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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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194・妖精光の青き森

第194話になります。

よろしくお願いします。

(今の声は……?)


 僕は驚きながら、右手にある『妖精の剣』を見る。


 その青白く半透明の美しい刀身は、まるで『何かの気配』に共鳴するように、青い光の明滅を繰り返していた。


(いったい何が起こってるの!?)


 そう思った次の瞬間、


 ポッ


 1つの青い光点が、僕とスノーバジリスクの周囲にある樹海の闇に灯った。


 ポポッ ポポポ……ッ


 その輝きは、次々に生まれて、樹海の中は、膨大な青白い光によって包まれていく。


「な、なんだこれ!?」


 慌てて、周囲を見回す。


 樹々の陰から。


 壊れた家屋の隙間から。


 雪の上から。


 枝上や葉の間から。


 青い光たちが、周囲360度、僕らを包み込むように光り輝いていた。


(あ……)


 そして気づく。


 その1つ1つの青い光の中心に、小さな人型の姿があることに。


 裸身を晒すその背中には、小さなはねが生えていて、額からは綿毛のような触覚が生え、小さな耳は尖っている。


 ――妖精?


 その名前が、僕の脳裏に浮かんだ。


 ヒィン ヒィン


 光り輝く彼や彼女たちは、僕とスノーバジリスクを遠巻きに囲みながら、見つめていた。


 揺らめく青の世界は、とても幻想的で、


『――今だよ』


 声なき声が、頭の中に響いた。


(え? ……あ!)


 その声で気づく。


 僕が唖然としているように、目の前にいる巨大な悪食の怪物も呆然と、突然、周囲に現れた光の群れに気を取られていたんだ。


 よく見れば、魔物の口に咥えられているレヌさん自身も、呆然としていたりする。


(今がチャンスだ!)


 僕は『神狗』の脚力で、全力で大地を蹴る。


 ドンッ


 強酸に溶かされていた背中の翼も、ほぼ修復が終わっている。


 虹色の光を散らしながら、僕は、猟犬の如くスノーバジリスクへと飛びかかっていた。


『!』


 奴が気づく。


 でも、遅い!


 ガキィンッ


 奴の巨大な口内に飛び込んだ僕は、上下の牙を金属の翼で押し広げて、レヌさんを拘束しているピンクの舌を、左手の『マールの牙・弐号』で切断した。


 紫の鮮血が散り、レヌさんの身体が解放される。


「掴まって!」

「っ……マールさん!」


 泣き顔のレヌさん。


 その褐色の腕が、すぐに僕の首へと絡みつく。


(よし!)


 タンッ


 ほんの3秒で救出に成功した僕は、奴の口を蹴って、一気に外へと飛び出した。


 ガチィン


 直後、奴の口が閉じられて、牙同士が激しくぶつかる。


 その時には、僕らはもう、スノーバジリスクを見下ろす上空へと逃れていた。


 ヒュオオオ


 滞空しながら、僕の青い瞳が、奴を見下ろす。


 奴の巨大な眼球は、悔し気にこちらを睨んでいた。 


 ヒィン ヒィン


 周囲からは、青く輝く妖精たちが、僕らの戦いを見守っている。


「マールさん……」


 レヌさんの震える声。


 僕は、そちらを振り返って、


「大丈夫。しっかり掴まっててね」


 そう笑いかけた。


 レヌさんは、泣き濡れた顔で真っ直ぐ僕を見つめて、


「はい」


 しっかりと頷いてくれた。


 よし。


 僕は大きく深呼吸して、改めて、巨大な魔物を見下ろした。


 頭部に裂傷を負いながらも、僕への復讐の炎に身を焦がす、悪食の怪物スノーバジリスク。


(さぁ、決着をつけよう)


 その殺意を真っ向から受け止めて、僕は、大きく息を吸う。


 右手にある『妖精の剣』。


 左手にある『マールの牙・弐号』。


 その二刀を手に、


「行くぞ!」


 鋭く叫ぶと、背中の翼を大きく羽ばたかせた。


 バヒュウン


 レヌさんを背負いながら、大気を斬り裂いて急降下。


『ギュオアア!』


 呼応したスノーバジリスクは、巨大な口を開放して、あの強酸の砲撃を撃ち出してくる。


 ドパッ ドパァッ


 その弾幕目がけて、僕は突っ込む。


 ――極限集中!


 白黒の世界で、僕は迫る無数の強酸を、紙一重で回避していく。


 ヒュボッ


 そのまま奴の鼻先を掠めるようにして、地上ギリギリで大きな金属の翼を広げ、急停止。


 ボバァン


 爆発するように巻きあがった雪煙が、奴の視界から僕らの姿を隠す。


 獲物を見失い、その巨体の動きが一瞬、止まった。


 背中の翼を虹色に輝かせ、僕は、そこからV字を描くように急上昇した。


 左右の剣を交差させ、顔の前に構える。


 そして、


「いやぁああああ!」


 裂帛の気合と共に、雪煙の向こうに現れたスノーバジリスクの太い喉笛目がけて、二刀を左右に大きく振り抜いた。


 ザヒュン


 2つの剣閃が煌めく。


 巨大な頭部と胴体が別れて、その間を、翼を生やした『神狗ぼく』は突き抜けて、空中で停止する。


 バフッ


 翼が大気をはらんで、大きく膨らむ。


 眼下では、一拍遅れて、首なしの胴体から、紫の血液が間欠泉のように吹き上がっていた。


 ドン ドゥン


 雪の大地に頭部が落ち、遅れて、巨大な胴体も力を失い、音を立てて沈み込む。


 生首の眼球にあった憤怒の光が、ゆっくりと消えていく。


 舞い上がった雪煙は、すぐに夜風に流されていった。


「…………」

「…………」


 僕とレヌさんは、上空から、その恐るべき白い魔物の最期を見届けた。


 もう死んだふりもなく、起き上がることもない。


(やった……今度こそ、やったんだ)


 心の中で、安堵の息をつく。


 シュオオ……


 同時に時間切れとなったのか、僕の獣耳と尻尾が白い煙を立てて消えていった。


 森の夜風が、優しく僕らの肌を撫でていく。


 雪深い樹海の中では、そんな僕らを祝福するように、青い光たちの明滅がキラキラと輝き、美しい舞いを続けていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「痛くないですか、マールさん?」


 心配そうな顔で、レヌさんは治療キットの湿布を、僕の火傷に貼ってくれる。


 僕は笑った。


「うん、大丈夫。ありがと、レヌさん」


 この火傷は、自分の魔法の爆発でできたものだ。


 魔法が直接当たったわけではないから、そこまで酷くはなかった。


(ま、少し痕は残るかもしれないけど)


 そこは男の子の勲章だよね。


 本当は『究極神体モード』になれば、あのスノーバジリスクも一瞬で倒せたかもしれないけど、あれは神気の消耗が激しくて、帰りの飛行用の神気が足りなくなるから無理だったんだよね。


 みんな待ってるだろうから、明日までにちゃんと帰らないと。


(イルティミナさん、どうしてるかなぁ?)


 あの人のことを思うと、ふんわり心が温かくなる。


 そんな僕の様子に、レヌさんは小さく笑いながら、僕のリュックの中に治療キットをしまう。


 そして、周囲を見る。


 僕らがいるのは、レヌさんの家族や村の人たちが眠るお墓の前だった。


 焚火の灯りが周囲の闇を照らしている。 


 でも、それ以外にも何百、いや、もしかしたら千以上もの青い光が、僕らの周囲には佇んでいた。


 ヒィン ヒィン


 妖精さんたちだ。


 スノーバジリスクとの戦いが終わったあとも、この小さな妖精さんたちは、僕らの前に姿を現し続けていたんだ。


「…………」


 レヌさんは、なんとも言えない顔である。


 実は、治療をしている間も、妖精さんたちの何人かは、物珍しそうにレヌさんの手元を覗き込んでいたりした。


 今も、長いレヌさんの髪の毛先を触ったり、僕の服をよじ登って、肩に座ったりしている。


(う~ん? 妖精さんって思ったより人懐っこいんだね)


 ちょっとびっくりな僕である。 


 視線を遠くに向ければ、村の外にある樹海の大地で、倒れ伏したスノーバジリスクの死体の周囲にも、たくさんの青い光が集まっていた。


 結構、好奇心も強いみたいだ。


(でも、何で助けてくれたんだろう?)


 妖精さんたちは、スノーバジリスクの接近を警告してくれたり、レヌさんを助けるためにみんなで姿を現してくれたり、僕らの味方をしてくれた。


 でも、その理由がわからない。


 ソルティスに聞いた話では、かつて妖精という存在は、『妖精の郷』から人間によって追い出されたという。


 憎まれこそすれ、その逆はないと思うんだけど……。


 そんな悩む僕へと、レヌさんは言った。


「もしかしたら、マールさんを仲間だと思ったんじゃないですか?」

「え?」


 仲間? 僕が?


 レヌさんの瑠璃色の瞳は、僕の顔を見つめ、それから、その手元にある『妖精の剣』へと向けられる。


「妖精鉄は、妖精の魔力で変質した金属だと聞いています」

「……あ」


 僕はハッとした。


 レヌさんは「はい」と頷いて、


「マールさんの『妖精の剣』からは、その魔力が感じられるのかもしれません。多分、それで……」


 なるほど。


(そういえば、この剣も、何かに共鳴するみたいに光ってたもんね)


 なんとなく、鞘から抜く。


 ヒィン


 半透明の美しい刃は、青い光を放っている。


 妖精さんたちは、その光に誘われるように何人も近づいてきて、その刀身に小さな手をペタペタと当てていた。


(…………)


 その姿を見つめて、僕は言った。


「ありがとう、妖精さん。僕らのことを助けてくれて」


『…………』

『…………』

『…………』


 小さな顔たちが、不思議そうにこちらを見返した。


 そして、1人が翅を動かし、フワリと僕の顔の前まで舞い上がって、


『いいよ~、気にしないで~』


 ペタペタ


 小さな手が僕の鼻を叩く。


 そこには、まるで子供のような無邪気な笑顔が浮かんでいた。


(あぁ……そうなんだ?)


 妖精という種族は、きっと難しいことを考えない、とても大らかな種族なのかもしれない。


 一応、魔物の一種らしいんだけど、ね。


 僕は魔狩人だけど、この妖精さんたちのことは狩りたくないなと思ったよ。


 ついつい笑ってしまう僕。


 妖精さんもニコニコしている。


 妖精さんと笑い合っている僕のことを、レヌさんは、何だか眩しいものでも見るような表情で眺めていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 それからしばらくして、僕らは、レヌさんの村を発った。


 ヒュオオ


 背中に虹色に輝く金属の翼を生やして、村の上空で滞空する。


 眼下には、青い光に包まれた樹海の村が見えている。


 とても幻想的な景色だ。


 それを見つめて、


「……なんだか不思議だね」


 僕は呟いた。


 僕の首に両腕を回し、背負われているレヌさんは、「?」とこちらを見る。


「人間がいなくなって捨てられた村に、今は、人間に故郷を追われた妖精たちがいるんだよ?」

「…………」

「誰の居場所でもなくなって、でも今は、新しい居場所になって」

「…………」

「いつか、ここが第二の『妖精の郷』になるのかな?」


 そんな空想をしてしまう。


 ギュッ


 レヌさんの腕に、少し力がこもった。


 かすかに震える声で、


「……何もかもを失ってしまった私も、新しい居場所を見つけられるでしょうか?」


 僕は「うん」と頷いた。


「レヌさんが望むなら、きっと見つかるよ」


 その答えに、レヌさんは何も言わなかった。


 ただ、僕の首筋に、自分の顔をうずめて、しばらくジッとしていた。


 熱い吐息が、首にかかる。


 やがて、彼女はゆっくりと顔を離した。


「マールさん」


 少し硬い声で、僕を呼ぶ。


「ん?」

「『闇の子』には、決して心を許してはいけません」


 そんなことを言った。


(え?)


 思わず、至近距離で振り返る。


 彼女は、真っ直ぐに僕を見つめながら、言葉を重ねた。


「あれは、人ではありません」

「…………」

「人間の姿を模しているけれど、その本質はまるで違います。人としての外見も、仕草も、会話も、全てが擬態であると考えてください」


 短く息を吸って、


「あれは『魔』です」


 レヌさんは、そう警告した。


「停戦と共闘も、言葉通りに受け取っては駄目です」

「…………」

「その本質は、破壊衝動と肥大した自我の混ざった『魔』そのものです。その存在に、決して気を許してはいけない」


 その声には恐怖があった。


『闇の子』の間近で、ずっと生きてきた彼女は、その正体をそう見ているということ。


 僕は、頷いた。


「わかった。決して心を許さないよ」


 そう約束する。


 レヌさんは「はい」と頷いた。


(でも……どうして急に警告する気になったんだろう?)


 ちょっと驚いてしまった。


 その感情が、表情に出ていたのか、レヌさんは自嘲するように小さく笑った。


「新しい居場所を……得ようと思ったんです」

「ん?」

「自分が許されないことをしてきたのは、わかっています。でも、それでも……今の私にできる精一杯をしようと……人々の、マールさんの役に立つことをしようと思ったから……だから」


 ……そっか。


「ありがとう、レヌさん」


 僕は、心からお礼を言った。


 レヌさんは、儚げに笑って、首を横に振った。


 そして、その視線は再び地上へ。


「…………」

「…………」


 レヌさんが生まれ育って、大切な家族と共に失ってしまった故郷の村。


 雪深い樹海の村。


 その樹々の海原と廃墟の村には今、煌めく青い光たちが隠れ住んでいる。


「――さようなら」


 レヌさんが短く告げた。


 その美しい瞳には、悲しみの色と共に、未来を見据える光も宿っていた。


 僕は、背中の翼を大きく羽ばたかせた。


 バフッ


 円を描くように村の上空を一周してから、イルティミナさんたちのいるツペットの町を目指して、進路を取る。


 ヒュオオオ


 風を裂き、飛翔する。


 紅白の月と星々の煌めきに見守られながら、僕らは、青い妖精の光の集まる大地を、一瞬で後方へと追いやっていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


次回更新は、3日後の金曜日0時以降の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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