表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

265/825

262・竜騎士と神殿騎士

累計200万PV達成しました!

皆さん、いつも読んで下さって、本当にありがとうございます!


それでは、第262話になります。

今話から、暗黒大陸を目指す物語が始まります。どうぞ、よろしくお願いします。

 青い大海原を、4隻の船が進んでいく。


『第5次開拓団』は、100人ずつ、4隻の船に別れて乗船していた。


 僕らの乗る船は、冒険者50人と神殿騎士50人の2つのグループが乗っていて、それ以外にも、船を運行するための水兵が100人ぐらい乗船しているそうだ。


 つまり、計200人ほどである。


 4隻合わせれば、800人ほどの大旅団だ。


 そして、暗黒大陸までは、およそ2ヶ月ほどの航海予定となっている。


(まさに大航海だね)


 そんなことを思う僕は、今、船の甲板から、遠ざかっていくウェルカの街を眺めていた。


 …………。


 陸地が遠くなる。


 こんなに大きな船だけれど、見渡す限りの海の広さと長い航海への不安に、少しだけ心細い気持ちになった。


 と、その時だ。


 ヒュオッ


 船の一番大きなマストから、1本の赤い紐が落ちてきた。


「え?」


 見上げると、マストの上には、竜騎隊の竜が止まっていて、そこから1人の騎士が紐を掴んで降下してきていた。


 キュルルッ


 赤い紐を握る手袋が、摩擦で白い煙を上げる。


 落下速度は減速し、甲板に足がつく時には、音もない着地だった。


(竜騎士さんだ)


 兜の裾から、短めの灰色髪の先が見えている。


 王国最強の8人の竜騎士の1人の颯爽とした登場には、甲板にいた他の冒険者や神殿騎士、水兵さんたちの視線も釘付けだった。


 と、その顔がこちらを向いた。


「おや、マール殿じゃないっすか。久しぶりっすね」


 え?


 聞き覚えのある声がして、竜騎士さんは兜を外す。


(あ……)


 そこに現れたのは、


「アミューケルさん!」


 の顔だった。


 彼女は、首を振って灰色の髪を整え、紅い瞳を細めると、


「どもっす」


 軽く右手を上げたんだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇



 竜騎士のアミューケルさん。


 ドル大陸へと向かう前、短い時間だったけれど、顔を合わせたことがある竜騎士さんだった。


 僕の後ろにいたイルティミナさんは、


「貴方も開拓団のメンバーだったのですね」


 と声をかけた。


 かつて剣を合わせたアミューケルさんは、


「そっすよ。レイドル隊長と自分、それとボブとラーナの4人っす」


 と軽い口調で答える。


 ボブさんとラーナさんとは、僕はまだ会ったことはない。


 僕は、視線を巡らせる。


 他の3隻の船は、僕らの船と一定の間隔を保って、ひし形の形で航行していた。


 僕らの船は、ひし形の右側だ。


 そして、他の3隻の船のマストの上にも、巨大な竜が翼を休めるように止まっていた。


(あのどれかに、レイドルさん、ボブさん、ラーナさんがいるんだね)


 僕は、視線をアミューケルさんに戻す。


「アミューケルさんに、また会えて嬉しいです」


 と笑った。


 アミューケルさんは、虚を突かれたような顔をして、それから人差し指で少し赤くなった頬をかいた。


「……そ、そっすか」

「はい」

「ま、船旅の間は、安心していていいっすよ。自分らが、ちゃんと船の護衛をするっすから」


 と言ってくれる。


(船の護衛?)


 少し戸惑っていると、


「海には、海の魔物がいるからの」


 とキルトさん。


「遠洋に出れば、襲われる確率も高くなるという。そんな時、竜の護衛は頼もしい戦力じゃ」

「そういうことっす」


 アミューケルさんも力強く頷く。


「まぁ、任せておくっすよ」


 トンッ


 と、自分の胸を軽く叩いた。


 僕は、思わず、頭上のマストに止まっている巨大な竜を見上げてしまう。


 強い生命力。


 逞しい筋肉。


 固そうな鱗。


 強そうな身体と顔。


(………頼もしいなぁ)


 竜が味方というだけで、こんなにも心強く感じるなんて。


 と、


「護衛は『竜騎隊』のみではありませんよ、神狗殿」


 ガシャッ


 背後から、鎧の金属音と美しい声がした。


(え?)


 振り返った先には、銀色の美しい鎧に身を包んだ騎士の一団がいた。


 剣、杖、盾が装備され、首からは鎖に繋がれた聖書が提げられている。


 ザワッ


 同じ甲板にいる冒険者たちがざわついた。


(神殿騎士……!)


 竜騎隊と並ぶ、聖シュリアン教会が誇る最強の騎士団だ。


 先頭の騎士は、兜で顔半分が隠されている。


 見えている口元は、赤いルージュが塗られた唇で、女性だということがわかった。


 彼女だけが、僕らの前に出てくる。


「お久しぶりです、神狗殿」


 胸に手を当て、優雅な一礼。


 その声と匂いには、覚えがあった。


「アーゼさん!」


 僕の答えに、彼女の口元が嬉しそうに笑みを浮かべた。


 アーゼ・ムデルカさん。


 この神殿騎士団の団長さんだ。


 前にレイドルさん、アミューケルさんと会った時に、このアーゼさんとも顔を合わせたことがあるんだ。


 笑う僕に、彼女は、


「神狗様をお守りするのは、竜騎隊のみではありません。我ら神殿騎士も、身命を賭してお守りいたします」


 と顔を突きだし、訴える。


 ち、近いね。


 香水のようないい匂いもする。


「あ、ありがとうございます」


 僕は、1歩下がりながら、お礼を言った。


 彼女は姿勢を戻し、


「何、女神シュリアン様の御心に添い、役目を果たすのが、我ら信者の務めなれば。お礼を賜るようなことではございませんよ」


 と、また微笑んだ。


「そ、そうですか」


 なんといいますか、この忠誠がちょっと苦手。


 自分が、それを向けられるのに相応しいとは、どうしても思えないんだよね。


(……う~ん)


 アミューケルさんは、「はん」と笑う。


「神殿騎士は引っ込んでるっすよ。神狗殿を守る栄誉は、『竜騎隊』のものっす」


 なんて言った。


 アーゼさんは、静かに兜に包まれた顔を、そちらに向ける。


「若き竜騎士がさえずるな。卵の殻も取れていないひよっ子が」

「……はぁ?」

「神狗様も神龍様も『神の御子』。これを護るは、我ら人類の使命だ。信仰よりも栄誉を重んじるとは、見当違いも甚だしいぞ」


 淡々とした口調。


 けれど、だからこそ怖さがあった。


「……言ってくれるっすね」


 アミューケルさんは、怯むことなく、凶暴な笑みを浮かべる。


(え、え?)


 膨れ上がる2つの『圧』。


 ソルティスも表情をなくし、甲板に集まった冒険者たちも固唾を飲んだ。


 ポーちゃんだけが無表情。


 と、


「やめぬか、2人とも」


 静かな一言。


 それは、冒険者代表の『金印の魔狩人』キルト・アマンデスの声だ。


 竜騎士と神殿騎士団長、この2人の間に割って入れるのは、やっぱりキルトさんしかいない。


 キルトさんの介入は、さすがに無視することはできず、2人は銀髪の美女を見る。


 そして、キルトさんは、


「わらわたちは、互いに手を携える立場じゃ。つまらぬことで険悪な空気を作るな」


 そう言いながら、周囲を見る。


 2人もようやく、集まった冒険者や神殿騎士たちの雰囲気に気づいたようだ。


 特に、表情を強張らせている僕を見て、


「……うっす」

「……わかった」


 2人の放っていた『圧』は急速に消滅していった。


 アーゼさんは、僕へと頭を下げてくる。


「見苦しい姿をお見せしました。申し訳ありません」

「い、いいえ」


 僕は、プルプルと首を振る。


 彼女は微笑み、


「何かあれば、いつでもお声がけを。――それでは」


 長いマントをひるがえして、颯爽と他の神殿騎士団の方へと歩いていった。


 ガシャッ


 団長が合流した神殿騎士の一団は、一糸乱れぬ動きで回れ右をすると、船室のある方向へと戻っていった。


 甲板にいた冒険者たちは、呆気に取られたように見送る。


「……はん」


 アミューケルさんは、不快そうに鼻を鳴らす。


 それから、


「自分、ちょっと気分転換に、周辺の海域を見回ってくるっすよ」


 と言った。


 それから、甲板の端の方へと歩きだす。


 ピュイッ


 指笛を鳴らす。


 そして彼女は、突然、甲板から海へと向かって跳躍した。


(えっ?)


 アミューケルさんの姿が、海へと落下していく。


 慌てて追いかけようとしたら、その僕の頭上から、激しい羽ばたきの音がした。


 バヒュウウ


「わっ!?」


 竜だ。


 マストに止まっていた竜が突然、空へと飛翔したのだ。


 頭部の鞍からは、赤い紐が垂れていて、それが落下していくアミューケルさんの手元へと届く。


 ギュッ


 空中で、彼女はそれを握った。


 そのまま、アミューケルさんをぶら下げて、竜は上空へと飛翔していく。


(おぉおお……)


 小さくなっていく影。


 と、竜の頭部が上にクンッと動いた。


 まるでけん玉のように、紐で繋がったアミューケルさんの身体が跳ね上がって、竜の鞍へと着地する。


(曲芸だ)


 それとも、竜騎隊の厳しい訓練の成果かな?


 そのまま、翼を広げたアミューケルさんの竜は、僕らの船の周囲を大きく旋回しながら遠ざかっていった。


 キルトさんが銀髪をかいて、


「やれやれじゃ」


 と、吐息をこぼす。


 僕らを見ながら、苦笑して、


「ま、旅は始まったばかりじゃ。わらわたちも一度、船室に戻るかの」

「あ、うん」

「そうね」

「…………(コクッ)」


 キルトさんの提案に、僕らは頷いた。


 そうして、彼女を先頭に船室の方へと歩いていく。


「…………」


(?)


 でも、イルティミナさんだけが動かなかった。


 彼女の真紅の瞳は、上空を飛ぶ飛竜と神殿騎士たちが消えた方向を、なんだか睨むように見つめていた。


「イルティミナさん?」


 僕は声をかける。


 彼女は、まぶたを閉じる。


 何かを押し殺したような数秒の時間を置いて、再び、真紅の瞳を開く。


「はい。すぐに行きますよ、マール」


 そう答えた時には、いつもの優しい微笑みになっていた。


(???)


 なんだったんだろう?


 よくわからないまま、僕は、やって来た彼女を出迎える。


 キュッ


 いつものように手を繋いだ。


「さぁ、行きましょう」

「うん」


 僕らは笑い合うと、キルトさんを追いかけて船室へと向かった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[一言] イルティミナ「失礼ですが、この子は神狗ではなくマールです。そしてマールを守護るのは私、イルティミナ・ウォンです。お忘れなきように」 そういえば結構大勢の前で神狗とか言っちゃってたけど、…
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 頼りがいのある主要メンバー(女性)が集合しましたね! そして炸裂するマールの『無自覚系鈍感主人公補正』‼ 二ヶ月間に渡る闘いの幕開けですね(笑) [一言] 竜…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ