番外編・転生マールの冒険記01
皆さん、お久しぶりです。
月ノ宮マクラです。
予定より3日ほど長引いた休止となってしまって、申し訳ありません。
実は、この1ヶ月ほど暗黒大陸編を改稿しようと思い、頑張っておりました。
そうして書き上げた部分を現状と比較、検討したのですが、色々と悩んだ結果、今回は改稿しないことにしました。
そして、代わりに書き直した部分を『番外編』として投稿することにしました。
次の展開を楽しみにしていた皆さんには、本当に申し訳ありません。
お話としては、『271・夢の景色と航海日誌』から派生した『IF世界』という形になります。
内容的には、ちょうど暗黒大陸に上陸したマールたち『第5次開拓団』が『黒大猿』の群れに遭遇して、『拠点』へと撤退した直後からの物語です。
本編では西へ向かったマールたちが、東へ行ったらどうなるか?
設定など違う点もございますが、こちらも作者の書きたいものを詰め込んだマールたちの物語です。
もしよかったら、どうか読んでやって下さいね。
それでは、番外編・転生マールの冒険記のスタートです!
「は~、疲れたわぁ」
その夜、ソルティスは肩を揉みながら、『開拓村・拠点』で僕らに割り当てられた家へと帰ってきた。
「おかえり」
「ご苦労様でしたね、ソル」
僕らは、少女を出迎える。
ソルティスは今まで、昼間の戦闘で負傷した人たちを、他の回復魔法の使い手さんたちと一緒に治療していたんだ。
ポフッ
ベッドのうつ伏せに倒れ込む少女。
「とりあえず、今回は死人は出なかったわ~」
とのこと。
(そっか、よかった)
ソルティスの話だと、今回は50人以上の怪我人がいたんだって。
中には重傷な人もいたけれど、
「ここには、私以外にも、何人か腕のいい回復魔法使いがいてね~」
そのおかげで、一命を取り留めたそうなのだ。
(さすが、選ばれた精鋭揃いの『開拓団員』だね)
ちなみに、薬や医療器具も持ってきてはいるし医者もいたけれど、今回は出番はなかったそうだ。
「薬は有限ですからね」
と、イルティミナさん。
それこそ、回復魔法を使う人が足りなかったり、全員魔力切れになったりした非常事態に活躍する予定らしい。
……そんな事態が来なければいいなと思う。
モミモミ モミモミ
「あ~、効くわぁ」
「…………」
気づいたら、うつ伏せなソルティスの肩や腰を、ポーちゃんが無言のまま揉んでやっていた。
優しいな、ポーちゃん。
ソルティスも、とっても気持ちが良さそうだ。
僕とイルティミナさんも、ついつい笑ってしまった。
と、
「あれ? そういえば、キルトは?」
少女はようやく、この場にキルトさんがいないことに気がついたみたいだ。
僕は言う。
「本部だよ。代表4人で話し合いだって」
そして、まだ帰ってないんだ。
ソルティスは「そうなの」と驚いた顔だ。
窓の外を見て、
「もう夜なのにね」
と呟いた。
(うん……)
「昼間の魔物の件がありましたからね。今後の方針で悩んでいるのでしょう」
とは、イルティミナさんの言葉。
僕も、あの黒い魔物を思い出す。
人面をした、大きな猿みたいな黒い毛皮の魔物たち。
(……強かったよね)
そう思う。
とんでもない握力に、刃を弾く岩のような手のひら、そして、凄まじい身体能力。
…………。
イルティミナさんは、言う。
「正直、1体ならば、まだ対処のしようはあると思いますが、あれだけの群れで来られては対応も難しいですからね」
うん、そうだね。
最終的に、僕らと対したのは200体近い群れだった。
僕ら『開拓団』は、400人。
その内、探索していたのが250人。
(正面からぶつかり合うのは得策じゃないって、僕でもわかるよ)
やっぱり暗黒大陸、そう簡単にはいかないみたいだ。
「…………」
まだ4日目なのに、これからどうなるんだろう?
ふと、窓の外の夜空を見る。
アルバック大陸でも変わらない紅白の月――それを見上げながら、僕は心の中で、短くため息をこぼした。
◇◇◇◇◇◇◇
キルトさんが戻ってきたのは、それから1時間後だった。
「何じゃ、そなたら。まだ眠っていなかったのか?」
拠点の家に入ってきたキルトさんは、起きていた僕ら4人を見つけて、驚いた顔をする。
僕は言った。
「これからどうなるのか、気になって眠れなかったんだよ」
他の3人も頷く。
キルトさんは「そうか」と苦笑した。
それから、重そうな動作で自分のベッドへと腰かける。
長い吐息を一つ。
(…………)
そんな彼女を見つめて、僕は、
「おかえりなさい、キルトさん。遅くまで、お疲れ様」
と声をかけた。
キルトさんは、また驚いた顔をする。
それから笑って、
「ただいまじゃ」
僕の髪をクシャクシャと乱暴に撫で回した。
そんな僕らに、イルティミナさんも優しく瞳を細めている。
けれど、すぐに表情を戻して、
「それで、今後の方針は決まったのですか?」
「うむ、一応の」
キルトさんは頷いた。
「実は、浜辺で難破していた『第3次開拓団』の船から見つけた『航海日誌』の解読が終わっての」
へぇ、航海日誌が。
「損傷で多くは読めなかったが、気になる文面も見つかったのじゃ」
「気になる文面?」
僕は、オウム返しに聞く。
キルトさんの瞳は、僕ら4人を見回した。
「遺跡の存在じゃ」
と言った。
(遺跡……?)
それから、キルトさんは教えてくれた。
航海日誌によれば、『第3次開拓団』も30年前のこの場所から探索を進めていったそうだ。
当然、あの『黒い魔物』とも遭遇していたようで、
「『第3次開拓団』は『黒大猿』と呼称したらしい」
黒大猿……。
そして30年前の戦闘でも、『黒大猿』の前に『第3次開拓団』は敗走したそうだ。
(僕らと同じだね)
その後、彼らも探索の方針を転換した。
南方の山脈に通じる川向こうの森の探索は諦め、川を渡らずに、砂浜から東側の森へと進路を取ったのだ。
「東の森?」
「うむ」
当時の調査によれば、『黒大猿』の主な生息域は川の向こう側で、川の手前の地域では、目撃数が少なかったそうなのだ。
(へぇ、そうなんだ?)
『第3次開拓団』は、南方の山脈を大きく迂回するように、南東方向へと探索を進めた。
そして、
「その森の中に、未知の文明の遺跡を発見したそうなのじゃ」
「!」
キルトさんの言葉に、僕らは驚いた。
好奇心旺盛なソルティスが、ベッドから身を乗り出す。
「未知の文明って、どういうこと!?」
キルトさんは答える。
「そのままの意味じゃ。わらわたちの知る古代タナトス魔法王朝とは異なる文明……その遺跡があったらしい」
「タナトスとは違う文明!?」
まさか暗黒大陸には、そんな謎の文明があったなんて……。
凄い。
(僕も、ちょっとドキドキしてきたよ?)
ソルティスも興奮して鼻息荒く、その瞳をキラキラさせている。今にも、その遺跡を探しに夜の森へと飛び出していってしまいそうだ。
「そなたら、落ち着け」
僕ら2人の様子に、キルトさんは苦笑している。
それから『第3次開拓団』は、その遺跡を調査し、更に南東の森の奥へと向かったそうなのだけど、
「『航海日誌』の記述は、そこで途切れておった」
あぁぁ……。
僕とソルティスは、ガックリだ。
2人してベッドの上で四つん這いになって落ち込んでしまう。
ポム ポム
無表情のポーちゃんが、慰めるように僕らの肩を叩いた。
そして、キルトさんは、
「遺跡の調査結果についても、『航海日誌』の損傷が激しくての。残念ながら、何もわからぬ」
そう続けた。
(酷いや……これじゃ、生殺しだよ?)
僕は、心の中で泣いた。
ソルティスも同じようだった。
大人なイルティミナさんは、落ち着いた表情でキルトさんを見る。
「では、今後の方針は、その遺跡の発見ですか?」
ガバッ
僕とソルティスは顔をあげた。
キルトさんは頷いた。
「うむ。現状、『神霊石』の情報は何もない。ならば、しばらくは『第3次開拓団』の足跡を追いかけるのも良いかとなっての」
「うん!」
「とってもいいと思うわ!」
僕は、何度も大きく頷く。
キルトさんは苦笑する。
それから、僕の顔を真っ直ぐに、その黄金の瞳で見つめてきた。
「マール」
「ん?」
「そなた、本当に、それで良いと思うか?」
真剣な声。
(???)
僕は頷いた。
「うん。いいと思うけど……」
「…………」
「…………」
「そうか」
僕の表情を確かめて、彼女は頷いた。
えっと……?
「キルト?」
不思議に思ったのか、イルティミナさんも問いかける。
僕らの視線に気づいて、キルトさんは笑った。
「何、少し確かめただけじゃよ」
確かめた……?
「『神狗の直感』とでもいうべきか、マールは、これまで多くの運命を引き寄せ、道を切り開いてきた。ゆえに今回の方針も、そのマールが認めるか確認したくての」
みんなの視線が、僕1人に集まる。
(…………)
え……ちょっと待って?
「なんか、それって責任重大じゃない!?」
僕は慌てた。
キルトさんは笑い、イルティミナさんはなぜか「なるほど」と納得したように頷いている。
ソルティスは、
「ふ~ん? これで『神霊石』探しから遠ざかれば、マールの責任ってことね」
と他人事みたいに言う。
ポム ポム
ポーちゃんが僕の肩を、また慰めるように叩いた。
「…………」
し、知らないからね、本当に。
なんだか気重になる僕に対して、キルトさんは肩の荷が軽くなったという風に笑って、
「よし。明日も早い。皆、今日はこれで寝るぞ」
「はい」
「へ~い」
「…………(コクッ)」
3人は元気に返事をする。
僕は少し遅れて、
「……うん」
と力なく答えた。
それから僕らは、灯りを消して、眠りについた。
僕は、いつものようにイルティミナさんの抱き枕だ。
甘やかな匂い。
触れ合う、柔らかな身体。
そして、
「大丈夫ですよ。マールは、ただその心に素直に従うだけで、それだけでいいのですから」
ふと、そう耳元に囁かれた。
(……うん)
その優しさに心が癒され、なんだか軽くなる。
そのまま、僕はまぶたを閉じた。
「ありがとう、イルティミナさん。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい、マール」
――暗黒大陸に来て4日目の夜、それは、こうして穏やかに過ぎていった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
今回は番外編の初日という事で、本日中にもう2話(昼と夕方ぐらいに)、更新いたします!
また明日からは毎日更新の予定ですので、皆さん、どうぞよろしくお願いします!




