表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

330/825

番外編・転生マールの冒険記33

番外編・転生マールの冒険記33になります。

よろしくお願いします。

『前方から1000体、その後方から2000体の群れが来ています!』


 トルキアのトルーガ語の叫びが、森に響く。


 バサッ バサッ


 その上空では、『シュムリア竜騎隊の竜』が飛んでいる。


 通訳であるトルキアの役割は、上空から偵察を行った『シュムリア竜騎隊』の報告を、トルーガ軍にも伝えることだ。


 前方に進んでいた『トルーガ戦士』たちは、足を止め、それぞれの武器を構えた。


 ガシャッ


 同時に、その全身の赤い紋様が輝きを放つ。


『アゥラララアア!』


 戦士たちの雄叫びと共に、その肉体が一回り膨れ上がる――『肉体強化の魔法』だ。


 僕も『妖精の剣』を構える。


 僕は、キルトさんが率いる冒険者団の一員として、戦場に立っていた。


 冒険者団の人数は、40人ほど。


 先日の戦闘で、イルティミナさんを含めた負傷者、そして死亡者が10人ほど出ていたんだ。


(……負けるもんか!)


 心に残る悲しみを押し殺して、僕は、目前の戦いに集中する。


 10秒。


 20秒。


 そして、トルキアの叫びから30秒後、大地が震動し始め、魔物たちの雄叫びが聞こえてきた。


「!」


 次の瞬間、森の木々の隙間から、『黒大猿』たちが溢れ出るように襲いかかってきた。


 まるで黒い津波。


 トルーガ戦士たちは、真っ向から立ち向かっていく。


 肉と肉、そして、鋼のぶつかり合う衝突音。


「皆の者、行くぞ! 『トルーガの戦士』たちに、我らシュムリア冒険者の『強さ』を見せつけてやれい!」


 戦場においてもよく通るキルトさんの声。


 冒険者団は『おぉ!』と雄叫びで答えた。


 僕も全力で叫ぶ。


「おぉおおっ!」


 叫びながら、みんなと一緒に駆けだし、目前へと迫った『黒大猿』へと『妖精の剣』を振り下ろした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 肉を斬り、骨を断つ。


 数えきれないほどの『黒大猿』を斬り殺していく。


 負傷もした。


 魔物の牙に、爪に、僕の肉体は斬り裂かれた。


 でもそれは、すぐ後ろにいてくれるソルティスが、すぐに回復魔法で治してくれる。


「さぁ、行って!」

「うん!」


 少女に応えて、僕はまた恐ろしい魔物たちへと立ち向かった。


 僕が去れば、彼女は、他の負傷者も治していく。


 ポーちゃんは、唯一の非戦闘員であるトルキアを守ってくれていた。


 トルキアは、トルーガ軍から知らせられる戦況を僕らに、僕らが知らせる新手の存在をトルーガ軍に、必死に叫んで伝えてくれていた。


 キルトさんは、冒険者団の先頭に立って、『黒大猿』を倒し続けている。


 一緒に戦う『トルーガ戦士』たちも全身を赤く輝かせながら、凄まじい強さで『黒大猿』たちを倒していた。


 元々が『魔血の民』と同じ『神民』で、優れた肉体能力を持っている。


 そんな彼らが『肉体強化』の魔法で、より強化されているのだ。単純な力や速さは、もはや『黒大猿』にも引けを取らないレベルになっていた。


 現状は、僕らの方が押している。


 でも、


(どれだけの数がいるんだ!?)


 倒しても倒しても、『黒大猿』たちは際限なく森の奥から姿を現していた。


 まるで終わりのない悪夢みたいだ。


 ハァ ハァ ハァ


 呼吸が乱れる。


 戦う時間が進むにつれて、『黒大猿』たちの戦い方も変化してきた。


 ボヒュッ バカァン


 突然、空気の裂ける音がして、目の前にいた『トルーガ戦士』の頭が吹き飛んだ。


(え?)


 返り血が、僕の頬に降りかかる。


「投石じゃ!」


 キルトさんの警告が響いた。


『黒大猿』たちは、直接、襲いかかるだけでなく、木々に隠れながら遠距離攻撃も仕掛けてきたんだ。


 ボボォオン


 今度は、紫色の炎が吐き出され、それに冒険者の1人が巻き込まれる。


火炎息ブレスか!)


 魔物の多彩な攻撃に、1人、また1人とやられていく。


 その状況を打開しようと、『トルーガ戦士』たちが木々の奥に隠れる『黒大猿』を狙って、前方に突撃していった。


 その瞬間、


 メキメキ ズガガァン


 森の木々が倒れてきて、その倒壊に戦士たちが巻き込まれた。


(!?)


 偶然にしては、あまりにタイミングが良すぎる。


 まさか……。


(『黒大猿』が罠を仕掛けていた?)


 そうとしか考えられない。


 僕のその予想は、時間の経過と共に確実となった。


 落石。


 落とし穴。


 他にも様々な罠が、前進する僕らを襲ったんだ。


「これは……誘い込まれたか」


 キルトさんも、魔物のあまりにも高い知能に驚愕しつつ、その事実を認識した。


 まずは直接戦い、そこでわざとこちらに押し込ませて、僕らを罠のある地点まで誘い込んだんだ。


(まるで人間じゃないか!)


『黒大猿』は『少し頭の良い獣』ぐらいに思っていたら大間違いだ。


 死傷する『トルーガ戦士』も増えていく。


(くそっ)


 敵の数は、僕らの約3倍いる。


 つまり僕らは、魔物たちの3倍の戦果を挙げて、初めて互角の戦況なんだ。


 でも、今のこの状況は……。


 そう思っていた時、これまで共に戦場に立っていた女帝アメルダス陛下が、血まみれの剣を振り上げ、雄々しく告げた。


「皆、止まるな! わたくしたちの狙いは唯一つ、『猿王ムジャルナ』の首を狩ることだ! 決して止まらぬ牙となり、デメルタス山脈の頂にいる奴の首に、その牙を突き立てよ!」


 その言葉を、トルキアが僕らに訳してくれる。


(そうか……)


 元々が不利な状況、それは陛下もわかっていたんだ。


 その上で、狙いは1つ。


 この25万の魔物の群れを突破して、敵大将である『猿王ムジャルナ』を討つ。


 その作戦のみだったんだ。


 キルトさんも叫んだ。


「聞こえたな! 冒険者団よ、前へ進め! 全ての敵を倒す必要はない、ただ先へと進むのじゃ!」


(うん!)


 僕は、強く頷いた。


 勝利への道筋が見えているならば、あとは、そこを目指して必死に戦うのみだ。


 実は、あとから知ったんだけど、8万人のトルーガ軍は、『英雄パルドワン』を先頭にして、突撃陣形を取っていたんだって。


 2人の女傑の言葉に、僕らは奮起する。


『黒大猿』たちの攻撃を受けながらも、必死に前へと進んでいく。


 脱落する人も多い。


 でも、足は止まらない。


 気がつけば、周囲は乱戦になっていて、自分たちは有利なのか、不利なのかもわからなかった。


 それでも、必死に前へ。


 そんな時だった。


『グォオオン!』


 上空から、竜の叫びが聞こえた。


(え?)


 反射的に振り返れば、竜の身体に、1本の縄のようなものが絡んでいた。


 いや、あれは蔦だ。


 竜騎士が、その蔦を剣で斬り落とす。


 けれど、周囲の地上から、先端に石の括りつけられた蔦が何本も投げつけられ、その巨体へと絡みつけられていた。


 竜と竜騎士は、抵抗する。


 けれど、そこに投石攻撃も加わって、竜騎士はその1つの直撃を受けた。


(あ!)


 鞍から、竜騎士が落下する。


 ほぼ同時に、蔦に絡まれて飛翔力を失った竜も、地上へと向かって落ちていった。


 ズズゥン


 森の向こうに響く、重い落下音。


 僕は、呆然となった。


(あのシュムリア竜騎隊が、落とされた……?)


 僕だけでなく、周囲の冒険者団の人たちも、思わず立ち尽くしてしまっていた。


『シュムリア竜騎隊』は、ある意味、シュムリア王国の『強さ』の象徴だ。


 シュムリア人であればこそ、その感覚は強くなる。


 その象徴たる『強さ』の1騎が今、暗黒大陸に生息する『黒大猿』たちによって落とされてしまったのだ。


 あのキルトさんさえ、呆然としていた。


 ソルティスも、


「……嘘」


 と、口元を両手で押さえ、呟いている。


 今の出来事は、それほどの衝撃を僕らの心に与えたんだ。


 そして、そんな状況だからといって、もちろん『黒大猿』からの攻撃は止まらない。


 立ち直る間もなく、僕らは、その猛攻に晒された。


(くっ)


 竜を落としたことで、逆に『黒大猿』たちは勢いづいたみたいだ。


 僕らの冒険者団が、周囲にいる『トルーガ戦士団』が、次々と分断され、各個撃破されるような状態になっている。


(まずい、まずいまずい!)


 この流れは最悪だ。


 必死に『妖精の剣』を振って抗うけれど、どうしようもなかった。


 キルトさん、ソルティス、ポーちゃん、トルキアとも距離が離れていってしまう。


 ガツンッ


「ぐあっ!?」


『黒大猿』の石のような張り手を、なんとか『白銀の手甲』で受けたけれど、僕は大きく弾き飛ばされてしまった。


 落下し、ゴロゴロと地面を転がる。


「ちょっと、マール!?」


 ソルティスの叫びが、魔物の群れの向こうから聞こえる。


(くっ)


 慌てて立ち上がったけれど、完全に孤立してしまった。


 いや、僕だけじゃない。


 この戦場にいるほとんどの冒険者、トルーガ戦士は、孤立させられていたのだ。


 これも『黒大猿』の戦術か。


 遠くに、キルトさんの戦う姿が見える。


 立て直しが難しいと判断したのか、キルトさんは銀髪をひるがえして、その場にいる全員へと聞こえるように叫んだ。


「全員、山頂を目指せ! 誰か1人でもいい! 1人でも『猿王』の下へと辿り着き、奴を殺すのじゃ!」


 必死な声。


 戦況はいつの間にか、そこまで悪化していたんだ。


(山頂へ……っ!)


 僕は顔をあげる。


 ここは、5合目か6合目か、まだ先は長い。


 でも、誰かが行かなければ。


 僕は足に力を込めて、そちらへと向かった。


『ホギャア!』


 すぐに『黒大猿』たちの群れが襲いかかってくる。


 僕は息を吸い、吐く。


 そして、


「そこをどけぇ!」


 大きく叫びながら、邪魔をする魔物たちに向かって踏み込んでいった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 非戦闘員のトルキアを守るポーちゃん。 ソルティスの時もそうでしたが、防衛戦向けの能力か? [一言] >「皆、止まるな! わたくしたちの狙いは唯一つ、『猿王ムジャ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ