198・2人の竜騎士
第198話になります。
よろしくお願いします。
僕とイルティミナさん、ソルティスの3人は、お城に向かうため、まず大聖堂に到着した。
お城の門番。
その役割を果たす建物で、手続きを済ませる。
身元確認や手荷物調査、書類への署名などなど、だいだい1時間ぐらいかかった。
(……結構、大変)
「さぁ、行きましょう」
「うん」
「へ~い」
手続きが終わって、大聖堂をあとにする。
神聖シュムリア王城は、大きな湖の上に建てられている。
そこまで、長い階段が続いている。
(ふぅ、ふぅ)
結構な距離がある。
階段の途中で、ふと振り返れば、王都の街が見下ろせるようになっていた。
(まるで、天空の城だね)
そんなことを思いながら、お城に到着した。
案内の騎士さんに先導されながら、城内を歩いていく。
コツコツ
何度か訪れているけれど、本当に煌びやかな空間。
ちなみに僕らの格好は、すぐ旅立ちを命じられてもいいように、冒険者としての完全フル装備だった。
おかげで、城内では凄く浮いている。
イルティミナさんは堂々としているけれど、ソルティスはちょっと恥ずかしそうだ。
(……僕も、少し恥ずかしいかな)
すれ違う人の目がとても痛い。
やがて僕らは、王都の街が見えるのとは反対側のお城の外郭付近にやって来た。
目の前に広がるのは、広大な青い湖。
まるで海みたい。
水の匂いのする風が、涼やかで心地好い。
遥か遠方に、対岸がかすかに霞んで見えていた。
そして僕らがやって来たのは、そんな湖の見える扇型をした運動場みたいな場所だった。
(あ……)
そこには、4人の先客がいた。
◇◇◇◇◇◇◇
「お、来たの」
そう笑ったのは、銀髪の美女キルトさんだ。
隣には、癖のある赤毛と褐色肌の女の人――レヌさんの姿もあった。
「こ、こんにちは、マールさん」
こちらに気づいて、はにかむ彼女。
そして、もう2人。
「やっほ……久しぶり」
「…………」
それは、猫背のハイエルフさんと金髪の幼女。
『金印の魔学者』であるコロンチュード・レスタさんと『神龍ナーガイア』ことポーちゃんの姿だった。
(わ、3人も来てたんだね?)
ちょっと驚いた。
でも、嬉しい。
「キルトだけではなかったのですね」
「うむ」
イルティミナさんの問いに、頷くキルトさん。
「どうも、レクリア王女の希望らしくての」
「ほう?」
(レクリア王女が?)
驚きながらも、僕はレヌさんを見上げた。
「こんにちは、レヌさん」
「はい」
「えっと……事情聴取とかあったって聞いたけど、大丈夫だった?」
僕は、その顔を窺う。
彼女は「はい」と頷いたけれど、表情には陰りがあった。
やっぱり、魔物であった頃のことを思い出すのは、レヌさんの心には大きな負担だったみたいだ。
心配する僕に気づいて、
「大丈夫ですよ。……確かに平気ではないですけど、でも、私もマールさんの役に立ちたいんです」
と健気に微笑んだ。
(レヌさん……)
その笑顔に、なんだか胸が苦しくなってしまった。
コホ コホン
その時、後ろのイルティミナさんが何度か咳払いをした。……ん、どうしたの?
レヌさんは「あ」と呟いて、少しだけ僕から離れた。
(???)
僕と目が合うと、イルティミナさんはニッコリと笑うだけだった。
そうそう、実はレヌさんに関してなんだけど、『アービンカ装備店の職員』となったレヌさんは、なんとシュムリア国内で病死したことになったんだって。
だから今のレヌさんは、公的には、別人のレヌさん扱いなんだそうだ。
「アービンカたちに迷惑はかけられんからの」
とは、キルトさんの説明。
つまり、これでテテト連合国で犯罪者となったレヌさんの消息は、完全に途絶えた。
彼女が魔物から人に戻った事実も、テテト連合国には隠蔽成功。
(こ、国家権力って恐ろしい……)
当たり前のように話すキルトさんに、僕はゾクゾクしちゃったよ。
でも、これでレヌさんは新しい人生を手に入れられた。
(そこはよかったかな、うん)
そう思った。
と、そんな風にレヌさんと僕が話していると、
「あ、あの、コロンチュード様!」
眼鏡少女ソルティスが、とても緊張した面持ちで、猫背のハイエルフさんに声をかけていた。
その手には、電話帳みたいな分厚い紙の束。
それをコロンチュードさんに差し出して、
「こ、これ、神術と神文字に関するレポートです! もしよかったら、読んでください!」
「……ん」
眠そうな顔で受け取るハイエルフさん。
その用紙をペラペラとめくって、
「…………」
その表情が真面目に変わっていく。
やがてコロンチュードさんは、目の前の小さな天才少女を見つめた。
「いいレポート。……しばらく預かってもいい?」
「は、はい、もちろんです!」
天にも昇りそうなソルティスさん。
(よかったねぇ)
ここしばらく、家でずっと研究をがんばっていた姿を知っているから、余計にそう思った。
コロンチュードさんは、またレポートに目を通す。
「そっか……この神気粒子が、細胞に作用して変質を……なら、ポーの肉体を再調査しないと……」
ブツブツ
研究者の瞳になって、小声で呟いている。
(…………)
僕は、コソコソとポーちゃんの隣に移動した。
耳元に囁くように訊ねる。
「ポーちゃん、その……コロンチュードさんのところで、色々と大変だったりしない?」
「…………」
幼女の水色の瞳は、しばらく虚空を見つめた。
カチリ
ふと、何かのスイッチが入った気配がして、
「ポーは答える」
「…………」
「ポーは、少しだけ苦労している。できれば、記憶消去をしたい時もある」
……そ、そっか。
「けれど、本当に嫌がることはされていない」
彼女は安心させるように、こちらを見て小さく笑った。
「あのハイエルフはいい人、問題ない」
「…………」
その笑顔に、ちょっとだけ見惚れてしまった。
(そっか)
どうやら2人は、ちゃんと、いい関係性を作れていたみたいだ。
よかった。
僕も安心して笑った。
2人で、みんなの方を振り返る。
イルティミナさんとキルトさん、レヌさんは3人で集まり、何かを話していた。そこで、レヌさんは笑顔を見せたりする。
コロンチュードさんは、レポートについて眼鏡少女に訊ねる。
ソルティスは緊張しながらも、とても嬉しそうに、猫背のハイエルフさんに答えていた。
「…………」
「…………」
穏やかな人間たちの風景。
その様子を『神狗』と『神龍』の僕とポーちゃんは、何も言わず、ただしばらく眺めていた。
◇◇◇◇◇◇◇
「そういえば、ここはどこなの?」
ふと思った僕は、周囲を見回しながら、キルトさんに訊ねた。
扇形をした運動場みたいな空間。
結構広くて、端っこから先には、大きな湖が広がっているから、飛行機の発着場みたいにも思える。
キルトさんは、湖から吹く風に銀髪をなびかせながら、
「ここはシュムリア騎士たちの訓練場じゃ」
そう教えてくれる。
王都ムーリア内には、騎士のための訓練場が幾つかある。
ここもその内の1つ。
「特にここは、王家や貴族を守る近衛騎士や上級騎士のため、城内に造られた訓練場じゃな」
「へ~?」
そうなんだ。
イルティミナさんたちも知らなかったのか、みんな、興味深そうに眺めている。ポーちゃんだけは、1人ポ~っとしてたけど。
「でも、なんで僕らは、ここに呼ばれたの?」
僕は、首をかしげた。
僕らを呼び出したのは、多分、レクリア王女様だろう。でも、彼女と面会する時はいつも、同じ城内にある空中庭園だった。
(今回も、そこだと思ってたんだけどな)
「ふむ、わらわたちもここに案内されての。理由はわからぬ」
「そうなの?」
キルトさんも不思議そうに首を捻る。
その時、
「――それは、俺たちが王女に頼んだからだ」
知らない男の人の声が響いた。
(え?)
驚いて振り返った先、城内に通じる通路から、1組の男女が歩いてくる。
2人とも、赤い鎧の騎士さんだ。
1人は長身で、黒髪に金の瞳を持った25歳ぐらいの男性。
同性の僕もハッとするような整った顔立ちをしていて、その肉体は均整の取れた鍛えられた肉体だった。
正直、羨ましくなるほど格好いい。
もう1人は、小柄な女性だ。
年齢は10代後半ぐらいに見えて、ショートカットの灰色の髪と紅い瞳をした美貌は、一見、少年のようにも見えてしまう。
(……誰?)
見知らぬ2人の騎士さんの登場に、僕はポカンとする。
他のみんなも知らないようで、でも、キルトさんとコロンチュードさんは、顔見知りのようだった。
「レイドル、アミューケル」
キルトさんが、その名を呼ぶ。
「こうして会うのも久しぶりだな、キルト・アマンデス」
男の騎士さん――多分、レイドルさんが微笑んだ。
笑顔も素敵だ。
世の女性たちが見たら、放っておかないような甘い美貌だった。
(…………)
心配になった僕は、チラリと振り返る。
イルティミナさんの表情に、特に変化はなかった。……よかった。
ちなみに、ソルティスやコロンチュードさん、ポーちゃんにも、レイドルさんに見惚れるような様子はなかった。
ただ1人レヌさんは、
「……ほぁ……カッコイイ……」
と頬を赤らめていたけれど。
もう1人の女騎士さん、アミューケルさんは、そんな僕らを冷めた目で一瞥している。
(……ちょっと目が怖いね)
キルトさんは驚いたように、レイドルさんを見つめて、
「どうして、そなたがここに? いや、わらわたちがここに来るよう、そなたが王女に頼んだとはどういう意味じゃ?」
「言葉通りだよ」
彼は答えて、こちらへと近づいてくる。
(!)
その歩き方を見て、驚いた。
ただ普通に歩いているだけなんだけれど、歩行が恐ろしいほどに安定していた。
2人とも、重心が全くぶれない。
しかも、それが意識してではなく自然体のまま行えていることに、僕は驚愕してしまった。
(この2人、できる!)
少なからず剣の道を歩んでいる者として、それが理解できる。
――只者じゃない。
いったい、何者なんだろう?
「キルトさん?」
その意味も込めて、隣の金印の魔狩人に声をかけた。
気づいた彼女は、「ん? あぁ」と頷いて、
「この2人は、レイドル・クウォッカとアミューケル・ロート。――シュムリア王国が誇る最強の『シュムリア竜騎隊』、その8人の『竜騎士』の内の2人じゃよ」
と、確かな敬意を込めた声で教えてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇
竜騎隊の竜騎士!?
(この人たちが……)
今までに何度か、お城から飛び立つ飛竜にまたがった騎士たちを目撃したことがある。
それがシュムリア竜騎隊。
その姿は、正直、格好良いと思ってた。
僕だって男の子だからね、そういう竜騎士というものに憧れたりもするんだ。
その憧れの人物が、今、目の前にいる。
(……ふわぁ)
レイドルさんとアミューケルさん、2人が着ているのは、光沢のある赤い鱗鎧だ。
装飾も施されていて、とても綺麗。
でも、それは最低限で、鎧そのものは実用的な作りになっている。今はその上に、純白のマントが優雅に羽織られていた。
見つめる僕を、レイドルさんの瞳が見た。
「君がマール君だね?」
「! は、はい!」
緊張しながら、大きな声で答える。
キルトさんたちは、そんな僕に、ちょっとびっくりしてた。
彼は、穏やかに笑った。
「初めまして。俺は、レイドル・クウォッカ。一応、竜騎隊の隊長を務めている」
なんと、竜騎隊の隊長さん!?
彼は、白い手袋を外して、右手を差しだしてくる。
僕は慌てて、その手を握り返した。
「マ、マールです。こんにちは」
ギュッ
握った手のひらは、とても固い。
間違いなく、手練れの剣士の手だった。
「シュムリア王国に降り立った『神狗』……一度、君に会ってみたくてね。レクリア王女には無理をお願いして、ここに来てもらったんだ」
僕に会うため……?
彼の金色の瞳は、僕の青い瞳をジッと見つめてくる。
(…………)
まるで心の中まで覗かれているみたいだ。
彼は「ふむ」と頷くと、手を離した。
ゆっくりと視線を動かして、
「そちらの女の子が、神龍かな?」
「…………」
その瞳は、ポーちゃんを捉える。
彼は近づき、ポーちゃんとも握手をした。
その間、ずっと相手の瞳を見ている。
(…………)
彼はまた頷いて、
「なるほどね」
ポーちゃんと繋いでいた手を離した。
ちなみに、もう1人の竜騎士アミューケルさんは、自分たちの隊長の行動を黙ったまま見ている。
でも、その表情は仏頂面。
あまり僕らのことを歓迎しているようには見えなかった。
レイドルさんは、最後にもう1人――イルティミナさんの方を見た。
「そして君が、新しい金印の魔狩人かな?」
「はい、そうですが」
澄まして答えるイルティミナさん。
レイドルさんは、また右手を差しだす。
イルティミナさんは、それをしばらく見つめたあと、その美しい手をゆっくりと持ち上げた。
ギュッ
「…………」
「…………」
無言のまま、金と紅の瞳が見つめ合う。
美男美女。
傍目には、とてもお似合いだ。
……なんだろう? 僕の胸の中でモヤモヤした感情が湧いてくる。
(し、嫉妬なんて、みっともないぞ、マール)
自分を叱っていると、2人はゆっくりと手を離した。
「なるほど」
レイドルさんが呟いた。
「何が『なるほど』なのですか?」
相手の目を見たまま、イルティミナさんが質問する。
レイドルさんは虚を衝かれた顔をして、すぐに微笑んだ。
「いや、すまないね。手を握れば、相手の力量というものがだいたいわかるんだ。なるほど、さすが『金印の冒険者』だと思ってさ」
「……そうですか」
イルティミナさんは、静かに頷いた。
と、
「隊長? 違うっしょ」
不意にアミューケルさんが口を開いた。
彼女は不快そうに、
「なるほど、やっぱり半人前の『金印』だ……じゃないんすか?」
……え?
僕らの視線が集まる。
(半人前……って、イルティミナさんが?)
レイドルさんは、困ったように部下を見つめて、「アミューケル」とたしなめるように名を呼んだ。
彼女は肩を竦める。
「隊長が自分の目で確かめたいって言うから、自分も付き合いましたけど、正直、がっかりっすよ。ここにいる『神狗』も『神龍』も新人『金印』も、全員、中途半端じゃないっすか」
え?
僕らも?
「国王様も言った通り、本当に戦力にならないっすね」
彼女は、僕らに見下したような視線を送ってくる。
(…………)
なんて言っていいのか、咄嗟に言葉が見つからない。
キルトさんが苦笑した。
「相変わらず、口が悪いの、アミューケル」
「悪かったっすね、正直者なんす」
竜騎士の少女は、悪びれた様子もない。
レイドルさんがため息をこぼした。
「すまない、皆、気を悪くしないでくれ。アミューケルは少々、気難しい部分があってね」
そうフォローする。
けれど、黙ってられない少女がこちらにもいた。
「ちょっとアンタ! イルナ姉が半人前ってどういういことよ!」
「あん?」
「適当なこと言ってると承知しないわよ! 取り消しなさい!」
イルティミナさんの妹が怒っていた。
その手にある大杖は、魔法石が輝きを放っている。……って、ちょっと!?
やる気に満ちた少女に、けれどアミューケルさんは余裕の表情だ。
「はん」と鼻で笑って、
「『金印』に昇格しておきながら、いまだ同じ『金印』のキルト・アマンデスの庇護下にいるじゃないっすか。これが半人前じゃなくて、なんなんすか?」
「っっっ」
「1人前だってんなら、とっとと別パーティー組むべきっしょ? 金印同士が同じパーティーにいるなんて、戦力の無駄遣いっすよ」
「くっ……」
理屈の通ったアミューケルさんの言葉に、ソルティスは悔しそうに歯軋りした。
(でも……なんか、僕も腹が立ってきたぞ)
自分のことはどうでもいいけど、イルティミナさんが馬鹿にされるのは我慢がならない。
生まれた険悪な空気に、レヌさんはアワアワしている。
コロンチュードさんとポーちゃんは、ことの成り行きを静観する構えだ。
僕は反論の言葉をぶつけようとして、
「それは違うぞ、アミューケル」
先にキルトさんが、静かな声を発した。
こちらは歴戦の『金印の魔狩人』、さすがのアミューケルさんも無視できない様子で、彼女を振り返る。
「そなたがどう感じているかは知らぬが、このマールは『神狗』、人類の希望となる存在じゃとわらわたちは信じている。わらわとイルナが共にいるのは、その護衛のためなのじゃ」
「……だからって、金印2人もいらないっしょ」
竜騎士の少女は、唇を尖らせる。
銀髪を揺らして、キルトさんは「いや」と首を横に振った。
そして、少女の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「かつて、金印の魔狩人であった烈火の獅子エルドラド・ローグは、銀印4人を従えておきながら『闇の子』に敗れた」
「…………」
「敵を侮るな。金印2人が護衛というのは、決して過剰戦力ではない」
淡々とした口調。
でもだからこそ、真実を語っている迫力があった。
さすがのアミューケルさんも、少々、ひるんだ顔だった。
(さすが、キルトさん!)
ちょっと胸がスッとした。
ソルティスも『そうよそうよ』と言わんばかりに、ぺったんこな胸を張っている。
ただ、当のイルティミナさんは、静かに状況を見守っている。
なんか大人だ……。
と、アミューケルさんの視線が、悔しげに僕を睨んだ。
「けど、この『神狗』に、そこまでの価値があるんすか?」
(え……?)
「聞いてるっすよ、コイツ、不完全な召喚だったんしょ? そっちの神龍も『闇の子』に敗れて、ほとんどの力を失ってるって」
「…………」
「…………」
「ぶっちゃけ、2人とも役立たずじゃないっすか」
蔑みと憐みの混じった声。
それに、僕の身体は凍りつく。
ポーちゃんは何も言わずに、その人間を見つめ返している。
「……アミューケル」
キルトさんが静かな怒気を秘めた声を発した。
これまで口を挟まずにいた上司のレイドルさんも、彼女をたしなめようとする。
その寸前、
ドンッ
大地が揺れた。
見れば、イルティミナさんの手にした白い槍の石突部分が、訓練場の大地に打ち込まれ、蜘蛛の巣状のひびを広げていた。
「……マールが、役立たず?」
冷気をまとった低い声。
揺らめく深緑色の長い前髪の間からは、怒気を灯した真紅の瞳がギラギラと輝いている。
(イ、イルティミナさん……?)
さっきまで大人の対応だった彼女の変化に、僕は戸惑う。
他のみんなも唖然だ。
「な、なんすか? 自分はただ、正しいことを口にしただけっすよ」
「……ほう?」
アミューケルさんは必死に言い返し、イルティミナさんは静かに受ける。
「なるほど、これが竜騎士ですか」
「…………」
「ずいぶんと節穴だらけの目をしている。その程度の存在が、王国最強などとおこがましい。これでは、竜騎隊というのも知れたものですね」
「……あ?」
アミューケルさんの空気も変わった。
ブワッ
(わっ!)
凄まじい『圧』が彼女から突風のように発せられた。
思わずよろめく僕。
けれど、イルティミナさんはビクともしない。
2人の女戦士の『圧』が訓練場でぶつかり合っている。
「なんすか? もしかして喧嘩、売ってんすか?」
「まさか」
肩を竦める美しい『金印の魔狩人』。
「ただ貴方が半人前だといった、この私の槍を、かの竜騎士様にご指導いただければと思っただけですよ」
ヒュオッ
鋭く空気を斬り裂いて、白い槍の穂先が竜騎士アミューケル・ロートの喉元へと突き付けられる。
竜騎士の少女は、灰色の髪を舞わせながら、獰猛な笑みで応えた。
「いいっすよ。半人前の身の程って奴を教えてやるっすよ」
「どうぞ、よしなに」
優雅な恐ろしい笑みで応じるイルティミナさん。
僕らは、ただただ呆然。
もはや止められる状況ではない。
(ど、どうしよう?)
新しき金印の魔狩人イルティミナ・ウォン。
竜騎士の少女アミューケル・ロート。
図らずも、2人の女傑の思いがけない戦いは、こうして勃発してしまったのだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、3日後の金曜日0時以降を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。




