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番外編・転生マールの冒険記11

番外編・転生マールの冒険記11になります。

よろしくお願いします。

 早朝の空へと、白い光の筋が昇った。


 ヒュルル シュパアン


 青い空に大輪の花のような魔法の光が咲き、トルキアや村人たちは『おぉ』と声をあげている。


 そこは、村を挟んだ谷の上。


 村長のモハイニさんに許可をもらって、僕らは、発光信号弾を撃ちあげたんだ。


 理由は、『第5次開拓団』を呼び寄せるため。


 この『墓守の村』の村人たちの活動範囲は、あのピラミッド遺跡『英霊の墓』まで到達するほどの広範囲だった。


 そんな広範囲の『黒大猿』を、僕ら5人だけで発見、討伐していくのは難しい。


 なので、人手を求めたのだ。


 …………。


 1時間ほどが経過した。


 発光信号弾の光は、すでに消えている。


 キルトさんはもう1発、発光信号弾を撃ちあげた。


 シュパアン


 空に、また光が輝く。


『開拓村・拠点』からは移動距離があるため、こちらの位置を見失わせないため、定期的に信号弾を撃つ必要があるのだ。


 僕らは、地面に座って待つ。


 3時間ほどがして、4発目の発光信号弾を用意していた時だ。


(……あ)


 僕は、青い空の彼方にある、小さな影を見つけた。


 思わず、立ち上がる。


 その影は、グングンと大きくなり、あっという間に僕らの上空へと到達した。


 バサッ バササッ


 巨大な紅い竜だ。


 頭部には、竜騎士の姿もある。


 強い風を巻き起こしながら、竜は地上へと着地した。


 ズズゥン


 足の裏から伝わる振動と重い音。


 トルキアや村人たちたちは、巨大な竜の登場に驚き、腰を抜かしそうになっていた。


 キルトさんが「味方じゃ」と教え、落ち着かせようとする。


 そちらは任せ、僕は、竜の方へと走った。


 スタッ


 竜騎士さんが、鞍から地上へと降りてきた。


 兜を外すと、灰色の髪がこぼれる。


「アミューケルさん!」


 僕は笑った。


 それに竜騎士の少女は、「うっす」と短く応じる。


 そして、その視線が、僕らの後ろに集まっているトルーガ人の村人たちへと向けられた。


「はぁ」


 アミューケルさんはため息をこぼす。


 苦笑しながら僕を見て、


「マール殿は、本当、凄いっすね。遺跡の次は、もう現地人っすか」


 と言った。


(ほえ?)


 僕は首をかしげる。


「なんでもないっす。それがマール殿なんすよね? 自分ももう覚えたっすよ」


 そう呟くアミューケルさん。


 キョトンとする僕の後ろで、キルトさんとイルティミナさんは、なぜか苦笑していた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 アミューケルさんに、事情を説明する。


「なるほど、了解っす」


 頷いたアミューケルさんは、すぐに『開拓村・拠点』へと飛び立っていった。


 開拓団の到着までは、10日前後だという。


 その間、僕ら5人は、トルキアの村に滞在しながら、近隣の巡回をして『黒大猿』を狩っていった。


 倒したのは3体ぐらい。


 村に近いせいか、数は少なかったけど、村長さんやトルキアには喜ばれた。


 村人たちの警戒した視線も、薄れた気がする。


 そして12日後の昼過ぎ、『第5次開拓団』の総勢395名が『墓守の村』へと到着したんだ。


(やっと来た!)


 見張り台の上で、僕は大きく手を振った。


 でも、村人たちは少し怯えた様子も見せた。


 400人ほどの異国の戦士団が、自分たちの平和に暮らしている生活の場所へと迫ってきたのだ。


(……無理もないよね)


 しかも開拓団の人たちは、武の国シュムリアの精鋭ばかり。


 更に頭上には、4頭の竜も飛んでいるんだ。


(遠くから見ても、圧力が伝わるよ)


 そんな村の気配を感じたのか、開拓団の歩みは、村から離れた地点で止まった。


 そこから1人だけが、前に進み出てくる。


(あれは……)


 ロベルト・ウォーガン将軍だ!


 開拓団の代表であるロベルト将軍は、村の入り口の前で立ち止まった。


 村からは、キルトさんとモハイニ村長さんの2人が出ていった。


 僕らは見張り台から、それを見守る。


 3人が会話をしている。


 キルトさんが仲を取り持つような感じで、将軍さんと村長さんは握手を交わした。


 村からも、ホッとした空気が流れた。


(よかった……)


 そうして開拓団の人たちも、村の中へと入れてもらえて、その夜は歓迎と友好の宴会が開かれた。


 食糧難の村で宴会?


 そう思うかもしれないけど、これにはロベルト将軍の手腕があった。


 実はロベルト将軍、村長のモハイニさんとの話の中で、『黒大猿』討伐の依頼を引き受けるだけでなく、なんと開拓団の持ってきた食料の半分も贈呈したのだ。


 これには村も大喜び。


 村人たちの警戒も、一気にほぐれたんだ。


 更に宴会で、酒も酌み交わす。


「古来より、人と人が理解し合うには、共に酒を飲むのが一番の方法じゃからの」


 と、赤ら顔のキルトさん。


 その言葉通り、互いの言語が通じなくても、開拓団員も村人も笑顔で肩を組み、共に歌を歌った。


「コンナ賑ヤカナノ、初メテ!」


 トルキアも、そう笑った。


 そして、彼女が踊ったり、何でもできるイルティミナお姉さんがその踊りを覚えて、一緒に2人で踊って喝采を浴びたり、音痴な僕まで調子に乗って歌おうとするのをソルティスに殴って止められたりしながら、その夜は更けていった。


 そして翌朝、


「――第5次開拓団、出発!」


 ロベルト将軍の号令で、僕らは、村から出発した。


 そんな僕らを心配して、村の人たちも見送りしてくれる。


 僕らは50人ずつ、8つの部隊に別れて、『墓守の村』から8方向に進行していく。


 上空には、4頭の竜。


 竜騎隊は、空からの目として、そして、僕らに何かあった時の救援となるための遊軍だ。


 僕らは、南西方向の部隊。


 初日は、『黒大猿』と遭遇しなかった。


 しかし、2日目に3体の群れ、3日目には7体の群れと遭遇した。


 4日目からは、10体以上の群れと複数回、遭遇した。


「1体も逃すな!」


 キルトさんの檄が飛ぶ。


(おう!)


 それに応えて、僕らは、黒い魔物たちを倒していく。


 トルキアのために。


 モハイニさんのために。


 村の人たちのために。 


 僕らは7日間ほどかけて、村人たちの活動範囲となる森や川原などの『黒大猿』を討伐した。


 倒した総数は、172体。


 これは、僕らの部隊だけの数だ。


(最大でも20体の群れだったからね)


 いつかのような、200体以上の群れではなかったから、充分、対処することができた。


 また負傷者はあったけど、死者はゼロ。


 そして今回、『第5次開拓団』の討伐した『黒大猿』の総数は、1200体を越えたんだ。


 村に帰還し、報告したら、モハイニさんも村人たちもびっくりしてた。


「マサカ、コレノホドノ数トハ……」


 近年、稀に見る数だったそうだ。


 そして、それを全て討伐してしまった僕らの実力にも驚いたらしい。


 その夜は、また宴会だ。


 人見知り少女のソルティスも、笑顔で料理をムシャムシャ食べている。


 僕も、負けずに食べた。


 ポーちゃんは、僕ら2人にせっせと料理を持ってきてくれて、そんな僕らに、開拓団や村の大人たちは、みんな笑っていた。


 トルキアも笑顔だった。


 イルティミナさんは苦笑していたけどね。


 そして、キルトさんとロベルト将軍が酒盛りをしているところに、村長のモハイニさんが顔を出した。


「皆サン、本当ニアリガトウゴザイマシタ」


 頭を下げてくる。


 シュムリア人の2人は笑った。


「なんの」

「村長殿の配慮には、こちらこそ頭が下がる思いじゃ」


 心からの言葉だ。


 モハイニさんは、微笑みをこぼす。


 それから彼は頷いて、


「皆サンハ、約束ヲ果タシテクレマシタ。今度ハ、コチラノ番デスネ」


 と言う。


 キルトさんとロベルト将軍の瞳から、酔いが消えていく。


 将軍さんが確認するように聞いた。


「では?」

「ハイ。『トルーガ帝国』ニツイテ、私ノ知ッテイルコトヲ、全テ、オ話シマス」


 モハイニさんは、はっきりと言ったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 仕事を終え、宴の席で料理をムシャムシャ食べる笑顔のソルティス。 そして、それに張り合うマールにほっこり(´∇`*) [気になる点] マールとソルティスに給仕する…
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