228・2つの金光
第228話になります。
よろしくお願いします。
飛行船の窓からは、雪交じりの大地が見えている。
そこに、大きな都市があった。
街の名前は、デラント。
カリギュア霊峰に最も近いアルン軍基地のある街だそうだ。
ソルティスが呟いた。
「街の半分は普通の街だけど、もう半分は軍施設になっているのね」
うん。
上から見ると、それがよくわかる。
僕らの乗った飛行船は、その軍施設側へと降下していった。
ゴゴォン
やがて振動があり、着陸したのを感じる。
「よし、行くぞ」
「うん」
「はい」
「えぇ」
キルトさんの号令で、僕らは1週間過ごした客室をあとにした。
◇◇◇◇◇◇◇
「お世話になりました」
「どうか、ご武運を」
僕らは、ハロルド船長と握手をして別れた。
そのまま、軍施設の中へと案内される。
通路を先頭で歩いているフレデリカさんは、この軍施設の兵士さんから、歩きながら何か報告を受けていた。
「そうか、すでに来ているのか」
「はっ」
頷き、彼女は僕らを振り返る。
「協力してくれる『金印の冒険者』2名は、すでに基地に到着しているそうだ。早速、貴殿らと引き合わせたい」
僕らも頷いて、フレデリカさんについていった。
やがて、辿り着いたのは応接室だ。
20人ぐらいが集まれそうな広さ。
立派なソファーやテーブルもあって、高そうな花瓶なども飾られている。
そしてそこに、5人の男女がいた。
男性2人。
女性3人。
男性の1人は、20代ほどかな?
黒髪に銀の瞳をしていて、非常に整った顔をしている。
銀色の胸当ての上に、黒い旅服のコートを羽織っただけの軽装備だ。
腰ベルトの左右に、魔法石のついた2本の短剣が提げられている。もしかしたら、タナトス魔法武具かもしれない。
3人の女性は、彼の仲間なのか、同じ側のソファーに集まっていた。
女性たちは、やはり軽装備の冒険者風の格好をしている。
もう1人の男性は、40代ぐらいかな?
禿頭に髭を生やした厳めしい風貌だ。
黄色い瞳は、眼光が鋭い。
筋骨隆々の肉体には、黒鉄の全身鎧をまとっている。その背中には、2メード近い身長と同じぐらいの戦斧が負われていた。
戦斧の表面には、タナトス魔法文字が刻まれている。どうやら、あの戦斧もタナトス魔法武具みたいだ。
(男の人2人が金印かな?)
僕は、そう感じた。
と、若い男の人が立ち上がって、
「やぁ、フィディ!」
白い歯を見せる笑顔で、両腕を大きく広げた。
「会えない時間は、幾億年のように長く感じていた。女神のような君にまた会えて光栄だよ!」
チュッ
彼はこちらに歩み寄ると、フレデリカさんの手を取って、キスをする。
……なんという流れるような動き。
その滑らかさと突然の驚きに、僕はポカ~ンとして声も出ない。
彼の仲間の3人の女性は、ため息をこぼしている。
フレデリカさんは、げんなりした顔だ。
「……久しぶりだな、ゲルフォンベルク殿」
「いやだな、フィディ。僕らの仲じゃないか、ゲルフと呼んでおくれよ」
彼はパチッとウィンク。
フレデリカさんはため息をこぼして、僕らを振り返った。
「彼は、ゲルフォンベルク・リドワース殿だ。このアルン西方を中心に、『金印の真宝家』として活動している」
そ、そうなんだ?
(なんか、個性的な人だね)
キルトさん、イルティミナさん、ソルティスも、ちょっと圧倒された顔だ。
そして、ゲルフォンベルクさんは、
「おぉ、これは目が潰れそうなほど、美しい花たちだ。なんという名なのか、どうかこの僕にも教えてくれないか?」
白い歯を輝かせて、笑いかけてくる。
「……キルト・アマンデスじゃ」
キルトさん、ちょっと躊躇してから答える。
彼は、笑顔で頷いた。
「イルティミナ・ウォンです」
「……ソルティス・ウォンよ」
イルティミナさんは淡々と、ソルティスは嫌そうに自分の名前を口にする。
「……コロンチュード・レスタ」
「ポー」
無口な2人は、いつも通りな答え方。
彼は、「みんな、素敵な名前だね」と頷いている。
えっと、
「あ、あの僕の名前はマ――」
ズンッ
遅ればせながら名乗ろうとしたら、床が揺れた。
もう1人の禿頭の男の人が、重い全身鎧を軋ませながら、立ち上がっていたんだ。
「おぬしが、あの鬼姫キルト・アマンデスか?」
重々しい声。
彼の鋭い眼光が、銀髪の美女を射る。
キルトさんは、それを受け止め、
「そうじゃ」
あっさり頷いた。
それを聞いた彼は、全身鎧の首後ろにあった黒い兜を、大きな手で掴み、
ガチン
と被った。
「御免」
くぐもった声が、兜の奥から聞こえた。
瞬間、
ヒュゴッ ドゴォオン
彼の振り下ろした戦斧が、応接室の床を破壊した。
(は……?)
床材が弾け、絨毯が千切れる。
それは、一瞬前までキルトさんが立っていた場所だ。
「何をする!?」
間一髪でかわしたキルトさんは、驚きながらも『雷の大剣』を抜く。
「ガルン殿!?」
フレデリカさんも焦ったように叫んでいる。
けれど、ガルン殿と呼ばれた黒い全身鎧の大男は、手にした戦斧を構えて、キルトさん目がけて振り下ろしていく。
ガンッ ギン ガギィン
激しい火花が散り、応接室が破壊されていく。
(おいおいおい……っ!?)
いったい何事!?
「マール、ソル、下がって!」
イルティミナさんが僕らを背中に庇いながら、一気に後退する。
コロンチュードさんもポーちゃんと手を繋いで後方に移動し、フレデリカさん、ラプト、レクトアリスも下がっている。
「おやおや」
ゲルフォンベルクさんもちょっと呆れ顔で、仲間の女性3人を庇うようにしながら、壁際まで下がっていた。
ガキン ギギン ゴギィン
戦斧と大剣がぶつかり合う。
青い雷光が散る。
アルンとシュムリアが誇る『金印』の2人が、なぜか戦いを始めていた。
ガギギィン
刃がぶつかり、鍔迫り合いになった。
「ぬぅ……!」
「むぅぅ」
キルトさんの黄金の瞳が、黒い兜の奥の眼光と睨み合う。
力比べで、あのキルトさんと拮抗している!
(信じられない!)
ガキィン
次の瞬間、刃が離れて、間合いが生まれた。
その刹那の時間に、
「一刀・岩砕斬!」
「鬼剣・雷光斬!」
両者の雄叫びと共に、お互いの必殺の一撃が繰り出される。
バヂヂッ ガギィインン
黒い風と青い雷の光が、室内に迸った。
(うわぁ!?)
ソファーが破け、花瓶が砕ける。
窓が割れて、室内を荒れ狂った風が外へと押し出されていく。
そして、
「…………」
「…………」
2人の『金印の冒険者』は、3メードの間合いで武器を構えたまま、睨み合っていた。
…………。
「うむ、さすがでござる」
黒い全身鎧の大男――ガルンさんが、そう言いながら戦斧を背中に戻し、兜を外した。
そこにあるのは、満足そうな笑顔。
キルトさんも『雷の大剣』を引く。
「……いったい何じゃ?」
訝るような声。
ガルンさんは、鎧に包まれた黒い手で、禿頭の頭をかいた。
「いや、ご無礼つかまつった」
「…………」
「某の名は、ガルン・ビリーラング。アルンの地にて『金印の魔狩人』をしている武人の1人でござる」
彼の黄色い瞳は、目の前の美女を見つめる。
「キルト・アマンデス。かの常勝無敗の大将軍アドバルト・ダルディオスに唯一の黒星をつけた女傑。……その名を聞き、昂る武人の血を抑えられなんだでござる」
少しだけ申し訳なさそうな声。
けれど、その瞳には、満足そうな子供のような輝きがある。
「見事な腕でござった」
「…………」
「この手の痺れ、あの手応え、これまでの某の生涯において、最も重く鋭いものであったでござる」
そう何度も頷く。
キルトさんは、何とも言えない顔だ。
「……手合わせしたいのならば、ちゃんと言え。わらわは逃げも隠れもせぬ。第一、このような場所ですることではない」
視線を向ければ、応接室内は滅茶苦茶だ。
あんなに立派だった家具は、全てボロボロ。絨毯や壁紙だけでなく、床材や壁材そのものまで破壊されている。
まるで竜巻が吹き荒れたみたいな惨状だ。
「面目ない」
ガルンさんは謝罪する。
彼はフレデリカさんを見て、
「弁済はいたそう。金額がわかり次第、知らせてくれでござる」
と、あっさり言った。
(それで全てが済むと思っているのかな?)
……思ってるんだろうな。
じゃなきゃ、こんなことしないもん。
ゲルフォンベルクさんは、仲間の女性3人に「大丈夫だったかい?」と白い歯を光らせ、笑いかけている。
フレデリカさんの美貌は、大きくため息をこぼした。
それから僕らを見つめて、
「……この2名が今回のクエストの協力者だ。どうか、仲良くしてやってくれ」
酷く疲れた表情で、そう言った。
ご覧いただき、ありがとうございました。
ガルンの喋り方については、文法が間違っていたりするかもしれませんが、彼の言語を日本語に訳すとこんな古風な訛りがある、程度のニュアンスに考えてやって下さいね~。
※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。




