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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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220/825

218・2人きりの森歩き

第218話になります。

よろしくお願いします。

「アーノルドから『探索の許可』はもらったぞ」


 その夜、ソルティスがお風呂に行っている間に、キルトさんはそう報告してくれた。


 エルフのナタリアさんと別れたあと、王宮殿に帰った僕らは、キルトさんに事情を話して相談したんだ。


 ここは、ヴェガ国。


 シュムリア王国なら問題ないんだけど、異国の『未発掘の遺跡』を、シュムリアの冒険者が勝手に探索するのは、やはり問題となる可能性があるそうなんだ。


 なので、キルトさんが、この国の王子様に頼みに行ってくれた。


 結果は、今のキルトさんの報告だ。


「やったね」

「はい」


 僕とイルティミナさんは、パンッと手を合わせた。


 そんな僕ら2人を、キルトさんは腕組みをしながら眺めて、苦笑する。


「言っておくが、遺跡は壊すな? 貴重な歴史資料かもしれないからの」

「うん」

「わかっております」


 僕らは頷いた。


「私も、遺跡のプロである『真宝家』ではありません。マールもいますし、探索は浅層のみにするつもりです」


『魔狩人』のお姉さんは、そう付け加えた。


 キルトさんも頷く。


「その方が良いの」

「はい」


 2人のお姉さんは頷き合っている。


(ふ~ん? 浅い階層だけか)


 でも仕方ない。


 行くのは、『未発掘』の遺跡だ。


 当然、中の規模もわからない。


(さすがに、アルン神皇国の『大迷宮』ほどじゃないと思うけど……)


 あまり地下深くまで行くのは、イルティミナさんがいても危険なんだ。


 4階層しかないディオル遺跡でも大変だったもんね。


 キルトさんは言う。


「アーノルドが『獣車』も用意してくれるそうじゃ。それで遺跡まで行くといい」


 おぉ、至れり尽くせり。


「遺跡の近くで、夕方まで待機をしてくれる。逆に、それまでに戻らなければ、何かあったと判断して捜索隊が出ることになる」

「うん」

「わかりました。――しかし、そこまでしてもらって良いのですか?」

「向こうからの提案じゃ。素直に受け取っておけ」


 それから、


「わらわも、それぐらいの備えがあった方が安心じゃ」


 と笑った。


(そこまで言うなら、ありがたく受け取っておこうかな)


 僕も納得する。


 それから、ふと思って訊ねてみた。


「キルトさんも一緒に行かない?」


 と。


 キルトさんは困ったように苦笑して、


「行きたいが、今後のために、アーノルドと話さねばならぬことも多くての」

「ふ~ん?」


 そうなんだ。


 …………。


「ここ最近、キルトさんって、アーノルドさんとばかり一緒にいるね」


 僕は呟いた。


 僕らと一緒にいるのは、食事の時ぐらいで、それ以外はいつもアーノルドさんのところだ。


「む?」


 黄金色の目を丸くするキルトさん。


 イルティミナさんは頷いて、


「まぁ、キルトも年頃の女性ですからね。そういうこともあるでしょう」


 慰めるように僕の髪を撫でてくる。


(うん……)


 でも、ちょっと寂しいな。


 キルトさんはポカンとして、すぐに慌てたように言った。


「待て待て! そなたら、変な勘ぐりをするな」


 イルティミナさんは澄まし顔で、


「いいのですよ。野暮なことは言いませんし、聞きません」

「聞けい」


 ちょっと凄む、銀髪のお姉さん。


「言っておくが、話しているのは仕事のことだけじゃ。プライベートでは何もないぞ?」


 そうなの?


 疑いの視線を送る僕とイルティミナさん。


「疑うのならば、話した内容、そなたらにも教えるぞ?」


 と、キルトさんは言う。


「うん」

「では、一応」


 せっかくなので、僕らは拝聴することにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 先日、話し合った内容は、『聖神樹の戦い』についてだそうだ。


 あの時、『闇の子』は2人しか『闇の眷属』を連れてこなかった。


「その理由がわかるか?」


 とキルトさん。


(理由?)


 本人は、僕らを刺激しないためと言っていたけど……。


「違う。あれは、自分の仲間を減らさぬためじゃ」


 え?


「戦力となる者を2人しか用意しないことによって、こちらの魔法で人に戻させぬようにしたのじゃよ」


 あ!


(そういうことか)


 キルトさんは頷いて、


「逆に言えば、こちらの人に戻す魔法は、まだ通用するということじゃな」

「なるほど」


 それは、こちらに有益な情報だ。


「だが、その仲間を、奴は使い捨てとして自爆させた」

「…………」


 キルトさんは、少し怖い声で言う。


「奴は、仲間に執着している。しかし、それは己の所有物としての執着じゃ。生命としてではない」


 …………。


(前にレヌさんも、似たようなことを警告してくれたね)


「言葉は通じても、価値観は通じぬ」

「…………」

「奴との停戦と共闘には、そのリスクもあるのだと、アーノルドとは確認し合ったのじゃ」


 ふ~ん。


「他にも、それ以降の奴の足取りなど、細かいことを調べてもらっておるぞ。こちらからも、知っている情報を伝えておる」


 キルトさんはそう言うと、手に何かを持つ仕草をした。


 小さく笑って、


「まぁ、そんな話を、酒を酌み交わしながらの」


 クイッ


 杯をあおる真似をする。


(お酒が本命か!)


 僕は呆れた。


「ゆえに、そなたらが勘繰るようなことは何もないのじゃぞ」


 胸を張る鬼姫様。


 それを見ながら、イルティミナさんは呟いた。


「それはそれで、年頃の女性としてどうなのでしょう?」

「…………」

「…………」


 カチャッ


 その時、客間の扉が開いて、ソルティスが帰ってきた。


「ただいま~。あ~、いいお湯だったわ」


 タオルで濡れ髪をこすりながら、室内へと入ってきて、僕らの様子に気づく。


「ん? どうかした?」

「ううん」

「なんでもありませんよ」

「……そう?」


 細い首をかしげるソルティス。


 その視線が、キルトさんに向く。


「……キルト?」

「…………」

「ソルティス、今はそっとしておいてあげて」


 僕は言った。


「???」


 ソルティスは、不思議そうだったけれど、「うん」と頷いた。


 今夜のキルトさんは、なんだかしょんぼりしていて、ちょっぴり無口なのでした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌朝、僕とイルティミナさんは、日の出の前に起床した。


「行きましょう」

「うん」


 薄暗い室内。


 まだ寝ているソルティス、キルトさんを起こさないよう気をつけて、装備を整える。


「ふんが~」


 …………。


 少女は、豪快ないびきを立てていらっしゃる。


 僕は苦笑しながら、


(じゃあ、いってくるね)


 心の中で声をかけて、静かに部屋を出ていった。


 王宮殿の前に待機してもらっていた獣車に乗り込んで、カランカの街の中を進んでいく。


 まだ薄暗い早朝とはいえ首都だけあって、人の姿は多い。


 ガランガラン


 鐘の音を響かせながら、獣車はその中を進み、やがて『純白と黄金の都』をあとにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 カランカの街を出発して3時間。


 草原を進み、やがて街道を外れると、僕らは、とある森の前で降車した。


「この奥ですね」

「うん」


 イルティミナさんと一緒に地図を見ながら確認する。


(歩いて30分ぐらいかな?)


「では行きましょう」

「うん」


 頷き合い、僕らは森の中へと入っていった。


 早朝の森は、木々の隙間から木漏れ日が差し込み、それが朝靄の中にある葉の水滴をキラキラと光らせて、なんだか幻想的だった。


(綺麗だなぁ)


 そう思いながら歩いていく。


 と、


「ふふっ、なんだか懐かしいですね」


 イルティミナさんが、不意に笑った。


(え?)


「マールに初めて会った頃を思い出しました。あの時も、2人でアルドリア大森林の中を歩きましたね」


 あぁ、そういえば……。


 僕らの出会いは、森の中だ。


 まだ1年も経っていないのに、その頃がとても懐かしく感じた。


「うん、そうだね」


 僕も笑って、頷いた。


 あの頃みたいに森で2人きりなのも、久しぶりだ。


 イルティミナさんは頷いて、


「あの、マール? 1つお願いがあるのですが」


 と言った。


「お願い?」

「はい。その……その頃みたいに、またマールを抱っこさせてくれませんか?」


 うえ!?


 突然のお願いに、僕はびっくりしてしまう。


「な、なんで?」

「いえ、その、ここしばらくはそういうこともありませんでしたし、久しぶりにやってみたいなぁ……と」

「…………」

「……駄目、ですか?」


 イルティミナさんの綺麗な真紅の瞳は、上目遣いに僕の顔を窺ってくる。


 ずるい、ちょっと可愛い。


 僕は「はぁ」と息を吐いた。


 男の子のプライドは悲しいけれど、大好きな人を悲しませるのは、もっと嫌だった。


「ん」


 両手を広げて、なすがままをアピール。


 イルティミナさんは、パァアッと表情を輝かせた。


「ありがとう、マール!」


 嬉しそうに言いながら、僕へと左手を伸ばす。


 ヒョイ


 色々な荷物や装備があるのに、軽々と抱きあげられてしまう。


(わっとっと)


 揺れるので、思わず、彼女の白い首に手を回してしまう。


「ふふっ」


 嬉しそうなイルティミナさん。


 彼女は、僕の重さを確かめるように軽く上下に動かして、


「重くなりましたね」

「そう?」

「はい。あれからのマールの成長を感じますよ」


 真紅の瞳が、優しく細められている。


(ふ~ん?)


 単純に荷物や装備のせいではないかと思ったけれど、彼女は、それ以外の何かも感じ取っているみたいだった。


 イルティミナさんは、僕の首に顔を押しつける。


「…………」

「…………」


 吐息が少しくすぐったい。


 しばらくそうしたあと、顔を上げた。


 満足したような笑顔で、


「では、行きましょうか」


 タンッ


 言うが早いか、その健脚は大地を蹴った。 


(わっ?)


 僕は慌てて、彼女の頭にしがみつく。


 小さな手の中で、イルティミナさんの綺麗な髪がクシャリと乱れる。


「ふふっ」


 イルティミナさんは楽しそうだった。


 久しぶりに感じる彼女の走り。


 地面の凹凸は感じられず、まるで平地を走っているような速度で、森の景色があっという間に後方へと流れていく。


(相変わらず、凄いや)


 そして、少し懐かしい。


 アルドリア大森林を抜ける時も、一日中、こうして彼女の腕の中にいたっけ。


 ヒュオオッ


 風圧が、僕らの髪をなびかせる。


 その楽しそうな顔を見ていると、ふと彼女と視線が合った。


「ふふっ」

「あはは」


 つい笑い合った。


 幻想的な森の中、白い槍と子供を抱えた美女は、木々の中を素晴らしい速度で走り抜けていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 30分はかかるかと思われた距離を、イルティミナさんのおかげで10分で踏破してしまった。


「ここですね」


 僕らの前には、小さな崖がある。


 崖は、土砂崩れが起きていて、削れた地面やひっくり返った木の根が見えている。


 その中に、折れた柱の残骸と、黒い亀裂のような穴があった。


(ナタリアさんの絵の通りだ)


「イルティミナさん」

「はい」


 声をかけ、小さな身体を地面に降ろしてもらった。


 2人で一緒に、穴に近づく。


「中から、魔物が出てくる可能性もあります。あまり不用意に覗かないように」

「うん」


 その警告に、僕は頷いた。


 イルティミナさんは、リュックからランタンを取り出して、火を灯す。それを白い槍の先端に引っ掛けると、槍先をゆっくりと穴の中へと入れていった。


 バササッ


(!)


 黒い何かがたくさん飛び出してきた。


(蝙蝠だ!)


 魔物ではなかったけれど、光に驚いたのか、大量の蝙蝠が飛び出してきたんだ。


 ちょっと驚いた。


 イルティミナさんも空へと逃げる姿を見上げて、やがて、油断なくもう一度、穴へと近づいた。


 その背中を、固唾を飲んで見守る。


 …………。


「もういなさそうですね」


 しばらく確認して、彼女はそう言った。


 それから、こちらを振り返って、


「では、マール、これからこの遺跡の探索を始めます」


 と微笑んだ。


「私がいるので何も心配は要りませんが、気を抜いてはいけませんよ? ここからは私の指示に従い、後ろをついて来てください」

「うん、わかりました」


 今日のリーダーはイルティミナさんだ。


 頷く僕に、彼女は満足そうに頷いた。


 僕の頭を、白い手で一撫ですると、


「それでは、中に入りましょう」


 美しい『金印の魔狩人』は、そう言って、その亀裂ような穴の中へと僕より先に入っていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 目が覚めたイルティミナにいきなり殴られた挙句に間接決められたんだよね。 なんて乱暴な人なんだ!って。第一印象は最悪でしたね。
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