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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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181・テテトの白き大地

今話から、テテト連合国が舞台となります。


それでは第181話です。

どうぞ、よろしくお願いします。

 シュムリア王国は、アルバック大陸の南東に位置する細長い国である。


 形は、日本列島と似ていて、バナナ型。


 僕らの目指すテテト連合国は、そのシュムリア王国の北部にある、20の小国で形成された国だった。


「だから地域によって、結構、文化の違いもあるみたいね」


 とは、博識少女ソルティスのお言葉。


 言語は、アルバック共通語なんだけど、場所によっては訛りの違いもあるんだって。


 国土は、シュムリア王国の半分ぐらい。


 本当に小国。


 ちなみに、アルン神皇国の国土は、アルバック大陸の7割を占めている。


 シュムリア王国は、2割。


 テテト連合国は、1割。


 ……アルン神皇国は、本当に広いね……。


 さて、僕らがシュムリア王国の王都を出発して、10日間が過ぎた。


 僕らの馬車は今、山脈に造られた巨大なトンネルの中にいる。


 実は、ここが国境なんだ。


 魔光灯の灯りが、トンネル内を点々と遠方まで照らしている。


 そしてトンネルの中間地点には、巨大な砦も造られていて、ここが両国間の国境検問所となっていた。


 まずはシュムリア側で手続き。


 こちらは、すぐに終わる。


 続いて、テテト連合国側での手続きだった。


 テテトの人々を、僕は初めて見る。


(……毛皮だね)


 シュムリア側が鎧を着こんだ兵士だったのに対して、こちらは、分厚い毛皮をまとった兵士たちだった。


 なんていうか、モコモコしてる。


 みんな、顔の彫が深くて、逞しい髭を生やしていた。


 国境を守っている重責からか、全員、表情がなかった。


 まるで彫像みたいだ。


「通って良い」


 許可が下りて、僕らの馬車は動きだす。


 僕は、窓からしばらく彼らのことを、目線で追いかけてしまった。 


「テテトの人々は、あまり喋らぬ」


 キルトさんが、そう教えてくれた。


「そうなの?」

「うむ。別に感情がないわけではない。しかし、口下手な印象じゃな」


 ふぅん?


「まぁ、環境のせいでしょう」


 とは、イルティミナさん。


「環境?」

「トンネルを抜ければ、わかりますよ」


 イルティミナさんは、何だか悪戯っぽい顔だ。


(はて、どういう意味だろ?)


 ちなみにソルティスは、その会話の間もずっと、コロンチュードさんの新魔法の資料を読んでいた。


 それから30分後、僕らの馬車は、ようやく長い長いトンネルを抜けた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「うわ……雪だ!」


 窓の外に広がる景色に、僕は唖然とした。


 一面の銀世界。


 トンネルの向こうにあった平野は、全てが真っ白な雪で覆われてしまっていた。


 遠くの山々も皆、白く染まっている。


 2人の大人は、驚く僕に、楽しそうに笑っていた。


「見るのは、初めてですか?」

「うん」


 前世はともかく、マールになってからは初めてだ。


 イルティミナさんが笑って頷く。


「これが雪です」

「…………」

「大気中の水分が、寒さで凍って、空から落ちてくるのですよ。不思議ですよね」

「…………」

「ほら、見てください?」 


 はぁぁ。


 イルティミナさんの桜色の唇の間から、吐息が窓に吹きかけられる。


 窓は、すぐに真っ白になった。


「ね?」


 なんだか、僕に教えるのが楽しそうだ。


 その指は、白くなった窓を撫でて、1本の線を残す。


「こうすれば、マールの好きな絵も、たくさん描けますよ」

「うん」


 僕は頷いて、窓に、自分の小さな指を押しつけた。


 キュッ キキュッ


 鳥の絵が完成。


 ちょうど窓の外を飛んでいるような絵になった。


「まぁ、上手」


 イルティミナさんが褒めてくれて、キルトさんも「ほう?」と感心した顔だ。


(ちょっと楽しい)


 僕も、ついつい笑ってしまった。


「少し冷えてきたわね」


 ソルティスが、資料から顔を上げ、ポツリと呟いた。


 そういえば、


(トンネルを抜けてから、グッと気温が低くなった気がする)


 車内にいるから、気づくのが遅れた感じ。


 イルティミナさんは「そうですね」と頷いて、荷物の中から、厚手のローブを取り出した。


 他にも、マフラーや手袋、靴下など。


「今の内に、着てしまいましょう」

「そうじゃな」

「うん」

「へいへ~い」


 そうして防寒着を装備する。


 なんだか、みんな、モコモコになった。


(あ、そっか)


 国境で、テテト連合国の人たちが毛皮を着ていた理由が、ようやくわかった。


 テテト連合国は、寒い国なんだ。


(まぁ、かなり北への緯度が高い国みたいだしね)


 地理を考えて、納得する。


 あまり喋らない印象なのも、寒い中で、長く口を開かないからなのかな?


 前世でも、だから東北の訛りの会話は、文字数が短いって聞いたことあるし……。


 いや、本当かは知らないけどね。


(でも、少なくとも、テテト連合国ではそうなのかな?)


 そんな風に思った。


「宿泊予定の街までは、あと2時間ほどのはずじゃ。寒いであろうが、もう少し、がんばるのじゃぞ」

「うん」


 キルトさんの励ましに、僕は頷いた。


「寒ければ、私が抱っこしてあげますからね」


 イルティミナさんは、そう言ってくれたけれど、むしろ、そうしたくて堪らないという顔だった。

 あはは……。


「手袋すると、ページめくるの大変だわ~」


 ソルティスは、相変わらず。


 キュッ キュッ


 僕は、窓の曇りを手でこすって、また外を見た。


 どこまでも続く、銀の世界。


(……ここがテテト連合国かぁ)


 舞い落ちる雪の中、僕らを乗せた馬車は、その白い大地に轍を残して、真っ直ぐに走っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 テテト連合国で初めての街に到着した。


(へ~)


 石造りの外壁に包まれた、立派な街だ。


 この異世界で初めて訪れた街メディスより、一回り小さいぐらいの規模である。


 入街手続きをして、中に入る。


 並んだ建物の造りも、シュムリア王国とそう変わらない気がした。


「ここは、まだシュムリア国境に近いからね」


 ソルティスが、そう教えてくれた。


「もっと北の方に行くと、文化的にはもう少し低くなる感じかしら」

「そうなんだ?」


 そんな会話をしながら、15分ほどで宿屋に到着。


(わ?)


 宿の玄関には、ヘラジカのような角のある大きな頭蓋骨が飾られていた。


「雪鹿という、テテトで生息する動物ですね」


 驚く僕に、笑うイルティミナさん。


「ま、魔物じゃないの?」

「違いますよ。ただの動物です」


 信じられない。


 頭蓋骨だけで1メード。


 角も入れたら、3メード以上もあるんだ。


(身体全体なら、5メードを超えるんじゃないの?)


 それが普通の動物だなんて……。


「雪鹿は、テテトの人たちがよく狩猟をしています。その肉や毛皮、油などは、彼らが生きるための貴重な資源になります」

「ふぅん」

「とはいえ、このような立派なサイズは、そういないと思いますが」

「なるほど、そうなんだ?」


 そんな会話をしている間に、キルトさんがチェックインを終わらせてくれる。


 案内された客室は、暖炉もある部屋だった。


(ちょっと暑いぐらいだね)


 防寒着や装備を脱いでいく。


 雪のある外と比べて、まるで初夏のような室温だった。


「よし、では昼食でも食いに行くか」

「うん」

「はい」

「早く行きましょ!」


 僕らは、宿屋の食堂へと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 出てきたのは、話題にあった雪鹿のステーキだった。


 柔らかくて、とてもジューシー。


(うん、美味しいや!)


 ちょっと癖のある匂いだけど、僕はそんなに気にならなかった。


 ご満悦で、そのステーキを平らげていく。


 やがて、食後のお茶を楽しみながら、


「テテト連合国ではね、まだ『魔血の民』の人権は認められてないの」


 と、ソルティスが、恐ろしい事実を教えてくれた。


「そうなの?」

「そうよ。でも、一応、認められてもいるわ」


(……???)


 ちょっと混乱した。


「ごめん、どういうこと?」

「要するに、良くも悪くも、テテトは『連合国』ってことよ」


 そして博識少女に説明された内容は、こうだ。


『魔血の民』の人権は、30年前、シュムリア王国、アルン神皇国の共同声明で発表され、両国で認められるようになった。


 実情はともかく、建前はそう。


 そこに、実はテテト連合国も加わる予定だった。


 でも、テテト連合国は、20の小国からなる連合国家だった。


 シュムリアやアルンに国境が面している国々は、共同声明に賛同していた。


 でも、国境から遠い国々では、まだ差別意識が根強く残っていて、『連合国』としての賛同はできなかったんだ。


「小国同士での対立とか、複雑な理由もあるんだけどね」


 博識少女は、そうも付け加えた。


 シュムリアやアルンに対抗するため、連合国となったけれど、それ以前は、小国同士で戦争も起きていたそうだ。


(なるほどね)


 人は数が多くなればなるほど、一枚岩にはなり辛いんだ。


 僕は呟く。


「テテト連合国って、国土は小さいけれど、価値観は一番多様なのかもね」


 ソルティスは、「上手いこと言うじゃない?」と笑った。


 キルトさんが、小さなグラスに入ったお酒をあおって、


「テテトは、北東に行くほど差別がある。シュムリア、アルンから離れるからの」


 プハッ


 そう言って、とても熱そうな息を吐いた。


 寒さ対策のためか、テテト連合国は、お酒のアルコール度数も高そうだ。


「そうなんだ」


 僕は頷いて、


「じゃあ、僕らが向かう予定の場所は、どうなの?」

「問題ない」


 彼女は、僕を安心させようと笑った。


「紹介状を書いてくれたベナスの知り合いは、ツペットという街にいるそうじゃ。そこは、ここから馬車で2日ほどの距離で、そう遠くない」

「そっか」


(よかった)


 僕も安心する。


 ソルティスは、小さな肩を竦めて、


「ま、差別が全くないってことはないでしょ。でも、あっても、シュムリア国内と変わらないレベルだと思うわ」


 と言った。


 つまり、許容範囲内だろうということ。


(なるほどね)


 世の中には、本当に色々な考え方があるんだなぁ、と、つくづく思った。


 そうして僕らは、昼食を終えた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 日が暮れると、気温はグッと寒くなった。


(シュムリアは、まだ秋だったのにな)


「テテトでも、この時期に、ここまで寒くなるのは珍しいそうですよ」


 イルティミナさんは、さっき従業員さんに聞いた話を、僕にも教えてくれた。


(そうなんだ?)


 窓の外では、まだ雪がチラチラと降っている。


「そろそろ、寝るか」

「うん」

「はい」

「そうね」


 僕らは、少し早めに就寝することにした。


 …………。

 …………。

 …………。


 ふと夜中に目が覚めた。


(うぅ……寒い)


 もう一度、眠ろうと思ったけれど、手足の末端が冷えていて、上手く眠れない。


 しばらく、モゾモゾしていると、


「マール」


 暗闇の中で、真紅の瞳が輝いていた。


 隣の布団に寝ているイルティミナさんが、いつの間にか目を覚まして、僕のことを見ていたんだ。


「こっちにいらっしゃい」


 片手で布団を持ち上げ、笑う。


(…………)


 僕は、素直に従った。


 ポフッ ギュッ


 いつものように抱き枕になる。


(あ、あったかい……)


 イルティミナさんの身体は、とても温かくて、その白い手足を、僕の手足に重ねてくれる。


 僕の髪の中に、顔を押しつけるようにして、


「ふふっ……おやすみなさい、私のマール」

「うん」


 その息が、少しくすぐったい。


「おやすみ、イルティミナさん」


 心を緩めながら、そう答えた。


 雪の降りしきる、テテト連合国での初めての夜。


 そうして僕は、まるで母犬のお腹で眠る子犬のように、彼女の温もりに安心しながら、眠りの闇に落ちていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。 川端康成オマージュ?w 北東に行けば差別が強い。 今回はここから二日程度の場所だから大丈夫。 フラグかな? それとも、普通に国の説明かな?…
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