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212・炎魔撃滅!

第212話になります。

よろしくお願いします。

(こんな数、どうしようもないよ!)


 何百と浮かんだ紫色の火球。


 その1つ1つが、とてつもない爆弾のような威力を秘めている。


「く……っ」


 あのキルトさんすら、打つ手がなさそうだった。


『闇の青年』が笑い、その4つの手がゆっくりと上から下へ降ろされる。


(!)


 絶望の火球たちが一斉に僕らめがけて落ちてきた。


(もう駄目だっ)


 表情が強張る。


 僕を抱きしめるイルティミナさんも目を閉じて、少しでも爆発から僕を守ろうとするように覆い被さってくる。


 ポーちゃんの水色の瞳も、悔しげに『紫色の火球』の雨を睨んでいた。


 その時、


 ヴォオオン


 そんな僕ら4人の姿を、紅い輝きが包み込んだ。


 そして、


 ドゴゴゴォオオオン


(う、わぁあああ!?)


 凄まじい爆発が周囲で巻き起こった。


 大地が抉れ、吹き飛んだ瓦礫が紫色の爆炎に溶かされていく。


 衝撃波は、周囲にあった建物を吹き飛ばし、見張り台をひしゃげさせながら、空の彼方へと運んでいく。


『聖神樹』の巨体が揺さぶられ、上空から砕けた結晶が落ちてくる。


 破壊と破滅の空間。


 全てが紫の炎に包まれた世界。


 その地獄のような世界は、30秒以上も続いた。


 そして、


「…………」


 爆炎が消え去り、ようやく落ち着いた大地の上で、僕は生きていた。


 ……目の前に()()()()がある。


 僕とイルティミナさんを包み込む繭のような、()()()があったんだ。


 なんだ、これ?


 ヒィイン


 呆然とする僕の目の前で、光の繭の表面を、紅い文字が走り抜けていった。


(あ……)


 それは『神文字』だった。


 思い出されるのは、アルン神皇国で出会った美しい神牙羅の女性の姿だ。


「……レクトアリス?」


 それは、彼女の用いる神術だった。


『闇の青年』の放った火球を防ぎ切る、絶対防御の結界魔法。


 見れば、僕だけでなく、キルトさんやポーちゃんも、その紅い結界に包まれて無事だった。


 2人も驚いた顔をしている。


 思わず僕は、あの優雅なレクトアリスの姿を探してしまった。


「あ……」


 でも、見つけたのは別人だった。


 玩具みたいな杖を2本、両手にかざして、寝癖だらけの髪を風になびかせるハイエルフさん――その足元に、紅い神文字の魔法陣が浮かんでいる。


「……大成功」


 コロンチュードさんは、そうホッとしたように呟いた。


(……人が、神術を?)


 その事実に、僕は驚愕していた。


 いや、正確には、僕の中のアークインがだ。


 ソルティスがレクトアリスから教わったという神術のレポート、それを彼女は確かに、2ヶ月前に受け取っている。


 でも、たった2ヶ月で?


 神界の奥義ともいうべき神術を、あの『金印の魔学者』である大魔法使いは、使ってみせたのだ。


 ヒュウン


 僕らを包んでいた紅い結界が消えていく。


「……はぁ、はぁ」


 コロンチュードさんの額には、大量の汗が浮かんでいる。


 さすがの彼女でも、神術を使うのは、脳に相当な負荷があったみたいだ。


 ガクッ


 その膝が崩れる。


 ソルティスが慌てて駆け寄る。


 けれど、大魔法使いの瞳は、僕らのことをしっかりと見据えていた。


「――さぁ、やっちゃえ」


 小さな呟き。


 けれど、熱く強い意志が伝わってくる。


 …………。


 その思いに、胸が焼ける。


「うん!」


 僕は立ち上がった。


 イルティミナさんも、キルトさんも、ポーちゃんも同じ表情で立ち上がる。


 僕ら4人は、再び『闇の青年』へと向き直った。


『……っっ』


 奴の表情には、動揺があった。


 まとっていた闇のオーラが薄くなっている。


 あれだけの力を使って、消耗したんだ。


 奴にとっても、今の攻撃は、僕らを仕留める大きな覚悟を持って放たれたものだったようだ。


 だからこそ、


(今がチャンスだ!)


 僕らはそう確信して、再び息を合わせて仕掛けようとする。


 その時だ。


「ぬ?」

「消えた……?」


 キルトさんとイルティミナさんの動きが止まった。


(え?)


 僕の前にいる『闇の青年』の様子に変化はない。


 けれど、2人の視線が『闇の青年』から外れている。


 そうだ……『闇の子』は、人の目に映らない能力があった。


(こいつも、同じ能力を持ってるのか!)


 そう気づいた。


(キルトさん!)


 僕は、キルトさんに声をかけようとした。


 かつてのケラ砂漠の時のように、僕の視線と剣気の向かう先から、相手の位置を見極めてもらおうと思ったんだ。


 でも、


「そこか」


 銀髪の美女は、こちらを一度も見ずに『雷の大剣』を振るった。


 バヂィイン


『闇の青年』は、慌てて黒い手で受け止める。


(え……?)


 驚く僕。


 キルトさんは笑いながら、目の前の見えぬ闇へと告げた。


「目に見えぬ力の流れは、すでにマールのおかげで覚えたのでな!」


 と。


 ……僕のおかげって、


(まさか、あの特訓のこと!?)


 神気の流れを知ろうとしたあの特訓の結果、彼女は、見えない『闇の青年』の位置までわかるようになってしまったの?


 信じられない。


 キルト・アマンデスという人物は、更に強くなっている。


 いまだに成長しているのだ。


「……恐ろしい人間」


 ポーちゃんも愕然だ。


 でも、イルティミナさんには、まだその芸当は無理なようで、真紅の瞳には迷いがあった。


「ソル!」


 キルトさんが叫んだ。


 コロンチュードさんを支えていた少女は、ハッとする。


 すぐに大杖を構えて、魔法石を輝かせた。


「見ててください、コロンチュード様!」


 そう言って、


「闇のベールを払え、光の聖域よ! ――トゥー・ラティ・ダムド!」


 大杖を振りかざした。


 パァアアアン


 魔法石が煌めくと、キルトさんを中心とした半径20メードの空間が半球状の光に包まれる。


 当然、そこには向き合う『闇の青年』も含まれていて、 


「見えた」


 イルティミナさんが呟いた。


 これは、対『闇の子』用に、コロンチュードさんが開発してくれた新魔法だ!


(ナイスだよ、ソルティス!)


 僕は心の中で称賛する。


 魔法を成功させた少女に、コロンチュードさんも満足そうに親指をグッと立てた。


 それを見たソルティス、凄く嬉しそう……。


「ぬん!」


 ガキィン


 キルトさんが『闇の青年』の手を弾き、一旦、間合いを離す。


(よし!)


 僕は、左右の手にある『妖精の剣』と『マールの牙・弐号』を構え直した。


 他の3人も、それぞれの武器を構える。


 ゆっくりと呼吸する。


 呼吸が1つに重なる。


(今!)


 タンッ


 僕らは一斉に走った。


 キルトさんの『雷の大剣』、イルティミナさんの『白翼の槍』、ポーちゃんの『龍鱗の拳』、それに僕の二刀流が加わって、『闇の青年』を襲った。


 バヂッ ヒュゴッ ゴンッ ヒヒュン


 暴風のような攻撃。


『っっ』


 けれど『闇の青年』の黒い4本の腕は、その全てを防いでしまう。


 ガンッ ギギィイン


 轟音が弾け、火花が散る。


 凄まじい技量だ。


(さすが、『悪魔の欠片』!)


 攻撃と防御が拮抗していた。


 この状況を打開するには、もう1手が必要だ。


 もう1手……、


 ガキン


 僕の左手にある『マールの牙・弐号』が、闇の手に受け止められた。


 瞬間、


「精霊さん!」


 ジ、ジガァアア


 僕の左腕にある『白銀の手甲』の魔法石から、『白銀の狼』の頭部だけが飛び出した。


『!?』


 ガシュッ


 黒い手首が噛み千切られる。


「やぁああ!」


 同時に僕は、更に踏み込んで、『妖精の剣』を振り落とした。


 ザキュン


 肩の付け根辺りから、腕を1本、切断する。


「見事じゃ、マール!」


 キルトさんが賞賛する。


 間髪入れず、失われた腕の箇所を目がけて、イルティミナさんの白い槍が襲った。


「シィッ!」


 キュボッ ガチィン


 辛うじて別の黒い手が、それを弾いた。


 弾いた瞬間、その懐に、竜角と尻尾を生やした幼女が飛び込んでいく。


「はっ!」


 白く輝く拳が腹部に当たる。


 ボゴンッ


 波紋のように肉が波打ち、『闇の青年』が苦悶の表情を浮かべた。


 別の黒い手が、ポーちゃんを掴もうと伸ばされる。


 トッ


 小さな手がその手首を軽く押さえ、


 シュルン


 彼女が軽く身を捻ると、まるで合気道のように、『闇の青年』の2メードもある巨体が縦に回転した。


 ドダァン


 地面がひび割れるほどの威力の投げ。


 衝撃で跳ね上がった巨体へと、『神龍の幼女』は容赦なく、アッパーカットを繰り出した。


「ポォオオ!」


 裂帛の気合。


 その小さな光る拳は、黒い背中へとメキキッとめり込んだ。


 そして、


 ゴパァアン


 2メードの巨体が、天高くへと飛ばされる。 


 大空へと打ち上げられた『闇の青年』。


 キルトさんが『雷の大剣』を横向きに、大きく振り被った。 


 その黄金の瞳に、魔力の光が宿る。


 その筋肉が引き締まる。


『雷の大剣』の正面に、青い放電が集まっていく。


 そして、


「――鬼神剣・絶斬!」


 最強の『金印の魔狩人』は、自身の最大奥義を上空めがけて解き放った。


 リィン


 三日月をした青い雷。


 なんの遮蔽物もなく、地上のように被害も出ることのない空へと開放された、キルト・アマンデス全力の1撃は、『闇の青年』へと命中する。


 リィィイイン


 いや……!?


 残された3本の手のひらが、青い三日月を受け止めていた。


(嘘だろ……?)


 思わぬ光景に、僕は唖然となった。


 ポーちゃんも目を見開き、キルトさんは、大剣を振り抜いた体勢で、「ぬう!」と低く唸る。


 と、その時、


「――羽幻身・一閃の舞!」


 イルティミナさんがそう叫びながら、『白翼の槍』を振りかざした。


 バササッ


 槍の紅い魔法石から光の羽根が吹き出し、イルティミナさんにそっくりの巨大な『光の女』の上半身へとなっていく。


 その手にあるのは、巨大な『光の槍』。


 空に生まれた巨大な『光の女』は、その手にある『光の槍』を、『鬼神剣・絶斬』を受け止めることで無防備となっている『闇の青年』の背中めがけて、凄まじい勢いで振り下ろした。


 ドパァアアン


『ぎあ……っ!』


 直撃。


 その威力によって、胴体が2つに切断される。


 同時に、その衝撃によって、3本の黒い腕が防御から外れてしまった。


 リィイン


『鬼神剣・絶斬』の三日月型の雷は、その瞬間に、『闇の青年』を縦真っ二つに切断する。


 ……あ。


 4つに分断された『闇の肉体』。


 そこにある虚無の如き黒瞳が、憎々しげにこちらを睨んでいる。


 そこめがけて、


 ドパァアン


 シュムリアの新しい『金印の魔狩人』が投擲した白い槍が、直撃した。


 頭部が完全に粉砕された。


 落下する4つの肉片。


 それが紫色の炎を発して、その肉体は溶けるように消えていく。


 その全ては、地上に落ちる前に燃え尽きてしまっていた。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕ら4人は、固唾を飲んで、それを見届けた。


 少し離れた場所で、


「……さっすが」


 コロンチュードさんが、緊張感のない声で呟いた。


 ソルティスも、両手を握り締めている。


「凄い、凄いわ、イルナ姉!」


 あの恐ろしい敵へと、とどめを刺した自身の姉に、涙目になって感動しているようだった。


「ふぅ……っ」


 僕は、短く息を吐く。


 そして、イルティミナさんを振り返った。


 視線に気づいて、彼女は、真紅の瞳で僕を見返すと、微笑みながら大きく頷いてくれる。


(うん)


 僕も笑った。


 この世に現れた双子のような2体の『悪魔の欠片』、その片方を僕らは倒したんだ――。

ご覧いただき、ありがとうございました。


ラクビーW杯日本VSスコットランド戦、ラクビーは詳しくないですが、見ていて本当に胸が熱くなりました!

日本代表、本当におめでとうございます!

(小説に関係なくてすみません。それでも書かずにいられませんでした)


※なお『転生マールの冒険記』の次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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