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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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193・神狗マールVS雪の大蜥蜴

第193話になります。

よろしくお願いします。

(まさか、僕らを追いかけてきたの!?)


 僕らと遭遇した場所から数百キロも離れた、この地まで!?


 メキッ ミシシッ ズゥン


 焚火の炎に照らされる真っ白な巨大トカゲは、驚いている僕らの方へと、村の家屋を破壊しながら接近してくる。


「っ」


 レヌさんの表情が歪んだ。


 ここは、彼女にとっての大切な故郷の村だ。


 人がいなくなったとはいえ、そこを荒らされるのは、彼女にとって受け入れがたい行為だろう。


神武具コロ、僕に翼を!」


 ヴォオン


 取り出したビー玉みたいな虹色の球体が、光の粒子となって砕け散り、僕の背中で虹色に煌めく金属の翼となって集束する。


「レヌさん!」


 ギュッ バフッ


 僕の細い腕は、彼女の腰を抱きしめて、空へと飛翔する。


(悪いけど、君の相手はしてられないよ!)


 眼下のスノーバジリスクへと、心の中で告げる。


 このままここから去れば、この魔物もどこかへ行くだろう――そう思ったんだ。


 でも、


『…………』


 スノーバジリスクは、上空を舞う僕らを見つめた。


 そして、


 メキッ バキィン


「!?」

「あ……っ!?」


 その太い尻尾を振り回して、また1つ、村の家屋を残骸に変えたんだ。


(え……あ)


 カメレオンのような眼球は、僕らを見据えている。


 そこに宿る悪意の光。


(コイツ……まさか今、わざと村を破壊したのか!?)


 そう気づいた。


 あれだけの巨体に成長するまで、長い年月を生き延びた魔物だ。その間に、奴には恐るべき知恵が宿ったのかもしれない。


 きっと、さっきのレヌさんの反応を見て、僕らの村に対する執着を見抜いたんだ。


 ズゥン ズズゥン


「!」


 その巨大な魔物は、村人たちの眠っている並んだ木の杭の方へと進んでいく。


「だ、駄目! や、やめて!」


 僕の腕の中で、レヌさんが叫んだ。


 間違いない。


 スノーバジリスクの表情には、挑発の笑みが浮かんでいるようだった。


(……そうか)


 君は……。


 君は……ようやく苦しみから解放されて、安らかな眠りについている村人たちの魂さえ汚そうというのかっ。


 ヴォオン


 虹色の翼を輝かせながら、僕は、ゆっくりと降下する。


 雪の大地に着地して、


「レヌさん、安全なところまで離れてて」


 巨大な魔物を睨みながら、言う。


 その声に宿った怒気に、レヌさんは少し身体を震わせて、


「マ、マールさん……」

「早く!」

「……っ、はいっ」


 彼女は、僕の手を一度、強く握り、そのまま戦いの邪魔にならないように駆けていく。


 ズゥン


 スノーバジリスクは、白い体毛を揺らしながら、こちらを振り返った。


 強い敵意と歓喜。


 それほど、自分に傷を負わせた僕に復讐したかったのか。


 いいよ。


 やろうじゃないか。


 シュラン


『妖精の剣』を鞘から引き抜き、正眼に構える。


 人がいなくなった雪深い村の中で、翼を生やした子供の僕と、真っ白な体毛に包まれた巨大なトカゲの魔物が向かい合う。


 ギュウッ


 柄を強く握り締め、僕は叫んだ。


「お前のような存在を、僕は許さない!」


『ギシャアア!』


 呼応するようにスノーバジリスクも雄叫びをあげる。


 そして――僕らは同時に、雪の大地を蹴った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(神気開放っ!)


 体内にある神なる力を開放し、僕の身体には、犬の耳と尻尾が生えていく。


 ドンッ


 雪を散らし、僕は弾丸のように加速する。


『ギシャア!』


 スノーバジリスクは、鋭い牙の並んだ口を大きく広げ、その巨大な頭部を僕へと叩きつけるように落としてくる。


 瞬間、僕は背中の翼を広げて、急制動。


 バヒュッ ズガァアン


 スノーバジリスクは目測を誤り、3メードはある口は、空に舞った僕の目前の地面へと突き刺さった。


(このまま、首を落とす!) 


『妖精の剣』を上段に構える。


 その瞬間、


 バキィイン


(!?)


 僕の正面から襲いかかった真っ白な尾の一撃に、小さな僕の身体は弾き飛ばされた。


 辛うじて、金属の翼を盾にして防いだ。


 でも、僕は雪の地面へと叩きつけられ、10メード以上もゴロゴロと転がる。


「くはっ」


 バサッと翼を開き、慌てて顔をあげる。


(コイツ……っ!?)


 今の一撃のタイミングは、完全に狙われたものだった。


 この老獪な魔物は、自分の初撃がかわされることを計算した上で、長い尾での攻撃を放っていたんだ。


(くっ、油断できないぞ!)


 前の戦闘で、あっさり撃退できたから勘違いしてしまった。


 この魔物は、強い!


 不意打ちではなく、正面から戦うなら、全身全霊で立ち向かわなければいけない相手だ!


 そう気づいた僕が、慌てて立ち上がろうとした瞬間、


『ギュバ……』


「!?」


 白い体毛に包まれたトカゲの魔物の喉が膨らんで、その巨大な口が大きく開いた。


 ドパァン


 そこから『何か』が飛んできて、僕は慌てて翼で防ぐ。


 バシャッ


(!? 水……?)


 金属の翼に弾けて、粘度のある水が散る。


 ジュオオオオ


「!?」


 水滴の当たった翼が、白煙をあげて溶けだした。

 はぁ!?


「スノーバジリスクは、強酸の体液を吐くんです! 気をつけて!」


 離れた大樹の陰に隠れたレヌさんが、必死の叫びで教えてくれる。


(強酸!?)


 身体に当たらなかったからよかったけれど、もし当たっていたら?


(…………)


 ブルルッ


 その想像に背筋が震える。


 炎は吐かないけれど、危険度の変わらない強酸を吐き出し、竜にも劣らない巨体を持つ魔物――これが、この地方の生態系の上位に君臨するスノーバジリスクか!


 僕は立ち上がる。


 幸い、溶けた翼の穴は、神武具の増殖力によって少しずつ修復されている。


 でも、しばらくは飛べない。


「……強敵だね」


 僕は呟いた。


 そして、今まで以上に集中して『妖精の剣』を構える。


 ズゥン ズズゥン


 スノーバジリスクの巨体が、近づいてくる。


 そのカメレオンのような飛び出した眼球には、強い敵意が光っている。


 奴が歩くたびに、周囲の建物にぶつかって、レヌさんの思い出の村が壊されていく。


(やめろ……)


 僕は、ゆっくりと前に歩きだした。


 ベキッ バキキッ


 それに呼応して、スノーバジリスクも村の残骸を踏みつけながら、巨体を進める。


 レヌさんの悲しげな顔が、僕に突き刺さる。


「やめろ……」


 そう口にしながら、僕の小さな足が駆けだした。


 メキィ ゴガァン 


 巨大な白い魔物も、雪と村の破片を撒き散らしながら、速度を上げる。


 僕は叫んだ。


「これ以上、レヌさんの心を傷つけるなぁ!」


 ドンッ


『神狗』の脚力が、僕を一気に加速させ、スノーバジリスクへと肉薄する。


 ドパァ ドパァン


 強酸液が吐き出される。


 ――極限集中。


 世界から色がなくなり、時間の流れが緩やかに変わった。


 その白黒の世界で、ゆっくりと迫る液体を、僕は最小限の動きで回避しながら、スノーバジリスクの頭部へ『妖精の剣』を振り下ろそうとする。


(!)


 それを予測していたように、左から、鋭い爪の生えた奴の右前足が襲ってきていた。


(精霊さん!)


 ジジッ、ジッ、ジガァアア


 僕の左腕は『白銀の左腕』へと変化した。


 ガキィッ バキィイン


 その竜のような鉤爪の生えた左手は、スノーバジリスクの巨大な爪を正面から受け止めて、逆に破壊した。


『ギ……ッ』


 驚いたような奴の顔。


 そこ目がけて、右手一本で『妖精の剣』を振り下ろす。


 ヒュコン


 鼻先を切断。


 スノーバジリスクは、思った以上の速さで頭部を捻り、僕の剣を回避していた。


 逆に、その頭部を僕にぶつけてくる。


(――柄打ち!)


 僕の知る最速の剣技でカウンターを当て、その反動で、僕は大きく後ろに跳躍する。


 タンッ


 近くの樹の幹に横向きに着地して、


「やっ!」


 地上に向かって再び跳躍し、奴へと襲いかかる。


 ブンッ


 迎撃するように巨大な尾が振り回されてきて、


 ヒュコン


 その尾を、僕の剣は切断する。


 空中に、大量の紫の血が撒き散らされる。


 その中を突っ切って、僕は地上へと着地すると、返す刀で後ろ足を狙った。


 バチィン


「ぐっ」


 今度はカウンターで、その足の後ろ蹴りを食らう。


『白銀の左腕』で何とか防御に成功したけれど、凄まじい威力に『白銀の鉱石』が弾き飛ばされて、僕の左腕は元に戻ってしまった。


 ビュルッ


 その隙を狙って、スノーバジリスクの長い舌が『妖精の剣』ごと僕の右手へと絡みつく。


(っっ)


 凄まじい力で引っ張られる。


 僕は地面へと倒れて、ズルズルと雪の上を滑って、その巨大な口内へと引き寄せられていく。


 そこに並んだ、鋭く輝く牙たち。


(このままじゃ……っ!)


 僕は、動かせる左腕で腰ベルトに差してあった『マールの牙・弐号』を逆手で引き抜いた。


 ヒュン


 僕を引っ張る長い舌を切断。


 抵抗がなくなり、奴は勢い余って、後ろにのけぞった。


(今だ!)


 僕は、右手首の『魔法発動体の腕輪』を輝かせながら、空中に『妖精の剣』を走らせる。


「勇敢なる赤き炎たちよ、力を貸して! ――フラィム・バ・トフィン!」


 叫びに応じて、空中に浮かんだタナトス魔法文字から、何百という『炎の蝶』が飛び出した。


 ドパァン


 1匹が、真っ白な魔物の巨体に命中。


 ドパパァアアン


 続く『炎の蝶』たちが次々と爆発を起こして、スノーバジリスクを後方へと弾いていく。


 レヌさんの村の外へと、追いやっていく。


『ギュオ……ガァアア!』


 それでも、巨大な魔物には大きなダメージにはなっていない。


『炎の蝶』の飛来が止んだ瞬間、奴は軽く顔を振るって、こちらを見た。


『!』


 その爆発の炎の中を抜けて、走り込んだ僕がそこにいる。


「やぁああ!」


 ヒュン ヒュコン


 炎をまとった僕の右手の『妖精の剣』と左手の『マールの牙・弐号』、それぞれが十文字の剣閃を描く。


 それはスノーバジリスクの眼球を斬り裂き、頭頂部を切断する。


『ギュガ――っ』


 短い悲鳴。


 雪深い森の中で、大きく仰け反り、2本足で立ち上がったスノーバジリスクの頭部から、大量の血液が噴水のように溢れていく。


 やがて、その巨体は、ゆっくりと仰向けに倒れた。


 ズズゥウン


 雪煙が大きく舞う。


「はっ、はっ、はっ」


 火傷の痛みを押し殺して、僕は2本の愛剣を構えながら、その巨体をしばらく見つめた。


 紫の血液が流れて、雪を溶かし、真っ白な体毛を染めていく。


 巨大な魔物は、しばらく痙攣し……やがて、その動きを止めた。


(や、やった……)


 勝利を確信した僕は、大きく息を吐く。


 喜びよりも、安堵が大きい。


 それほどの強敵だった。


「マールさん!」


 レヌさんが歓喜の声をあげて、僕の方へと走ってくる。


 僕は、そちらを見て笑った。


 その瞬間、


「!」


 レヌさんの表情が強張って、足が止まった。 


 その視線は愕然と僕の背後を見ている。


(え……?)


 月明かりが生みだす影。


 何か巨大な影が、僕の影の上に覆い被さっているのに気づいた。


 反射的に大地を蹴って、前方に跳躍――直後、僕のいた大地に巨大な爪の生えた手が叩きつけられた。


 慌てて振り返る。


 その視界に映ったのは、紫の血にまみれて立ち上がったスノーバジリスクだった。


(まさか……死んだふり!?)


 なんという狡猾さ。


 瀕死の重傷を負いながら、それでも勝利への執念が、この巨大な魔物を突き動かしていた。


「くっ!」


 慌てて、剣を構える。


 ビュルッ


 そんな僕目がけて、長い舌が飛び出してきた。


 雪の地面に転がって、何とか回避する。


「きゃっ?」


 その背後で、悲鳴が聞こえた。


 え?


(あ……!)


 長い舌は、レヌさんの身体に巻きついていた。


 狙いは僕ではなく、レヌさんの方だったのだ。


 抵抗も虚しく、レヌさんの身体は舌に引かれて、スノーバジリスクの巨大な口へと運ばれる。


「レヌさん!」


 必死に手を伸ばしたけれど、間に合わない。


 レヌさんの肉体は、スノーバジリスクの牙に挟まれた。


『…………』


 けれど、牙は刺さらない。


(え……?)


 奴の目は、僕を睨んでいた。


 その眼光が伝えてくる。


 反撃したならば、この女の命はないぞ――と。


(まさか……)


 この老獪な魔物は、レヌさんを人質に取ったのだ。


 愕然とする僕に、奴は醜く笑った。


 ズゥン ズズゥン


 薄暗い夜の森の中を、スノーバジリスクの巨体が近づいてくる。


 僕は動けない。


「逃げて! 逃げて下さい、マールさん!」

「…………」

「私のことはいいから、お願い! お願い!」


 レヌさんは叫ぶ。


 自責の念で、彼女の心は潰れてしまいそうだった。


 見ているこちらが苦しくなるほどに。


 そんな彼女を見捨てるなんて、僕にはできない。


 そんなのは、絶対に嫌だ!


(でも、どうする?)


 どうすれば、いい!? 


 ギュウ……ッ


『妖精の剣』の柄を強く握る。


 迫る絶望を前にして、けれど僕には打開策もなく、奴を睨み返すことしかできなかった。


 ――その時だ。


 フォン


『妖精の剣』の刀身が青く輝いた。


 そして、僕らの周囲から、


『――助けて欲しいの?』


 と頭の中に直接響く、不思議な声が聞こえてきた。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の火曜日0時以降を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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