表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

218/825

216・カランカの街にて

第216話になります。

よろしくお願いします。

 僕とソルティスは、同い年の13歳だ。


 ソルティスは努力を怠らない天才少女で、凄腕の魔法使いでもある。


 だから僕も負けないよう、剣の腕を磨いた。


 ある意味、僕は彼女をライバル視していて、同時に、これまで2人だけで魔物や人と戦ったこともあるし、戦友のようにも思っていた。


 常に対等である友人、そんな風に思っていた。


 それなのに、


「来週から僕は、彼女の弟分になってしまうのかぁああ……」


 がっくりです。


 隣を歩いているイルティミナさんは、肩を落とす僕に苦笑している。


 僕は、ぼやいた。


「……ソルティス、1人だけ14歳になるなんて、ずるいよね?」

「まぁ、誕生日は、ソルが自分で決めたわけでもないですから」


 お姉さんは、やっぱり妹を擁護する。うぅ……。


 ナデナデ


 イルティミナさんの白い手が、僕の髪を慰めるように撫でる。


「1歳年上になろうと、ソルとマールの関係は変わりませんよ。心配なさらずに」

「……心配はしてないけど……」


 でも、ちょっと悔しいんだ。


(たかが1歳、されど1歳)


 同い年だったからこそ、彼女に先を越されたような気分なんだ。


 頬を膨らませる僕。


 イルティミナさんはまた苦笑して、それから気を取り直したような声で言う。


「さぁ、ソルの話はそれぐらいにして。今はせっかく2人で出かけているのですから、楽しみましょう?」


(あ……)


 そうでした。


 今の僕らは、ヴェガ国の首都カランカの観光をしようと、街中を歩いている最中なんだ。


「うん、そうだね。ごめんね、イルティミナさん」

「ふふっ、いいえ」


 思い出した僕の謝罪に、彼女は優しく笑ってくれる。


 本当に優しいお姉さんだ。


(うん、今は彼女との時間を楽しもう!)


 僕も気持ちを切り替える。


 ヴェガ国は、赤道に近いからか、とても暑い国だ。


 シュムリア王国なら、晩秋か初冬の時期だけど、カランカにいる僕らの服装は、シャツ1枚だ。


 日差しは強い。


 でも、僕らの歩いている歩道は、左右が水路に挟まれていて、街路樹の大きな葉の下に隠れているので、意外と涼しかった。


(そういう設計なのかな?)


 周囲に並んだ建物は、白い石造りの物ばかり。


 装飾には、黄金がふんだんに使われている。


 だから街の景色は、白色と金色、そして植物の緑色ばかりが占めていた。


 あと当たり前だけど、


(歩いているのは、獣人さんばっかりだね)


 右を見ても、左を見ても、モフモフだ。


 ……ちょっと触りたくなる。


 いやいや、駄目だぞ、マール。そんなことをしたら、痴漢だよ?


(我慢、我慢)


 もしもの時は、いつぞやの時みたいに、イルティミナさんの長くて綺麗な髪を触らせてもらおう、うん。


「?」


 見上げる僕の視線に、お姉さんは笑顔のまま小首をかしげていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 通りには、色々なお店もあった。


「ヴェナ、ボバサ!」

「ウイウイ!」

「ライホー!」


 店員らしい獣人さんが、ドル大陸の公用語で呼び込みをしている。


 ちなみに、この国に来てからの1ヶ月ほどの間に、僕は毎晩、イルティミナさんに抱き枕にされながら、ドル大陸の公用語を教えられていた。


 おかげで、ちょっとぐらいは言葉がわかるようになったんだ。


 なので、さっきの呼び込みは、


(安い、買って、美味しい美味しい、いらっしゃい)


 かな?


「はい、合っていますよ。さすがマールです」


 イルティミナ先生に訊ねたら、笑顔で褒められました。えへへ。


 せっかくなので、店先の商品を眺めてみる。


(ここは食料品のお店かな?)


 並んでいるのは、果物が多い。


 オレンジやバナナみたいな果実が、たくさん並んでいる。


 中には、小さな星みたいな形の赤い果物もあった。


「食べてみます?」


 見ていたら、イルティミナさんにそう聞かれた。


「いいの?」

「はい。アーノルド王子から、ドル大陸の通貨ももらっていますから」

「じゃあ、食べたい」

「はい」


 イルティミナさんは笑って、店員さんに声をかける。


「ロイト、デルック」

「イア!」


 店員のお兄さんは、猫っぽい獣人さんだった。


 肉球のある手で、星形の果物を10個ほど、紙袋に詰めてくれる。


(ありがとう……は、えっと)


「クラロ」


 慣れない発音で言う。


「ベナ!」


 お兄さんは、明るい笑顔で「毎度!」と僕に紙袋を渡してくれた。


 よかった、通じたみたい。


 そんな僕のことを、イルティミナさんは優しい笑顔で見守ってくれていた。


 店を出ると、近くに広場があった。


 そこにベンチがあったので、2人で腰かける。


 早速、味見。


 モグモグ モグモグ


「あ、これ甘いね」

「ですね」


 思ったより、ずっと美味しい。


 僕らは、お互いの顔を見て、笑い合った。


 モグモグ モグモグ


 暑い異国の地で、涼やかな木陰のベンチに座って、大好きなイルティミナさんと一緒に果物を食べながら、楽しい時間を共有している。


 うん、凄く幸せだ。


 そんな中、ふと思ったことを訊ねてみる。


「そういえば、イルティミナさんの誕生日っていつなの?」

「来年ですね」

「来年?」

「はい、まだ数ヶ月も先ですよ」


 へ~、そうなんだ。


「じゃあ、キルトさんは?」

「キルトは……来月だったと思います」


 来月か。


「30歳?」

「ですね」


 はっきり口にした僕の言葉に、イルティミナさんは、女性だからか少しだけ苦笑して頷いた。


 ふ~ん、そっか。


 ちなみに僕の誕生日は、イルティミナさんと出会った日として冒険者登録してある。


(あと3ヶ月かぁ)


 つまり3ヶ月間、僕はソルティスの弟分だ……。


 いや、ま、いいけどさ。


 それよりも、僕は少しだけ気にしていることがある。


「誕生日プレゼント、何をあげたらいいんだろう?」


 青い空を見上げながら、呟いた。


「そうですねぇ」


 モグモグ


 イルティミナさんも果物を食べながら考える。


「去年は何をあげたの?」

「本でしたね」

「本?」

「はい。あの子が欲しがっていた魔導書を」


 ま、魔導書かぁ。


(なんていうか、ソルティスらしいね)


「一昨年は?」

「魔法の杖です。今、あの子が使っている大杖ですよ」


 あ、そうなんだ?


 あれは、イルティミナさんからの誕生日プレゼントだったんだね。


 ただイルティミナさん曰く、当時はソルティスもまだ『青印』だったので、それほど高価な品ではないとのこと。


「今のあの子なら、もっと良い杖を使ってもいいと思いますが」


 ふ~ん。


 魔法の杖、か。


(でも、高そうだなぁ……)


 僕の右手首ある魔法発動体の腕輪も、3万リド――30万円もするんだ。


 もし本格的な大杖を買ったら、何百万円もしそうな気がする。


 モグモグ


(さすがに、友達へのプレゼントの金額じゃないよね?)


 ちょっと保留。


 と、更に果物を食べようと手を突っ込んだら、紙袋の中は空っぽだった。


 おっと、いつの間にか食べきってしまったようだ。


 甘い汁のついた指を舐める。


 と、


「はい、マール」


 気の利くお姉さんは、ハンカチを貸してくれる。


「あ、ありがと」

「いいえ。ソルティスの誕生日までは、まだ日があります。焦らず、観光しながら良いものがないか、ゆっくり探してみましょう?」


 そう優しく笑った。


「うん、そうだね」


 僕も頷いた。


 ソルティスの誕生日も大事だけれど、イルティミナさんとのデートも大事。


(うん、ゆっくり決めようっと)


 指を拭いてハンカチを返し、僕らはベンチから立ち上がった。


「じゃあ、今度はあっちに行ってみようか?」

「はい」


 僕らは手を繋いで、歩きだす。


 この辺は大通りになっているのか、歩道には人も多い。


(……あ)


 その時、僕はモフモフさんだらけの中に、珍しい姿を見つけた。


 それは人間にそっくりで、けれど、その容姿は美しく、何よりも人間とは違って、特徴的な耳が長く伸びている。


 つまり、そう、


「エ、エルフさんだぁ!」

「…………」


 僕の青い瞳は、キラキラと輝きだす。


 逆にイルティミナさんは、なぜか達観した眼差しになった。……はて?


 そのエルフさんは、旅人のようだった。


 大きなリュックを背負い、外套もちょっと汚れている。


 キョロキョロと物珍しそうに周囲を見ているので、初めてこの国を訪れた人、もといエルフさんなのかな? と思った。


 思わず見ていると、


 ドンッ


(あ!)


 よそ見をしていたからか、エルフさんが歩いてくる人とぶつかった。


 エルフさんは、尻もちをついてしまう。


 世界の宝であるエルフさんに怪我があっては大変だ!


 僕は、慌てて駆け寄ろうとして、


 ドンッ


「失礼」


 隣にいたイルティミナさんが、エルフさんとぶつかった男の獣人さんの肩とぶつかっていた。


 ん?


(今、イルティミナさん、自分から当たりに行ったような……)


 ぶつかった男の獣人さんは、驚いたようにイルティミナさんを見返している。


 それから鋭く睨んできた。


「…………」

「…………」


 う……?


 静かな『圧』がシュムリアの新しい『金印の魔狩人』から放たれている。


 獣人さんは青ざめて、文句も言わずに、そそくさと人混みの中に消えていった。


 えっと……。


 どう声をかけようか迷っていると、イルティミナさんの右手に、いつの間にか布袋が握られていた。


「それ……」

「財布です」


 え?


 でも、それはイルティミナさんの財布とは違う形だ。


 彼女はそのまま、エルフさんの方へと歩きだす。


 僕は慌てて追いかけた。


「フイ……」


 尻もちをついていたエルフさんは、地面に落ちた眼鏡をかけ直していた。


 銀色の長い髪をした、綺麗なエルフのお姉さんだ。


 ただ長旅のせいか、髪はちょっと乱れていて、服の汚れもあって、少しだらしない感じだった。


 彼女は眼鏡をかけたことによって、近づく僕らに気づく。


 イルティミナさんは、その前にしゃがんで、持っていた布袋の財布を差し出した。


「レイ、ララント、クロッカ」

「フェ?」


 キョトンとするエルフさん。


 イルティミナさんは、『財布、貴方の、落とし物』と言った気がする。


 エルフさんは、慌てて、すぐに自分の身体中をまさぐって、何も見つからないことを確認する。


「ウェカ! ミミント、クロッカ。クラロ」

「ベナシィ」


 頭を下げて、両手で財布を受け取るエルフさん。


 …………。


 えっと……これって、つまり?


(あの男の獣人さんがエルフさんから財布を盗んで、それをイルティミナさんが盗み返してくれたってこと?)


 僕の視線に気づいて、


 クスッ


 イルティミナさんは、人差し指を唇に当てて、優雅に微笑んだ。


 ほわぁ……。


 僕の惚れた大好きなお姉さんは、なんて素敵なんだろう……。


(思わず、惚れ直しちゃったよ……)


 キラキラした尊敬の視線を向けられて、イルティミナさんは、ちょっとくすぐったそうだった。


 それから、イルティミナさんの手を借りて、エルフさんも起きあがる。


「では、私たちはこれで。――シーナ」


 優しいお姉さんはそう会釈して、立ち去ろうとする。


 ギュッ


 その手を、エルフさんの細い手が掴んでいた。


(え?)


「ウィク、クラロ、アルタッタキータ」

「え?」

「フェン、リリローラ」


 エルフさんは笑顔で話しかけている。


(んっと……?)


 ちょっと流暢な長文すぎて、僕には聞き取れなかった。


 イルティミナさんの横顔を見上げる。


 気づいた彼女は、


「お礼に3人でお茶でもいかがですか? と誘われました」


 と教えてくれた。


 ……エルフさんとお茶できる?


 僕らはお互いの顔を見つめ合った。


 何かを諦めたように微笑んで、彼女は聞いてくる。


「どうします、マール?」

「どうって」


 エルフ好きの僕の答えは、そりゃあ決まっているでしょう。


 ――ということで、僕らは、カランカの街で、この銀髪のエルフさんと一緒にお茶をすることになったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[気になる点] そもそもマールの年齢って、肉体的には10歳くらいだけど、ソルティスの弟分にはなりたく無いからって無理矢理13歳って決めてたよね。 そんなに嫌かぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ