表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/825

173・ポーの開放

第173話になります。

よろしくお願いします。

「うわぁああ!」


 黒い巨人の腕が伸びてきて、何人もの衛兵さんたちが捕らえられていく。


 ジュオッ ジュオオオ……ッ


 彼らの姿は、その手の中で燃え散るように消えていく。


 王都の地下空間では、逃げようとする者、戦おうとする者が入り乱れて、大混乱になっていた。


「マール、アスベル、ガリオン!」


 そんな中でも、イルティミナさんの声は、僕らの耳にしっかりと届く。


「貴方たちは、保護した娘たちを連れて、地上に向かいなさい!」

「は、はい」

「ちっ、わかったぜ」


 その命令に、2人は頷く。


 でも僕は、素直に頷けなかった。


「イルティミナさんはどうするの?」

「ここに残ります」


 彼女の声は、決然としていた。


「あの『魔界生物』が、物理攻撃の効かない存在ならば、ソルの魔法が頼りです。ならば、その発動までの盾となる者が必要です」


 真紅の瞳は、魔法使いの妹へと向く。


 ソルティスは、嫌そうな顔だった。


「……私も逃げたいわ」

「駄目ですよ」


 妹に厳しいイルティミナさん。


 僕は言った。


「なら、僕も盾になる」

「必要ありません。相手の注意を引くだけならば、私1人で充分です」


 白い手が、僕の頭を撫でる。


「大丈夫。ここは、私に任せて」

「…………」


 優しい微笑み。


 イルティミナさんは、はっきり言わないけれど、


(多分、僕が残っても足手まといなんだね)


 そう思った。


『神体モード』になれない僕の運動能力は、ただの子供と同じだった。


『魔界生物』の攻撃は、捕まったら即死亡のようなものだった。


 剣での防御も、牽制も、カウンター攻撃もできない。


 速さのみで回避ができない僕は、ここにいても邪魔になるだけなんだ。


 ポン


 アスベルさんの手が、僕の肩に置かれた。


「マール、行こう。この子たちを地上に送り届けるのも、大切な役目だ」

「…………」


 それは、自分自身にも言い聞かせるような声だった。


「ちっ」


 ガリオンさんの悔しそうな声。


 見れば、女の子たちは不安そうな顔で、僕らのやり取りを見つめている。 


(…………)


「わかったよ」


 僕は、うなだれるように頷いた。


 イルティミナさんは、安心したように笑うと、もう一度、僕の髪を慈しむように撫でる。


 それから、すぐに表情を改めて、『魔界生物』の方へと向き直った。


「さぁ、ソル、頼みましたよ」

「わかったわよ」


 姉妹はゆっくりと、暴れる黒い巨人の方へと歩きだす。


 王都の衛兵さんたちは、『魔界生物』を取り囲み、必死に足止めをしている。


 勇敢な何人かが挑んでいるけれど、やはり為す術もなく殺されていっているようだった。


「皆、下がりなさい!」


 イルティミナさんが叫んだ。


「これより先は、この銀印の魔狩人イルティミナ・ウォンが相手をします!」


 まるで『金印の魔狩人』であるキルトさんみたいな迫力。


 衛兵さんたちは、その姿に魅入られる。


 すぐに隊長らしき人が我に返って、


「すまない、貴殿に任せよう! 皆、距離を取れ! すぐに離れるんだ!」


 その指示に、全員が慌てて、黒い巨人から離れていった。


 タンッ


 それと入れ違うように、イルティミナさんが跳躍する。


「シィッ」 


 黒い巨人の首を目がけて、白い槍を薙ぎ払うように一閃した。


 ヒュオ


 やはり刃は、何事もなく通り抜ける。


(まるで水や煙を斬っているみたいだ)


 黒い巨人の手が、イルティミナさんを捕らえようと動くけれど、銀印の魔狩人は、そのまま壁を蹴って、別方向へと跳躍――その巨大な黒い指を回避する。


 タンッ トン タタンッ


 壁や天井、床を蹴り、彼女は立体軌道で移動する。


 ヒュッ シュッ


 無効だとわかっていても、攻撃を繰り出している。


 白い閃光と化した銀印の魔狩人は、縦横無尽に、黒い巨人を槍で貫き続けた。


 もし攻撃が有効であったなら、きっと、もうイルティミナさんの勝利で決着がついていただろう。


『ルオオオ!』


 攻撃が無効であっても、鬱陶しさはあるみたいだ。


 黒い巨人は、苛立たし気に、イルティミナさんを追い払おうと両手を振り回している。


 そしてその間に、ソルティスの魔法は完成する。


「あの黒き巨人を焼き殺しなさい! ――フラィム・バ・トフィン!」


 空中に浮かぶ、赤いタナトス文字。


 そこから生み出される数百、数千の『炎の蝶』が、巨大な『魔界生物』目がけて殺到する。


 ドパパァアアン


 無数の爆発。


 暗い貯水槽内に、盛大な炎が溢れ、一瞬、周囲を明るく照らした。


(わっぷ)


 熱せられた爆風が、通路を目指している僕らを襲う。


 熱波が過ぎて、顔を上げると、


『ルォォォ……オオオ』


 その黒い肉体を削られた『魔界生物』の姿があった。


(効いてる!)


 そう喜んだのも、束の間だった。


 シュオオオ


 削られたはずの肉体部分が、紫色の光を放つと、あっという間に損傷は修復されてしまう。


 ダメージが弱すぎたんだ。


 ガリオンさんが舌打ちする。


「くそっ! あのチビ女、もっと強力な魔法、使えねえのかよ!」


 いや、違う。


 歯痒そうなソルティスの顔を見て、僕は代わりに答えた。


「使えるけど、使えないんだ」

「あ?」

「これ以上、強力な魔法を使ったら、この下水道自体を壊してしまうから」


 前のディオル遺跡でもそうだった。


(ソルティスの魔法って、本当に使いどころが限定されてるんだね)


 ここがもし地上なら、あるいはもっと広く頑丈なら、彼女は、もっと強力な魔法を使っていただろう。


「続けますよ、ソル」

「わかってるわよ!」


 イルティミナさんが再び牽制を行い、ソルティスも魔法の準備を始める。


 あの姉妹は、まだ戦うつもりだ。


(~~~~)


 僕も何かしたくて堪らない。


 あの姉妹のために、何かしら役に立ちたいと強く思った。


 けど、


「マール、行くぞ」


 アスベルさんが強い声で言った。


「俺たちにできるのは、一刻も早く、この子たちを地上に届け、応援を呼んでくることだ」

「…………」


 僕は唇を噛む。


 バシンッ


 そんな背中を、ガリオンさんに、思いっきり叩かれた。


 そのまま、首に太い腕を回される。


「おら、俺たちは、俺たちのやるべきことをやるぞ!」

「…………。うん」


 心を押し潰して、僕は大きく頷いた。


 逃げていく衛兵さんたちと一緒に、僕らは5人の女の子を連れて、通路の中を移動しようとする。


 その時だ。


「…………」


 隣にいたポーちゃんが、突然、『魔界生物』の方を振り返った。


(?)


 つられて、僕も振り返る。


『魔界生物』の腹部にあった巨大な口が、大きく解放されていた。


 喉の奥に、赤い光が生まれる。


(……まさか!?)


 遠くに見える、イルティミナさんの焦った表情。


 慌てて、魔法を切り替えるソルティスの様子。


 僕は確信した。


「みんな、伏せて!」


 叫びながら、ポーちゃんを抱きかかえながら、床に倒れ込む。


 僕の声に反応して、アスベルさん、ガリオンさんも近くにいた女の子たちにぶつかるようにしながら、床に伏せた。


 衛兵さんたちも、驚きながらも伏せてくれる。


 でも、何人かはキョトンとしたまま、立っていた。


 ボボォオオオン


 そんな彼らの上半身を、強烈な炎が焼いていった。


(熱……っ)


 伏せた僕らのすぐ上を、火炎放射器のような炎が通り抜けていく。


『魔界生物』が炎を吐いたのだ。


 夢の世界やコキュード地区の戦いで、黒い飛竜が炎を吐くのを見てきたから、すぐに気づくことができた。


 炎を浴びた衛兵さんは、下半身だけを残して黒く炭化し、ボロボロと崩れていく。


「見るな」


 アスベルさんたちは、女の子たちの目元を隠している。


 生き残った衛兵さんたちも、死んでしまった仲間の惨状に、恐怖の表情だった。


(なんて奴だ……っ)


 物理攻撃は無効。


 捕まれば即死となる、伸縮自在の手の攻撃。


 ドラゴンブレスのような、炎の範囲攻撃。


 魔界に生息しているという生物は、とんでもない怪物だった。


(もしかして魔界には、こんな存在がゴロゴロいるの?)


 その想像に怖くなる。


 イルティミナさんは、その速さを生かして、今の炎攻撃を回避できたようだ。


 ソルティスは、とぐろを巻いた水の大蛇の中にいる。どうやら、水の魔法を盾にして耐えたみたいだ。


 でも、大蛇の身体のほとんどが溶けていて、


「……くぅぅ」


 少女は、少なくない火傷を負っていた。


(ソ、ソルティス!)


 彼女は動くこともできなければ、魔法を唱えることもできなくなっている。


 イルティミナさんが、急いで妹の下へ向かおうとしたけれど、黒い手がそれを阻んだ。


 そして、その黒い巨人の腹部にある口が、再び開く。


(!)


 その喉奥に、赤い光が灯される。


 進路上にあるのは、動けない少女の姿。


 黒い手に阻まれ、イルティミナさんの助けは、間に合わない。


(――――)


 タッ


 僕の足は、気がついたら走っていた。


 後ろから、アスベルさんたちの何か叫ぶ声がしたけれど、意識する間もなかった。


 身体が壊れても構わない。


(神気を開放して――)


 ソルティスを助けるんだ!


 そう無謀なことをしようとした時だった。


「……仕方がない」


 すぐ横から、女の子の声がした。


 走っている僕の隣を並走するように、癖のある金髪と水色の瞳の女の子がいる。


(……え?)


 驚く僕の横で、


「ポーは、ポーを開放する」


 その子は正面を見据えながら、大いなる力を開放させる言霊を唱えた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 瞬間、僕と並走していた少女が変身した。


 癖のある柔らかな金髪の中から、硬い木の枝みたいな角が2本生えて、スカートの中から、鱗に包まれた尻尾が生える。


 パシッ パシッ


 周囲で弾けるのは、放散する『神気』の白い火花。


 手足や顔の一部にも鱗を生やしたポーちゃんは、『神なる力』で床を蹴った。


 ドカンッ


 爆発するように床石が砕けて、彼女の小さな姿は、ロケットのように前方に跳んだ。


(は……?)


 置いていかれる僕。


 その視界の中で、ポーちゃんは、傷ついたソルティスを庇うように立つ。


『ルォオオウッ!』


 そんな2人目がけて、『魔界生物』は、凄まじい炎を吐いた。


 いけない!


 2人とも焼かれてしまう未来を想像して、僕は青ざめる。


 迫る炎の前で、ポーちゃんは、大きく息を吸った。


 そして、


「ポォオオオオオ!」


 凄まじい雄叫びが、その小さな口から発生した。


 まるで衝撃波。


 彼女の足元を中心に、同心円状に床が破壊されていく。


 そして、その見えざる衝撃波にぶつかった炎は、その勢いを跳ね返され、『魔界生物』のいる方向へと逆流していった。


 ボボォオオオオン


「!」


 黒い巨人は、自身の吐いた炎に飲み込まれた。


 物理攻撃、無効。


 けれど、その炎は魔の力を秘めたものだったのか、『魔界生物』の水や煙のような肉体を焼いていた。


『ギュオ!? ギョワアア!?』


 暴れる巨人。


 黒い巨体が、貯水槽の壁にぶつかり、瓦礫が落ちてくる。


 ドゴン ガガァン


(わ、わわ!?)


 自分より大きな、落ちてきた破片を必死にかわす。


 やがて、炎に包まれた『魔界生物』は、膝から崩れ、天へと伸ばすように黒い手を向けながら、仰向けに倒れた。


 そのまま動かなくなる。


 そして、その肉体は炎に焼かれて、少しずつ小さくなり、やがて消えてしまった。


「…………」


 みんな、呆気に取られていた。


 あのイルティミナさんも、唖然としたように消滅した『魔界生物』を見つめていた。


 やがて、その視線は、ゆっくりと、それを起こした『変身したポーちゃん』にも向けられる。


 と、ポーちゃんは、疲れたように息を吐いた。


「ポーは、ポーを終える」


 シュォオオ


 頭の角と尻尾、身体の鱗が消えていく。


 残されたのは、僕らの良く知っている、癖のある金髪と水色の瞳をした、ちょっとのんびりした女の子の姿のみだった。


 ペタン


 彼女は、床に座り込んだ。


 その水色の瞳は、またどこを見ているのかわからない、不思議なものに戻ってしまった。


「……ポーちゃん」


 静寂を取り戻した、王都の薄暗い地下空間。


 彼女の名を呼ぶ僕の声は、静かにその内部に反響していった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。よろしくお願いします。


※小説投稿サイト『ノベルアップ+』様でも、この作品の公開を始めました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[一言] ピンチっぽかったけど、ポーが何かしなくても、イルティミナとソルティスならどうにかしたと思われる。 この程度で死ぬような、やわな二人じゃないと思うんだよねー。 それよりも何よりも、ぐずぐずし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ