表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/825

023・合流

第23話になります。

よろしくお願いします。

 やがて、猟師たちの森小屋に辿り着いた時、


(え、誰もいない!?)


 そこには、彼女の姿も、闇のオーラをまとった赤牙竜ガドの姿もなかった。


 ただ、その周囲一帯は、まるで竜巻が荒れ狂ったように、森の木々がなぎ倒されていて、その激しい戦いの痕跡は、北西へと続いている。


 僕らは頷き合うと、そちらへと進路を向けて走り続けた。


 ガィン ズズン ドパァアン


 やがて、戦いの音が、暗い森の奥から聞こえてくる。


(イルティミナさん、生きてるっ!)


 よかった。


 安堵が、心の中を駆け抜ける。


 けれど、同時にそれは、彼女の命が今もなお、危険にさらされている証明だった。


「いたわ、イルナ姉っ!」


 ソルティスが、泣きそうな声で叫んだ。


 僕の目も、それを捉える。


 ――闇の森の中で、紫色の光を放つ巨大な赤牙竜を相手に、1本の白い槍だけを携えて戦う、戦乙女ヴァルキリーのような彼女の姿を。


(イルティミナさんっ!)


 彼女は、ボロボロだった。


 深緑色の美しい髪は乱れて、鎧には、土や泥の汚れがつき、白い肌には少なからぬ流血がある。


 あのタフなイルティミナさんが、肩で息をしている。


「――羽幻身うげんしん・白の舞!」


 槍の魔法石が、強く輝く。


 すると、そこから大量の白い羽が吹き出し、イルティミナさんの姿を模した3人の白い人型の光へと集束した。


 白く光る彼女たちは、空を舞う。


 上空から赤牙竜ガドへと襲いかかり、その手の槍を突き立てる。


 ギギィイン


 無数の火花が散り、けれど、赤牙竜の赤い巨体は無傷のままだ。


 赤牙竜は、その場でグルンと回転した。


 ブォン バシュシュ……ッ


 巨大な長い尾が振り抜かれ、彼女たちを薙ぎ払う。


 直撃を受けた3人の光の女たちは、無数の光の羽根へと分解して、幻のように消えていく。


「く……っ」


 魔法を使って消耗したのか、イルティミナさんは激しく肩を揺らしながら、悔しげな息を吐く。


 そこに向かって、赤牙竜が突進した。


 跳躍して避けようとしたイルティミナさんの足が、雨上がりのぬかるんだ土に滑る。


(――あ)


 ドウッ


 赤牙竜がなんと、その巨体でジャンプした。


 呆然と見上げるイルティミナさんに、巨大な影が落ち、その圧倒的な質量が彼女の上へと落下しようとする。


「――いかんっ!」


 鉄の声が短く告げて、キルトさんの手が、背面の大剣を引き抜く。


 巻きつけられていた赤い布が解かれて、中から現れたのは、岩を削りだしたような黒曜石の如き大剣――その刀身の内側で、青い稲妻のようなモノが散っている。


 ドンッ


 魔狩人キルト・アマンデスは、僕をぶら下げたまま、銀髪をなびかせ、赤牙竜の懐へと飛び込んだ。


 踏み込んだ左足が、深く大地を抉り、突き刺さる。


 そこを支点にして、彼女は、手にした大剣をフルスイングする。


 その首にしがみつく僕は、まるでマントのように振り回されて、


鬼剣きけん雷光斬らいこうざん!」


 ドパァアアアアアン


 大剣が、赤牙竜の腹部に直撃し、刀身の稲妻が世界を眩く照らした。


 肉の焼け焦げる臭いがして、次の瞬間、その10メートル級の巨体が吹き飛ばされていく。


 ドガッ バギィ ズズゥゥウン


 木々をへし折り、赤い巨体は、その大量の倒木たちの下敷きになる。


 キルトさんは、大剣を振り抜いた姿勢で停止し、美しい銀髪が弧を描いて舞い、やがて、僕の背中に落ちてくる。


 なんという膂力、そして破壊力!


「キルト……?」


 呆然とした声が、白い槍の彼女の口から漏れた。


 そんな仲間を振り返り、リーダーであるキルトさんは頼もしく笑う。


「相性の悪い相手に、よくぞ、ここまで持ち堪えた。――待たせたの、イルナ」


 と、僕らの横から、小さな影がイルティミナさん目がけて、突っ込んでいった。


「イルナ姉ぇええーっ!!!」

「ソルっ?」

「よかった、無事でよかった。うわぁああ~ん、イルナ姉ぇぇ」


 姉のお腹に飛びついて、彼女の妹ソルティスは、泣き顔を押しつけ、擦りつける。


 驚いていたイルティミナさんは、けれど、優しい表情になって、年の離れた妹の頭をポンポンと安心させるように叩いた。


「来てくれたのですね、キルト、ソル」

「うむ」

「当たり前じゃないのぉ~!」


 僕は、こっそりとキルトさんの背中から降りる。


 3人の仲間の再会を邪魔するようで、部外者の僕は、なんだか声をかけ辛かった。


 でも、イルティミナさんは、そんな僕にも、すぐに気づいてくれて、


「マールっ!」


 ポイッ ベシャッ


「ぐえっ?」と呻くソルティスを地面に投げ捨てて、驚く僕の元へと走り寄ってくる。

 え?


 白い手が、僕の全身をペタペタと触る。


「マール、マール、無事なのですね?」

「イ、イルティミナさん?」

「あぁ……あの発光信号弾の光を見て、貴方の身に何かあったのではないかと、心配で心配で……でも、よかった。本当に、無事でよかった……」


 僕の胸に額を押しつけ、安心したように息を吐く。


 そんなに心配してくれたのかと、僕の胸は熱くなった。


「ぐぬぬ……っ」


 顔面泥パック状態の少女から、殺意の視線が、僕の背中に突き刺さる。


 それにも気づかずに、イルティミナさんは、ふと不思議そうな顔をする。


「それにしても、マール? この短期間で、どうやって、私の仲間を?」

「あ、うん」


 それはね――と説明しようとする前に、イルティミナさんは「いえ」と笑って、僕の頬に両手を添えた。


「方法なんて、どうでもいい。貴方は本当に、私に幸運を授けてくださる不思議な子なのですね、マール」

「…………」


 その真紅の瞳は、熱く潤んでいる。


 その視線が妙に色っぽくて、艶っぽくて、僕は、なんだかドギマギしてしまった。


 そんな僕らの様子を、キルトさんは黄金の瞳を見開いて、驚いたように見つめていた。


 それから、美貌を歪めて、困ったようにガシガシと豊かな銀髪をかく。


 ガラッ ガガァン


 激しい音がして、僕らはハッと振り返った。


 倒木を蹴散らして、紫色の光を放つ赤牙竜ガドが、その2本足で巨体を起き上がらせていた。


 夜の森にそびえる10メートル級の巨体は、まさに悪夢のような姿だ。


 キルトさんの一撃を浴びた腹部は、傷口が焼け焦げ、中から内臓がデロンと飛び出している。


 それでも、痛みを感じている様子はまるでなく、ただ濁った黄色い眼球が、僕らを見つめていた。


「嘘ぉ……あれで、生きてるのぉ?」


 ソルティスが驚き、気持ち悪そうな顔をする。


 その美しい姉であるイルティミナさんが、そんな妹の言葉を否定するように、長い髪を揺らして首を横に振った。


「とっくに死んでいますよ。闇のオーラの影響で、動く死体となっているにすぎません。それを停止させるには、その肉体のほとんどを破壊する必要があるでしょう」

「マジかぁ~」


 嘆くソルティス。


 と、その時、


 ドンッ


 突然、キルトさんが、大剣を地面に叩きつけた。


 空気が一瞬で、鉄のように張り詰めた。美人姉妹の表情も、緊張感で一気に引き締まる。


「――無駄口は、そこまでじゃ」


 彼女たちのリーダーが告げ、黄金の瞳が2人の仲間たちを見る。


「イルティミナ、まだ動けるな?」

「無論です」

「ソル、魔力は大丈夫か?」

「まだ平気よ。大きい魔法なら、2発までいけるわ」


 キルトさんは、「よし」と大きく頷いた。


 その黄金の瞳に、強い殺意が生まれ、恐ろしくも美しい煌めきが赤牙竜へと向けられる。


「ならば、いつも通りじゃ。恐れる必要も、侮る油断も捨てよ! ――我らは、これより闇のオーラの赤牙竜ガドを狩る!」


『グルァォオオオオオオオオッッッ!!!』

 

 鉄の声の宣戦布告に呼応するように、赤牙竜の雄叫びが、アルドリア大森林に響き渡った――。

ご覧いただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ