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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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286/825

283・雷雨の女

第283話になります。

よろしくお願いします。

 雨の中、僕ら5人は、『廃墟の都市・西区画』へとやって来た。


 西区画は、都市が崩落した時の影響か、大地に亀裂ができ、5~10メードぐらいの段差ができている場所もあった。


 建物も多くが倒壊している。


「…………」


 雨のせいか、廃墟らしさが増して見える。


 やがて3人の王国騎士さんに案内されて、僕らが辿り着いたのは、西区画の最西端である岸壁だった。


 通りには、王国騎士団が20人ぐらい集まっている。


 そして、


『グルルォン』


 なんと『竜騎隊』の竜も1頭、ピラミッド型の建物のそばに座っていた。


(おぉ……)


 街中にいる竜って、なんか格好いい。


 集まった王国騎士団の中には、顔の右目部分に傷のあるロベルト将軍がいた。


 そばには、竜騎士隊長レイドルさん。


(……アーゼさんはいないね)


 神殿騎士団長の姿は、ここにはなかった。


 もしかしたら、彼女だけは拠点防衛のために、『岩石地帯・拠点』に残っているのかもしれない。


「将軍、レイドル」


 キルトさんが声をかける。


 ロベルト将軍たちは気づいて、こちらを振り返った。


「来たか、キルト・アマンデス」


 硬い表情だ。


 キルトさんは、怪訝そうに眉をひそめる。


「いったい、どうした?」

「お前たちに見てもらいたいものがある。一緒に来てくれ」


 拒絶を許さない声だった。


(ん……?)


 雨で視界が悪くて、近づくまで気がつかなかったけれど、ロベルト将軍たちの背後にある崖の壁面には、大きな亀裂ができていた。


 大きさは、30メードはある。


「俺は、ここで周辺の警戒をしているよ」

「頼む」


 レイドルさんの言葉に、将軍は頷いた。


 そして、亀裂のある方向へと歩きだす。


 キルトさんは、レイドルさんを見る。


 それに気づいて、


「説明するよりも、見てもらった方が早いんだ」

「……わかった」


 竜騎士隊長の答えに、キルトさんは頷いた。


 レイドルさんも頷き返し、彼は待機させている愛竜の方へと向かった。


 僕らは、ロベルト将軍のあとを追う。


 亀裂の前には、王国騎士が2人立っていて、僕らはその間を抜けて、亀裂の内部へと入っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 防水ローブのフードを外す。


 ポタッ ポタタッ


 水滴が地面に落ちる。


 亀裂の内部には、壁に松明が設置されていて、思ったよりも明るかった。


 ロベルト将軍は、そのまま奥へと向かう。


(結構、広いな)


 30メードの亀裂は、奥に進むほどに広がって、まるで巨大な洞窟のようになっていた。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 ロベルト将軍のあとに続いて、僕ら5人は一言もなく歩き続ける。


 200メードほど歩いただろうか?


 カツン


 ロベルト将軍の足が止まった。


 ここから先の壁には、松明が設置されていなくて、洞窟の奥は真っ暗だった。


 …………。


 なんだろう?


 胸が苦しい。


 息を吸っているのに、息苦しさを感じる。


「将軍?」


 キルトさんが問う。


「これ以上は、近づかない方がいい。ここから、魔法の光で確認してくれ」


 ロベルト将軍は、前方の闇を睨みながら、そう言った。


 僕らは、顔を見合わせる。


 ソルティスが頷いて、大杖を構えた。


「じゃあ……輝きの鳥よ、周囲を照らして! ――ライトゥム・ヴァードゥ!」


 ピィイン


 大杖の魔法石から『光の鳥』が飛び出した。


 それは、僕らの頭上をクルクルと回る。


 ソルティスは、キルトさんを見た。


 キルトさんは頷く。


 それを確認して、ソルティスは前方にある洞窟の闇へと大杖を向けた。


 ピィイン


『光鳥』が飛んでいく。


 魔法の光が闇を払っていく。


 5メード。


 10メード。


 20メード。


 そして、30メード先に光が達した時、『ソレ』は僕らの視界に飛び込んできた。


「!?」


 戦慄が走った。


 全員が息を呑み、武器を構えることさえ忘れていた。


 ――巨人だ。


 直径50メードはある洞窟の内部を埋めるように、干からびたような巨人の死体が横たわっていたんだ。


 まるで救いを求めるように、巨大な手がこちらに伸ばされている。


「な、何よこれ……?」


 ソルティスの声は震えていた。


 僕は、手で胸を強く押さえた。


 苦しい。


 苦しいわけだ。


 フラついた僕を、イルティミナさんが「マール!」と慌てて支えてくれる。


 ポーちゃんも、幼い顔をしかめ、苦しそうだった。


 ギリッ


 食い縛った歯が鳴った。


 泣きそうな気分で、僕は言う。


「間違いない……これは……『悪魔の死体』だ」


 その声は、暗い洞窟の闇に吸い込まれるように消えていった。




 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らは、崖の亀裂から外に出た。


 ザァアア……


 空から落ちる雨は、激しさを増している。


 僕らは、近くにあったピラミッド型の住居へと移動した。


 出入り口には、見張りの王国騎士が2人、立っている。


 その中で、持ち込まれたテーブルと椅子に、僕らは腰を落ち着けていた。


「はい、お茶ですよ」


 イルティミナさんがそう言って、コップを渡してくれる。


「あ、ありがと」


 僕は、お礼を言って受け取った。


 微笑むイルティミナさん。


 ズズッ


(温かい……)


 いつの間にか身体が冷えていたのか、その熱いお茶はとても美味しかった。


 震えていた心も落ち着く。


 みんなもお茶を飲んで、吐息をこぼしていた。


 やがて、ロベルト将軍が言った。


「やはり、あれは『悪魔の死体』だったか」


 重そうな声だ。


 ロベルト将軍は、まだ『悪魔の死体』を見たことがなくて、だから、確認のために僕らを呼んだんだって。


(でも、どうして?)


 僕は、コップのお茶を見つめながら思う。


「どうして、ここに『悪魔の死体』があるんだろう?」


 そう口にした。


 みんなが僕を見る。


 ソルティスが両手でお茶のコップを持ち、唇を尖らせながら、


「だから……噂にあった通りに、この暗黒大陸にも『悪魔』が封印されていたってことでしょ?」


 と、嫌そうに言った。


 僕は、唇を噛む。


「……それじゃあ、ここには『悪魔の欠片』もいるってこと?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 誰も答えられなかった。


 もしかしたら、この地には『悪魔の欠片』がいるかもしれない。


 それも、復活したばかりの弱った状態ではなくて、その力を取り戻した万全の状態の……だ。


(それが本当なら、最悪だ)


『闇の子』1人でも困っているのに、もう1人の『悪魔の欠片』が存在するなんて。


 その想像に、皆が沈黙する。


 やがて、キルトさんが息を吐いた。


「そうとも限らぬ」


 ……え?


「あの『悪魔』が単に封印の中で衰弱し、死に至った可能性もないわけではない。『悪魔の欠片』が必ずいるとは限らぬ」

「あ……」


 そうか。


(そういう可能性もあるんだ)


 ロベルト将軍は、そんな発言をしたキルトさんを見る。


「それでも、最悪の想定をしないわけにはいかんな」

「まぁの」


 キルトさんは認めた。


「しかし、現状、その姿は見えぬ。見えぬ存在を気にして、動きを止めるわけにもいかぬ。今は変わらず、『神霊石』を探し続けるべきであろう」


 そう言って、湿った銀の前髪を、手でかき上げる。


 ロベルト将軍は「ふむ」と唸った。


「確かにな。『神霊石』の入手は最優先とするべき事案だ」


 と頷く。


(うん、そうだね)


『神霊石』が手に入れば、神界から『神々』が降臨して下さる。


 そうすれば、この地に『闇の子』がいたとしても関係ない。きっと討滅して下さるだろう。


 ロベルト将軍は息を吐き、


「脅威の存在を仮定しつつ、警戒は厳にして探索を続行するよう皆にも通達しよう」


 と言った。


 キルトさんは頷く。


「うむ、そうしてくれ」


 そうして、ぬるくなってきたお茶を一息に飲む。


「わらわたちも北区画の探索に戻る。思った以上に収穫もあってな」

「そうか」


 ロベルト将軍は頷いた。


「日暮れまでには、拠点に戻ってくれ。そこで集めた情報を吟味し、今後に向けての方針を固めよう」

「うむ、わかった」


 了承して、キルトさんは立ち上がる。


 僕らも立ち上がった。


 そこで、ふとイルティミナさんが思い出したように、


「そういえば、『航海日誌』によれば、この『廃墟の都市』には『巨大な蛇』がいるのでしたよね。もしかしたら、それが『悪魔の欠片』なのでしょうか?」


 と呟いた。


(『巨大な蛇』……か)


 キルトさんは肩を竦める。


「どうかの?」

「失礼。その答えは、誰にもわかりませんね」


 イルティミナさんは、自らの発言を恥じるように、真紅の瞳を伏せる。


 キルトさんは「構わぬ」と笑った。


 ポン ポン


 ポーちゃんが励ますように、イルティミナさんの背中を叩いた。


 その様子に、みんなで笑ってしまった。


 そうして、僕らは建物の外に出ていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 雨は変わらずに、強く降り続けている。


 ザァアア……


 たくさんの雨粒が、僕らの防水ローブを叩いている。


「よし、行くぞ」


 キルトさんの号令で、僕らはロベルト将軍に見送られながら、北区画へと向かおうとした。


 その時だ。


(ん……?)


 段差のある都市の通りの向こう、雨粒のカーテンの先に、動く影が見えた。


「え?」


 僕は足を止める。


(……人影だ)


「マール?」


 そんな僕に気づいて、みんなも足を止めた。


 ガガァン


 突然、世界が白く光った。


 稲光だ。


 空の黒い雨雲に、青白い雷光が走っている。


 その光に照らされて、その人影がはっきり見えた。


 ――女の人だ。


 緑と赤と白の不思議な髪色をした、ボロ布をまとった女の人の姿があった。


 薄闇の中、その眼球が光っている。


「むっ?」


 キルトさんたちも気づいた。


 ロベルト将軍や、近くにいた王国騎士団の人たちも、その姿を確認したようだ。


 その場の全員が、驚きと警戒を持って、その女の人を見つめる。


「…………」


 彼我の距離は50メードほど。


(だ、誰だ?)


 僕の青い瞳も、真っ直ぐにその女の人を見つめた。


 その瞬間だ。


 キュォオオオオン


 僕の腰ベルトに提げられたポーチから、白い光があふれた。


(え?)


 慌てて蓋を開く。


「あ」


 そこには、中央の魔法石を眩く輝かせる『探査石円盤』があった。


 急いで取り出す。


 光は強く、雨で薄暗い世界を明るく照らすほどだった。


 こんな反応は初めてだ。


 間違いない。


(近くに、『神霊石』があるんだ!)


 その事実に心が震えた。


 全員がその輝きに目を奪われ、そして、ほぼ同時に姿を見せた謎の女性へと視線を送った。


「何者じゃ?」


 キルトさんが低く問う。


 彼女は答えない。


 …………。


 意を決して、僕は、その女の人の方へと足を踏み出した。


 パシャッ


 踏み出した瞬間だった。


 ゴゴッ ゴゴゴゴッ


 踏み出した足の下の地面が揺れた。


 いや、周囲一帯が揺れていた。


 地震だ。


「!」


 瞬間、その女の人は、ハッとした顔をした。


 長い三色の髪をなびかせ、身を翻す。


(あ)


「ま、待って!」


 僕は、慌てて追いかけようとした。


 その寸前、


「危ない、マール!」


 イルティミナさんが僕を抱きかかえ、横へと跳ねた。

 え?


 ドゴン


(わっ!?)


 近くに建っていた柱が崩れて、直前まで僕がいた場所へと落下していた。


 石畳の床が、粉々に砕けている。


 あ、危なかった……。


「あ、ありがと、イルティミナさん」

「いいえ、無事でよかった、マール」


 濡れた前髪から水滴を滴らせながら、イルティミナさんは甘く微笑んでくれた。


 顔をあげる。


 通りの向こうにいた女の人は、いなくなっていた。


 雨粒のカーテンだけが残されている。


 キュォォ……


(あ……)


『探査石円盤』の中央にある魔法石の光が消えていった。


 無色透明に戻ってしまう。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕らは、それを無言で見つめた。


 やはり、さっきの女の人と『神霊石』には、何か関係があるみたいだ。


(いったい、何者なんだ?)


 幼い僕の胸中で、疑念が渦巻く。


 ザァアア……


 灰色の天空から落ちてくる雨は、その場に佇む僕ら全員を、いつまでも、いつまでも打ち続けていた――。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >緑と赤と白の不思議な髪色をした、ボロ布をまとった女の人の姿があった。 きっとイタリア人だ。
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 『巨大な蛇』が『悪魔の欠片』という可能性は考えてなかった! ……イルティミナもマール至上主義の脳筋ではなかったのですね。 失礼しましたf(^_^; [一言] 結…
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