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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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209・マール一行VS魔法生物キメラ!

第209話になります。

よろしくお願いします。

 キメラを迎え撃つため、僕らは『獣車』の屋根に登った。


「車両の足を止めるな」

「おう!」


 キルトさんの指示に、御者席に座るアーノルドさんは、手にした釣り竿のような鞭を振るう。


 パシン


 象のような獣は、お尻を叩かれ、速度を上げる。


 前方を見ていたイルティミナさんが、その真紅の瞳を細めた。


「あれですね」


 僕らの視線も、そちらに向く。


 渓谷の岩場の中を、土煙を上げ、こちらへと向かってくる巨大な生き物が見えている。


 体長5メードはある巨大獅子だ。


 その背中には、黒い山羊の頭部が生えていて、長い尾は、鱗に包まれた蛇になっていた。


 様々な動物の特徴を合成された魔法生物。


(あれがキメラ!)


 初めて見る異形の怪物に、僕は緊張と興奮を覚えている。


 と、


「上にもいるわ!」


 ソルティスの小さな指が上方を示した。


(え?)


 前方上空の崖と崖の間にかけられた岩の橋のような、『大王種』の巨大な蛇の骨の化石の上に、黒い影が佇んでいる。


 巨大な猿だ。


 体長は、5メード。

 獅子キメラと同じぐらいのサイズ。


 ただ、その紅い血のような瞳は、顔面に4つもある。


 そして、その黒い体毛に包まれた背中からは、蝙蝠みたいな皮膜のある翼が生えていた。


「2体だけか」


 周囲を確認し、キルトさんは頷いた。


 そして、


「マール、イルナ、上の巨大猿は任せるぞ」

「あ、うん」

「はい」

「ポーは、わらわと共に、接近してきたキメラの迎撃じゃ」


 コクッ


 ポーちゃんも頷いた。


「ソル、コロン、そなたらは魔法で奴らを攻撃せよ」

「わかったわ」

「……ん」


 魔法使い2人も承知する。


「わらわたちの目的は、この『渓谷の通過』じゃ。キメラどもを倒す必要はない。優先するのは足止めじゃと心得よ!」


(うん!)


 キルトさんの言葉に、僕らは皆、もう一度頷く。


『ギャボォオオ!』


 その時、巨大猿キメラが吠えて、蛇の化石の肋骨部分をへし折って、僕らの獣車へと投げつけてきた。


 ブォオオン


(うわっ!?)


 回転しながら、3メードはある骨の柱が迫ってくる。


 キルトさんが1歩、前に出た。


「ぬん!」


 バギィイイン


 雷の大剣が、それを打ち砕く。


「わ?」

「きゃ?」


 破片の一部が飛んでくる。


 数百年以上も現存した『大王種』の骨は、粉々に破壊され、瓦礫となって地面に落ちていった。


 ベキッ バキン


 僕らの獣車は、それを踏み潰しながら進んでいく。 


 銀髪をなびかせながら、『金印の魔狩人』の背中が僕らの前に仁王立ちしている。


 黄金の瞳が振り返り、


「さぁ、皆、行くぞ!」


 キルトさんの鋭い声が渓谷に響く。


 ――そして、僕ら6人とキメラたちの戦闘が始まった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「マール、私がサポートします。貴方は直接、あのキメラを狙ってください」

「うん!」


 イルティミナさんの指示に、僕は頷く。


 そして、すぐに『神武具』の球体を取り出して、頭上へと掲げた。


神武具コロ、僕に翼を!」


 パアァン


 僕の願いに反応して、球体は光の粒子に弾けた。


 それは僕の背中に渦を巻いて集束し、虹色に輝く美しい金属の翼を形成する。


(よし!)


 バサァッ


 巨大な翼をはためかせ、僕はフワリと空中に浮かんだ。


 狙うのは、巨大猿のキメラ!


 前方上方の『蛇の骨の化石』の橋にいるアイツへと、僕は青い瞳を向ける。


 そして、


「羽幻身・白の舞!」


 ヒュオン


 イルティミナさんが槍の魔法石を輝かせると、そこから大量の光の羽根が吹き出した。


 それは、3人の『槍を手にした光の女』たちへと集束する。


 どこかイルティミナさんに似た面影のある『光の女』たち。


「さぁ、マールを守りなさい!」


 イルティミナさんの声に、3人の『光の女』たちは、僕のいる空中へと舞い上がる。


 僕の青い瞳とイルティミナさんの真紅の瞳の視線が合う。


 僕は頷く。


 そして、大きな翼を羽ばたかせると、一気に急上昇した。


 3人の『光の女』たちもついてくる。


 と、


「――来るぞ!」


 僕が飛び立った瞬間、キルトさんの警戒する声が背中にぶつかった。


 思わず、視線を落とす。


 前方地上から土煙を上げて走り、接近する獅子型キメラ――その背中に生えた山羊の頭部が、モゴモゴと口を動かし、その正面にタナトス魔法文字が展開していた。


(え……?)


 我が目を疑った。


 次の瞬間、そのタナトス魔法文字から、凄まじい紫電が獣車めがけて迸った。


 バヂィイイン


 合わせるように、獣車の屋根でポーちゃんが前に出る。


 メキキッ


 金髪の中に竜角が生え、手足には鱗が生えて、スカートの奥から竜の尻尾が伸びる。


「ポォオオオオオ!」


 神龍の幼女は叫んだ。 


 ヂヂィイン


 襲いかかった紫電はその咆哮とぶつかり、『獣車』の正面で弾けて、地面へと落ちていく。


 ドッ ドドン


 岩盤が焼かれ、弾ける。


「ナイスじゃ、ポー!」


 キルトさんの称賛。 


 あの魔法の紫電が直撃していたら、獣車は一たまりもなかった。


 っていうか、


(あのキメラ、魔法を使うの!?)


 僕の心の中を、驚きが走り抜けている。


 獅子型キメラは、獣車へと飛びかかり、その獅子の前足で襲いかかった。


「ぬん!」


 ガキィン


 巨大な爪の一撃を、キルトさんの『雷の大剣』が弾き、衝撃で青い雷が飛ぶ。


 そのタイミングに合わせて、


「あの凶獣を吹き飛ばせ! ――バ・ドゥーグ・ファン!」


 ソルティスの大杖の魔法石が輝く。


 ドパァアン


 強烈な突風が吹きだして、獅子型キメラを弾き飛ばした。


 獣車は、そのまま走り抜ける。


 空中で姿勢を直し、着地した獅子型キメラは、すぐに獣車を追走し始めた。


 ……地上は大丈夫。


(よし!)


 数秒間のよそ見を終え、自分に集中する。


 僕の相手は、巨大猿キメラだ!


 巨大な蛇の骨の上にいる奴めがけて、僕は手にした『妖精の剣』を構えながら、空を飛ぶ。


 と、


 ヒュオン


『光の女』の1人が僕より先行して、巨大猿キメラへと襲いかかった。


 光の槍が突き出される。


(速い!)


 本家イルティミナさんにも勝るとも劣らない攻撃。


 けれど、それは空振りした。


 巨大猿キメラは、ピョンと後方に避けたのだ。


(え……?)


 蛇の骨の化石の橋は、高さが50メード。


 そこからの飛び降りは、完全に予想外だった。


 と、次の瞬間、


 ギュルン


 長い尾を蛇の背骨に巻きつけていた奴は、それを支点に、空中で円を描くように移動した。


(!?)

 

 現れたのは、僕らの後方。


 一瞬で前後の位置を入れ替えられた僕は、慌てて振り返る。


 トン


『光の女』の1人が、僕のことをその光る手で突き飛ばした。


 バキュッ


 鋭い牙の生えた巨大猿の口が、その『光の女』の上半身を噛み千切った。


(あ)


 残された『光の女』の下半身は、光の羽根となって散り、消えていく。


 ほんの一瞬の出来事。


 …………。


 ……僕をかばって……!


 イルティミナさんに似た『光の女』の消滅に、思った以上に衝撃を受ける。


 ズン


 巨大猿キメラは、再び蛇の骨の上に着地した。


(この!)


 僕は怒りと共に翼をはためかせ、襲いかかる。


 バキンッ


 奴は、足場となる蛇の肋骨の1本をへし折り、こん棒のように構えた。


 と、


 ドパァアン


 白い閃光が走り、その骨のこん棒が砕け散った。


(!)


 見れば、地上にいるイルティミナさんが何かを投げた体勢でいる。


 白い槍の投擲。


 最初の言葉通り、それで僕の援護をしてくれたのだ。


(よし!)


 勇気100倍となった僕は、そのまま巨大猿の懐へと突っ込み、『妖精の剣』を閃かせた。


 ヒュン


 追随した2人の『光の女』たちも、光の槍を振るう。


 ヒュオ ヒュオン


『ギョアア!?』


 頭部を庇った巨大猿キメラ――その太い両腕を切断する。


(やった!)


 と思ったら、


 ジュオオオ


 切断した両腕は、緑色の光を放ち、白煙をあげて一気に接続された。


(……は?)


 今のは、回復魔法の光だ。


 まさか……。


 まさか、このキメラも魔法を使えるの!?


 あるいは、それと同等の機能が、この魔法生物の肉体には備わっている!


(なんて、ふざけた生き物だ!)


 愕然となる僕めがけて、修復された両腕が迫る。


「くっ!」


 ビュオッ


 翼をはためかせ、何とか回避。


 けれど、その後ろにいた『光の女』の1人が、その猿の手に捕まれて、そのまま握り潰された。


 ボヒュッ


 光の羽根が舞い散る。


 その輝きが僕の顔を照らしている。


(くそ!)


 彼女たちはイルティミナさんじゃないけれど、まるでイルティミナさんを傷つけられたような気持ちになってしまう。


 シャッ


 僕は、腰ベルトの後ろに差していた『マールの牙・弐号』を左手で抜いた。


 二刀流だ。


 回復するなら好きにしろ!


(それが間に合わない速度で、斬り裂き続けてやる!)


 僕は、覚悟を持って奴を睨む。


 巨大猿のキメラは、


 バキッ バキン


 まるで僕を真似るように、また蛇の肋骨を2本へし折って、こん棒のように二刀流で構えた。


 猿真似なんて、冗談じゃない。


 ボヒュン


 と、その時、また白い閃光が走った。


『ギョアア!』


 ガキィイン


 二度目は喰らわないとばかりに、イルティミナさんの槍をこん棒の1本が弾き、角度を変えさせて回避する。


 今だ!


 その生まれた隙を狙って、僕は襲いかかった。


 バヒュッ


 翼をはためかせ、一気に接近。


「やぁああ!」


 二刀流を振るう。


 でも、その寸前、それを予期していたように、巨大猿キメラのこん棒のもう1本が僕めがけて投げつけられた。


(!?)


 ガィイン


 金属の翼を盾にして、それをなんとか防ぐ。


 すぐに翼を開き、顔を上げた。


 その目の前で、もう1本のこん棒が、残った『光の女』を叩き潰していた。


 ドパンッ


 光の肉体がひしゃげ、光の羽根へと砕ける。


(~~~~)


 ――強い!


 思った以上のキメラの強さに、僕は、もう迂闊に飛び込めない。


 空中にいる僕の青い瞳と、巨大猿キメラの4つ赤い眼球は睨み合う。


 …………。


 そして、僕らが睨み合っている間に、地上でも戦いは続いていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 逃げる獣車を、獅子型キメラは追う。


 明らかに獅子型キメラの方が足が速くて、キルトさんたちのいる獣車は、簡単に追いつかれてしまう。


「ちっ」


 舌打ちするキルトさん。


『ギャオオン!』


 獅子の咆哮と共に、また前足の攻撃が繰り出される。


 ガィン バヂィン


 キルトさんの『雷の大剣』がそれを弾く。


 少し間合いが開く。


 瞬間、山羊頭が魔法を唱え、雷魔法が撃ちだされた。


 バヂヂッ


「ポォオオオオオ!」


 ポーちゃんの雄叫びが、それを防ぐ。


 と、獅子型キメラの尾となっていた蛇が、その鎌首を持ち上げ、獣車の屋根へと向いた。


 その口が大きく開く。


 ギョパァ


「ぬ!?」

「ちょ……!?」


 緑色の液体が吐き出された。


 屋根の上にいたみんなは、何とか回避する。


 けれど、屋根にかかった液体からは、強い異臭が漂っていた。


「毒液じゃ!」


 気づいたキルトさんが叫ぶ。


「この……バ・ドゥーグ・ファン!」


 ソルティスの突風魔法が、大きな蛇の頭部を弾き飛ばした。


 獅子型キメラは、獣車と並走する。


「ええい、このままでは埒が明かぬ!」


 美貌をしかめるキルトさん。


 そして彼女は、


 タンッ


 獣車の屋根を蹴って、なんと並走している獅子型キメラの背中に飛び乗った。


「わ、キルト!?」


 長年のパーティー仲間である少女も驚く荒業。


「まずは貴様からじゃ」


 シュムリアの誇る『金印の魔狩人』は、そのまま山羊の頭部を攻撃しようとする。


 けれど、


「む!?」


 ガヒュン


 長い尾の蛇がキルトさんに噛みつこうとする。


 銀髪をなびかせ、かわすキルトさん。


 いつもならば、そのまま反撃できるけれど、そうはさせまいと足場となる獅子型キメラが走りながら巨体を揺すり、飛び跳ねる。


「ちぃ!」


 落ちないようにするので精一杯。


 魔法を使う山羊頭を倒すこともできず、蛇による邪魔もあって、さすがの彼女もどうにもできなかった。


 タンッ


 獅子の背中を蹴って、獣車の屋根へと戻ってくる。


「なんと面倒な相手じゃ」


 思わず悪態をこぼしている。


 そして、苛立ったキルトさんの視線は、もう1人の『金印の魔学者』へと向けられた。


「おい、コロン!」

「……ん?」

「そなた、先ほどから何もしておらぬではないか! そなたも手を貸せい!」


 そう怒鳴る。


 それを受けたコロンチュードさんは、眠そうな目をキルトさんに向ける。


 それから、


「……大丈夫。……必要なのは13匹ってわかったから」


 と呟いた。


「13匹……?」


 キルトさんは怪訝な顔をする。


 と、その後方から、獅子型キメラの巨大な前足が襲いかかってきた。


「ちっ!」


 ガキィン


 気づいたキルトさんは、すぐに弾く。

 

 山羊頭の魔法は、


「ポォオオオオ!」


 ポーちゃんが防ぎ、


「こっち向くな! バ・ドゥーグ・ファン!」


 毒液を吐く蛇は、ソルティスの突風魔法が牽制していた。


 ガタ ガタン


 揺れる獣車の屋根。


 そこに、コロンチュードさんの白い手は、リュックの中から取り出した『瓶』を並べていく。


 コト コト コト……


 その数、13個。


 そして、そのガラス容器の中にあったのは、大小の魚の骨だ。


 気づいたイルティミナさんが呟く。


「それは……航海中の食事の時に、ソルたちから集めた魚の骨ですか?」

「……そ」


 頷くコロンチュードさん。


 その手にあるのは、30センチほどの玩具みたいな魔法の杖。


 その小さな魔法石が光っている。


 猫背のハイエルフさんは、その小さな杖を、まるで指揮棒のようにユラユラ揺らして、


 コン コン コン……


 最後は、13個の瓶の蓋を軽く叩いていく。 


「……準備終わり」


 そう満足そうに呟いた。


 そして、その小さな魔法の杖の先をクルクルと回転させると、 


「……さぁ、やっちゃって」


 ピカッ


 まるでフラッシュが焚かれたように、13個の瓶に向けて、魔法の光を放ったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 光を浴びた13個の瓶の蓋が、一斉に開いた。


 そこから、『魚の骨』たちが飛び出す。


「ぬ!?」

「うえ!?」

「…………」


 キルトさん、ソルティスは空中を飛ぶ『魚の骨』に驚き、ポーちゃんだけは無反応だ。


 メキョ メキョキョ


 13匹の『魚の骨』たちは、1つに集まっていく。


 骨たちが砕ける。


 そして絡み合い、膨張する。


 できあがったのは、空中に浮かんだ体長2メードの骨で創られた巨大魚だ。 


『骨の巨大魚』は、空中を泳ぐ。


 ヒュオオ


 まるで水中を移動するように速く、しなやかな動き。


 そのまま真っ直ぐに獅子型キメラへと向かう。


 気づいた蛇の尾は、大きく口を開いた。


 ギョパァ


 吐き出される毒液を、『骨の巨大魚』はまともに浴びた。


 けれど、生物ではないので当然、効果はない。


 開いた巨大魚の口には、鋭い牙が並んでいて、


 ガキュン


 それはあっさりと蛇の鱗を噛み千切り、その尾の根元から引き千切った。


『ギャオ!?』


 獅子の顔が苦悶に歪む。


『骨の巨大魚』は、白い体をくねらせて方向転換し、魔法を唱えようとしていた山羊頭にも噛みついた。


 メキョ ベギン


 山羊の目玉が潰され、その頭蓋が砕かれる。


 山羊の頭部は、その痛みによってか、その首を激しく前後左右に暴れさせた。


 けれど、その巨大魚の牙は離れない。


 そして、


 ガギョン


 その頭部を、脳ごとかじり落とした。


 山羊頭から噴き出した激しい出血が『巨大魚』の身体を濡らす。


 山羊の頭部は、デロンと獅子の背中で垂れ下がった。


『ギャオオオン!』


 獅子の顔が、絶叫した。


 それは痛みに悶えているようにも、仲間の死を悲しんでいるようにも思えた。


 呆気に取られていたキルトさん。


「キルキル」


 そんな彼女を、コロンチュードさんが呼んだ。


 ハッとする。


 そして銀髪の美女は、小さく舌打ちすると、


「ようやった。あとは任せよ」

「ん」


 タンッ


 獣車の屋根から跳躍した。


『雷の大剣』を逆手に構えて、


「――鬼剣・雷光斬」 


 刀身内の青い雷を放出させながら、獅子型キメラの背中に着地をすると同時に、その大剣を突き刺した。


 ドシュ


 そして、


 バヂィイイン


 青い雷光が世界を染める。


『~~~~っっ!』


 獅子型キメラは、声にならない悲鳴をあげた。


 その口から白煙を吹き、傷口から溢れる血液を沸騰させながら、数秒後に絶命する。


 そのまま大地へと激しく転倒した。


 その直前、


 タンッ


 キルトさんは、獅子の背から跳躍していた。


 空中を泳いでいる『骨の巨大魚』を足場にして、もう1回跳躍し、獣車の屋根へと帰ってくる。


「ふぅ」


 吐息をこぼす。


 立ち上がった背中で、長い銀髪がなびく。


「キルト~!」


 ソルティスが抱き着いた。 


 気づいたキルトさんは笑って、その髪を撫でてやる。


 それから上げられた視線の先では、分解した『骨の巨大魚』が13匹の『魚の骨』になって、瓶の中へと戻っていく光景があった。


「……よしよし」


 愛おしそうに見つめるコロンチュードさん。


 その隣で、ポーちゃんも人の姿に戻った。


 ポンポン


 幼女の小さな手が、労うように『金印の魔学者』の曲がった背中を叩いている。


 気づいて、嬉しそうに笑うコロンチュードさん。


「…………」


 その姿に、キルトさんの口がへの字に曲がっている。


 やがて、大きく息を吐く。


 それから、彼女の視線は空を見上げた。


「次は貴様の番じゃぞ、マール」


 その口がそう呟いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その地上の様子は全て、『神武具コロ』が直接、僕の脳内へと伝えてくれていた。


(うん!)


 美しい師匠の言葉に、僕は心の中で頷いた。


 改めて、目の前にいる巨大猿キメラを見つめる。


 その手には、巨大な骨のこん棒がある。


 3人の『光の女』たちを倒したように、知力も筋力も優れていて、肉体もすぐに修復される。


 とてつもない戦闘力だ。


(出し惜しみしてる場合じゃない)


 僕は大きく息を吸い、


「――神気開放!」 


 体内にある神なる力を解き放った。


 ギュオオオ


 茶色い髪の中から獣耳が生え、お尻からもフサフサした尻尾が伸びていく。


 神気の放散する白い火花が、周囲で散った。


『ギョワ!?』


 巨大猿キメラは、僕の変化に驚いたようだった。


 その隙を見逃す必要はない。


 ヴォン


 僕は、背中にある金属の翼を虹色に輝かせ、一気に襲いかかった。 


「やぁああ!」


 手にした二刀を振るう。


 応じるように巨大猿キメラは、骨のこん棒を振り返してきた。


 ガギィイイン


 正面からぶつかる。


 骨の化石の破片が散り、弾かれたのは、こん棒の方だった。


『ギッ!?』


 愕然とした猿の顔。


 自分の3分の1にも満たない小さな存在が、自分よりも強い腕力だったことに驚愕していた。


 追撃する僕。


 ヒュン


 その剣が空を斬った。


 巨大猿キメラは、また空中へと逃れていた。


(また尻尾を使って後ろへ回り込むつもり!?)


 そうはいかない。


 素早く反転して警戒した僕だったけれど、


「!?」


 その瞬間、蛇の骨に絡めていたキメラの尻尾が、スルッとほどけた。


 代わりに、巨大な猿の背中に生えていた蝙蝠のような翼が、大きく開いている。


(しまった!)


 騙された。


 後ろに回ると見せかけて、回らない。


 一瞬の駆け引き――そこで負けてしまった。


 巨大猿キメラは、そんな僕めがけて、空中からこん棒を投げつけようとしていた。


 その時、


 ドパァアン 


 白い閃光が、その巨大猿キメラの蝙蝠のような皮膜を貫いた。


(あ……)


「サポートすると言ったでしょう、マール」


 地上のあの人が微笑む。


 僕の胸に、感謝と歓喜が湧きあがる。


 空中でバランスを崩した巨大な猿の顔は、愕然となっていた。


 そこめがけて、僕は突っ込む。


「やぁあああ!」


 手にした2本の愛剣を、交差するように閃かせた。


 ヒュココン


 巨大な首が切断される。


 胴体と離れた頭部。


 けれど、吹き出す血液の向こう側で、また緑色の光が輝いている。


(そうはいくか!)


 ギュルン


 自分を包み込むように、翼を折りたたむ。


 虹色に煌めく、鋭利な紡錘形。


 そのまま僕はドリルのように回転しながら、空中にある巨大猿キメラの頭部へと激突した。


 ギュルル ドパァアン


 肉を抉り、骨を砕き、頭部を破裂させるように破壊した。


 バフッ


 通り抜けた先で、血肉を払うように翼を開放する。


「ぷはっ……はぁはぁ!」


 空中で振り返った。


 頭部は粉々になっていた。


 再生はしない。


 そして、残された胴体部分も、首の切断面を緑色に輝かしながら、けれど、その光を弱めながら地上へと落下していく。


 ズズゥン


 数秒後、遥か地上で土煙があがった。


 仰向けになり、手足が可笑しな方向に折れ曲がった猿の巨体。


 もはや動く気配はない。


(やった……っ!)


 それを見届けた僕は、剣の柄を握る手に力を込めて、勝利を確信する。


「マール!」


 地上から、あの人の声がした。


 見れば、まるで自分のことのように、嬉しそうな笑顔をこちらに送ってくれている。


「うむ! ようやったぞ」

「お疲れ~!」

「……凄いぞ、マルマル~」

「…………」


 他のみんなも、空にいる僕へと手を振ってくれていた。


 僕も破顔した。


 それから、青い空へと大きく息を吐く。 


 そうして僕は、地上を走る獣車めがけて、ゆっくりと空から降下をしていった――。

ご覧いただき、ありがとうございまし


この作品は、月水金の0時以降(日火木の24時以降)に週3回更新しています。次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。

もしよかったら、お時間のある時に、どうかまた読んでやって下さいね~。

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