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番外編・転生マールの冒険記15

番外編・転生マールの冒険記15になります。

よろしくお願いします。

 1000体の『黒大猿』たちは、食べ物である人間を求めて、目前の町のみに集中していた。


 そのため、僕ら『第5次開拓団』の接近に、反応が遅れたんだ。


『ギッ!?』


 気づいた時には、もう遅い。


 僕らの刃は、その黒い魔物たちの肉体に叩きつけられていた。


 ガシュッ ドスッ ガヒュン


 紫の鮮血が空に噴き出し、荒野の大地を染める。


 完全な奇襲。


 そんな僕らの襲撃によって、最初に接敵した『黒大猿』たちは、次々に倒されていく。


 そのまま僕らは、黒い魔物の群れの中へ。 


「トルキア! 僕から離れないで!」

「ウ、ウン!」


 白い髪の少女を守りながら、僕も必死に剣を振った。


(乱戦だ!)


 キルトさんが雄々しい声を張り上げる。


「手を休めるな! 足を止めるな! 敵が混乱している今が好機、目の前の敵を全力で狩り殺せ!」


『おぉおお!』


 応じて、冒険者団が吠える。


 上空からは、4騎の竜たちが『黒大猿』の集まった場所に炎を浴びせ、より混乱を助長させていく。


 その中を、王国騎士団の騎士たちが駆け、『黒大猿』を倒していく。


『グギャア!?』

『ガァ……ッ』

『ギギィッ!?』


 魔物たちの怒号と悲鳴が木霊する。


 そこにあるのは、400人の開拓団員と1000体の黒い魔物が交錯する戦場だった。


 そして、城壁の上にいる町の人たちは混乱していた。


 突然、現れた異国の集団。


 それが自分たちを襲っていた恐ろしい魔物の群れと、目の前で戦い始めたのだ。


 思わず、手にした弓をこちらに向ける人までいる。


 でも、


「ロア・テグラート!」


 トルキアが叫んだ。


(テグラートの意味は、確か『味方』だったっけ?)


 少女の授業を思い出す。


 トルキアは、城壁の上にいる人たちに向けて、『私たちは味方だ!』と何度も叫んでくれていた。


 町の人たちは顔を見合わせる。


 叫んでいるのは、間違いなく、トルーガ人の少女だ。


 そして異国の集団も、自分たちには刃を向けず、必死に『黒大猿』とだけ戦っている。


「…………」

「…………」

「…………」


 僕らに向けられていた弓が降ろされた。


(よかった……)


 理解してもらえたことに安心して、そして嬉しかった。


(ありがとう、トルキア)


 彼女にも感謝だ。


 荒事に慣れていないだろう少女が、この戦場で必死に勇気を振り絞り、訴えてくれたからこそ生まれた理解なんだから。


 心に勇気をもらい、僕は、更に剣を振る。


 ヒュコンッ


 飛びかかってきた『黒大猿』の腕を、カウンター剣技で斬り飛ばした。


(よし!)


 乱戦の中でも、色々とわかってきたことがある。


 まず、僕らと戦っている『黒大猿』たちが、とても痩せ細っていること。


 体長も小柄で、2メードほどだ。


『飢えている』


 キルトさんの予測は、きっと間違っていなかったんだと思う。


 でも、油断はできない。


(飢えているってことは、それだけ必死なはずだ)


 生きるためになりふり構わない分、むしろ、通常の『黒大猿』より脅威かもしれない。


 そして、数だ。


『黒大猿』は1000体。


 単純に考えて、こちらの2倍半の数なんだ。


 今は混乱状態だからこそ、互角以上に戦えているけれど、冷静さを取り戻されたら、どうなるかわからない。


 さっきのキルトさんの言葉も、それがわかっているからこそだろう。


 だからこそ、


(この勢いのまま、勝敗を決定づける!)


 そこまで持っていかなければ、僕らの勝利はないかもしれない。


 そして、もし僕らが負ければ、町も落ちる。


 たくさんの人が死ぬ。


(そんなの、絶対に駄目だ!)


 僕は、強い覚悟で剣を振る。


 いざとなったら、開拓団の人たちの前で『神体モード』になってもいいぐらいの気持ちだ。


 もちろん、たった3分間の力だから、タイミングを見計らう必要はあるけれど……。


 そうして、戦いは続いていく。


 町の外壁を登っていこうとする『黒大猿』を、イルティミナさんの白い槍が、杖を構えた神殿騎士団の一糸乱れぬ魔法の矢が撃ち落とす。


 怪我人を、ソルティスや魔法使いの人たちが治していく。


 ポーちゃんや冒険者団の人たちは、その護衛として立ち回る。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 僕も呼吸が乱れてきた。


 戦いが始まって、30分は経過していた。


 押し寄せてくる黒い魔物の数は、まるで減っていないように感じる。


(くそっ)


『黒大猿』たちも冷静さを取り戻してきたのか、遠距離から石を投げてきたり、黒い炎を吐いてきたりしていた。


「この……っ」


 その炎をかいくぐり、僕は、魔物の足を切断。


 ヒュコンッ


 倒れてきた首を斬り飛ばした。


 でも、そんな仲間の死体を盾にするようにして、新たな『黒大猿』が襲いかかってくる。


(く……っ)


 その瞬間、


「ぬん!」


 ドグチャッ


 横からキルトさんがやって来て、魔物の巨体を『雷の大剣』で叩き潰していた。


「無事か、マール?」


 返り血だらけの美貌。


 僕は「う、うん」と頷いた。


 そのまま、僕と美しい師匠は、背中合わせで剣を構える。


「なかなか厳しい状況になってきたの」


 キルトさんは言った。


「しかし、この群れの統率者であるボス猿を倒せば、戦局は決まる。それまでの辛抱じゃ」


 統率者……?


(そっか)


『黒大猿』は知能の高い魔物だ。


 そして、これだけの群れで活動しているならば、必ず統率者であるボスが存在するんだ。


 その大将首を狙うってことだね。


(でも、どこに……?)


 そう思った時、ここから少し離れた戦場全体を見下ろせる丘の上に、10体ほどの『黒大猿』の集団がいることに気づいた。


 その1体は、4メードほどの体格だ。


 しかも、全身の毛が黒ではなく、銀色に輝いている。


銀大猿シルバーエイプ』とでも言えば良い個体か。


 その瞳は、他の個体の誰よりも知性が高く、冷静な輝きが灯されているように思えた。


「キルトさん!」


 僕は叫んだ。


 でも、キルトさんもわかっていたのか、落ち着いた顔で言った。


「よく見つけた。乱戦の中でも、その俯瞰の目は忘れるでないぞ?」


 まるで戦い方の指導みたいなことを言う。


 いやいや、


(それよりも、早くアイツを倒しに行かないと!)


 そう焦る僕に、彼女は笑った。


「すでに行っておる。シュムリアの誇る武人がの」


(え……?)


 そうして気づいた。


『黒大猿』の群れを割って、20人ほどの王国騎士団が『銀大猿』のいる丘に向かっていることに。


 シュムリア竜騎隊の竜たちも炎を吐いて、丘までの道を作る援護をしている。


 そして、その王国騎士団の先頭にいるのは、


「ロベルト将軍……」


 タナトス魔法武具の長剣を手にした、我らが『第5次開拓団』を束ねる人物だった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ トルキアの同行によって、現地の人たちとの無用な諍いもなく戦いに集中出来たのが良かったのでしょうね。 [一言] 大人数での乱戦になると、竜騎士って戦いに介入しず…
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