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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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259/825

256・森からの帰還

第256話になります。

よろしくお願いします。

 ヤーコウル様が去ったあとの神殿の広間は、とても静かだった。


 僕とイルティミナさんは抱き合ったままで、キルトさんとソルティスは、光の粒子となったヤーコウル様が去っていった天井の穴と、その先の青い空を見上げていた。


 やがて、キルトさんは吐息をこぼす。


 それから、


「身体の方は大丈夫か、イルナ?」


 と声をかけながら、僕らの方へと近づいてきた。


 僕とイルティミナさんは、身体を離す。


「はい」


 イルティミナさんは立ち上がり、頷いた。


 そして、自分の両手を見つめながら、


「女神ヤーコウルの祝福……確かに、この身の奥に大きな力を感じます。望めば、それを開放できるという感覚も」


 と告げた。


 それから、彼女は心配するキルトさんに微笑んで、


「ですが、それ以外は、今までと何も変わりません」

「そうか」


 キルトさんは安心したように頷いた。


 ソルティスも、遠慮がちに近寄ってくる。


 気づいたイルティミナさんは、優しく笑って、妹を抱きしめた。


「心配は要りませんよ、ソル」

「……うん」


 姉の腕の中で、ソルティスはホッと息を吐く。


 そんな姉妹の様子に、僕とキルトさんは、ついつい微笑んでしまった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 目的を果たした僕らは、森に隠された古代都市を去ることにする。


 ヴォオン


 来た時同様、僕は4枚の翼を生やして、その内の2枚で3人を抱え、残った2枚で古代都市の上空へと浮かび上がった。


「……このまま帰るの、勿体ないわね」


 森の都市を見下ろして、ソルティスはため息をこぼした。


(うん……)


 未発見の古代都市。


 ここにはきっと、たくさんのお宝も眠っているかもしれない。


 今までに知られていなかった古代タナトス魔法王朝時代の真実も、見つかったかもしれない。


 時間があれば、ゆっくり探索したかった。


 でも、


「仕方なかろう」


 キルトさんは言う。


「夜になれば、骸骨王どもが闊歩する。そして、この都市の中が安全地帯とは限らぬのじゃ」

「…………」

「その前に、あの塔に戻らねばの」

「……わかってるわよ」


 少女は唇を尖らせる。


 太陽は、中天を過ぎて西に傾き始めていた。


(暗くなる前に、着かないとね)


 イルティミナさんが慰めるように、妹の髪を撫でる。


 その様子を眺め、


「…………」


 それから僕も、足元にある都市を見る。


 そして、


「……この都市は、どうして滅んだんだろうね?」


 ポツリと呟いた。


 姉に髪を撫でられながら、ソルティスが答える。


「やっぱり、神魔戦争でしょ」

「…………」

「この地には『闇のオーラ』が満ちているわ。つまり、このアルドリア大森林は、神魔戦争で『悪魔の暴れた戦場』になったってことだもの」

「……そっか」


 神魔戦争で滅んだ都市……か。


 思わず、4人で、その森に沈んだ都市を見つめてしまった。


 …………。


 この都市に住んでいたのは、何万人の人々だったのかな?


 骸骨王は、人の骨でできている。


 あの夜の森に蠢く骸骨王の数を考えると、もしかしたら、この都市の亡くなった人々の骨が……?


(…………)


 想像しただけで震えが来た。


 ブンブン


 僕は、強く首を振る。


 それから気を取り直したように、


「それじゃあ、そろそろ行こうか」


 と、3人に声をかける。


「うむ、そうじゃな」

「はい」

「……ん、わかったわ」


 キルトさんとイルティミナさんが頷き、ソルティスは、眼下の都市を、まだ名残惜しそうに見つめながらも頷いた。


 ヴォン


 翼を輝かせ、僕らは夕暮れの空を飛翔する。


 その古代の都市は、後方に流され、森の木々に隠れて、あっという間に見えなくなってしまった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 塔に戻ってから、一晩を明かした。


 翌早朝、礼拝堂の窓からは、キラキラと眩しい朝日が差し込んでいる。


「…………」


 僕の前には、女神像があった。


 イルティミナさん、キルトさん、ソルティスも、僕と一緒に立っている。


 僕ら4人の手には、木の器があった。


 女神像のたおやかな手からこぼれる『癒しの霊水』――その輝く流れを、木の器で受け止める。


 光る水面を見つめ、


「色々とありがとうございました」


 ゴクッ


 感謝を口にしてから、その光る水を喉に流し込んだ。


 ゴクッ ゴクッ ゴクッ


 3人も同じように、光る水を飲む。


 飲み切ったあとは、みんなで、女神像を見つめた。


 狩猟の女神ヤーコウル。


 幻影ではあったけれど、その御姿を直接、目にして、3人も色々と思うことがあったみたいだ。


 再びの塔からの旅立ちの前に、こうして光る水の朝食を摂ることを、みんな、反対はしなかった。


「…………」

「…………」

「…………」


 僕は、隣のイルティミナさんの横顔を見上げる。


 ヤーコウル様は言った。


 信徒の子孫である巫女だって、彼女のことを。


(やっぱり、イルティミナさんの先祖は、ヤーコウル様に仕えていた信徒だったんだね)


 前に、イルティミナさんの過去の世界で知ったこと。


 それが真実だったとわかった。


(もちろん、それで何が変わるってわけでもないんだけどね)


 僕は、僕。


 イルティミナさんは、イルティミナさんだ。


 僕の視線に気づいて、彼女がこちらを振り返る。


 艶やかな、長い深緑色の髪が揺れた。


 優しい微笑みで、


「どうかしましたか、マール?」

「ううん」


 訊ねるイルティミナさんに、僕は笑いながら首を横に振ったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 光る水の朝食を済ませたあと、僕らは塔を出発した。


『トグルの断崖』では、僕がまた背中に『神武具の翼』を生やして、3人を上まで運んだ。


 そこからは、また徒歩でメディスを目指す予定だ。


 断崖の上で、3人を降ろす。


 すると、キルトさんが深層部の森を振り返って、


「あの古代都市には、もう誰も行けぬかもしれぬな」


 と呟いた。


(え……?)


 思わず、3人で彼女を見つめる。


「塔から古代都市まで3万メード、とても半日で往復はできぬ」

「…………」

「…………」

「…………」

「夜になれば、数千、あるいは万を超える骸骨王に狙われる。あの都市から生きて帰ることは不可能であろう」


 そう言って、僕を見た。


「マールのように翼がなければ、の」


(……そっか)


 深層部の奥地にあるあの古代都市は、徒歩では到達不可能な場所だったんだね。


 だからこそ、これまで未発見だったのかな?


 と、


「いいじゃない」


 ソルティスが急に言った。


「それって、私たち以外、誰も行けないってことでしょ?」


 うん。


「なら、他の連中に荒らされることもないわ。色んなことを終わらせたら、時間を作って、また行きましょ? そして、お宝ガッポガッポよ♪」


 小さな両手を握り、清々しい笑顔での宣言だ。


(……さすが、ソルティス)


 呆気に取られ、僕とイルティミナさんとキルトさんは、つい顔を見合わせる。


 それから、4人で大笑いしてしまった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 それから僕らは、また3日をかけて、メディスの街へと帰還した。


「おかえりなさい、皆さん」


 宿屋の店主アルセンさんが、柔和な笑顔で出迎えてくれる。


 そうして僕らは、9日ぶりの美味しい食事とフカフカ布団を堪能した。


(幸せ~♪)


 前は葉っぱ布団で平気だったのに、僕も贅沢になったもんだ。


 そして、


「うひひ、高値で売れたわ~♪」


 ソルティスは、メディスにある道具屋に『ある物』を売って、儲けていた。


 ある物……それは、『癒しの霊水』だ。


 抜け目のないこの子は、なんと空の皮水筒を3つも用意していて、『癒しの霊水』をちゃっかり持って帰ってきてたんだ。


 コップ1杯で10万円もする魔法薬。


 それがだいたい3リオン、つまり3リットルで150万円ほど。


 販売価格ではなく買取価格なので、100万円ほどになったそうだけど……。


「ソルティスって、本当に凄いね……」


 呆れながら、僕は言った。


 姉であるイルティミナさんは額を押さえて、ため息をこぼし、キルトさんは苦笑している。


 1万リド硬貨を財布にしまうソルティスは、


「何よ、文句あるの?」


 と唇を尖らせる。


 僕は、首を横に振った。


「ううん、ただしっかりしてるなって」

「……ふん」


 ソルティスは鼻を鳴らした。


「ま、お金で苦労したことのないマールにはわからないでしょうけどね。こういうコツコツした小さな積み重ねが、貯蓄には大事なのよ」


(ふぅん?)


 確かに、僕は異世界に来てから、あまりお金で苦労していない。


 借金はあったけれど、した相手がイルティミナさんたちだったから、無利子、無催促、無担保だったしね。


 …………。


 僕は、目の前の少女を見つめながら言った。


「きっと、ソルティスはしっかり者のお嫁さんになるね」

「…………」

「旦那さんも、お金の管理をちゃんとしてもらえるから安心だよ」

「…………」


 うんうん。


 僕は1人頷いていたんだけど、


「……アンタって、本当、無自覚だわ」


 ソルティスが、なぜか睨んでくる。


 え?


 思わず見つめ返すと、彼女はそっぽを向いた。なぜかわからないけれど、顔が赤くなっている。


(たくさんお金が入って、興奮してるのかな?)


 首をかしげる。


「ふん、この馬鹿マールっ」


 ……な、なんでだよぅ?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そんなこんなで、のんびりした1日を過ごしたあと、僕らはメディスの街を出発した。


 今は、王都に向かう竜車の中の人である。


 ゴトゴト


「美味しいねぇ」


 揺れる車内で、僕らは、アルセンさんがお土産に持たせてくれたお弁当を食べている。


 中身はフィオサンドなんだけど、味は絶品だ。


 昨日は不機嫌だったソルティスも、


「最高だわ~♪」


 と、ご満悦だ。


 美味しいサンドイッチに舌鼓を打つ僕ら年少組に、2人の大人たちは笑っている。


 そしてキルトさんは、


「あと2週間もすれば、暗黒大陸への出陣式じゃ。そなたらも覚えておけよ」


 と言った。


(2週間後か……)


「出陣式って、何をするの?」

「国民へのお披露目ですね」


 お披露目?


「騎士団や冒険者、総勢400名の顔見せをするのです。もちろん、マールたちもですよ」

「ぼ、僕も?」

「はい」


 そういうの苦手だなぁ。


「……気が重いわ」


 モグモグ


 頬をリスみたいに膨らませた少女も、そうぼやく。


 キルトさんは苦笑した。


「400人の1人として参加するだけじゃ。そう気にするな」

「はい。ただ立っているだけですよ」


 イルティミナさんも、そう優しく笑う。


 考えたら、2人は『金印』の就任式で、主役として大勢の人の前に立ってスピーチまでしたんだもんね。


(それに比べたら、気が楽かなぁ)


 そう自分を慰める。


「本番は、そのあとの暗黒大陸へ行ってからじゃからの」

「うん」

「そうですね」

「ま……そうね」


 僕らは頷く。


 そしてキルトさんは、


「王都に着いてからも、10日は休める。その間に、しっかりと英気を養うが良いぞ」


 労わるような声で、そう付け加えた。


 10日間の休養か。


 そのあとは出陣式。


 そして、暗黒大陸を目指して、海へと出航だ。


(うん、がんばろう!)


 僕は気合を入れながら、手にしたフィオサンドに噛みついた。


 ――そんな僕ら4人を乗せて、竜車は一路、王都ムーリアへの道を進んでいった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ ソルティスに気が付いたイルティミナが抱きしめる。 う~ん。 普段割りを喰っているソルティスが報われた瞬間ですね! マールさえ絡まなければ、麗しき姉妹愛……で済む…
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