表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

252/825

249・メディスへの道

第249話になります。

よろしくお願いします。

 6人乗りの竜車をチャーターして、僕らは、王都を出発した。


(いい天気だ)


 今日は快晴。


 空は青くて、春の太陽が輝いている。


 幅の広い街道には、500メードぐらいの間隔で『灯りの石塔』が建っている。


 街道は、緑色の海原のような草原を突っ切っていて、大きく波打つ丘陵地帯となっていた。


 そうして半日ほど。


 すると、草原の向こうに岩山が見えてくる。


 レグント渓谷だ。


(この辺は、初めて通るね)


 前にメディスの街から王都ムーリアに向かった時は、途中の橋が壊れていて旧街道を使ったんだ。


 だから、初めての道。


 緑色の山肌には、所々、岩が見えていて、その量は少しずつ多くなっていった。


 そうして夕方。


「今日はここまでじゃ」


 僕らは、そんな山麓にある小さな村で停車し、そこの宿屋で1泊をした。


 何事もなく、翌日。


 岩山のようになった場所の街道を、僕らの乗った竜車は進んでいく。


(あ……)


 やがて見えてきたのは、落差のある崖だ。


 崖下には、蛇行する川が流れている。


 そして、崖に沿った街道を進んでいった進路上には、その川を越えるための大きな石造りの橋が架けられていた。


(レグント大橋だ!)


 前に見た時は、橋脚の1つが破壊されて、真ん中が崩落していたんだ。


 でも今は、


「ちゃんと直ってたんだね」


 僕の言葉に、イルティミナさんが微笑んだ。


「もう1年以上、経っていますからね」

「うん」


 僕は頷く。


 ソルティスは、窓枠に頬杖をつきながら、


「ここは、メディス方面に向かう主要な街道だからね。王国でもすぐに着工してくれたんでしょ」


 と教えてくれた。


(そっか)


 そうして竜車は、大きな橋を渡っていく。


 初めて通るから、なんだか感慨深い。


 窓から見ると、橋の高さは、崖下まで50メードぐらいあった。


 そこに橋を架けるなんて、


(重機もない世界なのに、凄いなぁ……)


 ちょっと感動だ。


 そんな風にして、僕らはレグント渓谷を抜けていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 レグント渓谷を抜けると、緑の豊かな山脈地帯になった。


 クロート山脈だ。


(ここからは、前にも通った道だね)


 クネクネした山道を登っていき、やがて、辿り着いた小さな村で1泊だ。


 1年前にも着た村だけど、泊まるのは違う宿屋だった。


 宿屋の並んだ前の広場には、僕ら以外にも、4~5台の竜車が停まっていた。


(あれは、きっと王都に向かう車両だね)


 この村は、宿場町としてお金を稼いでいて、だから、小さな村なのに複数の宿屋があるんだろう。


「明日には、メディスですね」


 夜、宿屋の一室で、いつものように抱き枕になる僕へ、イルティミナさんがそう囁いた。


「うん」


 僕は頷いた。


 異世界に転生した僕が、初めて訪れた人の街メディス。


 ちょっと懐かしい。


 なんだか妙に待ちわびた気分で、僕は、その夜の眠りについた。


 …………。

 …………。

 …………。


 翌日も、竜車の旅は続いた。


 村を出発したあとは、今度はクロート山脈を下山していくことになる。


 ゴトゴト


 竜車が揺れる。


 1年前、初めて乗った時には、車酔いを起こしてしまったけれど、今はもうそんなことはなくなった。


(……そういえば)


 その時、僕は初めて、イルティミナさんと唇を合わせたんだっけ。


 お、思い出したら、ちょっと顔が熱くなってしまったよ……。


 パタパタ


 手で顔を扇ぐ僕を、イルティミナさんは「?」と不思議そうに見ていた。


 やがて、クロート山脈を無事に下山し、街道も平地となった。


 その街道を、竜車は進んでいく。


 そうして数時間後、


「あ……」


 真っ直ぐに伸びた街道の先、地平線の彼方に、僕らの目指すメディスの街の城壁がポツンと見えてきたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 メディスは、人口5千人ほどの大きな街だ。


 周辺の村の品が集まって、周辺都市へと運搬される中継点になっている。


 そして、街の近くにあるアルドリア大森林へと向かう冒険者が、その探索拠点とする街でもあるんだ。


(ちょうど、今の僕らみたいにね)


 1年前、イルティミナさんに教わったことを思い出す僕と3人は、今、街の大門の受付で、街に入る手続き中だった。


 竜車の窓からは、代表であるキルトさんが、兵士さんに渡された書類に記入している姿が見えている。


 やがて、手続きは終了。


 僕らの乗った竜車は、無事、メディスの街中へと入っていった。


(うわぁ……懐かしいな)


 1年前にも訪れた、見覚えのある街並みが広がっている。


 やがて、竜車は、門の近くにある円形の乗降場で停車して、僕らは荷物を背負って車両から降りた。


 乗降場には、他の馬車や竜車も停まっている。


「世話になったの」


 キルトさんが支払いを済ませ、竜車の御者さんに感謝の言葉をかける。


 僕らも軽く会釈した。


 ガラガラ


 竜車は、新しい客を求めて去っていった。


「さて」


 キルトさんは、空を見上げながら呟いた。


「もう1~2時間で夕刻じゃな。今日は、このメディスに1泊し、明日、アルドリア大森林に向かうとしよう」

「うん」

「はい」

「わかったわ」


 リーダーの言葉に、僕らは頷く。


 キルトさんは、


「では、今宵は宿を取るわけじゃが、そなたら希望はあるか?」


 と聞いてくる。


 僕とソルティスは、顔を見合わせた。


 頷き合い、そして、


「あるよ」

「あるわ」


 同時に答えた。


 予想していたのか、キルトさんとイルティミナさんは、少し楽しそうに笑った。


「ふむ、どこじゃ?」


 僕とソルティスは息を吸い、


「アルセンの美味い飯!」


 大きな声で、その名前を口にしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 冒険者の宿『アルセンの美味い飯』は、1年前にもお世話になった宿屋だ。


 その名前の通り、出される料理が、とっても美味しいんだ。


(思い出しても、よだれが出そう……)


 食いしん坊少女のソルティスも、きっとそれが理由で名前を出したんだと思うよ。


 やがて、僕ら4人は、大通りから1本脇道に入った先にある3階建ての宿屋へと辿り着いた。


(変わってないなぁ)


 外見は記憶にあるままだ。


 この世界に転生して初めて泊まった宿屋、その店内へと、僕らは再び入っていく。


「いらっしゃいませ」


 聞き覚えのある声が響く。


 1階は食堂兼酒場、2階と3階は宿泊施設。


 その1階のカウンター奥に、恰幅の良い店主さんがにこやかに笑っている姿が見えた。


(アルセンさん!)


 懐かしい姿に、僕も笑顔がこぼれた。


「おや」


 向こうも、何かに気づいた顔をして、


「もしかして、マール君ですか?」


 と笑った。


(!)


 僕のこと、覚えててくれたんだ!?


 1年以上も前、たった1晩泊まっただけなのに、名前を呼ばれたことにびっくりしてしまった。


「久しぶりじゃな、店主」


 キルトさんも笑いかける。


 アルセンさんは微笑んだ。


「これはこれは、お久しぶりです、キルトさん」


 そして、


「イルティミナさん、ソルティスちゃんも」


 と、姉妹の名前も口にする。


 これには、2人も驚いた顔をしていた。


「私たちのこと、覚えてるのね?」


 少女は、眼鏡の奥の瞳を丸くして訊ねる。


 アルセンさんは頷いた。


「もちろんですよ。こういう商売ですからね、お客様の顔と名前は忘れないようにしているんです」


(へぇ……)


 口で言うのは簡単だけど、実際は、毎日何人もお客様の対応をしているわけで、その全員を覚えているとしたら本当に凄いことだ。


 と、


「とはいえ、皆さんは、あのキルト・アマンデスのパーティー仲間ですからね」


(あ……)


「そうそう、忘れることはできません」


 と、悪戯っぽく片目を閉じて続けた。


(なるほどね)


 言われてみれば、キルトさんは、国のトップ3となる有名冒険者だ。


 きっと記憶には残り易いよね。


「そうか」


 キルトさんも苦笑している。


 アルセンさんは笑みを深くして、


「それで本日は、お泊りですか?」


 と聞いてくる。


 キルトさんは「うむ」と頷いて、


「また頼むぞ、店主」

「はい」


 アルセンさんも嬉しそうに頷いた。


 そうして僕らは、チェックインの手続きを行った。


 キルトさんが台帳に記入している間に、


「あれから、マール君も冒険者になったんですね」


 アルセンさんがそう話しかけてくる。


(あ、そっか)


 1年前の僕は、冒険者じゃなかったんだ。


 でも今の僕は、剣や鎧を装備していて、イルティミナさんたちと同じ冒険者の格好をしている。

 それで、アルセンさんも気づいたんだろう。


 僕は、笑って頷いた。


「はい、冒険者になりました!」

「そうですか」


 アルセンさんは微笑み、イルティミナさんの方を見る。


「一緒にいられる道を、選ばれたのですね」


 と、優しい声で言った。


 そういえば、1年前は、僕をメディスの街の孤児として残すか、残さないかで揉めたんだっけ。


 あの騒ぎでは、アルセンさんにも迷惑をかけてしまった。


(それもあって、記憶に残り易かったのかな?)


 なんて思ったり。


 イルティミナさんは、僕の髪を撫でながら、アルセンさんの言葉に頷いた。


「あれからも、ずっと共におります」

「そうなんですね」

「その節は、色々とご迷惑をおかけして」

「いえいえ」


 パタパタと手を振り、


「お2人が望まれた形でいられているのなら、本当に良かったです」


 と微笑んだ。


(アルセンさん……)


 この店主さんは、本当にいい人だよ……。


 そして彼は、1階の奥にある掲示板を示して、


「もしよろしければ、マール君、うちの依頼書も確認していってくださいね。いい依頼があるかもしれませんよ」


 と笑った。


 僕は頷く。


「いいですよ。白印の依頼、あります?」

「え? 白印?」


 え?


「あれ……? マール君、その……白印なんですか?」

「うん、白印ですよ」


 言いながら、右手を掲げて、そこに魔法の紋章を輝かせる。


 ポゥ


 それは純白の光。


 白印の証だ。


「ほら」

「…………」


 白い光に照らされて、アルセンさんは呆然だ。


「えっと……マール君、1年前は冒険者じゃなかったですよね?」


 と、確認してくる。


「普通、1年で白印になれるものなんでしょうか?」


 アルセンさんはなぜか助けを求めるように、キルトさんやイルティミナさんの方を見る。


 2人は頷いた。


「コヤツは、この鬼姫の弟子じゃからな」 

「マールは天才なんです」


 ちょっと誇らしげ。


(な、なんだか、こそばゆいぞ)


 2人の賞賛に、ソルティスだけは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 アルセンさんは、


「ははぁ……そうなんですか」


 ちょっと呆けたように言った。


 それから彼は、僕のことを見つめて、


「あれから、きっと、いっぱい努力したんですね。イルティミナさんたちと一緒にいるために」


 そう大きく頷いた。


(…………)


 僕の青い瞳は、そこにいる大切な3人の仲間を見る。


 3人も、僕のことを見ていた。


 なんとなく、4人で一緒に笑い合ってしまった。


 そうして笑い合う僕らに、アルセンさんも微笑んでいる。


 そして、


「さぁさぁ、それでは4人とも、まずはお部屋までご案内いたしますよ」


 パンッ


 アルセンさんは大きな手を打ち合わせ、宿屋内にその明るい声が響いていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ アルセンはてっきり、マールとソルティスの食いしん坊万歳っぷりで覚えているのかと思ったけれど、キルトの知名度で覚えていたのか。 意外と普通な理由だった(苦笑) …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ