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182・マールの腕前

第182話になります。

よろしくお願いします。

 翌朝になると、降雪はやんでいた。


 防寒着を着込んで宿を出ると、玄関前の通りに、大きな馬の馬車が停まっていた。


(わ? 毛むくじゃらだ)


 その馬は、モップみたいな毛で全身が包まれていた。


 しかも、体格は、普通の馬の2倍ぐらいある。


 驚いている僕の前で、キルトさんは、その馬の首をポンと叩いた。


「今日からは、この馬車じゃ」


 と笑う。


 実は、昨日まで乗っていた馬車は、この街で引き返すことになっていたんだって。


 理由は、テテトが雪国だから。


 シュムリアの馬は、この寒さに耐えられないし、雪道には慣れていないんだ。


 でも、このテテトの馬なら、寒さに強いし、身体が大きいから深い雪の中でも、前に進んでいける。


 蹄鉄や、車体の車輪にも、スパイクが付いているそうだ。


 まさに雪国仕様。


 なので、この新しい馬車をチャーターしたそうなんだ。


 馬車に繋がれた2頭の馬は、クリッとした目で、僕らを見ている。


(…………)


 なんか可愛いぞ。


「あの……触ってもいいですか?」

「あぁ、いいぞ」


 御者さんに許可をもらって、大きな馬に近づく。


 小さな手で触れてみた。


(うわ、モコモコだぁ)


 モップのような太い毛は、とても柔らかくて、手首まで埋まってしまう。


 その毛の奥には、引き締まった筋肉がある。


 力強い生命力を感じる。


「お馬さん、これからよろしくね?」


 そう声をかけた。


 お馬さんは、僕を見つめたまま、軽く首を動かした。


 ブルルッ


(わぁ?)


 びっくりして離れる僕。


 その様子を見ていた大人たちは、みんな、おかしそうに笑っていた。


 ソルティスは「馬鹿ねぇ」と呆れていたけれど。


「よし。では、この新しい馬車で、ツペットに向かうぞ」

「うん」

「はい」

「はいよー」


 キルトさんの号令で、僕らは客車に乗り込んだ。


 バフバフと、白い鼻息をこぼしながら、巨大な馬たちが歩きだす。


 そうして僕らを乗せた新しい馬車は、雪の街道を北上していった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 真っ白な大地を進んでいく。


 白一色の世界の中、街道のある場所だけは踏み固められて、雪の下の地面が少しだけ見えたりしていた。


(これは、なんだろう?)


 街道に沿って、約100メードごとに電柱みたいな柱が建っている。


「雪が深くなった時に、街道がどこにあるか示しているのですよ」

「あぁ、なるほど」

 

 イルティミナ先生に言われて、凄く納得。


(前世の世界でもあったよね)


 そう思い出した。


 そんな僕らの客車を引いて、テテトの巨大馬は、街道の雪を蹴散らし、頼もしく前に歩んでいく。


 それから2日後。


 僕らは予定通り、目的地である『ツペットの町』に到着した。


(ここが、ツペットかぁ)


 馬車から降りた僕らは、その町並みに目を奪われていた。


 岩山の斜面に造られた町。


 段々畑のように、家々が並んでいる。


 そして不思議なことに、この町にはなぜか雪が積もっていなかった。


「この岩山は、活火山での。地熱の影響で、雪が積もらんのじゃ」


 キルトさんは荷物を下ろしながら、そう教えてくれた。


(そうなんだ?)


 地面に手を向けてみると、確かにほんのり暖かい気がする。


 それから、僕らは、まず宿屋を確保した。


 馬車には宿に残ってもらって、宿に旅の荷物を下ろすと、最低限の装備だけになる。


「では、ベナスの紹介相手に会いに行くかの」


 キルトさんの声に頷いて、僕らはツペットの町中を歩きだした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ツペットの町では、地面のあちこちから蒸気が吹いていたりする。


(これも活火山の影響かな?)


 そうよそ見していると、


 ドンッ


「あ、ごめんなさい」

「おう、すまんな、坊主」


 道行く人とぶつかってしまった。


 相手は、ドワーフさんだった。


 僕と同じぐらいの背丈の彼は、片手を上げて、そのまま行ってしまう。


(……あれ?)


 よく見たら、通りを歩いている人は、ドワーフさんの割合が多い。


 人間とドワーフさんが半々だ。


 エルフさんの姿は、残念ながら、ない……。


 と、


「よそ見してると、またぶつかるわよ?」


 ソルティスに叱られた。


 イルティミナさんが優しく笑って、


「では、私と手を繋ぎましょう」


 と、なんだか嬉しそうに、僕の手を握ってくれた。


 キルトさんは苦笑している。


 ツペットの町の建物は、石造りだった。


 坂道を歩きながら、ぼんやりと眺める。


 …………。


「この町の建物って、結構、凝った作りをしてるんだね」


 僕は、そう呟いた。


 イルティミナさんがキョトンとする。


「はい?」

「ほら、この柱とか窓枠とか、凄く細かい彫刻がされてる」


 小さな指で示す。


 他にも、扉やドアノブ、雨どいなども、丁寧な飾りが作られたり、彫られたりしてあった。


 まるで美術品みたいだ。


 でも、目立つ感じではない。


 あとでこの町のことを絵に描こうと思って、注視してたから、僕も気づけたんだ。


(本当に、さりげなく施してる感じ)


「マールは感性が良いの」


 キルトさんが、そう笑った。


「ツペットはの、鍛冶職人の町なのじゃ」

「鍛冶職人の町?」

「そうじゃ。この町の地下にはの、溶岩の流れる場所がある。それを職人たちは、昔から鍛冶に利用しておるのじゃ」


 そうして職人さんたちが集まってできたのが、この町なんだって。


(へ~?)


「だから、ドワーフさんが多いんだね」

「そういうことじゃ」


 手先が器用で、土や鉱石にも詳しい種族。


 だからドワーフさんには、鍛冶職人さんも多くて、それで自然とツペットの町にも集まったんだね。


「言われてみれば、確かに、通りの手すりもよくできていますね」


 イルティミナさんの真紅の瞳が、坂道に沿って造られた手すりを見つめる。


「彫刻もありますが、ちゃんと握り易い形で、滑り止めもされています。他に、道自体にも、足が滑らないように細かい溝が彫られていますね」

「……本当だわ」


 ソルティス、『言われて気づいた』という顔だ。


 気づこうとしなければ、たぶん、気づけない。


 そういう気遣いや趣向が、この町のあちこちには見受けられた。


(なるほど)


「職人の町だね」


 頷く僕に、キルトさんは笑った。


「ほれ、目的の家もすぐそこのようじゃ。さっさと行くぞ」

「あ、うん」

「はい」

「へ~い」


 僕らは頷いて、その建物へと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ここじゃな」


 キルトさんが紹介状の宛名を見ながら、足を止める。


『アービンカ装備店』


 お店の看板には、アルバック大陸共通語でそう書かれている。


 よく見ると、『鍛冶ギルド認定店』という文字も添えられていた。


(ふ~ん?)


 僕らは、店内へと足を運んだ。


「いらっしゃいませ」


 入り口近くにいた店員さんが挨拶をする。


 店内はかなり広くて、たくさんの武器と防具が陳列されていた。


 店員さんも5人ぐらいいる。


 冒険者らしいお客さんも、数パーティーいるようで、それぞれに店員さんがついて対応をしていた。


「何か装備をお探しでしょうか?」


 僕らに声をかけた店員さんが聞いてくる。


「いや、わらわたちは、妖精鉄を求めていての」

「……妖精鉄ですか?」

「うむ。それで知人に紹介をされての、シュムリアから、この店まで来たのじゃが」


 そう言いながら、紹介状を渡す。


「失礼します」と店員さんは受け取った。


 差出人の名前を確認して、軽く目を見開くと、


「少々お待ちください」


 彼は、足早に店の奥に行ってしまった。


(……?)


 少し慌てた様子だったけど、どうしたんだろう?


 しばらく待っている間に、イルティミナさんは近くの装備を眺めて、「なかなか良い品揃えですね」と呟いていた。


 やがて、5分ほどすると、1人の女性がやって来る。


 赤毛を三つ編みにした、ドワーフの女性だ。


 身長は、僕より少し高いぐらいだけれど、身体はとてもがっしりしている。


 彼女の瞳は、僕らを見て、


「よう、アンタらかい? 親父の紹介ってのは」


(親父!?)


 僕らは4人とも驚いた。


「アタシは、ベナスの娘のアービンカってもんだ。一応、この店の主人だよ」

「そうであったか」


 キルトさんは、驚きながらも頷いた。


「わらわは、キルト・アマンデス。シュムリアの冒険者じゃ」

「知ってるよ。シュムリアの鬼姫様だろ?」


 アービンカさんは、腰に手を当てながら笑った。


 その手には、多くの傷やタコがあって、立派な職人さんの手に見えた。


「親父も太い客を手に入れたね。……元気でやってんのかい?」

「うむ、元気であるの」

「そうかい」


 彼女は頷いて、異国の父を思ってか、その瞳を細めている。


 それから表情を改めて、僕らを見た。


「で……紹介状を読んだよ。アンタら、妖精鉄が欲しいのかい?」

「うむ。そうじゃ」

「ふぅん」


 その視線が、僕ら4人を順番に見つめて、


「その坊やがマールだね?」


 最後に、僕の顔で止まった。


「あ、はい」

「紹介状に書いてあったけど、この子の装備に妖精鉄が欲しいんだって?」

「そうじゃ」


 キルトさんは頷いた。


 アービンカさんは、ジロジロと僕を見つめる。


「妖精鉄ってのは、貴重な鉱石だ」

「…………」

「産出量も少ないし、鉱山で命を落とす奴もいる。いくら金を積まれても、子供の装備のために渡すのには、正直、抵抗があるんだよね」


(……え?)


 それって、つまり駄目ってこと?


 このテテト連合国まで、わざわざ足を運んでおいて?


 愕然となる僕。


 アービンカさんも迷った顔だった。


 と、


「失礼ですが、ここにある盾を売って頂いても?」


 イルティミナさんが、突然、そんなことを言った。


「あん? 別にいいが」 

「どうも」


 1万リド硬貨を渡して、イルティミナさんは、その大きな盾を手にする。


 1万リド、つまり100万円の盾だ。


 装飾も立派だし、分厚くてとても頑丈そうである。


(いったい、急にどうしたの?)


 僕も、キルトさんもソルティスも、そう思った。


 イルティミナさんは、その盾を僕の方に構えて、


「では、マール。この盾を斬って下さい」


 ……はい?


 ポカンとなる僕。


 キルトさんは気づいた顔で、「なるほどの」と笑った。


 ソルティスは、細い首をかしげて、よくわかってない顔だ。


 僕も意味がわからないけれど、


「さぁ、マール。早く」

「う、うん」


 イルティミナさんに促されて、僕は、腰ベルトに差してあった『妖精の剣』を鞘から抜いた。


 アービンカさんが「おいおい」と慌てた顔をする。


 ヒュコン


 その目の前で、僕は、いつものように上段から剣を振るった。


 1拍の間を置いて、盾は真っ二つになった。


 ガラ ガラン


 店内に響く、重い金属の落下音。


 制止しようとしていたアービンカさんは、手を伸ばした状態で、動きを止めた。


 店内にいた店員さん、冒険者さんも全員、こちらを唖然と見ている。


 僕は、『妖精の剣』を鞘に戻す。


(こ、これでいいのかな?)


「上出来です」


 視線で窺う僕に、イルティミナさんは満足そうに頷いてくれた。


 キルトさんが、アービンカさんに言った。


「どうじゃ、この子供は?」

「…………。親父の目が曇ったかと心配してたけれど、どうやら、曇ってたのはこっちだったみたいだね」


 額を指で押さえて、彼女は、ため息を吐いた。


 それから、2つになった盾を拾い上げ、


「結構、自慢の作品だったんだけどねぇ」


 と苦笑する。


 すぐに快活に笑って、


「見事な腕だったよ、マール。わかった。詳しい話をしてやるから、4人とも奥に来な」


 そう言って、彼女は僕らを、店の奥の部屋へと案内した。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新なのですが、少し体調を崩してしまいまして、1週間後の金曜日、28日の0時以降にさせて頂きたいと思います。申し訳ありません。少し間が空いてしまいますが、どうぞ、よろしくお願いします。


※またブクマ1300件、総合評価4000ポイントを超えることができました! 皆さん、本当にありがとうございました!

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