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288・決戦前

『転生マールの冒険記』を読んで下さる皆さん、いつもありがとうございます!


実は、ブックマークが2000件に到達しました!

ばんざ~い!


ここまで書いてこれたのも、読んで下さる皆さんの応援があってこそです。

これからも皆さんに楽しんでもらえるよう、そして自分自身も楽しみながら執筆できるように頑張っていきたいと思います。

皆さん、本当にありがとうございました!


それでは、本日の更新第288話です。

どうぞ、よろしくお願いします。

 あれから『第5次開拓団』は全員、『岩石地帯・拠点』へと帰還した。


 僕は今、拠点の端っこにいる。


 ここからは、巨大な谷底に落ちた『廃墟の都市』の全貌が見えるんだ。


「…………」


 都市の中央に、巨大な蛇がいる。


 体長1000メードはありそうな規格外のサイズだ。


 橙色の目玉は4つ。


 緑の体色に、赤、白の模様が走っている。


 ズズゥン


 とぐろを巻いて動くだけで、周囲のピラミッド型の建物が崩壊していく。


 ――まるで天災だ。


 あれが『竜騎士』と『竜』を喰い殺した『蛇神人』の本当の姿みたいだ。


 それだけじゃない。


 巨大な蛇の周囲には、無数の大蛇たちが蠢いていた。


 その数は、数百か、数千か……それが陽光に濡れたような鱗を輝かせながら、建物と建物の間の通りを埋め尽くしている。


 1体だけでも、10メード級の大きさだ。


 全て、『蛇神人』が生みだした。


 ジュルン


 ほら、今も。


 その数十メードはある鱗の隙間から、新しい大蛇が地面へと転げ落ちた。


(本物の化物だ……)


 前にケラ砂漠で、30メード級の巨大なサンドウォームを討伐したことがあったけれど、あれさえも目前の『蛇神人』に比べたらミミズみたいに思えた。


 …………。


「ここにいたのですね、マール?」


 ふと背中側から声がした。


 振り返るとそこに、いつもの優しい笑顔を浮かべたあの人が立っていた。


「イルティミナさん……」

「隣、よろしいですか?」

「……うん」


 囁くような問いに、僕は頷く。


「ありがとう」


 彼女は、真紅の瞳を伏せて、そう微笑んだ。


 フワリ


 まるで柔らかな風のように、僕の隣に腰を下ろす。


 僕を気遣ってか、いつものように髪を撫でてはこなかった。


 その視線は、眼下の巨蛇を映す。


「…………」

「…………」


 イルティミナさんも僕も、しばらく何も言わなかった。


 やがて、


「……その内側にある感情は、いつか、あの巨大な魔物にぶつける時が来ます。それまでは大事にしまっておいてくださいね」


 そんなことを口にした。


(!)


 ドキリとした。


 まるで、今の自分の心の中を見透かされた気がしたから。


 ボブさんが戦死した。


 そのことを報告した時のアミューケルさんの表情を覚えている。


 涙を堪え、毅然と隊長のレイドルさんに伝えていた。


 その表情が忘れられない。


 それを受けるレイドルさんの悔しそうな顔も、後ろにいたラーナさんの悲しげな顔も、僕のまぶたの裏には残っていた。


 …………。


 今すぐにでも、あの『蛇神人』に襲いかかりたい。


 でも、


(それは今じゃない)


 そう自分に言い聞かせていた。


 僕は、イルティミナさんを見る。


 彼女もこちらを見た。


 その美しい真紅の瞳には、強い感情が内側で燃えているのがわかった。


(僕と同じなんだ……) 


 そうわかった。


 イルティミナさんも、きっとアミューケルさんもレイドルさんも、他の『開拓団員』の人たちも同じ思いを胸に秘めているんだ。


 僕は頷いた。


「うん」


 イルティミナさんは、そんな僕の青い瞳を見ながら、しっかりと頷き返してくれた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 イルティミナさんと簡易テントに戻ると、中ではソルティスがたくさんの資料と睨めっこしていた。


 そんな少女の肩を、ポーちゃんが無言でせっせと揉んでいる。


 キルトさんはいないみたいだ。


 きっと代表者会議に出席しているんだろう。


「あ、おかえり~」


 気づいたソルティスが、眼鏡を外しながら言った。


「ただいま」

「ただいま帰りました」


 僕らは答えながら、自分たちのベッドに座る。


「ふ~」


 少女は、天井を見上げながら吐息をこぼした。


 肩下まで届く、紫色の髪が揺れる。


 そして、


「間違いないわ。あれ……絶滅したはずの『大王種』そのものよ」


 と言った。


(大王種……)


 大昔に人類と地上の覇権を争った生命が、『蛇神人』として現代に蘇ったということか。


「とんでもない話だね」


 僕には、そう答えるしかない。


 少女は「とんでもない話よ~」と呟く。


 それから資料を見て、


「あれが私たちに襲ってきたのは、多分、兵器としての防衛機能がまだ残っているからかもね」

「防衛機能?」

「そ。つまり、都市への侵入者を排除しようとしたってこと」


 じゃあ、


「都市に入らなければ、もう襲われない?」

「かもね」


 ソルティスは認めた。


「でも、元々、欠陥品の兵器だからね。狩猟本能で逃げる私らを襲う可能性もあるわ」

「…………」


 彼女は苦笑して、


「ってか、逃げるわけにもいかないでしょ?」

「うん」


 僕は頷いた。


 アイツは、『神霊石』を持っている。


 なら、僕らはそれを手に入れるまで、逃げることはできない。


 イルティミナさんが口を開いた。


「人型であった時も、あの者は、全身に何も持ってはいませんでした。となれば、やはり体内に『神霊石』があるのでしょうか?」

「多分ね」


 姉の言葉に、妹はア~ンと大きく口を開け、そこに指を突っ込んでみせた。


 ゴクン


 少女の白い喉が動く。


「だから、どうしても奴を倒して、その体内から『神霊石』を取り出す必要があるわ」


 うん。


 僕らは頷いた。


「……ただね」


 ソルティスは、指で髪をかきながら、


「アイツが私らを襲うまでのタイムラグが何だったのか、それがわからないのよね」

「タイムラグ?」

「都市に入ってから数日間、襲われなかったでしょ。姿を目撃したあとも、数日間、どこにも姿が見つからなかった」

「…………」

「姿を隠していた? なんで? ……何かを警戒してる? 何を?」


 その声は独り言のようになり、最後は「う~!」と言いながら、髪をガシガシとかき回した。


 バササッ


 資料を放り投げ、少女はベッドに仰向けに倒れた。


「駄目、わからんわ~」


 両手で顔を押さえて呻く。


 ポム ポム


 ポーちゃんが慰めるように、その太ももを叩いた。


 僕とイルティミナさんは顔を見合わせる。


 それから、僕は言った。


「わからないことは仕方がないよ。それより今は、あの『蛇神人』にどう対処するかを考えよう?」

「……ま、そうね」


 ソルティスは頷き、上体を起こした。


 テントの出入り口の方を見て、


「それについては、キルトたちが考えてくれてるでしょ。そろそろ戻ってくるんじゃない?」


 と言った。


 僕らもそちらを見る。


 やがて、キルトさんが戻ってきたのは、それから30分後のことだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「戻ったぞ」


 銀髪を揺らして、キルトさんが簡易テント内へと入ってくる。


 おかえり――そう声をかけようと思ったけれど、彼女の後ろから入ってくる鎧姿の男性を見つけて、タイミングを失った。


「邪魔をする」


 ロベルト・ウォーガン将軍だった。


 驚いている僕らに、キルトさんは苦笑した。


「自分の口から直接、伝えたい、というのでの。こうして、ご足労願ったのじゃ」


 直接、伝えたい? 


 キョトンとなる僕らを見つめて、彼は静かな口調で言った。


「これから、我ら『第5次開拓団』は、あの『蛇神人』に総攻撃をかける予定だ」


 と。


(!)


 僕らは硬直する。


 僕らをベッドに腰かけさせて、ロベルト将軍は、これからの作戦を教えてくれた。


 竜騎隊2騎。


 神殿騎士団50名。


 王国騎士団269名。


 冒険者団45名。


 この全戦力を持って、あの『蛇神人』を討つ。


 けれど、『廃墟の都市』には大量の大蛇たちがいるため、それを倒しながら、まずは『蛇神人』本体への道を拓かなければならない。


「それを、君たち以外の全員で行う」

「え……?」


 僕ら以外の全員……。


 それは言い換えれば、『蛇神人』と戦うのは、僕らだけということだ。


「これは、わらわからの提案でもある」


 と、キルトさん。


 魔物との戦闘においては、人数が多ければ良いというものではない。


 連携の問題や同士討ちのリスクも生まれる。


「大勢の者が近くにいれば、わらわも『鬼神剣・絶斬』を全力で放てぬしの」


 ……そっか。


 ここは異世界で、前世とは違う。


 だから、個人火力が異常に高い場合は、そういった局面もあるんだ。


「とはいえ、危険な役目であるのは間違いない」


 ロベルト将軍は、僕らを見据えた。


「また、この戦いの命運を君たちに預けることにもなる。そして、その責任と覚悟を、君たちに負わせることにもなる。重い役目ではあると思うが、それでも、この提案を受ける気持ちはあるだろうか?」


 僕は、息を吐く。


 お互いの顔を見合わせ、確認をした。


(……うん) 


 僕らは、ロベルト将軍を見返した。


「はい」


 代表するように、僕が答えた。


 彼は、真っ直ぐに僕の青い瞳を見つめてくる。


 数秒間、間があった。


「わかった」


 シュムリアの誇る将軍さんは、重々しく頷いた。


「君たちが『蛇神人』の下へと無傷で辿り着けるよう、自分たちも全力で道を切り拓くことを約束しよう。どうか、あの巨大な魔物を討ち倒してくれ」


 そう言って、彼は深く頭を下げた。


(うん、必ず倒してみせる!)


 僕は大きく頷き、その覚悟を胸に刻む。


 と、イルティミナさんがふと思い出したように、


「そういえば、竜騎隊は2騎と聞きましたが、それはどういうことでしょうか?」


 と質問した。


(……そういえば)


 聞き間違えでなければ、竜騎隊は1騎、余ることになる。


 キルトさんが答えた。


「もしものための備えじゃ」

「備え?」


 聞き返す僕。


 キルトさんは黄金の瞳を伏せて、


「もしも作戦が失敗して、わらわたちが全滅した場合の、の」


 と言った。


「待機させている『開拓船』に連絡し、誰か1人は、なんとしても本国に帰還してもらわなければならぬ。この地での情報を伝えるためにの」

「…………」


 そ、そっか。


 当然、そういう可能性についても考えているんだ。


 ロベルト将軍は頷いて、


「そのため、竜騎士アミューケル・ロートは、本作戦から外れてもらった」


 と教えてくれた。


(アミューケルさんが?)


「彼女は、君たちを除いて、この『第5次開拓団』の中で最も若く、多くの将来が残されている。そう隊長のレイドル・クウォッカからも進言された」

「そうですか」

「もっとも、彼女本人は、酷く反対していたがね」


 そう苦笑する。


 ……そうだろうなぁ。


 アミューケルさんの性格を思えば、それを伝えられた時に、どれほど怒り、悲しんだか、想像ができてしまう。


 レイドルさんも、簡単な説得じゃなかっただろうな。


 イルティミナさんも吐息をこぼす。


「戦って散るよりも、戦わずに生き残る方が辛いこともありますからね」

「そうだな」


 ロベルト将軍も認めた。


「しかし、誰かが努めねばならぬ役目だ。彼女には辛いだろうが、それを果たしてもらう」


 僕らは頷いた。


 結局、全員がそれぞれの役目を果たして、戦いに臨むしかないのだ。


 ロベルト将軍は、僕らを見回して、


「君たちの覚悟もわかった。これより、全開拓団員を集め、作戦を伝えることにする」


 そう言って立ち上がり、テントから去っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 15分後、全開拓団員が『岩石地帯・拠点』の一角に集められ、代表4人から作戦が説明された。


『蛇神人』に挑むのは、僕ら5人。


 それ以外は、全員、露払いのような役目だ。


 それを聞いた瞬間、全員の視線が僕ら5人へと向けられた。


 様々な感情の混じった視線がぶつけられる。


「…………」


 けれど僕は、青い瞳を逸らさずに、その全てを受け止めた。そうしなければいけないと思った。


 結局、反対意見はなかった。


 僕らのパーティーには、魔物討伐のエキスパート、その最高峰である『金印の魔狩人』が2人いる。


『開拓団』の中で、その実力に敵うパーティーはいない。


 それを全員が知っていた。


 そして、『金印』以外の3人も、年若いとはいえ、


 キルト・アマンデスの弟子。


 イルティミナ・ウォンの実妹。


 コロンチュード・レスタの義理の娘。


 なんだ。


 全員、『金印』に関わる才能の冒険者。


 全開拓団員の中で、僕ら以上に適任となるパーティーは存在しないと、暗黙の了承が生まれていた。


 そんな皆の様子を確かめ、ロベルト将軍は言う。


「我ら『第5次開拓団』がこの遠き大陸までやって来たのは、『神霊石』を手に入れ、神託にあった災いより人々を守るためだ。本国にいる家族を、友人を思え。彼らを守るために、己が名誉のために、信仰のために、それぞれの胸にある大切な思いのために戦え!」


 ガツンッ


 彼の拳は、自身の鎧の胸を強く叩いた。


「あの巨大な蛇の化物を討伐し、聖なる『神霊石』を手に入れ、我らは英雄として帰還するぞ!」


 鼓膜が震え、下腹まで響く大きな声。


 身体の芯が、ジンと痺れる。


『おぉおお!』


 全員が天に向かって、拳を突き上げた。


 僕も思いっきり声を発しながら、握り締めた手を頭上へと振り上げる。


 ふと視界の端で、みんなから外れて、アミューケルさんが木の横に立っているのが見えた。


 悔しげに僕らを見ている。


 握り締めた拳からは、血が滲んでいた。


 ラーナさんが声をかけ、「大丈夫っす!」と勝気な声を発しているようだった。


(……アミューケルさん)


 その紅い瞳は、僕ら全員を映す。


 この光景を、自身の脳裏にしっかりと焼きつけようとするように、もしもの時に、全てを忘れずに伝えるために。


 …………。


 暗黒大陸に到達してから、61日目、僕らは最後の戦いへと向かった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ やはり最後は総力! 一人外されたアミューケルは断腸の思いでしょうが已む無しですか。 …………命令違反を冒さない事を祈りましょう(苦笑) [一言] しかし、『廃墟…
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