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179・新しき黄金の光

第179話になります。

よろしくお願いします。

 僕が『白印の魔狩人』となってから、1週間が過ぎた。


 その間に、世間では新しい『金印の魔狩人』の就任が正式発表されて、大きな話題になっていた。


『イルティミナ・ウォン』


 その名前が、新聞の紙面を賑わした。


 号外も出されて、その1部を、僕は、自室の机の中に大切に保管していたりする。


 コホン……閑話休題。


 そうして、新しい『金印の魔狩人』は、本日、聖シュリアン大聖堂で行われる就任式典にて、国民の前に初めて披露されることになった。


「……壮観だわ」


 大聖堂3階にある控室の窓からの光景に、ソルティスが呟いた。


 人、人、人だ。


 大聖堂前の広場が、たくさんのシュムリア国民たちで埋め尽くされている。


(……凄いなぁ)


 ちょっと呆然だ。


「ま、国を挙げての一大イベントであるからの。それに皆、新しい英雄を一目見たいのじゃ」


 英雄の1人、キルトさんがそう言った。


(……イルティミナさんも、英雄になるんだ?)


 嬉しいんだけれど、でも、なんだか遠い存在になってしまったようで、少し寂しい。


 自分勝手だとわかっているけれど。


 そんな僕ら3人のいる控室には、ただ話題のイルティミナさん本人の姿はなかった。


 実は、彼女は今、式のための着替えで席を外しているんだ。


 ちなみに、現役『金印の魔狩人』であるキルトさんも、参加する側なので、漆黒のドレス姿だった。


 ドレスの黒地に、美しい銀髪が映えていて、ちょっと妖艶な雰囲気だ。


 キルトさんの着替えは、20分ぐらいだった。


 でも、イルティミナさんは本日の主役なので、もう40分以上かかっている。


(どんな風になるんだろ?)


 ちょっと期待しちゃう。


 コンコン


 と、その時、控室のドアがノックされた。


(あ、戻ってきたかな?)


 3人の視線が集まり、僕は、ドアに駆け寄った。


 ガチャ


「おかえり、イルティミナさ……ん?」


 開いた扉の向こうにいたのは、違う人物だった。


 驚く僕ら。


 キルトさんが、座っていたソファーから、すぐに立ち上がる。


 ソルティスも慌てて、それに倣った。


 控室にいた女官さんたちも、一斉に頭を下げている。


「あら、マール様?」


 彼女は、蒼と金のオッドアイの瞳で僕を見つけて、嬉しそうな笑顔をこぼした。


 シュムリア王国第三王女、レクリア王女がそこに立っていた。

 


 ◇◇◇◇◇◇◇



「そう、畏まらないでくださいな」


 レクリア王女は、優雅に笑う。


 王族の1人として式典に参加する彼女は、開会前に、わざわざお祝いの挨拶に来てくれたんだそうだ。


 生憎、イルティミナさんはいなかったけど、


「まぁ、残念。タイミングが悪かったですわね」


 と、王女様は寛容だ。


 それから、用意された紅茶を楽しみながら、


「そうそう、マール様。4人目の件、本当にありがとうございました」


 と口にする。


 4人目とは、つまりポーちゃん、神龍ナーガイアのことだろう。


「ですが、まさかシュムリアに戻られて3日で、見つけられるとは思いませんでしたわ」

「…………」

「報告を聞いた時、わたくし、驚いて、紅茶を吹いてしまいましたのよ?」


 口元を指で押さえ、悪戯っぽく笑う。


 どう答えていいかわからず、僕は苦笑してしまった。


 それから、


「きっと、運が良かったんですよ」


 正直に、伝える。


 レクリア王女は、意外そうな顔をした。


 でも、すぐに微笑んで、


「そうですわね……。きっと、これは運命でした」


(……え?)


「この数ヶ月、王国の数万の兵士が探しても発見できなかった人物を、マール様はあっさり見つけてしまった。きっと、そういうことなのでしょう」

「…………」

「本当に、マール様は、不思議な御方」


 僕を見つめるオッドアイの瞳には、キラキラした光が宿っていた。


 ……ち、ちょっと恥ずかしい。


 と、その視線が、キルトさんを向く。


「キルト・アマンデス」

「はい」

「前に貴方は言っていましたね? マール様の本当の力は、戦う力ではなく『人と人を繋ぐ力』であると」

「はい」

「今回の件で……わたくしも、それが少しだけわかった気がしますわ」

「さようですか」


 キルトさんは、穏やかに微笑んだ。


(…………)


 当の本人である僕は、まるでわからないんですが……。


 そんな僕の表情に気づいて、2人は顔を見合わせ、とてもおかしそうに笑っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「そういえば、お父様も褒めていましたわ」


 ふと思い出したように、レクリア王女は口にした。


(え……王様が?)


 驚く僕に、彼女は、声真似をして言う。


「『ほう? 1つ結果を出したか。ならば、よくやったと言っておけ』……ですって」

「…………」


(それは、褒められてるのかな?)


 微妙な顔の僕に、レクリア王女は、クスクスと笑った。


「お父様は、素直ではありませんから」

「はぁ」

「けれど、今回のことで、マール様を見る目は、少し変わった気がします」


 …………。


(まぁ、愛娘であるレクリア王女が言うならば、そうなのかな?)


 嬉しいような、信じられないような、複雑な感じ。


 と、その時、


 コンコン


 控室のドアがノックされて、控室の女官さんが教えてくれた。


「イルティミナ様がお戻りになられました」


(!) 


 僕らは、そちらに注目する。


 そうしてドアが開くと、その人が、ゆっくりと姿を現した。


「まぁ!」

「ほう?」

「……イルナ姉、綺麗」


 3人の驚きの声がする。


「…………」


 でも、僕は声も出せなかった。


 そこに立っていたのは、純白のドレスに身を包んだイルティミナさんだった。


 長く美しい深緑色の髪は、豪華に結い上げられて、宝石の散りばめられた金色の髪飾りで飾られている。


 ドレスの胸元と背中は、大きく開いていて、滑らかな白い肌がなまめかしい。


 端正な美貌は、普段はしない化粧が施されて、よりあでやかだ。


 まさに、純白の貴婦人。


(…………)


 けれど、その手には『金印の魔狩人』らしく、美術品のように美しい『白翼の槍』が握られている。


 それは、見目麗しい戦乙女のようだ。


 その対比も素晴らしい。


 イルティミナさんは、僕らの視線に、恥ずかしそうに頬を染めている。


 そのまま、上目遣いに僕を見つめ、


「ど、どうでしょうか、マール?」


 と、訊ねた。


 …………。


「マ、マール?」

「…………」

「あの……?」


 ようやく、僕の口が動いた。


「……綺麗」


 呆けたような一言。


 イルティミナさんは、真っ赤になってうつむいた。 


(……あ)


 気づいた僕も、赤くなる。


 そんな僕らに、レクリア王女は、何かを察した目になって、


「あらあら、そうでしたの?」


 口元を手で隠して、小さく笑った。


 と、レクリア王女の後ろに控えていた、侍女のフェドアニアさんが、その耳元に囁いた。


「王女様、そろそろお時間です」

「あら、そうですの」


 第三王女様は頷く。

 

「イルティミナ・ウォン」


 彼女は、新しい『金印の魔狩人』をオッドアイの瞳で見つめた。


「どうか、その新しい黄金の輝きに恥じないように、これからの時間を生きていってくださいね」

「はい」


 イルティミナさんは頷いた。


 レクリア王女は、微笑みを深くして、そのまま大勢のお供と一緒に控室を去っていった。


 部屋の空気が、少し軽くなる。


「ふ~、やれやれね」


 意外と小心なソルティスが、ため息をこぼした。


 僕は苦笑する。


 と、


「イルティミナ様、こちらも会場に入るお時間です」


 そう女官さんが教えてくれた。


 イルティミナさんは「わかりました」と頷いて、大きな胸元を両手で押さえて、深呼吸する。


「まぁ、気楽にの」

「がんばってね、イルナ姉」


 2人が励ます。


 イルティミナさんは頷いた。


 僕は、手袋に包まれた彼女の手を握る。


 それを額に押し当てて、目を閉じながら、彼女に勇気が出るように祈りを込めた。


 そして、彼女を、青い瞳で見つめる。


「いってらっしゃい、イルティミナさん」

「はい」


 イルティミナさんは嬉しそうに笑った。


 それから身を屈めて、


 チュッ


 軽く頬にキスをしてくれた。


 紅い口紅(ルージュ)のあとが、少し残る。


 驚く僕に、彼女は、恥ずかしそうにはにかんで、


「いってきます、マール」


 力強く言う。


 そうして僕らは、新しい『金印の魔狩人』が控室を出ていく、その門出の背中を見送った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 開会の時間が近づき、やがて僕らも、大聖堂に向かうことになった。


 前に来たのは、国王様の生誕50周年式典の時だった。


 その時は、一般席に座ったけれど、今回は、イルティミナさんの親族、友人として、関係者席に案内された。


 見晴らしのいい3階の席。


 ソファーも高級で、とても柔らかい。


「ではの」


 ちなみにキルトさんは、式に参加する側なので、そう言っていなくなった。


 なので、座っているのは、僕とソルティスだけ。


 ヒソヒソ


 他の関係者席から、子供2人に対しての好奇の視線が向けられ、囁き声が聞こえてくる。


 ちょっと落ち着かない。


(……あ)


 と思ったら、少し離れた関係者席の中に、ムンパさんの姿を見つけた。


 イルティミナさんの所属するギルド長だからかな。


 笑いながら小さく手を振ってくれて、なんだか安心してしまった。


 一般のお客さんも、凄い人数だった。 


 数千、あるいは、1万人を超えているかもしれない。


 席は満杯だ。


 大聖堂に入れなかった人たちも、大聖堂前の広場に集まっているそうだ。


『天声器』と呼ばれるスピーカーで、広場でも、中の声だけは聞こえるようになっているんだって。


 やがて、大聖堂内の灯りが暗くなった。


 開式だ。


(……ドキドキするよ)


 胸を押さえる僕。


 集まった楽団が生演奏を奏で始め、司会となる神官さんが挨拶をし、大教皇様が開式を宣言された。


 ついに始まった。


 まずは、各ギルド関係者や貴族様たちの挨拶が行われる。


 アルン神皇国や、他の国からも来賓や祝辞があった。


(…………)


 本当に、一国を代表する存在になるんだと、改めて実感させられる。


 やがて、将軍様や大貴族様も挨拶。


 そして、あの現役の『金印の魔狩人』キルト・アマンデスも挨拶をした。


 こういう場には、もう慣れているらしく、堂々とした口ぶりだ。


(さすがだね)


 あと、『金印の魔学者』コロンチュード・レスタさんも挨拶した。


 こちらは、とても短かった。


 挨拶の間、彼女は背筋を伸ばしていたけれど、時々、気が抜けるのか、猫背になりそうになって、慌てて直していたのが可笑しかった。


 王家の1人として、レクリア王女も挨拶をした。


 大勢の人の前でも、落ち着いた様子。


 とても、僕らと同い年とは思えない。


 そうして式の進む大聖堂には、大きな女神像がある。


 その胸元の高さには、半円形の通路があって、正面はバルコニーのようになっていた。


 その通路に、神官さんたちが並んでいく。


 大聖堂には、期待の空気が高まる。


 そして、


(――来た!)


 その神官さんの祝福する道を通って、新しい『金印の魔狩人』イルティミナ・ウォンの登場だ。


 白い槍を手にした、純白の貴婦人。


 彼女は、堂々とした表情と所作で、正面のバルコニー部分に立つ。


 大聖堂内に、歓声が上がった。


 万雷の拍手。


 多くの人にとって初めて目にする新しい『金印の魔狩人』は、思った以上に若く、研ぎ澄まされた美しさもあって、驚きと好印象を与えたようだ。


 僕も、目一杯の拍手。


 隣のソルティスも同じである。


 パチパチパチ


 やがて、拍手が終わる。


「皆様、初めまして。わたくしの名は、イルティミナ・ウォンと申します」


 良く通る、少し低い声。


 いつものイルティミナさんの声だった。


 内心はわからないけれど、表面上は緊張している様子は見られない。


 格式のある言葉使いで、挨拶は、淡々と終わった。


 イルティミナさんが一礼する。


 パチパチパチ


 また拍手が起きた。


(あ……こっち見た) 


 ふとイルティミナさんと視線が合い、彼女が小さく笑ってくれた気がした。


 気のせい?


 わからないけれど、僕は、また目一杯に手を打ち合わせた。


 最後に、国王様が登場した。


 厳粛なお言葉で、イルティミナさんに祝福を授けられる。


 それから、そばにいた神官さんが手にしていた魔法球を掲げる。


 国王様が、その魔法球に手を当てた。


 イルティミナさんも、反対側に、手袋を外した右手を添える。


「女神シュリアンの名のもとに、この者を、シュムリア王国の定めし、新しき黄金の戦士と認めよう」


 パァアア


 魔法球が輝く。


 そして、イルティミナさんの右手にあった魔法の紋章が、銀から金へと輝きの色を変えていく。


(う、わぁ……)


 黄金の光。


 それが大聖堂の内部を、集まった人々を照らしていく。


 とても眩しい。


 その右手を高く掲げるイルティミナさんの姿は、本当に神々しくて、涙が出そうだった。


「…………」

「…………」


 ソルティスは、その姉を見つめながら泣いていた。


 …………。


 なんだか、遠い人になってしまった気がした。


 僕らのイルティミナさん。


 それが、もう僕らだけの存在ではなくなってしまったのかもしれない。


 でも、お祝いすべきこと。


(…………)


 嬉しくて、でも、少しだけ悲しい気持ちになりながら、僕は笑顔で、彼女の遠い姿を見つめ続けた。


 こうして、式典は無事に終わった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


それとご報告です。

実は、一昨日夜のレビュー、そしてあと書きでのお願いのあと、ブクマや評価ポイントを入れて下さった方が何人もいて下さいまして、なんと『転生マールの冒険記』が日間ファンタジー異世界転生/転移ランキングで102位にまでなれました。(更新時は156位)

応援してくれた皆さん、本当にありがとうございました!


恐らく、すぐにランク外になってしまうと思いますが、一時的にもランキング入りできたことは、とても誇らしくて、また嬉しい出来事でした。

これを励みに、これからも自分にできる精一杯で頑張ろうと思います!


皆さん、本当に本当にありがとうございました!


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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