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246・レクリアの言葉

第246話になります。

よろしくお願いします。

 それから30分ぐらい、レクリア王女は僕たちの話を聞いてくれた。


 この半年ほどの出来事。


 それらの結果だけではない、過程で感じた思いをこうして聞いてもらえるのは、なんだか心に溜まっていた何かが洗われるようで、本当に嬉しかった。


(……ありがとうございます、レクリア王女)


 嫌な顔一つせず聞いてくれる王女様に、心から感謝する。


 ちなみに喋っているのは、主に僕とキルトさん。


 イルティミナさんは、たまに説明を補足してくれるぐらいで、人見知りなソルティスと無口コンビのコロンチュードさん、ポーちゃんは、ただハーブ茶をすすっているだけだったけどね。


 やがて全てを聞き終えて、


「実に重畳な結果ですわ」


 レクリア王女は、大きく頷いた。


(重畳……かな?)


 僕には大袈裟にも思えたけれど、


「特に、カリギュア霊峰で賜った神々からの託宣は、わたくしたちにとって、とても重要な内容でしたわ」


 と言う。


 王女様の指は、トン、トンと白いテーブルを軽く叩く。


「今までは『闇の子』の狙いが見えてきませんでした。けれど、神々のおかげで、その目的が判明しました。……これで、ようやく同じ土俵で戦えますわ」

「…………」

「何よりも、その事実を『闇の子』は知らないこと。このアドバンテージは、とてつもなく大きいですわね」


 声は弾み、オッドアイの瞳が輝いている。


(……まるでキュポロという盤上ゲームを楽しんでいるみたい)


 そんな印象だ。


 キルトさんは問う。


「今後は、どうされますか?」

「決まっていますわ」


 レクリア王女は、すぐに答えた。


「神々の言葉に従い、『7つの神霊石』を集めるのです」


 と。


(やっぱりね)


 予想はしていたので、僕は頷いた。


「『闇の子』との戦いに終止符を打つならば、これがもっとも確実な手でしょう」

「…………」

「わたくしの方でも報告を受けてすぐに、ケラ砂漠とシュムリア湖への探索部隊を編成してあります。マール様の預かったという『探査石円盤』をお貸し頂ければ、すぐにでも部隊を派遣いたしますわ」


 レクリア王女は、そう笑った。


 キルトさんが僕を見て、


「マール」

「うん」


 僕も頷きを返して、荷物の中からレクトアリスにもらった『探査石円盤』を2つ、取り出した。


「レクリア王女様、これを」

「確かに」


 僕が差し出した円盤を、王女様は受け取る。


 すぐにフェドアニアさんがやって来て、王女様からそれを預かり、後ろに下がっていった。


 レクリア王女は、オッドアイの美しい瞳で僕らを見つめて、


「必ず見つけ出しますわ」


 そう力強く約束してくれる。


 僕らも信頼して、大きく頷いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 レクリア王女からも、色々な話を聞いた。


 ヴェガ国から海上輸送された『悪魔の死体』は無事にシュムリア王国まで届いたこと。


 それは今、国立魔法院の研究施設に運び込まれているんだって。


「悪魔や『悪魔の欠片』に対して有効な何かが見つかるよう、手を尽くしていますわ」


 とのことだ。


 また『闇の子』の痕跡を求めて、各地に竜騎隊を派遣したけれど、大きな成果は得られなかったそうだ。


(そっか)


 ちょっと残念。


 でも、アイツは用意周到な奴だから、仕方ないかとも思えた。


 ただ神々から教えられたように、『神の眷属』が神界から来るための『神界の門』が破壊された痕跡は、やっぱり幾つか発見されたそうだ。


(…………)


 本当に……用意周到な、嫌な奴だよ。


 そんな話をしてくれたあと、レクリア王女は、今後の僕らの行動についても言及してくれた。


 まずは、


「コロンチュード様は、『エルフの国』に向かってくださいまし」


 と告げた。


「こちらから使節団を派遣しますわ。その一員としてご参加くださいまし」

「…………」

「とはいえ断交している現在、わたくしたちの方から多くのことはできませんの。コロンチュード様の伝手とやらを、当てにさせて頂きますわ」

「……ん、わかったよ」


 告げられたハイエルフさんは、気負いもなく、眠そうに頷いた。


 …………。


 コロンチュードさんは、またトンボ返りでドル大陸に向かうのか……。


(なんか、二度手間だなぁ)


 正直、シュムリア王国に戻らずに、アルン神皇国からそのままヴェガ国に渡った方が良かった気がするよ。


 と思ったんだけど、


「そう簡単な話ではない」


 と、キルトさんにたしなめられた。


「コロンチュード・レスタは、こう見えてもシュムリア王国を代表する『金印の冒険者』じゃ。もしも何かあった場合、『シュムリア王国』と『エルフの国』の間で戦争となる可能性もある」


 せ、戦争……!?


「そうじゃ。『金印』という肩書きは、それほどに重い」

「…………」


(大げさでは……?)


 と思ったけれど、キルトさんやレクリア王女の表情は、いたって真面目だった。


 そ、そうなんだ……。


「あとは、ヴェガ国との関係もありますわ」


 レクリア王女は、そう付け加えた。


 コロンチュードさんは、『エルフの国』へと向かう際、ヴェガ国を経由することになる。


 そして、コロンチュードさんの身に何かが起きた時、実際に『エルフの国』に働きかけてもらうのは、ヴェガ国にやってもらうことになるのだ。


 そうなれば、ヴェガ国にも責任が生まれる。


 ヴェガ国とエルフの国との間にも、問題が発生する可能性があるのだ。


 下手をしたらドル大陸の7つ国のバランスが崩れ、もっと大きな争いの火種となることも考えられる。


 つまり今回の件は、ヴェガ国にも大きな負担をかけることなのだ。


「国家の貸し借りとは、なかなかに厄介での」


 とキルトさん。


 魔法石産業の衰退に備えて、シュムリア王国からは多額の援助が出されるけれど、その金額にも影響してくる話だった。


 …………。


 大人の世界は難しい……。


 とはいえ、


「……がんばってくるね」


 当のコロンチュードさんは、結構、気楽そうなのが救いかな?


 ポーちゃんの頭を撫でる姿は、いつもと変わりなかったよ。


 そして、レクリア王女様の蒼と金のオッドアイは、コロンチュードさん以外の僕ら5人へと向けられた。


 ドクン


 その視線の強さに、心臓が跳ねる。


「マール様」

「はい」


 緊張しながら頷く。


 そんな僕を見つめながら、


「マール様たちには、もう1つの神霊石を求めて、『暗黒大陸』へと向かって頂きますわ」


 レクリア王女は、そうはっきりと口にした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(暗黒大陸……)


 王女様の言葉は、キルトさんの予想通りだ。


 僕らは『暗黒大陸』へと派遣される。


 発見されてより40年間、これまで4度の開拓団が全滅している謎の大陸だ。


 キルトさんに前もって聞かされていたからか、心構えはできていて、僕らは全員、表情は変わらなかった。


「…………」


 レクリア王女は、少し驚いた顔をする。


 それから頼もしそうに頷いた。


「もちろん、向かうのは、マール様たちだけではありませんわ」

「…………」

「こちらで厳選した冒険者12組、計50名も参加する予定です」


 冒険者が50名も?


「それと竜騎隊の竜騎士が4騎、神殿騎士が50名、それに加えてシュムリア騎士300名の総員400名を超える人員となっておりますわ」


 総員400名!?


(まるで大国アルン並みの人数だ!)


 キルトさんも驚いていた。


「まさか、竜騎隊の半数を?」

「はい」


 レクリア王女は頷いた。


「今回は、今までと違い、ただの調査ではありませんわ。必ず成功させねばなりません」

「…………」

「そして最悪、万が一にも失敗するのであれば、次の派遣のためにも現地の情報を絶対に持ち帰らねばなりません。そのためには、海を越え、空を翔ける竜騎隊は必須です」


 …………。


(なるほど)


 もしもの時は、竜騎隊だけでも本国へ逃がせ、ってことだね。


 恐ろしい可能性の話だけど、でも、考えないわけにはいかないんだ。


「……暗黒大陸……だもんね」


 いまだ生還者のいない、未知の大陸。


 場の空気は、少し重い。


 それでもレクリア王女の凛とした声が、空中庭園に響いた。


「出発は1ヶ月後、出陣式を行った後になりますわ」

「…………」

「そこから第5次開拓団は、街道を南下して、王国最南端の港より4隻の船にて出航して頂きます」


 僕らは頷いた。


 本来ならもう出発準備はできている予定だったんだけど、僕らの得た情報から、他3つの神霊石を手に入れるための手配などで1ヶ月ほど遅れが出ているんだって。


(……1ヶ月か)


 僕は、少し考えて、


「レクリア王女、その間にアルドリア大森林に行ってきてもいいですか?」


 と、王女様に訊ねた。


 イルティミナさんが「……あ」という顔をする。


 蒼と金の瞳が僕を見て、


「お話にあった、女神ヤーコウルの神託ですね?」

「はい」


 王女様の確認に、僕は首肯する。


 暗黒大陸へ行く前に、僕の始まりの地であるアルドリア大森林へ、イルティミナさんと共に行け――そうヤーコウル様に言われたんだ。


 行くなら、その1ヶ月はちょうど良い時間だった。


 コン ココン


 何かを計算するように、王女様の白く可憐な指が、テーブルをリズムよく叩く。


 やがて、


「わかりましたわ」


 水色の髪を揺らして、レクリア王女は大きく頷いた。


「出陣式までは、皆様、自由行動をしてくださいまし。英気を養うもよし、何らかの準備をするもよし、各人の判断に任せますわ」


(おぉ……)


「ただし、出陣式には必ず間に合わせてくださいましね」


 そう微笑んだ。


 僕ら6人は、お互いの顔を見合わせる。


 そして、レクリア王女に向かって、「はい」と大きく頷いたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 それからは他愛ない話を交わし、やがて、レクリア王女は別の公務があるとかで行ってしまわれた。


 僕らも神聖シュムリア王城をあとにする。


 王城の門番となる大聖堂を出たところで、コロンチュードさん、ポーちゃんと別れることになった。


「……ギルドで、話つけてくる」


 とのことだ。


 彼女たちは今、所属する冒険者ギルド『草原の歌う耳』で暮らしている。


 キルトさんは頷いた。


「そうか」

「……ん。それじゃあね」


 コロンチュードさんは、特に感慨もなさそうに僕らと別れた。


(……長生きのエルフさんだから、時間感覚が違うのかな?)


 半年ぐらい一緒に旅をしただけでは、そこまで名残惜しくはならないのかもしれないね。


 ポーちゃんも、トコトコ、ついていく。


「…………」


 こちらを振り返り、


 シュタ


 軽く手をあげる。


 すぐに前を向いて、猫背のコロンチュードさんに追いつき、隣を歩いていった。


 2人の姿は、王都の人波に消えていく。


「素っ気ない奴らじゃ」


 キルトさんは呆れたように呟く。


 ソルティスは「……コロンチュード様」と、憧れの人との別れにため息をこぼしていた。


 僕とイルティミナさんは、顔を見合わせ苦笑する。


 そして、


「それでは、私たちはどうしますか、キルト?」


 と、パーティーリーダーに訊ねた。


 クシャクシャ


 豊かな銀髪を手でかいて、


「まずは、わらわたちも自分たちのギルドに帰るかの。ムンパも首を長くして待っておろう」


 と、仕方がないという風に笑った。


 僕らも笑う。


「うん」

「はい」

「そうね」


 と頷いた。


(半年ぶり……かぁ)


 あの真っ白な獣人さんに会うのも懐かしく感じるね。


(キルトさんが、ヴェガ国の王子様に求婚されたって話したら、どんな顔をするかな?)


 ちょっと楽しみ。


「では、行くとするかの」


 ポン


 キルトさんが、僕の頭を軽く叩いて歩きだした。

 わ?


 ソルティスもすぐに続く。


 呆気に取られる僕に、イルティミナさんはクスクスと可愛く笑って、


「さぁ、マール。行きましょう?」


 その白い手をこちらに伸ばしてきた。


 それを見つめ、


「うん!」


 僕は笑って、その手を握り締めた。


 そうして手を繋いだまま、先に行ってしまった2人を追いかける。


 ――僕らのドル大陸にまで出向いた『悪魔討伐』の旅は、こうして無事、終わりを迎えることとなったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 遂にマールの母親(主神)に結婚の挨拶に行く事に! これが婚前旅行か!? 果たしてマールの母親(主神)は二人の仲を認め、祝福して下さるのか!? …………アレ? こ…
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