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番外編・転生マールの冒険記16

番外編・転生マールの冒険記16になります。

よろしくお願いします。

『銀大猿』の方も、自分たちに近づこうとする人間の集団に気づいたようだ。


『ゴギャア!』


 銀毛の腕が振られると、そばにいた『黒大猿』たちが2体を残して、ロベルト将軍たち王国騎士団に襲いかかった。


 将軍たちの足は止まらない。


 ヒュオン


 先頭の『黒大猿』が、ロベルト将軍の一太刀で倒される。


(!)


 強い!


 タナトス魔法武具の長剣の力もあるのかもしれないけれど、あの分厚い筋肉の塊のような肉体が、バターでも切るみたいに簡単に切断された。


 さすがシュムリアの誇る将軍だ。


 その剣の冴えは、遠目からでも凄まじさがわかる。


 仲間があっさり殺されて、後続の『黒大猿』たちは、たたらを踏んだ。


 その魔物の群れへと、王国騎士団が突進する。


 7体の『黒大猿』は、20人ほどの王国騎士に足止めされ、『銀大猿』までの道が大きく開けていた。


 ロベルト将軍は1人、そこを走る。


『ギギッ!?』


 銀毛のボス猿は、焦った顔をした。


 すぐに残った2体に指示を出し、ロベルト将軍を襲わせる。


 2対1だ。


 神体モードになった僕でさえ、2体の『黒大猿』に手こずった。 


(大丈夫かな?)


 一抹の不安がよぎったけれど、目の前で行われたのは、そんな僕の心配を吹き飛ばす光景だった。


 ロベルト将軍は、2体の『黒大猿』を相手に互角以上に戦っていた。


 目前の1体と戦いながら、常に位置取りを変えて、もう1体とは、目の前の『黒大猿』を挟んだ対極の位置になるようにしている。


 つまり、常に1対1の状況にしているんだ。


(あ……)


 ふと思い出す。


 イルティミナさんと初めてゴブリン退治に行った時、多数の敵と戦う場合は、なるべく1対1になるように戦えと教わった。


 基本中の基本。


 ロベルト将軍は、それを実践しているんだ。


 そして1対1ならば、ロベルト将軍の武力は『黒大猿』を上回っている。


 ザシュッ


『……ギ……ッ』


 予想通り、戦っていた『黒大猿』が胴体を斬られ、絶命した。


 残された1体も時間の問題だ。


『銀大猿』は、その戦局を見つめていた。


 次の瞬間、その人面の口が、異常なサイズまで開かれた。 


(あっ?)


 ボバアァン


 開かれた口内から黒い炎が吐き出され、それはロベルト将軍と、彼と戦っている『黒大猿』を巻き込んだ。


(仲間ごと!?)


 その行為に、僕は驚愕を隠せない。


 巻き込まれた『黒大猿』は、全身の毛を燃え上がらせ、地面の上を転がり、悶え苦しんだ。


 やがて、動きが止まる。


 ――火傷による絶命だ。


 倒れた魔物の死体は、まだ黒い炎で燃えていた。


 そして、シュムリア王国が誇る将軍は、光り輝く魔法の球体に包まれていて、無傷だった。


 その手にあるタナトス魔法武具の長剣――その刀身に刻まれたタナトス文字と魔法石が強く輝いている。


(あの剣の力だ!)


 キルトさんの大剣のように、イルティミナさんの白い槍のように、あの長剣の魔法の力がロベルト将軍を守ったんだ。


 ヒュン


 ロベルト将軍の剣の一振りで、魔法の球体が消える。


『銀大猿』は愕然とした顔だった。


 そんな銀毛の魔物へと、ロベルト将軍は、再び走りだした。


 もはや、その接近を妨げる存在は、どこにもいない。 


『ギギャア!』


『銀大猿』は甲高く叫びながら、巨大な腕を振り回す。


 ザキュン


 見事なカウンター剣技で、その腕があっさりと切断され、宙を舞った。


 返す刃が振り抜かれる。


 ヒュコッ


 1人と1体の動きが停止した。


 そして次の瞬間、巨大な魔物の胴体から、頭部がポロッとこぼれ落ちた。


 地面に転がる。


 それをロベルト将軍の手が掴み取り、天高くへと突き上げた。


「おぉおおお!」


 ロベルト将軍が叫んだ。


『おぉおおお!』


 そばにいた20人ほどの王国騎士たちも叫ぶ。


 その声によって、丘の上で銀の魔物の首を掲げる将軍の姿は、戦場にいた人と魔物、両方の注目を集めた。


 熱い風が吹き抜ける。


(……凄い)


 思わず僕は、その光景を見つめる。


 そんな僕の隣にいたキルトさんが、突然、大きな声を発した。


「シュムリア王国の将軍ロベルト・ウォーガンが、敵大将の首を討ち取った! わらわたちの勝ちじゃ! 皆、勝鬨を上げよ!」


 えっ?


 驚いていると、周りの冒険者団、王国騎士団の皆が声をあげた。


『おぉおおおおお!』


 それぞれの武器を天に掲げ、吠えている。


 見れば、イルティミナさんも白い槍を突き上げ、大声を発していた。


 …………。


 心が高揚し、僕も剣を掲げて、叫んだ。


「おぉおおおお!」


 そんな僕らとは対照的に『黒大猿』たちは、呆然と自分たちのボス猿の首を見ていた。


 驚愕。


 絶望。


 そんな感情が人面に浮かんでいる。


 ――それからの戦いは、一方的だった。


 数の上では、『黒大猿』の方が700体ほどで、まだ僕らを上回っていた。


 けれど、大将が破れたことで、まるで負けが確定してしまったように魔物たちの戦意は挫けており、逆に僕ら『第5次開拓団』の士気は高まっていた。


 それが、戦場の勝敗を決定づけた。


 僕らの攻勢の前に、魔物の群れは、散り散りになって逃げ惑う。


 抵抗する魔物は、勢いづいた僕らの波に飲まれて、次々と殺されていった。


 結果として、それが更なる勝利の波を呼ぶ。


(ロベルト将軍も、キルトさんも、こうなることがわかってたんだね)


 だからこその勝鬨。


 自分たちと相手に、もう勝敗は決したと錯覚させ、それを現実としてしまう。


(……大将首を取るって、そういうことなんだ)


 少数ではない、大規模な戦闘での流れ。


 それをロベルト将軍は、見事に引き寄せてみせたんだ。


(さすが、シュムリアの将軍様!)


 その凄さを、僕は肌で感じられた気がしたよ。


「マール」


 そんなことを考えていると、イルティミナさんがやって来た。


 彼女の白い槍も鎧も、返り血で紫色に染まっていた。


(いや、それは僕も同じか)


 この戦場では今、みんながこんな格好だ。


 ソルティス、ポーちゃん、戦っていないトルキアも、泥と血に汚れてしまっている。


 そして、イルティミナさんは戦場を見ながら、


「これ以上の追撃は不要でしょう」


 と言った。


 僕らのそばには、もう『黒大猿』はいない。


 遠くに逃げようとしている魔物たちの背中が見えているだけだった。


「うん」


 僕は頷いた。


 正直、かなり疲れた。


 勝てたとはいえ、相手は自分たちの倍以上の数がいた。それに抗うためには、想像以上の気力と体力が必要だったんだ。


 ふぅぅ……。


 大きく息を吐く僕の髪を、イルティミナさんが撫でてくれる。


「よくがんばりましたね」

「うん」


 僕らは笑い合った。


 ソルティスは地面に座り込んで、「疲れたわ~」とぼやいている。


 ポーちゃんは、そんな少女の肩を『よくやった』と励ますように、ポンポンと叩いている。


「ミンナ、凄イネ……」


 トルキアは、1000体の『黒大猿』を追い払った僕らを、感動したように見つめていた。


 ……ちょっと照れ臭いな。 


 僕は、町の方を振り返る。


 外壁の上にいるトルーガ人の兵士たちも、退却していく『黒大猿』に歓声を上げていた。


(よかった)


 この町の人たちを守れたんだ。


 その事実が、胸に染みる。


(そういえば、キルトさんはどこにいるんだろう?)


 最後も乱戦になっていたので、縦横無尽に活躍する彼女がどこに行ったのか、わからなくなっていた。


 戦場に視線を巡らせる。


(あ、いた)


 ここから少し離れた場所に、銀髪を揺らすキルトさんの背中があった。


 彼女は、遠ざかっていく魔物の群れを見ているようだ。


 僕らは、そちらに近づこうとして、


(ん……?)


 その異変に気づいた。


 逃げていく魔物の動きがおかしい。


 散り散りになって逃げていた『黒大猿』たちは、突然、その足を止めていた。


(え?)


 キルトさんは、いち早く異変に気づいていたんだろう――その黄金の瞳は、油断なく魔物たちの動きを追っていた。


 異変は更に続いた。


「……なんだ、あれ?」


 逃げていく『黒大猿』たちの向こうで、大きな砂煙が舞っていた。


 イルティミナさんも瞳を細める。


 その砂煙には、開拓団のみんなが気づき始めた。


(…………)


 砂煙の中に、たくさんの『何か』がいた。


 それが、こちらへと近づいてきている。


『黒大猿』との戦闘に勝利した僕らは、けれど、まだまだ休むことはできなさそうだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 今回の戦いのようにマール達以外が勝敗を決する事があるっていいですよね! 折角の大集団、毎回マール達のの存在ん勝敗の決定打にせず、他の人達にスポットライトが当たる…
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