番外編・転生マールの冒険記35
『転生マールの冒険記』を読んで下さって、いつもありがとうございます。
実は本日、とあるサイトで自作が紹介されたようで、なんと日間ファンタジー異世界転生/転移ランキングの120位になっていました!(投稿時点です)
突然のランキング入りに驚きましたが、とても嬉しかったです。
これを励みにこれからも皆さんに楽しんでもらえるよう、また自分自身も楽しめるよう、精一杯、頑張っていきたいと思います。
皆さん、本当にありがとうございました!
それでは本日の更新、番外編・転生マールの冒険記35になります。
どうぞ、よろしくお願いします。
僕とアメルダス陛下は、山頂を目指した。
他に人の姿はなく、『黒大猿』の姿も見られない。
2人だけで岩場を歩く。
やがて、僕らの歩みを遮るように、巨大な壁が現れた。
(……石垣かな?)
それは高さ10メードほど。
巨大な岩や丸太を重ね合わせ、積み上げられた不格好な壁が、山頂付近をグルリと囲むようにそびえていた。
ふと壁の中に、白いものが見えた。
(!)
人骨だ。
かつて戦死した『トルーガ戦士』の亡骸だろうか?
まるで、この壁を飾り立てるかのように、何十、何百もの人骨がぶら下がり、吹く風に揺れている。
…………。
全身の毛が逆立つ感覚がする。
これが。
これが『猿王ムジャルナ』のしたことなのか?
(なんて酷い……っ)
隣に立つアメルダス陛下は、けれど、静かにその光景を見つめている。
いや……。
その瞳には、今までにないほどの怒りの光が輝いていた。
荒れ狂う怒りが限界を超えて、逆に、静けさを伴っているみたいな恐ろしい気配だ。
その時、彼女はふと僕を見て、
「マール? それは?」
と言った。
(え?)
その視線は、僕の腰の辺りを見ていた。
僕も視線を落とすと、そこにあったのは、ベルトにぶら下げていた探査石円盤だった。
その魔法石が、白く光っている。
「あ……」
その意味が、僕の中に満ちていく。
つまり、これは、
「この壁の向こう側に、『神霊石』があるんだ……」
思わず、呟いた。
アメルダス陛下は「そうか」と頷いた。
「ならば、この悪趣味な城壁の向こう側は『猿王』の城であり、そこに『猿王ムジャルナ』も間違いなくいるのであろう」
僕らは2人で、巨大な壁を見上げた。
(……どうする?)
この壁は、見渡す限りに続いている。
人間の造る城壁みたいに、出入口なんてものはないように思えた。
…………。
(よし)
僕は決めた。
ポケットから虹色の球体――『神武具』を取り出した。
「コロ、お願い」
ヴォン
それは光の粒子に代わると、僕の背中に集束して、そこに2枚の虹色の輝く『金属の翼』を形成した。
「……ほう?」
アメルダス陛下は、驚いた顔をした。
けれど、それ以上、何も言わない。
『猿王を討伐する』という目的の前には、これも些事なのかもしれないし、もしかしたら、僕のことを信頼してくれてのことかもしれない。
僕は、彼女の右手を握った。
「行きます」
「うむ」
僕は、翼を大きく広げると、虹色に輝かせながら、ゆっくり空へと舞い上がった。
城壁を超える。
上から見た城壁内部は、何もない平らな岩場だった。
動物などを食べ散らかしたような痕跡が、何箇所かに残っているけれど、それだけだ。
『黒大猿』の姿も見られない。
(ん……?)
山頂付近の岩肌に、大きな穴があった。
洞窟だ。
「あそこへ」
アメルダス陛下の指示に従い、僕は「はい」と返事をして、その洞窟前の開けた空間へ、ゆっくりと降下していった。
◇◇◇◇◇◇◇
トンッ
無事に着地をした。
城壁内に足を踏み入れても、やはり『黒大猿』たちは姿を現さなかった。
「…………」
「…………」
僕とアメルダス陛下は、警戒しながら、洞窟へと向かった。
その瞬間だった。
(!)
凄まじい殺気が、洞窟の奥から僕らへと叩きつけられたのだ。
僕らは、反射的に剣を構えた。
(いる!)
あの暗闇の中に、とてつもない何かが!
ゴクッ
緊張の恐怖に、僕は知らず、唾を飲み込んでいた。
アメルダス陛下も、険しい表情と視線で、その洞窟の奥の闇を睨みつけていた。
そして、
ズンッ
重い足音が聞こえた。
ズンッ ズンッ
大地を揺らし、闇の奥から姿を現したのは、1体の巨大な『黒大猿』だった。
(……大きい)
通常の『黒大猿』は、3メードほどの体格だ。
けれど、今、僕らの目の前に現れた『黒大猿』は、その倍以上の7メードほどの体格をしていた。
まるで巨人だ。
その頭頂部から背中にかけて、紫色の体毛が生えている。
あれが……。
あの魔物が……。
目を見開く僕の隣で、トルーガ帝国の女帝アメルダス陛下がその名を呼んだ。
「……『猿王ムジャルナ』」
30万もの魔物を率いる存在が、今、僕らの目の前に立っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
(あれが……『猿王ムジャルナ』!)
その姿を目にして、僕は震えた。
何よりも、その顔を見て、僕は恐怖を覚えたんだ。
あれは『人』だ。
その瞳に宿る知性は、もはや魔物ではなく、人間と同じ種類のものだった。
けれど、そこに刻まれた邪悪な相貌。
それは、人の持つ悪意を凝縮したような悍ましさと醜さがあり、それは紛れもなく魔の存在であることを知らせている。
(駄目だ……)
僕の中の『神狗』の本能が訴えた。
(こんな奴、この世に生かしておいてはいけない)
それは、この世界に悪を振り撒き、闇を広げる存在にしか思えなかったのだ。
ニタァリ
震える人間の子供に気づいたのか、奴は笑った。
(っっ)
僕は、反射的の襲いかかろうと思った。
でも、その直前、巨大な『猿王ムジャルナ』の背後の洞窟から、体長5メードはある『銀大猿』が3体も姿を現したんだ。
奴の側近といったところか。
3体とも、他の『黒大猿』、『銀大猿』よりも雰囲気があった。
「むう……」
新たな増援に、アメルダス陛下は表情を曇らせる。
4対2。
しかも相手側には、『最強の黒大猿』である『猿王ムジャルナ』がいるのに対して、こちら側には『英雄パルドワン』も『金印の魔狩人キルト・アマンデス』もいない。
圧倒的不利な状況だ。
思わず気圧されたアメルダス陛下の気持ちもわかる。
(でも……)
代わりに、僕は前に出た。
アメルダス陛下は、驚いたように僕を見る。
「マール」
「大丈夫です」
僕は答えた。
多くの犠牲を払いながら、僕らはここまで辿り着いた。
辿り着かせてもらった。
ならば、ここで引く選択肢はあり得ない。
ギュッ
『妖精の剣』を握り締め、それを構える。
アメルダス陛下は、息を呑んだ。
それから、すぐにいつもの女帝としての威厳を取り戻して、不敵に笑うと、彼女も剣を構えた。
『グキキ……ッ』
そんな人間2人を見て、奴は笑った。
そんな『猿王』の前へと、3体の『銀大猿』が進み出てくる。
ヒュオオ……ッ
デメルタス山脈の山頂に、冷たい風が吹く。
400年の長きに渡り、暗黒大陸北部の覇権を争ってきた『トルーガ帝国』と『黒大猿』の群れ、その王たる者たちが睨み合った。
「行くぞ、マール」
「はい!」
そして今、全てを終わらせるため、僕らと『猿王ムジャルナ』の最後の決戦が始まった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。
また本日の更新を含めまして、番外編の更新は、あと8回となります。もしよかったら、どうか最後まで見届けてやって下さいね。
また次回の更新も、どうぞよろしくお願いします。