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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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206/825

204・新大陸ドル

第204話になります。

よろしくお願いします。

 僕らの乗った『王船』は、遥か遠方に見える大陸へと近づいていく。


(あ……町だ)


 陸地の一角に、港町らしきものが見えた。


 見たことのない新しい土地。


 緊張と興奮が、僕の小さな胸を熱くする。


 やがて『王船』のマストに、シュムリア王国の大きな国旗が掲げられた。


 バササッ


 女神シュリアン様を模した国章が、風にはためく。


(この船が、シュムリアから来たんだって、向こうに知らせるためかな?)


 そう思った。


 港には、大小たくさんの船が停泊、航行している。


 漁船。


 商船。


 軍船。


 色んな船があった。


 その内、100メードほどの大きな軍船が5隻、こちらに接近してくる。


 船首には、『翼の生えた獅子』の彫像。


 その下部には、巨大な衝角ラムが鋭く突き出ている。


 甲板や側面には、大砲の砲身も見えていた。


(…………)


 近づく軍船たちに、ちょっと緊張する。


「心配いらぬ。あれはヴェガ国の海軍じゃ」


 キルトさんが教えてくれた。


 と、その5隻の内、先頭の1隻から、たくさんの何かが空へと飛び上がった。


(え……?)


 最初は、巨大な鳥かと思った。


 でも、すぐに気づく。


(違う、あれは人だ!)


 鷲の頭部を持ち、背中から翼を生やしている鳥人の騎士さんたちだった。


 バサッ バササッ


 彼らは『王船』の前方の空で隊列を作ると、手にした槍をこちらに構えた。


 陽光に、穂先がギラリと煌めく。


(え? え?)


 突然の事態に、僕は慌ててしまう。


 でも、キルトさんたちは落ち着いた様子だった。


 青い空を飛んでいる鳥人騎士隊。


 その先頭にいる、一際体格の大きな鳥人さんが嘴を開き、大きな声を発した。


「こちらはヴェガ国水軍、翔空隊である! これよりは、ヴェガ国の領地! 貴船の所属、目的を述べられよ!」


 ビリビリ


 鼓膜が震える。


 下っ腹にも響くほどの声量だった。


 それに応じて、僕らの前に出たのは『王船』の船長さんだった。


 60代で白髭を生やした軍服の騎士さん。


「我らはシュムリア王国シュムリア海軍所属、第一『王船』である! シュムリア王家の命により、貴国との更なる親交のため来航した。入国の許可を願う!」


 こちらも負けない大きな声。


 そして船長さんは、王家の紋章が施された書簡の筒を掲げた。


 …………。


「――確認する」


 バサリッ


 鳥人騎士さんが5人ほど、甲板に舞い降りた。


(うわぁ……)


 間近で見る鳥人さん。


 その顔は本当に、本物の鳥と同じ構造をしていた。


 手足の指は4本で、鋭い鉤爪がある。


 羽毛は美しくて、とても触り心地が良さそうだ。 


 そして、その瞳からは、やはり鳥とはかけ離れた深い知性が感じられた。 


「拝見させて頂く」


 船長さんの渡した書簡の中身を、鳥人騎士さんは検める。


 …………。


 その様子を、僕らは、固唾を飲んで見守った。


 やがて、書簡がしまわれる。


 彼は頷いて、


「確認させて頂きました。それでは、これより私たちが先導いたします。私たちの船舶に追従を」


 口調を改める鳥人騎士さん。


 船長さんも「了解しました」と頷いた。


(ほっ)


 よかった、無事に話はついたみたいだ。


 安心する僕。


 それに気づいたキルトさんが、小さく苦笑した。


「言っておくが、これは全て建前上のやり取りじゃぞ」

「え?」


 ポカンとなる。


「上では、すでに話はついておるのじゃろう。そうでなくば、臨検もなく、こうすんなりと話は進まぬ」


 そ、そうなの?


 でも、言われてみれば、そんな気もする。


「大人の世界って、ややっこしいわね」


 ソルティスが呆れたように言った。


 キルトさんは、また苦笑いだ。


「守らねばならぬ面子や、相手への配慮があるからの」

「…………」

「…………」


(そんなものかな?)


 納得できるような、できないような……。


 と、イルティミナさんが優しく笑いながら、僕の髪を優しく撫でてくる。


「どうかマールは、そのまま、素直なマールのままでいてくださいね?」

「…………」


 う、う~ん?


 僕としては、早くイルティミナさんに相応しい男になりたいから、さっさと大人の世界の仲間入りをしたいんだけどな。


 悩む顔の僕に、2人の大人の女性たちは、おかしそうに笑った。


 やがて、鳥人騎士さんたちは、自分たちの船に戻る。


 そうして、5隻の軍船に囲まれながら、僕らの乗る『王船』はドル大陸のヴェガ国へと入港したのであった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 船を降りた僕らは、港近くの兵舎らしい建物に連れていかれた。


 降りたのは、僕ら6人だけ。


 シュムリア海軍の騎士さんたちは、『王船』に残っている。


(なんで?)


「彼らの仕事は終わったのですよ」


 僕の表情に気づいたイルティミナさんが、そう教えてくれた。


 シュムリア海軍の仕事は、あくまで『僕ら6人』の海上移送のみ。


 シュムリア正規軍がヴェガ国に上陸することは、7つ国の他6国との関係もあり、外交上、双方の国とも望んでいないのだそうだ。


 つまり、


「ここからは、わらわたちの仕事じゃ」


 シュムリアが誇る『金印の魔狩人』は、頼もしく告げた。


(そっか)


 よし、僕もがんばるぞ。


 下船する僕らを、敬礼して見送ってくれたシュムリア海軍騎士さんたちのためにも、僕は自分に気合を入れる。


 そして、僕らは兵舎の一室に案内された。


「やぁ! よく来てくれたな、シュムリアの客人たち!」


 入った途端、そこにいた1人の獣人さんが、両腕を広げて出迎えてくれる。


(わ?)


 大きな声にびっくりした。


 獅子か、豹か、よくわからないけれど、ネコ科の大型肉食獣の特徴がある男の獣人さんだった。


 年齢は、30歳前後かな?


 背は高くて、190センチぐらい。


 金色がかった毛並みは美しく、猫と人が混ざったような顔立ちだ。


 しなやかなそうな筋肉の肉体を、品の良い貴族服が隠している。


「俺の名は、アーノルド・グイバ! お前たちのヴェガ国滞在中の世話係に任命された者だ。よろしくな!」


 ドンッ


 自分の胸を、拳で叩いてそう名乗った。


 そして笑顔。


 白い犬歯がキラリと輝き、子供みたいな笑みだった。


(なんか、凄い人だなぁ)


 ちょっと呆気に取られた。


 でも、よく見たら、頬の毛並みの奥に傷跡があった。


 いや、他にも全身にいくつか。


(……軍人さんかな?)


 そう思った。


 そして、こちらからは、やはり歴戦の『金印の魔狩人』が前に出る。


「キルト・アマンデスじゃ。よろしく頼む」

「おお、お前が!」


 アーノルドさんの耳がピンと立ち、瞳がキラキラと輝いた。


「わらわを知っているのか?」

「もちろんだ! シュムリアの守護者! 人型人類最強の女! 行き遅れた破壊の鬼姫! 噂は、こちらの大陸にも届いているぞ!」


 …………。


 さ、最後の1つは酷くないかな?


 キルトさんも、笑顔だけど額に青筋が立っている……。


 でも、アーノルドさんは気にした様子もなくて、


「さすがに庶民は知らんかもな。だが騎士ならば、武人ならば、名を知らぬ者はそういない。1つの目標であり、憧れだ」

「…………」

「よければ、握手をしてもらえるか?」


 肉球がつき、毛に覆われた人型の手を差し出してくる。


「ふむ」


 キルトさんは、その手を握り返した。


 ギシ……ッ


 変な音がした。


「ぬ?」


 キルトさんがかすかに眉をしかめた。


 そして、アーノルドさんの半人半猫の顔にある、縦長の瞳孔の目を見返す。


 彼は笑ったままだ。


 キルトさんも笑い返した。


 ギギッ


(ずいぶんと長い握手だね?)


 僕が怪訝に思った時、


「っっ」 


 バッ


 突然、アーノルドさんが弾くように手を離した。


 その長い尻尾が、股下に丸まっている。


「参った参った!」

「悪戯が過ぎるな、アーノルド殿?」


 キルトさんは澄まして言う。


「いや、すまない。憧れの女性に出会えて、ついな」


 ネコ科の獣人さんは、嫌みのない笑みを浮かべながら、手で頭をかいていた。


(???)


 キョトンとしていると、


「どうやら、キルトと握力比べをしたようですね」


 イルティミナさんがソッと耳打ちしてくれる。


(え、そうだったの?)


 よく見たら、キルトさんの白い手に、彼の指の跡が赤く残ってしまっている。


「次からは、もう少しお手柔らかに迎えてもらえぬかの?」

「あぁ、もちろんだ!」


 彼は笑って頷く。


 それから、キルトさんの後ろに控えている僕らにも視線を送って、


「我がヴェガ国は、お前たちを歓迎しよう! ようこそ、ヴェガ国へ!」


 そう朗らかな笑顔を弾けさせた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 兵舎の外には、大きな馬車が3台、用意されていた。


 いや、『馬車』って言っていいのかな……?


 客車を引くのは馬ではなく、真っ白な毛の生えた象みたいな生き物だった。


(おっきいなぁ)


 客車も20人ぐらい乗れそうなサイズ。


 あとでイルティミナさんに教えてもらったんだけど、これは『獣車』と呼ぶんだって。


 そばには、ヴェガ国軍の騎士らしい獣人さんたちが30人ぐらい整列している。


「乗車だ!」


 アーノルドさんの掛け声で、騎士さんたちは、前後の車両に乗り込んでいく。 


 僕らは、中央の獣車に乗り込んだ。


 これからヴェガ国の首都に行き、国王様のいる王宮殿を訪れる予定なんだ。


 首都カランカまでは、3日間の行程。


(ふ~ん?)


 そういう説明を受けながら、3台の獣車は、港にあった兵舎から出発した。


 ガラン ガラン


 象さんたちの首につけられた鐘が鳴っている。


 これは、前方の人たちに獣車の接近を知らせて、間違って踏み潰さないようにするためだそうだ。


 港町の人たちも、すぐに気づいて道を開けてくれる。


(…………)


 避ける人は、本当に獣人さんばかりだ。


 ムンパさんやクオリナさんのように、人の姿に獣の耳や尻尾などが生えている人もいれば、アーノルドさんのように獣の特徴が色濃い人もいる。


 獣人さんにも、色々と違いがあるみたいだ。


 他にも、犬や猫などの哺乳類。


 鳥などの鳥類。


 魚などの魚類。


 トカゲ、カエルなどの爬虫類や両生類など。


 様々な生物の特徴を宿した人たちが、この港町には、本当にたくさん見かけられた。


 僕らと同じ人間の姿は、10人に1人ぐらい。


 ここは、やはり別大陸。


(やっぱり、シュムリアとは違う国なんだね) 


 そう実感してしまう。


 ツンツン


(ん?)


 ソルティスに腕をつつかれた。


 見れば、少女は窓の外を眺めていて、


「ね、マール。あれ、金じゃない?」

「え?」


 視線を追いかける。


 その先にあったのは、ヴェガ国の建物たちだった。


 民家や商家、公的機関らしい建物など色々とある。


 みんな、白い石造りの建物だった。


 でも、その扉や外壁、屋根などに施された装飾が、太陽の光を反射して金色に輝いていた。


 ……え?


「あれ、まさか全部、本物の黄金!?」

「みたいね」


 驚く僕に、頷くソルティス。


 そういえば、このヴェガ国は、良質な魔法石の産出国で、お金持ちが多いのだと聞いていた。 


(……なるほど)


 どうやら、その話は本当みたいだ。


 よく見たら、黄金以外にも、魔法石そのものを装飾品として使ったりもしている。


 なんて贅沢な……。


 3千リド、つまり30万円もした僕の腕輪の魔法石より、ずっと大きいぞ。


 隣の少女も『もったいないわ~』という顔をしている。


(ヴェガ国、凄いや)


 子供2人がそんな風にしている中で、


「アーノルド殿。わらわたちがこの国を訪れた事情は、聞いておるな?」


 キルトさんが問いかけた。


 あ……。


 僕とソルティスも姿勢を正す。


「もちろんだ」


 彼は頷いた。


「国王も協力を考えている。だからこそ、お前たちを国王の下へと連れていくのだ」

「そうか」

「だが、話はそう簡単ではなくてな」


 え?


 キョトンとなる僕ら。


 目の前にいるヴェガ国の獣人さんは、言う。


「シュムリアからヴェガまで翼竜便での連絡に20日かかる。こちらに連絡が届いた時には、すでにお前たちは、我らが国王の返事を待たずに出国してしまっていた」


 ……う。


「まぁ、事情が事情だ。それは仕方がないだろう」

「…………」

「だが、おかげで、こちらも意思統一が図れる時間がなかった。いまだ混乱状態に近い」


 彼は、おどけるように両手を広げた。


 それから、僕らを見つめて、


「はっきり言えば、お前たちに反感を持っている者もいるということだ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕らは何も言えなかった。


 と、アーノルドさんは明るく笑った。


「だが安心しろ。そういう連中からは、俺がお前たちを守る!」


 僕らは、びっくりして彼を見た。


 彼は白い歯を見せて頷き、


「そのために国王に命じられて、俺はここにいるんだ」

「……アーノルドさん」


 彼の瞳には、確かな誠意がこもっていた。


 キルトさんも頷いた。


「そうか。すまぬが、よろしく頼む」

「あぁ」


 ドンッ


 彼は胸を叩いて請け負った。


 と、


「しかし、悪魔を倒す……か。お前たち、本当にできるのか?」


 と逆に問われた。


 それに、僕は答えた。


「できるかじゃない、やらなければいけないんです」

「…………」

「じゃないと、世界が滅ぶから」


 突然、答えた子供に、アーノルドさんは驚いた顔をした。


 でも、僕の表情を見つめて、


「そうか。お前が『神狗』か」


 と何かに納得したように頷いた。


 そして、


「わかった。俺も国王もできる限りの協力をしよう」


 と言ってくれた。


(アーノルドさん……)


 僕らの視線に、彼は笑った。


 それから、ふと思い出したように、


「だがな、協力を惜しむ気はないが、こちらも色々と複雑なんだ。先に『すまない』と謝っておくぞ」


(?)


「どういう意味じゃ?」


 キルトさんが問う。


 アーノルドさんの猫耳と視線は、明後日の方を向きながら、


「まぁ、首都カランカにつけばわかる」


 とだけ答えた。


(……いったい、どういう意味?)


 でも、彼は『詳しくは国王に聞け』と告げて、それ以上の説明をする気はなさそうだった。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕ら6人は顔を見合わせる。


(まぁ、いいか)


 首都についたらわかるなら、その時に考えよう。うん、そうしよう。


 そう納得して、窓の外を見る。


 潮の香りがする風が吹き、目の前には、異国情緒溢れる町並みが広がっている。


 そこでは大勢の獣人さんが歩いていた。


(獣人の国、ヴェガ国……か)


 心の中で呟いた。


 やがて、僕らの乗る『獣車』はこの港町を抜けて、ヴェガ国の首都カランカを目指すのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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