表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

176/825

174・誘拐事件の顛末

第174話になります。

よろしくお願いします。

 あれから、火傷を負ったソルティスは、何とか自力で回復魔法をかけて、自分の身体を治すことに成功した。


 心身を消耗した妹を、イルティミナさんが背負って、僕らは、王都の衛兵さんたち、アスベルさんとガリオンさん、救出した女の子たちと一緒に、忘れ去られた王都の下水道をあとにする。


「…………」

「…………」


 その間、ポーちゃんは、何も喋らなかった。


 彼女も、とても疲れた様子で、歩きながら、そのまま眠ってしまいそうな様子だった。


 だから今は、僕が手を繋いで、先導するように歩いている。


(…………)


 あの変身は、僕とイルティミナさん以外には、誰からも目撃されなかったみたいだ。


 炎に備えて、みんな、床に伏せていたこと。


 僕とソルティスの身体が、死角になったこと。


 多分、それが原因だと思う。


 少なくとも、アスベルさんたちは何も言わなかった。


 むしろ、ガリオンさんなどは、


「やるじゃねえか、あのチビ女」


 あの『魔界生物』の炎を弾き返したのは、ソルティスの魔法だと思っているみたいだった。


 …………。


 でも、真相は違う。


 僕は、眠そうなポーちゃんの横顔を見つめた。


(……君は、やっぱり……そうなんだよね?)


 心の中で、呼びかける。


 その視線は、ぼんやりと前だけを向いている。


 でも、その繋いだ小さな手のひらは、とても熱くて、幼くて、僕の指には、少しだけ力がこめられた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 地上に出た時には、もう夜中だった。


 夜空には、美しい紅白2つの月が輝いている。


 そのまま僕らは、王都の衛兵さんたちに言われて、王都の警備隊第4支部なる建物に連れていかれた。


「この地区の衛兵たちの本部です」


 とは、イルティミナ先生のお言葉。


(なるほど)


 つまり、前世の警察署みたいなところなのだろう。


 そこの会議室みたいな広い部屋で、僕らは、あの地下で助けた14人の女の子たちと再会することになった。


「お姉さんたち!」

「お2人とも、無事だったんですね」

「よかった……」


 泣きそうな顔の彼女たちに、僕とソルティスは囲まれる。


 ちょっと驚いた。


 でも、安心した。

 イルティミナさんから聞いてはいたけれど、全員、無事に地上に出られて、保護されていたことが、ちゃんと確認できたから。


(よかった)


 本当によかったよ。


 みんな、こんな辛い目に遭った分、これからは、いっぱい幸せになって欲しいと思った。


(……でも)


 お姉さん、お姉ちゃん。


 感謝と尊敬の眼差しを向けられながら、そう呼ばれることに、本当は男の子であるマール君は、ちょっぴり複雑な気分です。


 正体は、絶対にばらさないようにしよう――そう心に誓う僕でした。


 そうしている時、ふと部屋の奥の方に、数十人ほどの大人の人たちが立っているのに気づいた。


 その顔は、なんとなく、集まった女の子たちに似ていた。


 多分、保護者の人たちだ。


 目が合うと、その人たちは、僕らに深く頭を下げてくる。


(…………)


 子供である僕らに、大人であるその人たちが、だ。 


 ついつい慌てて、僕とソルティスも、頭を下げ返してしまったよ。


 集まった人の中には、デラさんもいた。


 女の子たちは、それぞれの親の元へと戻っていく。


 僕らと一緒に来た5人の女の子たちも、それぞれに自分たちの親を見つけて、泣きながらその胸に飛び込んでいった。


「デラお母さん!」

「お母さ~ん!」


 エリーちゃんとラムチットちゃんも、泣きながら、デラさんに抱きついている。


「エリー、ラムチット、ポー! 3人とも、無事でよかった」


 デラさんも涙目になりながら、大きな手で、2人とポーちゃんをギュッと包み込むように抱いていた。


 そして、デラさんは、僕らに感謝の視線を向けてくる。


 それを受けて、アスベルさんは、笑って、大きく頷いた。

 

 ガリオンさんは「けっ」とそっぽを向いていたけど、少し鼻をすすっていた。


 ポン ポン


 イルティミナさんの白い手が、僕とソルティスの小さな肩に置かれた。


「マール、ソル。2人とも、本当によくがんばりましたね」

「…………」

「…………」

「あの子たちとその家族が、こうして笑顔を取り戻せたのは、間違いなく、貴方たちががんばったおかげなのですよ?」


 優しい笑顔と労いの言葉。


 僕とソルティスは、思わず、視線を交わす。


 それから、お互い笑顔になった。


 貧民街近郊で誘拐された19人の女の子たちを、僕らは、こうして無事に救出することができたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 やがて、19人の女の子と保護者さんたちは、家路についた。


 でも、僕とソルティス、イルティミナさん、アスベルさん、ガリオンさんの5人は、そのまま衛兵さんたちの事情聴取を受けることになった。


 ……終わったのは、明け方だった。


 未成年の僕ら2人がした行動は、女の子たちを助けたこと自体は感謝されたけれど、その一方で、『そんな危険なことをしてはいけない』と怒られてもしまった。


「貴方たち、衛兵が頼りないからでしょうに……」


 イルティミナさんがボソッと一言。


 額に青筋を立てる、相手の衛兵さん。


 僕らは、慌てて彼女の口を押さえて、「以後、気をつけます」と素直に答えておいた。


 やがて、僕らも、帰宅を許可される。


「……太陽が黄色いわ」

「……ほんとだね」


 建物を出た僕とソルティスは、東の空に見える朝日に、疲れたため息をこぼした。


 そうして、アスベルさん、ガリオンさんともその場で別れて、僕と姉妹は、王都の郊外にある自分たちの家へと帰ることにした。


 帰った途端に、眠ってしまった。


 目が覚めたのは、お昼過ぎ。


「マール、ソル。昨日のことで、ギルドから呼び出しがかかっています。すぐに支度をしてください」


(ギルドから?)


 寝ぼけたまま聞かされた僕らは、軽い朝食、もしくは昼食を済ませて、家を出た。


 ギルドに着いた僕らは、すぐ最上階の『ギルド長室』に通された。


 そこには、真っ白な獣人であるムンパさんの他に、


「ふむ、昨日はわらわと別れたあと、3人とも大変だったようじゃの」

「…………」


 そう笑うキルトさんと、その隣にもう1人、柔らかそうな癖のある金髪に、水色の瞳をしたぼんやりした少女――ポーちゃんの姿もあったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らは、来客用ソファーに腰を下ろす。


 そんな僕らに、ムンパさんが話しかけてくる。


「王都の警備隊から、事情は聞きました。みんな、大活躍だったみたいね。本当にお疲れ様」


 柔らかな笑顔。


 でも、僕らの視線は、ポーちゃんに向いてしまう。


「アスベルたちに連れてきてもらったのじゃ」


 キルトさんが、そう答えた。


「午前中に、イルナから連絡があっての。その話が本当ならば、このポーからも事情を聞かねばならんと思うての」

「…………」

「…………」

「…………」


 ムンパさんは頷いて、


「それと、今回の事件の原因にね。ちょっとだけ、マール君たちも関わっていたから、それも伝えておこうと思って、みんなを呼び出したの」


 と続けた。


(……事件の原因に、僕らが関わっていた?)


 困惑する僕らに、ムンパさんはこう言った。


「マール君、半年前にアルドリア大森林を出る時、そこの塔から、幾つかの古い本を持ち出したのを覚えてる?」

「あ、うん」


 僕は、頷いた。


 確かに、塔の居住スペースにあった本棚の本を、何冊か、持ってきた記憶がある。その本たちは、そのまま、この『冒険者ギルド・月光の風』に渡したんだ。


 イルティミナさんも覚えているらしく、隣で頷いている。


 そんな僕らに、ムンパさんも頷いて、


「それらの本は、研究素材として、王立魔法院に譲渡されたの。実は、その中には、古代タナトス魔法王朝時代の魔法陣の図案集もあってね」


(魔法陣の図案集……?)


 なんか嫌な予感。


「今回の誘拐事件の首謀者、魔法院を追放された魔学者アディアン・サーヴェスは、その『魔法陣の図案集』を手に入れたことによって、自身の長年の研究を完成させたらしいわ。そして、その結果として、魔法院からそれ以上の研究を禁止され、その研究成果も封印されることになったみたい」

「…………」

「それを不服とした彼は、研究を続行。弟子の一部と共に、王立魔法院を追放されて、今回の事件を引き起こしたみたいね」


 う、わぁぁ……。


(それじゃあ、僕らが塔から本を持ち出さなければ……今回の事件は起きなかったってこと?)


 ちょっと責任を感じる。


「ううん、マール君のせいじゃないわ」


 僕の表情に気づいて、ムンパさんは、首を横に振った。


 柔らかそうな白い髪が、フワフワと揺れる。


「あの『魔法陣の図案集』のおかげで、多くの魔法の研究が進んだのも確かなの。本は本でしかないもの。結局は、それが生みだす結果を、人がどう受け止めるかだわ」

「そうそう」


 ソルティスは頷いた。


「要するに、その魔学者の心が弱かっただけの話よ」

「…………」

「魔法の研究をするのなら、それが危険だとわかった時に、きちんとやめる覚悟も必要なのよ」


 自分も魔法を研究するからか、少女の声は厳しかった。


(…………)


 でも、自分の何気ない行動が、この事件の根幹に関わっていたと知ってしまうと、やっぱり複雑だ。


 簡単には割り切れない。


「マールは、責任を果たしましたよ」

「……え?」

「そもそも責任などないと思いますが、それでも気になるのならば、こう考えなさい。今回の事件のような負の連鎖を、こうして自身の手で止めたのだと」


 そう言いながら、イルティミナさんの手は、僕の手を握る。


「それで充分、責任を果たしていると思いますよ」


 僕の目を見つめながら、そう笑った。


 …………。


「うん」


 僕は頷いた。


 イルティミナさんの言葉に、少しだけ心が軽くなった気がした。


 僕らのやり取りを眺めて、キルトさんは、優しく笑っていた。


「さて、事件については、これでよかろう」


 そして、表情を改めた。


「本題は、こちらじゃ。その事件で召喚された、恐ろしい『魔界生物』とやらを倒した一因、その存在についてを確認するためじゃ」

「…………」

「…………」

「…………」


 彼女の言葉に、僕らの視線は、1人の少女へと集まる。


 これまでの会話中、何も喋らなかった女の子。


 キルトさんの黄金の瞳は、その幼い顔を見つめて、問いかける。


「ポー、そなたはいったい、何者じゃ?」


 その声は、ギルド長室内に、静かに響いた。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ