169・無手の剣
第169話になります。
よろしくお願いします。
気配を殺して進んでいくと、やがて通路に面した扉を見つけた。
(……あそこだ)
壁との隙間、そして扉に作られた覗き窓から、光が漏れている――間違いなく、そこに人がいる証拠だった。
「…………」
「…………」
僕とソルティスは、頷き合った。
松明の炎を消して、そのまま慎重に接近して、覗き窓から中を確認する。
(……5人いる)
控室のような部屋だ。
そこでは、冒険者風の格好をした5人の男たちが、お酒やつまみのチーズを片手にテーブルを囲み、カードゲームに興じている姿があった。
(もしかして、あの時、僕らを誘拐した実行犯たちかな?)
そう思った。
ただ、牢屋の前で会った、あの黒いローブ姿の老人は、ここにいない。
その代わりではないけれど、5人の内の1人は、老人と一緒にいた背の低い男であることに気づいた。
あの時、僕に好色な視線を送っていた男だ。
(…………)
ブルルッ
思い出したら、また身震いしてしまったよ。
それを堪えて、確認を続ける。
テーブルを囲んでいるのが4人、奥の壁に寄りかかって、お酒を飲みながら眺めているのが1人。
(ふむふむ)
全員の位置関係を、しっかりと記憶する。
ありがたいことに、テーブルを囲む4人は、油断しているのか帯剣していなかった。
奥の壁に4本の曲刀が、鞘に収まったまま、引っ掛けられている。
(いいね、助かるよ)
そう思っていると、
クイ クイ
ソルティスが僕の服の袖を引っ張った。
ん?
見れば、彼女は、自分の口元を指差して、口をパクパクさせている。
何か伝えたいことがあるらしい。
僕らは一度、扉の前を離れた。
「……何?」
僕は、小声で問う。
ソルティスは、少し硬い声で答えた。
「……あそこに、『魔血の民』が1人いたわ」
(……え?)
驚く僕に、彼女は言う。
「さっき、牢屋の前で会った男が1人、いたでしょう? あいつ、『魔血の民』よ。体内の魔素の量が半端じゃなかった。間違いないわ」
ソルティスは魔法使いだ。
だから、魔法に必要な魔素の流れを、測定器などを使わずとも直に感じられる。
きっと間違いないだろう。
(そっか)
相手に『魔血の民』がいるとは厄介だ。
その身体能力は、魔血のない人間とは比べ物にならないレベルにある。しかも、5人の中で唯一、腰ベルトに帯剣していたのは、あの男だ。
一方の僕は、無手である。
「どうする、マール?」
ソルティスは、不安そうに聞いてくる。
このまま、この扉の前を素通りしていくのも1つの選択だった。
でも、
「やっぱり、この人たちを倒そう」
「…………」
「この下水道は広すぎるから、情報がないと探索が進まないよ。他の女の子の捕まっている場所や、出口の場所を聞きださないと……もしかしたら、助けるのが間に合わなくなるかもしれない」
あの老人は言っていた。
『儀式の時間は、まだ先だ』、と。
逆に言えば、儀式までのタイムリミットが存在するんだ。
(だから、急がないと)
僕の決意の表情に、ソルティスも頷いた。
「わかったわ」
「うん」
「でも、気をつけてね。やばかったら、すぐに『神体モード』になるのよ、いい?」
念を押してくる。
僕は頷き、笑った。
「わかってる。ソルティスは、ここで待っててね」
「…………」
ソルティスは何とも言えない表情で、僕を見つめてくる。
僕は、大きく深呼吸して、
「じゃあ、行ってくる」
そう言い残して、ゆっくりと行動を開始した。
◇◇◇◇◇◇◇
ソルティスを残して、今度は1人で扉に近づくと、ドアノブに小さな手を当てる。
少しずつ力を込めて、回していく。
(……鍵はかかってない)
それを確認すると、僕は襲いかかる直前の獣のように、姿勢を低く構えた。
呼吸を整え、
(3……2……1……)
心の中でカウントを刻み、
(0!)
最後のカウントと同時に、思いっきりドアノブを回し、室内へと突入する。
勢い良く開いた扉。
そこから、茶色の長い髪とスカートを翻した少女――つまり僕が入り込み、一番近くの椅子に座っている男へと襲いかかった。
ガンッ
後頭部に、全体重をかけて拳を打ち込む。
(手応えあり、だ!)
僕に、無手での戦いの経験はない。
けれど、やることは一緒だった。
剣があろうとなかろうと、相手の急所は同じだ。
そして、僕の手に剣はないけれど、この手そのものを剣として扱えばいいだけだった。
斬ることはできない極小の長さの木剣。
それが両手にあるイメージ。
リーチは短いけれど、扱い易さは、これまでのどんな剣よりも上である。
その極小の長さの木剣による突きは、見事、1撃で男を昏倒させる。
ゴンッ
意識を失った男は、顔面からテーブルに落ちた。
その衝撃で、テーブルに置かれていたカードが舞い上がる。
「な……っ!?」
「なんだ!?」
男たちが混乱している内に、僕はそのまま、左の男に斬りかかった。
ヒヒュン
軽く右にフェイントを入れてから、左のこめかみを手刀で狙う。
男はフェイントに引っ掛かり、顔を右側をガードしていた。そのがら空きになった左のこめかみに、全力の薙ぎ払いが命中する。
ガキィッ
「がっ!?」
男の頭部が弾かれ、そのまま椅子から転げ落ちた。
(よし、2人目!)
心の中で喝采をあげながら、僕は打ち抜いた勢いのままに走って壁を蹴り、三角跳びの要領で空中に跳躍した。
タンッ
テーブルの上空を、少女の姿が舞う。
(今度は、足の剣だ!)
イメージを意識して、跳躍の勢いのままにテーブルの反対側に座っていた男の顔面を蹴り飛ばす。
ズガンッ
「……ぐげっ!?」
折れた前歯が弾けて、男は椅子と共に仰向けにひっくり返る。
僕は、そのままテーブルに着地。
茶色の長い髪が少し遅れて、僕の背中にこぼれ落ち、スカートが緩く回転しながら停止する。
目の前には、まだ椅子に座ったまま、呆然としている男が1人。
(えい!)
下段からの斬り上げ。
ガンッ
思いっきり蹴り上げた爪先は、正確に男のあごを貫き、白目になった彼は、もんどり打って床に倒れた。
(これで4人!)
テーブル上から、僕の青い瞳は、残った1人を見下ろした。
「な、なんだ、お前!?」
荒事には慣れているのだろう、背の低い男は混乱しながらも、腰に帯びていた曲刀を鞘から抜いた。
僕は動じない。
少なくとも、動じる姿を見せてはいけない。
4人は倒せた。
でも、状況はまだ、こちらに不利なんだ。
僕は武器も持たないただの子供で、相手は、剣を手にした『魔血の民』の成人男性だ。
(混乱している内に、決着をつけないと)
僕に勝ち目はなくなる。
だから、彼の動揺を助長するように、僕は余裕たっぷりの姿を見せつけなければいけなかった。
4人の男を一瞬で倒した謎の少女――それが今の僕だ。
「…………」
僕は不敵な笑みを浮かべながら、テーブル上で半身に構える。
集中だ。
気を抜いたら、一瞬でやられる。
「くっ……おらぁ!」
僕の態度に、男は焦れたように曲刀で襲いかかってきた。
(――速い!)
タンッ
備えていた僕は、後方へ飛ぶ。
ズガァン
曲刀は、僕の足元を通過して、今まで立っていたテーブルを真っ二つに切断した。
なんて威力だ。
(さすが、『魔血の民』だね)
テーブルに乗っていた酒瓶やコップ、カードが散らばり、2つに分かれたテーブルが音を立てて床に崩れる。
僕は、床に着地した。
もちろん、余裕の表情は崩さない。
「く……っ!」
男は、そんな僕を睨みながら、ギリリと歯軋りする。
そして、ふと僕の正体に気づいた。
「お前……まさか、今日、捕まえた娘か!?」
驚愕の声。
僕は、そんな彼を誉めるように『正解』と小さく笑みを浮かべ、スカートを両手でチョンと軽く摘まんでみせた。
それから、クイクイと手招き。
劣情さえ抱いた幼い少女に挑発されて、男は顔を真っ赤にして激昂した。
もちろん僕だって、そこまで余裕はない。
さっきの1撃だって、ほんの一瞬、回避が遅れていれば、断ち斬られていたのはテーブルではなく、僕の両足だ。
(――次で、決める)
時間をかければ、相手も冷静になり、体力と武装で劣る僕に勝ち目はなくなる。
次の攻撃に、カウンターを合わせる。
勝機は、それしかない。
失敗すれば、全てが終わる。
僕が死ぬだけでなく、一緒にいたソルティスも殺されるかもしれない。
誘拐された女の子たちも、助けられない。
(そんなこと、させない!)
僕は集中する。
あの時と同じだ。
アルン神皇国にいた時、キルトさんの攻撃を絶対にかわさなければいけない状況があった。
紙一重の回避、そして反撃。
それはきっと、冒険者として最低限、必要な技術なのだろう。
かつて王都の旧街道で、キルト・アマンデスは、人喰鬼の攻撃を紙一重でかわしてみせた。
かつて過去の精神世界で、イルティミナ・ウォンは、黒い飛竜の攻撃を紙一重でかわし続け、反撃を繰り出していた。
あの憧れの2人の魔狩人のように、僕も――。
「――――」
極限集中。
世界から色が消えていき、音が聞こえなくなる。
その灰色の世界の中で、背の低い男は、僕の方へと大きく踏み込んだ。
応じて、僕も前に踏み込む。
迫る曲刀の先端が跳ね上がり、それ以上の速度で振り落とされる――その全てが、スローモーションのように見えていた。
(狙いは左肩か!)
そのまま袈裟切りに、腹部まで振り抜く軌道。
気づいた僕は、遅い自分の身体を必死に捩じった。
迫る凶刃。
それは僕の茶色い髪の数本を切断していき、その斬撃の内側へと、僕は小さな身体を押し込んだ。
真横を、死の刃が通り抜ける。
同時の僕は、最小の木剣を、真っ直ぐに繰り出した。
ゴン
骨から伝わる音。
カウンターで放たれた僕の左の掌底打は、男のあごにクリーンヒットする。そして、男は踏み込んだ勢いそのままに、まるで後方宙返りをするように空中で回転した。
そして、地面に落下する。
同時に、灰色だった僕の世界に、色と音が戻ってきた。
「……んはっ!」
止めていた息を、大きく吐く。
足元では、完全に意識を失った背の低い男が倒れていた。
(…………)
室内を見回す。
そこには、僕以外に動く者は誰もいなかった。
5人の男たちが意識を失ったまま倒れ、その中心で、1人の幼い少女が静かに佇んでいる光景だけがある。
「ふぅ」
僕は、大きく息を吐いた。
カランッ
(!?)
不意に物音がして、僕は慌てて振り返る。
そこには、部屋の戸口に立ったまま、両手で椅子を持ち上げて構えるソルティスの姿があった。
「…………」
彼女は、呆然と室内を見ている。
どうやら、椅子を武器にして、僕に加勢するつもりでいてくれたようだ。
それが無駄骨になったと気づいた彼女は、仏頂面で、椅子を床に放り捨てる。
ガゴン
そのまま室内に入って来て、伸びている5人の男たちを眺め、それから僕の顔を見る。
「……アンタ、本当に強くなったわね」
素直な賞賛だった。
(…………)
驚いた。
そして、自分でも意外なほど、彼女のその言葉が嬉しかったことにも驚いた。
「ありがと」
僕は笑った。
ソルティスもようやく笑って、僕の胸をトンと軽く叩く。
「お疲れ様、マール。本当に、よくやったわよ」
「――うん」
その優しい声と眩しい笑顔に、僕は自分の勝利をようやく確信し、そして、先ほどまでの恐怖と戦った自分が報われた気がした。
◇◇◇◇◇◇◇
戦いの終わった部屋で、僕らは気絶している5人の手足を、ロープで縛っていく。
(……これでよしっと)
パン パン
きつく縛って、僕は手を払う。
ちなみに、ロープは部屋を漁って見つけた物だ。
ソルティスは、落ちていた曲刀を拾い上げて、ヒュンッと軽く振った。
(いい振りだね)
剣技はまだ甘いけれど、あの重さの剣を、あんな軽々と振れる人は、なかなかいないと思う。少なくとも僕には無理だ。
「これでいっか」
ソルティスは呟いた。
それから確認するよう僕を見る。
僕は頷いた。
それを見届けてから、彼女は、気絶している男の1人のお腹をドスッと蹴った。
(……い、痛そう)
なんだか、自分が蹴られたような気分。
思わずお腹を押さえる僕の前で、ソルティスは、何度も男を蹴り続け、やがて、男は「がはっ」と唾を吐きながら意識を取り戻した。
「ぐ……あ、い、いったい何が……?」
目覚めたばかりで、男は、まだ混乱している。
その首に、白い刃が当てられた。
ピタッ
男の動きが止まる。
ソルティスは、男の首筋に曲刀を押しつけながら、冷たい眼光と声で告げた。
「貴方に質問があるわ。正直に答えなさい」
「…………」
「答えたくないなら、答えなくてもいいの。貴方の代わりは、まだ4人もいるから。貴方は、ちゃんと苦しめて、殺してあげる」
(…………)
迫真の演技だ。
……演技だよね? そう心配したくなるほどの迫力があった。
なまじ、ソルティスが絶世の美少女であるだけに、その冷酷な台詞には、真実味が宿って聞こえてしまう。
「嘘も無駄よ? 他の奴にも、同じ質問をするわ」
「…………」
「もし違う答えが出たら、どうなるか……もちろん、わかるわよね?」
刃の当たる肌が切れたのか、赤い血が少量、流れる。
ゴクッ
男は、大きく唾を飲み込んだ。
「わ、わかった。何が聞きたい?」
その言葉に、ソルティスは艶然と笑ってみせた。
◇◇◇◇◇◇◇
そして、尋問が始まる。
「まず、世間を騒がせている幼女誘拐事件って、貴方たちの仕業?」
ソルティスの問いに、男は答えた。
「あ、あぁ、そうだ」
「ふぅん? 何のために?」
「く、詳しくは知らねえよ。俺たちは金で雇われただけだ! ほ、本当だ! 嘘じゃねえ!」
必死な表情。
(……嘘はないように見えるけど)
僕は彼の隣にしゃがんで、首をかしげた。
「じゃあ、雇い主は誰?」
「……ひっ!?」
僕にやられたことを覚えているのだろう、彼は引き攣った声を漏らし、慌てて答えた。
「お、王立魔法院の魔学者たちだよ!」
唾を飛ばして叫ぶ。
(王立魔法院の魔学者!?)
思わぬ名称が飛び出してきて、僕とソルティスは、顔を見合わせてしまった。
王立魔法院。
それは、シュムリア王国が運営している魔法研究所だ。
つまり国家機関。
(そんな場所の人間が関わっているなんて……この事件、思った以上に大事だよ?)
そんな驚く僕らに、
「い、いや……正確には、元、らしいけどよ……」
彼は怯えたように、そう付け加えた。
(……ふぅん?)
なんだか、複雑そうじゃないか。
「なるほどね? なら、その辺の話、もう少し教えなさいよ」
ピタピタ
彼の頬を、曲刀の腹で叩くソルティス。
それから、詳しく聞き出した内容は、こうだ。
彼ら自身は、貧民街を根城にしている悪党集団の1つだった。
そんな彼らに依頼をしてきたのは、あの黒いローブ姿の老人を始めとした、王立魔法院を追放されたという10名ほどの魔学者たちだそうだ。
(追放……?)
その追放理由は、わからない。
ただ禁忌の研究に手を染めたから、という噂だけは耳にした。
「そいつらが、研究成果である儀式を実行するためには、まだ幼い処女の生贄がたくさん必要だって言うからよぅ……」
彼は泣きそうな声で白状した。
メキッ
僕は拳を握る。
(そのために、罪もない女の子たちを誘拐したっていうの!?)
僕の怒りの表情に、男は「ひぃぃ!」と怯えた。
ソルティスは、感情を殺した声で質問する。
「誘拐した女の子の人数は?」
「じ、19人……お前たちを入れて、21人だ。」
男は震えながら答える。
「その子たちは、どこにいるの?」
「す、数人ごとに分けて、牢屋に閉じ込めてある……。あそこに、ここの地図があるから」
指差したのは、部屋にある棚だ。
僕はすぐに、その棚を漁った。
(これかな?)
それは配水管の図面のようだった。
やはりここは、王都ムーリアの地下にある下水道のようで、その使われていない区画を改造した、彼ら悪党集団の拠点のようだった。
「こことここ……それから、ここも」
「…………」
「…………」
男の示した場所に、印をつけていく。
(……7箇所か)
「儀式を行うのは、いつ?」
「……こ、今夜だ」
「場所は?」
「こ、ここの広い空間だって聞いてる」
そこにも印をつける。
きっとここに、あの黒いローブの老人と王立魔法院を追放された魔学者たちが集まっているのだろう。
「あと、貴方たちの仲間は、全部で何人なの?」
「さ、38人」
……結構、多いね。
ここで5人倒して、あと33人。
それに追放された魔学者10人を加えて、43人の敵か。
(……僕らだけで対処できるかな?)
地図も手に入れたし、一度外に出て、応援を呼んだ方がいいかもしれない。
僕は、ソルティスを見る。
彼女は、難しい表情で、自分の親指の爪を噛んでいた。
「まずいわね」
「……ソルティス?」
彼女は僕を見た。
「私たち、どのくらい眠っていたと思う?」
「…………」
「私の体感だと、もう日は暮れている。その禁忌の儀式が始まるまで、あまり時間はないはずだわ」
その焦りの表情から、僕も事態の切迫度を理解する。
(……そっか)
僕は頷いた。
「応援を呼ぶ時間はなさそうだね」
「…………」
「なら今は、囚われている女の子たちを開放して、先に外に逃がそうよ。43人の敵も、ほとんどは儀式の場所にいると思うし、その全員と戦闘にはならないと思うよ」
「……そうね」
ソルティスは頷いた。
そして彼女は、男を見て、にっこりと笑う。
「ありがとう、聞きたいことは聞けたわ」
その天使のような笑顔に、彼は、安心したような顔をする。
メゴッ
その顔面に、曲刀の柄が突き刺さった。
「おやすみ」
再び昏倒した男を冷たく見つめ、彼女は、血に汚れた柄の曲刀をポイっと捨てる。
容赦なし。
でも、この男も、年端もいかない幼い女の子たちを、生贄として誘拐した連中の1人なんだ。
同情はできない。
立ち上がったソルティスは、新しい曲刀を腰ベルトに着ける。
それを見て、僕は問う。
「使えるの?」
「ふふん。私だって、ずっと剣の練習してるのよ?」
彼女は、不敵に笑った。
「マールこそ、剣いらないの?」
「うん」
その曲刀だと重すぎて、逆に戦えなくなるからね。
一応、護身用に果物ナイフだけ、手に入れておいた。
(本当は、新しく買った短剣があればよかったんだけど……)
ない物ねだりをしても仕方がない。
武器と地図も手に入ったし、他に、水の入った水筒と食料、それにランタンも2つ確保できた。
この下水道の探索には困らないだろう。
「よし、急ぎましょう、マール」
「うん」
僕らは頷き合う。
気絶した男たちを残して部屋を出ると、僕とソルティスは、再び真っ暗な通路の中を、ランタンの灯りを頼りに歩き始めるのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。よろしくお願いします。




