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番外編・転生マールの冒険記06

番外編・転生マールの冒険記06になります。

よろしくお願いします。

 神なる力が、体内を駆け巡る。


 茶色い髪の中からピンと立った獣耳が生え、お尻から太く長い尻尾が伸びてくる。


 パシッ パシシッ


 放散した神気が、周囲で白い火花を散らした。


(よし!)


 神体モード完了だ。


 変身した僕に、少女は驚いた顔をしている。


 そして、2体の『黒大猿』たちも変化した僕の『圧』に気圧されたように、数歩、後退っていた。


「…………」


 僕は、その2体を観察する。


 体長は、どちらも2メードほどだ。


 川向こうの生息域で見かけた『黒大猿』と比べて、体格が小さい。やはり、弱い個体ということなんだろう。


 警戒しているのか、2体とも僕から距離を取っている。


(…………)


 このまま少女を抱えて、飛んで逃げようかな?


 そう思ったけど、


 キシッ ギシシッ


 背中に生えた金属の翼を広げようとすると、その片方の動きが鈍い。


 見れば、一部が歪んでいる。


(さっき『黒大猿』の攻撃を弾いた時だね……)


 光の粒子が集まり、損傷の修復が行われているけど、しばらく飛べそうになかった。


(仕方ないか)


 きっと、もうすぐイルティミナさんたちも追いついてくれる。


 それまで、時間を稼ぐんだ。


 僕は、大きく息を吐く。


 それから、前方にいる『黒大猿』へと視線を定めて、


 タンッ


 10メードの距離をたった1歩で跳躍して、巨体の懐へと飛び込んだ。


『ギョア!?』


 驚く人面。


 その腹部めがけて、僕は『妖精の剣』を横薙ぎに振るった。


 ヒュオッ


(え?)


 今度は、僕が驚いた。


 完全に届いたと思った僕の剣は、けれど、『くの字』に体を折り曲げた『黒大猿』にあっさりとかわされてしまったんだ。


 信じられない身体能力。


 本気の『神狗』の攻撃だったのに、びっくりだ。


(――でも)


 体勢が崩れてる。


 次の攻撃はかわせない。


(追撃だ!)


 僕はもう1歩、踏み込もうとする。


 その瞬間、『神武具』から、死角となる後方の映像が頭の中に送られてきた。 


「!」


 慌てて僕は、腰ベルトから投擲用ナイフを抜いた。


 それを振り返ると同時に、投げる。


 ビュッ


 投げた先には、少女がいた。


 驚いた顔。


 ナイフは、その白い髪をかすめながら、後方へと抜けた。


 バチュン


 衝突音と火花が散った。


 少女の後方にいた『黒大猿』は何かを投げた体勢で、その人面が「チッ」と舌打ちする。


 奴は、少女の後頭部めがけて、石を投げたのだ。


(危なかった)


 僕ではなく、少女を狙うところが狡猾だ。


 タンッ


 追撃を中断した僕は、再び跳躍して、少女のそばへと着地する。


 少女を守りながらの戦い。


(なかなか、大変だね)


 片方の『黒大猿』には剣先を向け、もう片方の『黒大猿』には顔を向けて牽制する。


 2体は、対極の位置だ。


 片方は必ず、僕の死角に回り込んでいる。 


 さすがだよ。


 僕1人では、なかなか手こずりそうな相手だった。


 でも、


(もう時間切れだよ?)


 その匂いを感じて、僕は笑った。


 突然、笑った僕を、少女は困惑しながら見上げる。


 2体の『黒大猿』も怪訝そうな顔をしつつも、そんな僕らへ襲いかかろうと、ゆっくり前傾姿勢になった。


 その瞬間、


 ドパァン


 白い閃光が走り抜け、その1体の頭部を吹き飛ばした。


『!?』


 驚くもう1体の『黒大猿』。


 首なしの胴体が膝から崩れ、ドチャッと川原の上に倒れ込む。


 ドクドク


 紫色の血だまりが広がっていく。


 その向こうには、


「マール!」


 白い槍を投げたイルティミナさんの姿があった。


 そばには、キルトさん、ソルティス、ポーちゃん3人の姿もある。


 僕の役目は、時間稼ぎ。


 みんなが来るまで、少女を守れれば、それでよかったんだ。


 仲間がやられた『黒大猿』は茫然としている。


 タンッ


 そして、僕は三度、跳躍。


『ギ……ッ!?』


 奴が気づいた時には、僕の小さな身体は、驚く人面のすぐ目の前にあった。


 今度は絶対にかわせない距離。


 ヒュコン 


 その頭部へと、僕は『妖精の剣』を鋭く振り落とした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 川原には、2体の『黒大猿』の死体が転がっている。


 僕は『妖精の剣』を振るって、ついた血を落とし、カチンと鞘に納めた。


「お見事でしたね、マール」

「うん」


 イルティミナさんは笑いながら、僕の頭を撫でてくれた。


(えへへ……)


 心地好さに目を細める。


「…………」


 そんな集まった僕ら5人を、白い髪の少女が、困惑したように見つめていた。


 あ、そうだった。


 僕は、少女を振り返る。


 ビクッ


 怯える少女に構わずに、僕は笑った。


「怪我はない?」

「…………」


 もちろん、少女は答えない。


「この人たちは、僕の仲間なんだ。敵じゃないよ」

「…………」


 僕は4人を見て、それから、また少女に笑いかける。


 ソルティスが小声で言った。


「ちょっと……言葉なんて、通じるわけないでしょ?」


 うん。


(でも、敵意がないことは、声や表情で伝わるんじゃないかな?)


 ゆっくり、少女に近づく。


 少女の白い髪が風に揺れている。


 エメラルドのような瞳が、僕を見つめ続けている。


 でも、逃げない。


 僕は、自分の胸に手を当てて、


「マール」


 と言った。


 その手を、少女に向ける。


「…………」

「…………」


 少女は沈黙している。


 もう一度、自分を示して、


「マール」


 それから、相手を示して、笑いながら首をかしげた。


「……トルキア」


 可愛らしい声が、そう答えた。


(!)


 僕は、少女を見つめた。


「トルキア?」

「…………」


 少女の細い手が持ち上がって、自分の胸に触れる。


「トルキア」


 その手が僕へと向けられて、


「マール」


 と口にしたんだ。


(やった!)


 僕は嬉しくなって、『うんうん』と頷いた。


 少女は、少しだけ笑った。


 僕は、4人の仲間のそばに行って、


「イルティミナ」


 と、僕の一番大好きな人を、手で示した。


 イルティミナさんは、白い髪の少女トルキアを見つめながら、柔らかく微笑む。


 コクッ


 トルキアは頷いた。


(うんうん、通じてるよ~)


 僕は嬉しくて仕方がない。


 それからも僕は、


「キルト」

「ソルティス」

「ポー」


 と、大事な3人のことを紹介した。


 1人1人手で示すたびに、トルキアは小さくコクッと頷いてくれた。


(よかった)


 異文化交流の第一歩は、成功みたいだ。


 とはいえ、ここからが大変だ。


 言葉が通じない以上、僕らのことや、その目的をどう伝えればいいのか、トルキアが何者であるのか、どうやって聞けばいいのか……。


(え~と、え~と……?)


 頭の中で、必死に考える。


 トルキアは、そんな僕のことを見つめた。


「マール」


 ん?


「マールハ、コノ言葉、通ジテル?」


 …………。


(えっ!?)


 僕は自分の耳を疑った。


 イルティミナさんたちも驚いた顔をしている。


「今のって……アルバック大陸の共通語?」


 僕は、白い髪の少女を見つめた。


 少女は笑った。


 コクッ


 頷いて、そして言った。


「ヨカッタ。ヤッパリ、貴方タチハ『海渡リ人』ナノネ」

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ イルティミナの接近を気配や目視ではなく匂いで判断する辺り、マールの忠犬っぷりが窺える。 ……つまり、イルティミナは飼い主さん?(笑) [一言] 現地人とのファー…
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