番外編・転生マールの冒険記07
番外編・転生マールの冒険記07になります。
よろしくお願いします。
「トルキア、僕たちの言葉を喋れるの?」
目の前にいる白い髪の少女に、僕は驚きながら確認した。
トルキアは笑う。
「少シダケネ」
恥ずかしそうな声は、少しだけ癖があったけれど、間違いなくアルバック共通語だった。
これには、後ろのキルトさんたちも驚いている。
「どうして?」
僕は訊ねた。
トルキアは、
「オジイチャンニ教ワッタノ。オジイチャンハ、30年前ニ、北ノ海ヲ渡ッテキタ『海渡リ人』ト会ッタコトガアルンダッテ」
と教えてくれた。
(30年前……って、もしかして『第3次開拓団』のこと?)
僕は、キルトさんを振り返る。
キルトさんは頷いた。
「トルキア」
銀髪の美女は、僕の横に出てきた。
少しかがんで、トルキアと目線の高さを合わせると、
「これから、そなたの祖父と会わせてもらうことはできぬか?」
と頼んだ。
トルキアは、僕ら5人のことをゆっくりと見る。
動物の骨を削った大きな耳飾りが、首の動きに合わせてユラユラと揺れている。
そして、最後は僕を見た。
「イイヨ」
そう言ってくれた。
「マールハ、私ヲ助ケテクレタ。ダカラ、オジイチャント会ワセテモイイヨ」
彼女は、そう続ける。
(トルキア……)
僕の視線に気づいて、彼女は優しく笑った。
そして、
「オジイチャンハ、村ニイルノ。案内スルネ」
キュッ
(え?)
突然、彼女は僕の手を握った。
「ジャア、行コウ」
「あ、うん」
驚く僕の手を引っ張りながら、トルキアは歩きだす。
慌てて、僕もついていく。
そんな僕らの背中を見つめて、イルティミナさんは、真紅の瞳を少しだけ細めた。
他の3人は、顔を見合わせる。
すぐに4人とも、僕らを追いかけて歩きだした。
◇◇◇◇◇◇◇
トルキアの村は、ここから半日ほどの距離にあるという。
森に流れる川沿いの道を、僕らは歩く。
歩きながら、トルキアは色々と教えてくれた。
まず彼女の本名は、トルキア・バハ。
年齢は14歳。
なんと、僕やソルティスと同い年だった。
そんな彼女は、小さな村で暮らしているという。
そして僕らと出会う前、トルキアは、村の食料集めのため、ここまで木の実や食べられる草、キノコなどの採取に来ていたのだそうだ。
でも、そこで『黒大猿』に遭遇してしまった。
「イツモ、コノ辺ニハイナイノニ」
トルキアは、そう不思議そうに首をかしげた。
…………。
(もしかしたら、僕ら『開拓団』が森を歩いたから、魔物が追い出されて移動しちゃったのかな?)
ちょっと心配になった。
そして、襲われているトルキアを、僕が助けたということだったみたい。
ちなみに、採取したものを入れた背負い籠は、『黒大猿』から逃げる時に捨ててしまったんだって。
「セッカク集メタノニ……」
トルキアは、しょんぼりしている。
僕は苦笑して、
「でも、きっとそれで僕も間に合ったんだから、よかったよ」
「ウン、ソウネ」
トルキアは頷き、
「マール、本当ニ強クテ、ビックリシタ。助ケテクレテ、アリガトネ」
と、嬉しそうに笑った。
意外と表情の豊かな子だな、と思った。
ちなみに、神体モードを解除した時、獣耳と尻尾が消えてしまって、トルキアはびっくりしてた。「ド、ドウシテ?」と、僕の髪の毛をまさぐられてしまったよ。
それから僕は、森の遺跡についても聞いてみた。
「『英霊ノ墓』ノコト?」
トルキアは、そう言った。
(英霊の墓?)
「ズット昔、海ヲ渡ッテキタ『侵略者』タチヲ倒シテ、『帝国』ヲ守ッタ英雄タチノ眠ルオ墓ナンダヨ」
と教えてくれる。
(ふ~ん、あそこは、この大陸の英雄さんのお墓だったんだ?)
供えられたお花については、
「月ニ1度、必ズ、オ参リニ行ッテイルモノ」
とのこと。
そんなトルキアに、後ろからキルトさんが訊ねた。
「帝国とは何じゃ?」
トルキアは、白い髪を揺らして振り返る。
「私タチノ暮ラシテイル、コノ『トルーガ帝国』ノコトヨ」
トルーガ帝国?
僕は、足元の地面を見た。
それから、トルキアを見る。
「ここも『トルーガ帝国』なの?」
「ウン」
彼女は頷いた。
僕は、思わず、他の4人と顔を見合わせてしまった。
この暗黒大陸には、『トルーガ帝国』という国家が存在してたんだ。
そして、トルキアはトルーガ人。
あのピラミッド遺跡も含めて、この大陸に広がっているのは『トルーガ文明』といったところか。
(うわぁ……)
僕らは今、シュムリア王国の誰も知らない文明や国家と触れあっているんだ……。
ちょっとゾクゾクしてきた。
そんな僕らの様子に、トルーガ人の少女は、不思議そうに首をかしげていた。
◇◇◇◇◇◇◇
太陽が西へと向かう。
その頃になると、森の木々が減り、代わりに岩の多い地形へと景色が変わってきた。
歩く進路の右手には、大きな山脈がある。
(あれは……『開拓村・拠点』の南に見えていた山脈だ)
どうやら僕たちは、ずいぶんと南下をしているようで、その山脈の東側まで来てしまっているみたいだった。
「ねぇ、まだぁ?」
疲れたのか、ソルティスがそうぼやいた。
優しいポーちゃんが、足取りの重い少女の背中を押してやっている。
トルキアは、それを見て、
「モウスグ」
と笑う。
それから30分ぐらいして、僕らは岩だらけの谷間に入った。
左右は、切り立った崖だ。
崖の高さは20メードぐらいある。
(こんなところに?)
僕が訝しんだ頃、トルキアが表情を明るくして、前方を指差した。
「ホラ、見エテキタ!」
え?
彼女の指の先を追いかければ、崖を塞ぐように造られた丸太の柵があった。
柵の奥には、見張り台も見えている。
トルキアは、驚く僕らを振り返って、
「ヨウコソ、私タチノ暮ラス『墓守ノ村』ヘ!」
と笑った。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。