281・トルーガ都市の発見
第281話になります。
よろしくお願いします。
ピラミッド遺跡の発見から3日後、僕らは、森を抜けたようだった。
大地から草や木がなくなった。
代わりに広がるのは、灰色の岩の大地だった。
岩石地帯。
森を抜けたところで、僕ら5人は、その殺風景な景色を見つめてしまった。
「森はここまでか」
キルトさんが呟く。
僕は、周囲を見ながら言った。
「この岩だらけの土地のどこかに、廃墟になった都市があるのかな?」
「恐らくの」
キルトさんは頷く。
「進路は変えず、このまま西方に進む」
「うん」
「はい」
「わかったわ」
「…………(コクッ)」
僕らは頷き、そして、岩の世界を歩きだした。
◇◇◇◇◇◇◇
灰色の大地には、大小様々な岩が転がっていた。
30メードもある湾曲した岩も生えていて、歩きながら、思わず見上げてしまった。
(ん?)
見上げた青い空に、黒煙が見えた。
「キルトさん、あれ」
「む?」
僕の声で、みんなもそれに気づく。
「ふむ、向こうに行ってみるぞ」
「うん」
全員が承諾し、僕らは、すぐにそちらへと進路を取った。
20分ほど歩く。
(あ……)
黒煙の出所が見えた。
焚火だ。
岩の大地の上で、重ねられた木々が赤々とした炎に燃えて、黒い煙を青い空へと吐き出していた。
そばには、30人ぐらいの人影がある。
他の『開拓団』の人たちだ。
王国騎士団も冒険者団も、両方いる。
「おーい、こっちだ」
こちらに気づいて、手を振ってくる。
驚きながら、僕らは近づく。
「そなたら、どうした?」
キルトさんがそう声をかけた。
そうして話を聞いてみると、どうやら僕らより先に森を抜けた人たちが、ここで集まり休憩していたのだとわかった。
早い人たちは、昨夜の内にここに到着してたんだって。
「腹が減っては何とやらだ」
「あぁ」
彼らはそう言って、携帯食料を噛み千切り、豪胆に笑った。
(……頼もしいなぁ)
過酷な探索をしていても、その辛さを微塵も感じさせない。
僕らも、その輪に混じって休憩を取った。
そうして硬い携帯食料をかじっている時だ。
ゴゴゴ……
(!?)
突然、地面が揺れた。
「地震だよ」
驚く僕に、王国騎士さんの1人が教えてくれた。
「昨夜、この岩石地帯に来てから、何回も起きているんだ」
「そうなんですか?」
話している間にも、揺れは収まった。
…………。
なんだか、ちょっと気持ちが悪い揺れだった。
そうして1時間ほど休憩したあと、僕らは互いの健闘を祈りながら、改めて探索に出発した。
それぞれの方角に歩きながら、手を振る。
(……うん)
みんなでがんばってるって、実感した。
僕もがんばろう!
気持ちを新たに、僕は、岩の大地へと足を踏み出していった。
◇◇◇◇◇◇◇
それは、太陽が西に傾きだした頃だった。
僕らは岩だらけの世界を歩いていく。
やがて僕らの前方に、大地の裂け目のような大きな亀裂があるのを発見した。
(ん……?)
その渓谷の中で、太陽の光が何かに反射した。
「キルトさん」
「うむ」
僕らは注意をしながら、巨大な渓谷の端へと近づく。
「!?」
そして、発見した。
僕らの見下ろす渓谷の中に、斜めに傾き、崩落した『廃墟の都市』があったんだ。
倒壊した建物たちが、夕日に赤く染まっている。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
僕らは全員、すぐに声が出なかった。
引き裂かれた大地の底に眠る、遥か太古の街――その威容に、目と心を奪われていた。
ゴクッ
引き攣るように、僕は唾を飲む。
そして、
「――見つけたぞ」
短く告げた。
イルティミナさんが、ソルティスが、ポーちゃんが頷いた。
キルトさんも頷き、その手に発光信号弾を握る。
トリガーを引いた。
ヒュルル シュパアアン
茜色に染まった空に、魔法の白い光が生まれて、煌々と輝いた。
◇◇◇◇◇◇◇
すぐに人が集まり、『岩石地帯・拠点』を造る作業が開始された。
一方で、『霧の森・拠点』へも伝令が向かった。
森の霧のせいで発光信号弾が見えず、『シュムリア竜騎隊』も来られないからだ。
伝令役は、もしもに備えて20名。
王国騎士団10名、冒険者団6名、冒険者団4名の合計3パーティーだ。
その20名は、また危険な『霧の森』を往復することになって申し訳ないし、心配でもあった。
けれど、その3パーティーには、僕らのパーティーにはいない、知覚に優れた『真宝家』がいるそうだ。
森で迷う可能性は少ない。
また、彼らはすでに『怨念樹』の精神攻撃を乗り越えて、『霧の森』を踏破する実力を示している。
「わらわたちが行くより、危険はあるまい」
と、キルトさんは保証した。
(……うん)
今は、その言葉を信じよう。
その人たちの命まで、僕は背負えないんだ。
(僕は、僕にできることをがんばろう)
そう自分に言い聞かせた。
そんな僕のことを、イルティミナさんは優しい表情で見守っていてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇
『岩石地帯・拠点』が完成して9日目だった。
僕らは『霧の森』の手前で、ロベルト将軍たちの率いる150名が合流するのを待っていた。
バキッ メキキッ
「!」
僕らの目の前で、森の木々がへし折られた。
現れたのは、4頭の竜。
『カヒュゥゥ』
口から、白い蒸気のような息がこぼれる。
頭部には、4人の『竜騎士』たちの姿があった。
ガシャッ
その巨大生物たちに続いて、霧に包まれた森からは、美しい銀色の鎧の『神殿騎士団』が姿を見せる。
鎧に陽光が反射して、神々しい。
続いて、王国騎士団が。
(おぉおお……)
なんて格好いい登場だろう。
シュムリア国章の刺繍されたマントをなびかせて、将軍ロベルト・ウォーガンが全員の前に歩み出た。
その左に、竜騎隊隊長レイドル・クウォッカ。
右に、神殿騎士団長アーゼ・ムデルカ。
その3人に対するように、こちらからは、冒険者団の代表、金印の魔狩人キルト・アマンデスが前に出る。
「待っていたぞ」
キルトさんは笑った。
ロベルト将軍は、大きく頷く。
「あぁ。よくぞここまで道を切り開いてくれた。感謝するぞ、キルト・アマンデス」
ガッ
互いに、力強く握手を交わす。
目的とした『廃墟の都市』までに死者27名、行方不明者6名。
合流した『第5次開拓団』は、371名。
こうして僕らは、太古のトルーガ文明が残した古代都市の探索を、開始する準備を整えたのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。




