番外編・転生マールの冒険記04
番外編・転生マールの冒険記04になります。
よろしくお願いします。
小さな花だ。
茎は萎れて、花弁も何枚か落ちてしまっている。
でも、これは暗黒大陸に、現在も生きている『現地人』の存在を示しているんだ。
「キルトさん」
僕は、彼女を振り返った。
キルトさんは頷く。
「この墓の遺跡まで、誰かが花を手向けに来るということは、その者の通った道があるはずじゃ。遺跡周辺を調べるぞ」
「うん!」
僕らは頷き、遺跡の階段を下りる。
5人で手分けをして、雨上がりの森を歩いた。
30分ほどして、
「――見つけました」
イルティミナさんの澄んだ声が、周囲へと響いた。
彼女の下へと、すぐに集まる。
そこは、遺跡から30メードほど離れた森の中だった。
イルティミナさんは、片膝をついてしゃがんでいて、その白い指でぬかるんだ地面を触っていた。
「ここだけ、草が少ないです」
そう言った。
それから、その真紅の瞳の視線は、森の奥へと向けられる。
「そう多い回数ではありませんが、ここを往復しているのでしょう。草が踏まれ、枝が折れて、獣道のようになっていますね」
そうなんだ?
正直、そこまではっきりした違いは、僕にはわからない。
ソルティスも『そうなの?』という顔だ。
でも、キルトさんもしゃがんで土の具合を確かめ、
「確かに、周囲より踏み固められているの。道の大きさも考えて、魔物や動物ではなく、人の痕跡と見て間違いなさそうじゃ」
そう頷いて、森を見る。
2人とも、魔物を追跡するベテランの魔狩人だ。
きっと間違いないと、僕は信じる。
「さすがだね、イルティミナさん」
そう笑いかけた。
イルティミナさんは「ありがとう、マール」と嬉しそうにはにかんだ。
「じゃあ、早くこの道を辿りましょ!」
その姉の見つけた道の前で、ソルティスはウキウキしたように足踏みする。
その横で、ポーちゃんも足踏みを真似してる。
「まぁ、待て」
キルトさんは苦笑する。
「現地人のいる場所まで、どの程度の距離があるか、まだわからぬ。雨も上がったし、まずは報告じゃ」
そう言って、荷物から発光信号弾を取り出した。
金属の筒の先は、緑色。
パシュッ
トリガーを引けば、閃光が空へと走って、
パァアアン
鮮やかな緑色の光が大輪の花のように、雨上がりの空で輝いた。
◇◇◇◇◇◇◇
10分ほどして、魔法の光が消えた。
人が集まるまでは、もう少しかかるだろうと、僕らは遺跡の階段に腰かけていた。
その時だ。
バサッ バサッ
上の方から、大きな音が聞こえて、僕は顔をあげた。
(え……わっ!?)
見上げた青い空に、1頭の竜が飛んでいた。
竜の頭部には、人の姿もある。
「シュムリア竜騎隊だ!」
青い瞳を輝かせて、僕は、思わず立ち上がっていた。
強い風を僕らへと叩きつけながら、その紅い竜は、地上へと降下してくる。
ズズゥン
逞しい爪が大地を掴み、巨体が着地した。
(か、格好いい!)
見惚れる僕の前で、竜の鞍から竜騎士が降りてくる。
ゴーグル付きの兜を外すと、その下からは雨に濡れた灰色の髪がこぼれ落ちた。
その重そうな前髪を、彼女は手でかき上げる。
僕は笑った。
「来てくれたんですね、アミューケルさん!」
「うっす」
僕の声に、彼女は短く応じる。
それから、僕ら5人の後ろにある大きなピラミッド遺跡を見やって、
「本当に遺跡、見つけたんすね」
と、どこか呆れたように呟いた。
(?)
首をかしげる僕に、アミューケルさんは苦笑して、
「いや、250名っていうこれだけの人数で探してるのに、見つけ出すのは、やっぱりマール殿なんだなと思って。……本当、どこか特別っすよね」
と言った。
(……いや、たまたまだよ?)
そう言われても、僕は困ってしまう。
そんな僕の後ろでは、イルティミナさん、キルトさんが顔を見合わせて、なぜか苦笑していた。
それから、僕らは状況を説明した。
遺跡内部の情報。
そこを調べてわかったこと。
供えられた花から推察される『現地人』の存在。
見つけた森の道。
アミューケルさんは真剣に聞いてくれて、特に『現地人』の可能性については、「マジっすか?」と口を開けて驚いていた。
キルトさんは言う。
「わらわたちは、これから森の道を辿る」
現地人のいる場所まで、どれだけかかるのかわからない。
そのため、20日間の期限内には戻れない可能性についても言及していた。
アミューケルさんは頷いた。
「わかりました。隊長や将軍に伝えておくっす」
「頼む」
キルトさんも頷きを返す。
これからアミューケルさんは、この場に残って、発光信号弾を見て集まった人への説明をしたのち、『開拓村・拠点』へと報告に帰るそうだ。
話を終えると、竜騎士の少女は、僕を見る。
「どうか気をつけて、マール殿」
「うん」
僕は頷いた。
そんな僕の隣にイルティミナさんがやって来て、
「マールは私がちゃんと守りますので、心配要りません」
と、僕の肩に手を置いた。
アミューケルさんは「そっすか」と苦笑する。
(あはは……)
曖昧に笑って、それから僕は気を取り直した。
アミューケルさんの横を抜けて、その後ろに控えている大きな紅い竜のところへと向かう。
「お? マール殿?」
竜騎士さんは驚いた顔だ。
グルル……
竜は、低く唸りながら僕を見る。
僕は、その大きな鼻先へ、小さな手をそっと触れさせた。
熱い皮膚だ。
そして、頼もしい生命力を感じる。
「がんばってくるね」
そう笑った。
グルル……
竜は何も言わず、ただ僕を見つめ続けている。
アミュ-ケルさんとイルティミナさんは、思わず、顔を見合わせて、キルトさんは楽しそうに笑っていた。
それから、
「では、行くぞ」
キルトさんの号令で、僕ら5人は、森の道を歩き始めた。
見送りは、アミューケルさんと紅い竜。
「いってきます」
遠ざかる彼女たちへと、手を振った。
アミューケルさんも手を振り返してくれる。
やがて、その姿も森の木々の向こうへと消えていった。
僕は前を向く。
この暗黒大陸に存在する『現地人』を探しに、1歩1歩、足を踏み出していった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明日の0時以降を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。