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番外編・転生マールの冒険記17

番外編・転生マールの冒険記17になります。

よろしくお願いします。

『黒大猿』の向こうから、砂煙をあげて接近するものの正体が、ようやくわかった。


 ――船だ。


 全長30メードはある木造船だ。


 木造船には、車輪が備わっていて、それが荒野の大地に砂煙を起こしている。


(でも、どれだけいるんだ……?)


 10や20じゃない。


 100隻以上の船の群れだった。


 それらが等間隔で、逃走しようとしていた『黒大猿』たちを包囲するようにしながら、接近してくる。


 チカッ チカチカッ


 その時、木造船の船上で何かが光った。


 数秒の空白。


 ドパァン ドパパァン


 そして、700体の『黒大猿』のいる大地のあちこちで爆発が起こった。


『ギャッ!?』

『フギ……ッ!?』


 魔物の手足が千切れ、その巨体が吹き飛ばされていく。


(!?)


 今のは、魔法の砲撃!?


 目を凝らせば、船上に光を放つ巨大な槍のような物が装備されている。それが光るたび、魔法の砲弾が『黒大猿』たちのいる大地に着弾し、爆発を起こしていた。


 強い爆風が、離れた僕らまで届いている。


 そして、木造船が停止した。


 側面の壁が開き、そこから大勢の戦士たちが降りていく。


 全員が、筋骨隆々の男女だ。


 鎧は身に着けておらず、男性は上半身裸、女性もかなりきわどい服装で、鍛え上げられた肉体を太陽の下に晒している。


 その手には、魔物の牙や爪、骨などを加工したらしい剣、槍、弓などの武器がある。


 その戦士たちを見て、トルーガ人の少女が叫んだ。


「神民様ダ!」


 トルキアの瞳には、歓喜と憧憬があった。


 彼や彼女らの肌には、赤い絵の具で刺青のような模様が、全身に描かれていた。


(…………)


 一瞬、『魔の勢力』の『刺青の男女』を連想させる。


 あれが『トルーガ神民』。


 その数は、僕らの10倍以上、5000人はいるみたいだった。


 また、5000人の戦士の他にも、体長2メードはある角の生えた灰色の巨大狼たちが1000体ぐらい、そして全長10メードはある人型の金属ゴーレムが10体ほど、姿を現していた。


 それだけの戦力が『黒大猿』を包囲する。


 もちろん、僕ら『第5次開拓団』400人ごとだ。


(…………)


 僕は無意識に唾を飲み、ゴクリと喉が鳴った。


 自分たちを包囲する戦士団に、『黒大猿』たちは立ち尽くしていた。


 けれど、この包囲網を突破しなければ、自分たちが生き残れないことを、知能が高い彼らは理解していた。


『ホギャアア!』


 だから、魔物の群れは雄叫びをあげ、5000人の『トルーガ神民』へと突っ込んでいく。


(トルーガの人たちに加勢しなきゃ……!)


 反射的に、そう思った。


 でも次の瞬間、その意識は吹き飛ばされた。


『アゥララララァア!』


 5000人の『トルーガ神民』が地鳴りのような声を発して、武器を振り上げたのだ。


 その凄まじい圧力!


 無意識に、僕の足は1歩、後ろに下がっていた。


 凄まじい闘気を発する戦士団は、700体の『黒大猿』を真っ向から迎え撃った。


 ドドォン


 離れていてもわかる、肉と肉がぶつかる重い衝突音。


 衝撃で大地が揺れる。


 5000人の『トルーガ神民』の手にした骨の剣や槍、弓の矢が、『黒大猿』たちの強靭な肉体を次々と斬り裂いていく。


 灰色の巨狼たちの角が魔物の腹部を抉る。


 集まった『黒大猿』たちを、金属ゴーレムの巨大な拳がまとめて叩き潰す。


 木造船の放つ魔法の砲弾が、その殲滅に更なる拍車をかけた。


(……なんて強さだ)


 僕は茫然となった。


 数の違いもあるのかもしれない。


 けれど、あの『黒大猿』たちが為すすべもなく殺されていく光景は、かなり衝撃的だった。


 しかも、


(笑ってる)


『トルーガ神民』の戦士たちは皆、戦いながら笑っていたんだ。


 強さこそ正義。


 それがトルーガ帝国の国是だと、モハイニさんから聞いていたけれど、その具現がここにあると思った。


 あのキルトさんも、目を逸らせない。


 彼らの強さに驚愕したように、黄金の瞳を見開いていた。


 いや、キルトさんだけじゃなく、僕も含めて、ここにいる『第5次開拓団』の全員が、その戦闘に心奪われていた。


『……グギャ……』


 最後の『黒大猿』が骨の剣と槍に、頭蓋と腹部を裂かれ、絶命した。


 700体の魔物は、全滅した。


 生き残りは、1体もいない。


 それは、ほんの15分ほどの出来事だった。


 そして、


『アゥララララァアアアッ!』


『トルーガ神民』たちは、それぞれの武器を頭上に突き上げ、その気高く雄々しい勝利の咆哮を、荒野の空へと木霊させたんだ。 



 ◇◇◇◇◇◇◇



 やがて、鼓膜と魂を震わせる咆哮が止んだ。


 ガシャン


 5000人の『トルーガ神民』の戦士たちは、今度は、僕ら『第5次開拓団』へと向き直る。


(!)


 ブワッと全身の毛が逆立った。


 凄まじい圧力。


 そして、僕らの10倍以上の数の戦士たちが、地面にある『黒大猿』たちの死骸を踏み潰しながら、こちらへと近づいてくる。


 足音の地響きが伝わってくる。


(ど、どうするの?)


 僕は、隣のキルトさんを見上げた。


 でも、彼女は黙したままだ。


 その黄金の瞳で、静かに接近する『トルーガ神民』を見つめている。


(……まさか、このまま戦闘になってしまうのかな?)


 僕は不安になった。


 あれだけの戦力を見せつけられた今、その想像には、絶望の結末しか待っていない気がしたんだ。


 その時だった。


「全団員、武器をしまえ!」


 ロベルト将軍が、そう大きな声で叫んだ。


(え?)


 突然の指示に驚いた。


 王国騎士団は、一瞬の迷いがあったようだけれど、すぐに将軍の命令に従って武器をしまう。


 キルトさんも銀髪を振るいながら、僕らを振り返る。


「聞こえたな! 冒険者団も武器を下ろせ! 戦闘の意思、敵対の意思を決して見せてはならぬ!」


(!)


 理解した僕は、急いで『妖精の剣』を鞘に納めた。


 神殿騎士団も、騎士団長であるアーゼさんの「神殿騎士団、武装解除!」という指示を受け、一糸乱れぬ動きで手にした武器をしまった。


 上空から、4騎の竜も地上へと降下し、着地する。


 ズズゥン


「全竜騎隊、降竜だ!」


 竜騎隊隊長レイドル・クウォッカもそう言って、竜の頭部にある鞍から地面へと降りる。


 他の3人の竜騎士も、隊長に倣った。


 これで『第5次開拓団』の400人は、完全な無防備の状態になったんだ。


(あとは、向こうの出方次第だ……)


 ドキドキ


 鼓動が高まり、緊張する。 


 僕らの行動に対して、果たして、『トルーガ神民』の戦士団は、どのような答えを返してくれるのか?


「…………」


 隣のソルティスも、強張った表情だ。


 イルティミナさん、ポーちゃんも、正面から近づいてくる5000人の戦士団をジッと見つめている。


 そして、


 ズザザンッ


 僕らから200メードほど離れた場所で、戦士団の歩みが止まった。


(!)


 向こうは、武器を手にしたままだ。


 けれど、それ以上は接近してこなかった。


 そして、その5000人の軍勢の中から、大将らしい人物と他2人が前へと進み出てきた。


(……強そうだね)


 遠目でも、その中央の人物が凄まじい『圧』を放っているのがわかった。


 年齢は30代ぐらいかな?


 その人物は、白い髪を長く背中に伸ばした、筋骨隆々の男の人だった。


 全身にある傷が、彼が歴戦の猛者だと伝えてくる。


 手にあるのは、長さ2メードはある巨大な戦斧だ。


 ドンッ


 その柄を地面に叩きつけて、彼らの歩みは止まった。


 それは、両軍のちょうど中間地点となる、僕らから100メードほどの位置だ。


(これは……)


 その意思を測ろうとする僕の耳に、イルティミナさんが言う。


「どうやら、聞く耳は持ってもらえそうですね」


 あ……なるほど。


 僕は理解した。


(つまり、あそこにこっちの代表も出てこい、ってことだね)


 こちらの代表は、ロベルト将軍だ。


 見れば、将軍さんは、キルトさんと話をしていた。


 キルトさんは頷いた。


 そして、すぐに僕らのいる方へと足早にやって来る。


(え?)


 やって来たキルトさんは、


「イルナ」


 と、僕の隣のお姉さんへと話しかけた。


「そなた、通訳として、将軍と共に行ってもらえるか?」


(!)


 イルティミナさんは頷いた。 


「わかりました」


 あっさり請け負い、彼女は、キルトさんと共に歩きだそうとする。


 その時、


「ワ、私モ、行キマス!」


 トルーガ人の少女が、そう声を張り上げた。


(トルキア?)


 驚く僕らの前で、彼女は強い決意の表情をしていた。


 確かに、これから話し合いが行われるならば、同じトルーガ人である彼女がいる方が心証的にも良いだろう。


 でも、ここは戦場だった。


 直前まで、あの黒い魔物を殲滅した戦士団の強さは、恐怖を伴う圧力があった。


 戦い慣れた僕らでさえ、そうなのだ。


 一般人であるトルキアは、どれほどの精神的圧迫を感じているかわからない。


 それでも、僕らのために。


 この白い髪の少女は、精一杯の勇気を振り絞って、『一緒に行く』と言ってくれたのだ。


 キルトさんは、トルキアを見つめる。


「頼む」


 短い一言に、深い感謝が込められていた。


 トルキアは大きく頷いた。


「ガンバッテクルネ、マール」


 彼女は、気丈に笑った。


 そして、キルトさん、イルティミナさんと共に、ロベルト将軍の下へと向かう。


 それから、キルトさんを残して、3人は前へと歩きだした。


 5000人の『トルーガ神民』の戦士団を率いて、『黒大猿』を全滅させた人物との話し合いの場へ、両軍の睨み合う中間点へと向かっていく。


「…………」

「…………」

「…………」


 残された僕とソルティスとポーちゃんは、話し合いが無事終わることを願い、ただ、その背中を見守ることしかできなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 話し合いが始まった。


 僕らからは遠すぎて、会話の内容はわからない。


 けれど、トルキアが身振り手振りを交えながら、一生懸命に訴えて、ロベルト将軍もモハイニ村長から渡された手紙を提示しながら、イルティミナさんの通訳も交えて、こちらの出身、目的、状況などを伝えているみたいだった。


 その間に、


「マール」


 僕の袖を、ソルティスが引っ張った。


(ん?)


「アイツら、やっぱり全員『魔血の民』だわ。みんな、魔力の量が半端ないもの」


 そう教えられる。


 あの5000人が全員……。


(なるほどね)


『魔血』による超人的な肉体能力を持つ戦士団、だからこそ『黒大猿』を圧倒できる戦闘力だったんだ。


 僕ら『第5次開拓団』も、精鋭を集めたということで半数は『魔血の民』だって聞いている。


 でも、向こうは全員が『魔血の民』。


『トルーガ帝国』というのは、それだけの戦力を揃えられる国なんだ。


 ソルティスは、複雑な表情だ。


 この国の『魔血の民』は、『神民』と尊ばれている。


 そして、5000人もの人が、国を代表する戦士として存在できている。


(同じ『魔血の民』なのに……)


 差別を受けながら生きてきたソルティスには、『トルーガ神民』たちの姿は、羨ましく見えているのかもしれない。


(いや、もしかしたら開拓団にいる『魔血の民』全員がそうなのかな?)


 そんな風に思えてしまった。


 そして、その間にも話し合いは進んでいた。


『黒大猿』に襲われていた町の町長と兵士長も呼び出されて、こちらの証言に相違がないか確認もしているみたいだった。


(…………)


 話している2人の表情を見た限り、僕らのことを『敵』とは思っていないように思える。


 トルキアの訴えも、一層、熱が入っているみたいだった。


 その話し合いの間、『トルーガ神民』の大将らしい人物は、何も語らなかった。


 部下らしい2人の『トルーガ神民』が、主に話している。


 大将らしい人物の鋭い眼光は、まるで品定めをするみたいに、異国人であるロベルト将軍、イルティミナさんを見ていた。  


 その視線は、僕ら離れた開拓団員にも向けられる。


(!)


 一瞬だけ、視線が合った。


 それだけで、後ろに突き飛ばされたような『圧』があった。


 必死に堪える。


 ソルティスも歯を食い縛って、堪えていた。


 キルトさんは「ほう?」と妙に楽しそうな声を漏らし、どこか恐ろしげな笑みを浮かべていた。


 やがて、視線が遠くに向けられる。


 その先にあるのは、地面に倒れた銀毛の魔物の首なし死体だ。


 1000体の『黒大猿』を率いた『銀大猿』。


 それを倒したのは、ロベルト将軍だ。


 大将らしい人物は、ロベルト将軍を見た。


 ブワッ


(!)


 強い『圧』が広がった。


 トルキアが膝から力が抜けたように、地面に尻もちをついた。


 イルティミナさんが、少女の背をすぐに支える。


 そして、シュムリア王国の誇るロベルト・ウォーガン将軍は、まるで臆することなく、その『圧』の中で落ち着いた表情だった。 


(……あ)


 大将らしい人物が、薄く笑った。


 まるで獲物を見つけた狩人のような、好敵手を見つけた強者のような、獰猛さの宿った笑みだ。


 そして、彼が初めて口を開いた。


 イルティミナさんが通訳し、全てを聞き終えたロベルト将軍は頷いていた。


 それを見届け、3人の『トルーガ神民』は自軍の方へ戻っていく。


 ロベルト将軍、イルティミナさん、トルキアの3人も、こちらへとやって来る。


 トルキアは、まだ力が入らないのか、イルティミナさんに腕を支えられながら歩いていた。


 キルトさんが言った。


「話し合いは、終わったようじゃの」


 僕は「うん」と頷く。


 果たして、どんな話し合いの結果となったのか、それによって僕らの未来も決まってくる。


 不安に心が震える。


 大きく深呼吸をして、僕は、3人が戻ってくるのを待ち続けた。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 動力付きと思われる船型の乗り物を駆り、颯爽と登場したのは『トルーガ帝国』の『神民』でしたか。 そんな彼等の乗り物と、乗ってきた人達(ゴーレムは除く)の蛮族っぽい…
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