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番外編・転生マールの冒険記21

番外編・転生マールの冒険記21になります。

よろしくお願いします。

 翌日、僕ら10人は、帝都レダにある『闘技場』へと連れてこられた。


(うわぁ……でっかい)


 円形の闘技場は、頭上部分が吹き抜けだ。


 周囲は10メードほどの壁に覆われ、その外側には、10万人は収容できる観客席があった。


 下は、固められた土だ。


 所々が黒ずんでいるのは、ここで戦った人たちの血の跡かもしれない。


 観客席には、屋根のある貴賓席もある。


 その一番高く眺めの良い場所には、女帝アメルダス陛下と側近たちが座っていた。


 すぐそばの席に、僕ら10人も座らされる。


 視線を巡らせれば、他の『第5次開拓団』の400人ほどが観客席の一角にいるのが見えた。


 そして、それ以外の席は、


『ウパ、アメルダス! ウパ、トルーガ!』


 大きな声をあげる『トルーガ神民』の戦士たち10万人ほどが埋め尽くしていた。


 まるで地鳴り。


 彼らのあげる咆哮に、肌がビリビリと震えている。


 その叫びの意味は、『偉大なる女帝アメルダス!』、『偉大なるトルーガ帝国!』という忠誠心と愛国心を示すものだ。


(凄い迫力)


 なぜ、僕らがこんな『闘技場』にいるのか?


 それは、女帝アメルダス陛下の示した『3つ試練』のためだ。


 彼女が示した試練の内容は、この『闘技場』で『トルーガ神民』の選ばれた戦士たちと『第5次開拓団』から選ばれた戦士たちが、3度の戦いを行うというものだった。


「お前たちの『強さ』を知るには、最もわかり易い方法だ」


 女帝アメルダス陛下は、そう美しく笑った。


 もちろん、その試練を断ることなど、僕らにはできなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 トルーガ戦士たちの集まる『闘技場』の雰囲気は、凄まじい熱気だった。


 これから行われるのは、ある意味、国別対抗戦だ。


 戦争の縮図。


 シュムリア王国とトルーガ帝国、どちらも国の誇りをかけて、挑まなければならない。    


「…………」


 その重責を思うだけで、緊張する。


 やがて、闘技場内に大きな銅鑼の音が響いた。


 ドォオン


 壁にあった鉄格子が開いて、そこから闘技場の中央に、1人の『トルーガ神民』の戦士が進み出てくる。


 狼の毛皮を頭から被った戦士だ。


 毛皮のせいで顔は見えなくて、まるで人狼のようにも見えてしまう。その手には、巨大な獣の牙を加工した曲がった剣が握られていた。


 そばには、4頭の角の生えた灰色狼がいる。


 彼は、『狼使い』の将。


戦獣せんじゅう』と呼ばれる灰色狼たちを指揮し、自在に操ることのできるトルーガ戦士だそうだ。


(……あの人、強いぞ)


 その立ち姿からは、確かな『圧』を感じる。


 相当な手練れだ。


 そばにいる角の生えた灰色狼たちも体長2メードほどで、とても強そうだった。


 その時、彼の登場で、10万人の歓声がより大きくなった。


(うわっ?)


 凄まじい圧力。


 その大音量に、鼓膜が痺れた。


 まるで『狼使いの戦士』だけでなく、この10万人の戦士とも戦わなければいけない錯覚がしてしまう。


 近くにいたソルティス、トルキアも青い顔だ。


(こんな状況で戦うの?)


 とてもじゃないけど、正直、僕は戦いたくない。


『第5次開拓団』の誰が『試練』の戦いに出場するのか、それはまだ決まっていなかった。


 僕は、他の9人を見る。


 キルトさん、ロベルト将軍、レイドルさん、アーゼさん、イルティミナさん、アミューケルさん、ポーちゃん、恐らく、この7人の誰かだと思うけど。


(誰が出るんだろう?)


 それぞれの顔色を窺う。


 7人とも、こんな完全な敵地にいるのに落ち着いた表情だった。


(みんな、凄いな……)


 キルトさんがロベルト将軍に問う。


「どうするかの、将軍?」

「ふむ」


 ロベルト将軍は、考え込んだ。


 レイドルさんは「彼、強そうだね」と笑っていて、部下のアミューケルさんは「隊長、余裕っすね」と呆れたように呟いていた。


 イルティミナさんとポーちゃんは無言のまま。


 そして、そんな僕らの様子を、一番高い席にいる女帝アメルダス陛下は、どこか面白そうに見下ろしていた。


 ガシャッ


 その時、美しい銀の鎧を鳴らして、1人の女騎士が椅子から立ち上がった。


「私が行こう」


 神殿騎士団長アーゼ・ムデルカ。


 凛とした声で告げた彼女が、僕らシュムリア王国の代表戦士の先鋒となった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 入り口の鉄格子が開き、アーゼさんが『闘技場』へと入場する。


 その後ろには、4人の神殿騎士が続いていた。


 これは『狼使いの戦士』が4体の『戦獣』を従えているので、戦闘員数を合わせるためだ。

 もちろん女帝アメルダス陛下も了承済みである。


『アゥラララァ!』


 ダァン ダァン


 アーゼさんたちの入場に合わせて、10万のトルーガ戦士たちが敵意の雄叫びをあげ、足を踏み鳴らす。


 敵を委縮させ、味方を鼓舞する咆哮だ。


(く……っ)


 座席が振動し、心まで揺らされる。


 僕は飲まれないよう、必死に歯を食い縛った。


「…………」


 そんな10万の敵意をぶつけられるアーゼさんは、けれど、動揺した様子はなかった。


 兜に隠れて、表情は見えない。


 でも、いつも通りの静謐な雰囲気は変わらないままだ。


 そして、


「さぁ、始めよ!」


 女帝アメルダスの口から、開始の命令が下された。


 ドォオン


 銅鑼が鳴る。


『狼使いの戦士』と4体の『戦獣』、そして神殿騎士団長アーゼ・ムデルカと4人の神殿騎士は、20メードほどの距離で対峙した。


 ヒュン


『狼使いの戦士』が牙で作られた曲剣を振る。


 その瞬間、角の生えた灰色狼たちは、アーゼさんたちめがけて一斉に襲いかかった。


 同時に、


 ガシャン


 盾を装備した4人の神殿騎士が、一糸乱れぬ動きで前に出る。


 ガギィイイン


 尖った角と盾がぶつかり、激しい火花が散った。


 防御はしたものの、4人の神殿騎士たちが後ろへと弾かれる。


(!)


 速い!


 僕は遠くから見ているのに、一瞬、あの『戦獣』たちの動きが視界から消えそうだった。


 なんだ、あの狼たちは!?


 タタン


 残像を残しながら、角の生えた灰色狼は、再び神殿騎士たちに襲いかかった。


 ガキン ギギィイン


 再び火花が散る。


 同時に、4人の神殿騎士たちが後方へと下がっていく。


 10万の観客たちは、『戦獣』たちの1撃ごとに、大きな歓声をあげていた。


 レイドルさんが呟く。


「なかなかやるね、あの狼」


 キルトさんは「うむ」と頷いた。


 イルティミナさんも、


「あの動きにカウンターを合わせるのは、私でも難しいかもしれません」


 と言った。


(そんなに……?)


 シュムリアを代表する3人の言葉に、僕は唖然だ。


 見れば、4人の神殿騎士たちは、アーゼさんを中心にして4方向へと盾を構えていた。


 完全な防御陣形だ。


 神殿騎士は、他にも、背中に剣、杖を装備しているのに、それを構えることもしない。 


「…………」


 そして、その4人の中心にいるアーゼさんは、盾さえ持つことなく、首から鎖で下げられている聖書を手にして、それを開いた。


 そこに記された『女神シュリアンの教え』を読む。


(アーゼさん?)


 独特な韻を踏みながら、神殿騎士の団長は祝詞を紡ぐ。


 ガンッ ガギィン


 周囲では、4人の神殿騎士が必死に防御を続けていた。


 構える盾が変形している。


 あの『戦獣』たちの攻撃がどれだけの威力か、そこからも伝わってくる。


(このままじゃ、まずいよ?)


 いくらなんでも防御だけでは耐え切れない。


 いずれは、防御を突き崩されて、やられてしまう。


 なのに、アーゼさんは聖書を読み続ける以外に何もせず、4人の神殿騎士に自分を守らせているだけだった。


 意味がわからない。


「リバァク!」


 ヒュオッ


『狼使いの戦士』が叫んで、剣を振るった。


 その音が合図なのか、4体の角の生えた灰色狼たちは、後方へと跳躍した。


 今まで以上に大きな間合い。


(!)


 彼らも、この状況を終わらせる気になったのだろう、それはより強い攻撃のため、とどめの1撃を放つための助走の間合いだ。


 まずい!


「アーゼさん!」


 僕は思わず席を立ち、叫んでいた。


 その瞬間、それが合図であったかのように『戦獣』たちが神速で突進する。


 ガシャッ


 同時に、4人の神殿騎士たちは盾を捨てた。


(はっ?)


 ドシュッ ドシュシュッ  


 驚く僕の目の前で、4人の神殿騎士たちは、次々と鎧を貫通した灰色狼の角に肉体を貫かれる。


 鮮血が噴きだし、『闘技場』の土を赤く染めていく。


『ウォオアアア!』


 10万のトルーガ戦士が歓声をあげた。


 けれど次の瞬間、腹部を背中まで貫かれた神殿騎士たちは、一斉に背中の剣を抜き、それを灰色狼たちの首や心臓へと突き立てた。


 ザシュシュッ


『戦獣』たちの巨体が痙攣し、そして倒れた。


(……え?)


 4体とも絶命していた。


 そして、4人の神殿騎士は、腹部から血を流したまま立っていた。


 …………。


 歓声が止む。


 闘技場内には、聖書を読むアーゼさんの美しい声だけが響いていた。


(え? え?)


 僕は、思考が追いつかない。


 唯一わかったのは、


「相打ち狙い?」


 ということだけだ。


 イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんも驚いたように、その結末を見つめていた。


 キルトさんは、


「全く、恐ろしい連中じゃ」 


 と苦々しそうに言った。


 レイドルさんが、戸惑っている僕らに苦笑しながら、


「アーゼの祝詞は、『神武魔法』という神殿騎士だけが使える特殊な魔法なんだ。味方の生命力をあげ、致命傷でも数秒間、耐えられるようにするんだよ」


 と教えてくれた。


(……そんな魔法が?)


 だからこその相打ち戦法。


 自身を囮にして神速の動きを封じる、まさに肉を斬らせて骨を断つの具現、その結果の1人1殺だ。


(……でも)


 見れば、4人の神殿騎士たちは、杖を装備して、自身に回復魔法をかけている。


 だけど、その足元には、大量の血痕があった。


(そんな単純な話じゃないよね)


 致命傷に数秒、耐えられるとしても、その痛みは消せるわけじゃない。万が一の場合は、本当に死ぬ可能性だってあったはずだ。


 それでも尚、相打ちを実行する勇気。


 そして覚悟。 


「これが……神殿騎士」


 僕は、大いなる畏敬と共に呟いた。


『狼使いの戦士』は、恐ろしい戦法で倒されてしまった4体の『戦獣』を呆然と見つめていた。


 アーゼさんの祝詞が止む。


 パタン


 聖書が閉じられた。


 兜の下に見える唇が開き、


「死への痛みなど、恐るるに足りず。遠き異郷にあれど、大いなる戦の女神シュリアンへの我らの信仰は、決して揺らぐことはない」


 静かな言葉がこぼれる。


 そして、


 シュラン


 彼女は、その背中にあった剣を抜いた。 


 そんな美しい神殿騎士団長のそばには、真の信奉者たる4人の神殿騎士が並ぶ。


「さぁ、1つ目の試練を超えるぞ!」


 ガシャッ


 そして彼らは一斉に、前方へと足を踏み出した。


ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 成る程! 試練とは闘技場での真剣勝負でしたか‼ トルーガ帝国らしい試練ですね。 後、『開拓団』のメンバーの頑張っている感が出てますね。 [一言] 適当な課題を…
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