


 もしかして、『神武具』の精神感応が、奴の言葉を僕に伝えてきているのかな。


 その眼が、僕を見つめ、


(輝キヲ、奪ウナ。……世界ガ、終ワル)


 その意思が伝わる。


 …………。


 でも、意味がわからない。


 ただの命乞いにしては、何かが腑に落ちない。


(人間ヨ……。世界ヲ……破滅ニ導ク、愚カナ種ヨ……。我ハ、オ前タチヲモ、守ッテキタノダ……。決シテ、手ヲ出スナ……決シテ……)


 その声には、不吉な響きがあった。


 そして、真摯な願いがあった。


 やがて、その声の響きを最後に、『猿王』の眼から光が消えていく。  


 その肉体から、生の気配がなくなっていく。


 その全てが消え去ろうとした瞬間、


 ガバァッ


『猿王ムジャルナ』の上半身が跳ね起きて、その巨大な口が僕を噛み砕こうとした。


(!)


 反射的に、身体が動いた。


 ドシュッ


 持ち上げられた『虹色の鉈剣』が巨大な額に突き刺さり、凶獣の最後の足掻きを食い止めていた。


 ズル…… ドシャン


 剣が抜け、そして『猿王』の巨体は崩れ落ちた。


 今度こそ、動かない。


 自らの『死の際』さえも利用して、敵を仕留めようとする恐ろしい闘争本能だった。


 凶獣のその姿を見つめ、アメルダス陛下は淡々と告げた。


「……死んだか」


 巨体は動かず、洞窟の闇にくるまれるようにして、『猿王ムジャルナ』はその生命活動を停止していた。


(…………)


 その事実を受け入れて、僕は目を閉じる。


 強大な魔物を討伐し、目的を果たせたことに安堵して、僕は、長く、長く息を吐きだした。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ たったの一話で『猿王ムジャルナ』を単独撃破!!! そしてフラグ構築完了……?(笑) [気になる点] 今回は封印されていると予想される『悪魔の欠片』は一体どんな姿…
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