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160・王城の出会い

第160話になります。

よろしくお願いします。

 朝、起きると、昨夜の内に戻っていたのか、キルトさんも部屋に帰っていた。


「おう、起きたか、マール」 


 窓際のテーブル席で、朝日を浴びながら、コーヒーらしき飲み物のカップを片手に、ベッドの上に起き上がった僕へと挨拶してくる。


 旅の間とは違い、すっかりリラックスした様子で、タンクトップの黒シャツにズボン姿。


 豊かな銀髪はポニーテールにされて、陽光に煌めいている。


(久しぶりに、髪を上げてるキルトさんを見た気がする……)


 そんなことを思いながら、僕はベッドから降りた。


「おはよ、キルトさん」

「おはようじゃ」


 白い歯を見せて笑う彼女。


 周囲を見回すと、同じベッドに寝ていたはずのイルティミナさんがいない。はて、どこに行ったんだろう?


「イルナなら、キッチンで朝食を作ってくれておるぞ」


 あ、そうなんだ?


 僕の様子に気づいて、キルトさんが教えてくれる。


(そういえば、いい匂いがするね)


 朝日の柔らかく差し込む室内には、寝起きの胃袋を刺激するような香ばしい香りがしていた。


 その匂いを、胸いっぱいに吸い込んでいると、


「あ~、さっぱりした」


 そんなことを言いながら、濡れ髪をタオルで拭きながら歩いてくる少女が現れた。


 ソルティスだ。


 半袖シャツと短パン姿で、しっとりした紫色の髪が、火照った肌にはりついている。


(朝風呂に入っていたのかな?)


「おはよ、ソルティス」

「おはよーさん、マール。って言っても、あんた、ずいぶんと寝坊助ね。もう9時過ぎてるわよ?」


 片手で髪を拭きながら、片手で水筒の水をあおっている。


 プハッ


 実に美味しそうな表情だ。


 口元から喉に垂れた水の流れが、ちょっと色っぽい。


 それを腕で拭いながら、彼女はベッドを椅子代わりにして腰かける。


 僕は、肩を竦めた。


「旅も終わったんだし、少しぐらい寝坊してもいいじゃないか」


 いつも僕らは、日の出の時間に起きている。


 でも、冒険の仕事中でないのなら、眠れるだけ眠っていてもいいと思うんだ。


 水筒の蓋を閉め、ソルティスは「ふん」と鼻で笑う。


「意識の問題。つまりマールは、だらしないって話よ」


 だらしないって……。


「それを言ったら、昨夜のソルティスこそ酷かったと思うよ? 着替えもせず、埃だらけのまま、ベッドに寝ちゃうしさ」

「そ、それはあれよ! 疲れのせい!」


 ちょっと赤くなって反論する少女。


「でも、ここ、キルトさんの部屋だよ?」


 それが自分の部屋だったらいいけど、他人の部屋のベッドを汚してしまうのは、ちょっと気が引けると思うんだ。


 ソルティスは「うぐぐ」と唸る。


 けれど、そんな彼女への援護射撃は、当の部屋主から行われて、


「別に構わんぞ。それは来客用のベッドであるし、そもそも、掃除はわらわではなく、ギルドの宿泊施設の担当たちがしてくれるからの」

「…………」

「ほらほら、キルトもああ言ってるじゃない!」


 我が意を得たりと、一気呵成なソルティスさん。


「マールの方が、男なのに細かすぎなのよ」

「…………」


 キルトさんも、外の景色を楽しみながら、優雅にコーヒーをすすっている。


(う~ん?)


 僕は、そんな銀髪の美女を見つめて、


「もしかして、キルトさんって、家ではずぼらなタイプ?」


 ゴフッ


 キルトさん、思わずコーヒーを吹いた。


(わ?)


 口元を腕で拭いながら、キルトさんがちょっと睨むように僕を見る。


「……マール、そなたな?」

「いやだって、キルトさんの部屋って、掃除とか全部、ギルドの人がやってくれるんでしょ? 食事だって、頼めば部屋まで運んでもらえるみたいだし」


 むしろ、箒やはたきをもって、この広い部屋を1人で掃除したり、食事の準備をしているキルトさんの姿が想像できない。


(外でしっかりしてる分、1人の家では、だらしなくしてる姿をイメージしちゃう……)


 夜は気兼ねなく、1人で酒盛り。


 そして、空になった大量の酒瓶たちは、キルトさんの外出中に、ギルド職員さんによって片づけられる……なんて、ね。


 キルトさんは、不満そうに、


「部屋の管理をしてもらえるならば、わらわがやる必要はなかろう?」

「…………」

「や、やろうと思えば、できるのじゃぞ?」


 なんか、両手を上下させて凄い必死だ。


 その姿が可愛くて、つい苦笑してしまう。


 ソルティスも、なんか珍しいものを見た、って顔をしていた。


 キルトさんの威厳が崩れかけた時に、キッチンの方から救いの声がかけられた。


「お待たせしました。皆、朝食の準備ができましたよ」


 何でもできるイルティミナお姉さんの声だ。


 キルトさんは、「おぉ、そうか」とそそくさと立ち上がる。


「よいか、朝食が終わったら、着替えを済ませ、レクリア王女に会うために王城へと向かうからの」 


 僕らを指差して言い残し、そのまま逃げるように行ってしまった。


「…………」

「…………」


 僕とソルティスは顔を見合わせる。


 2人で笑って、すぐに彼女のあとを追いかけていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 軽い朝食を済ませたあと、僕らはギルドを出発し、徒歩で神聖シュムリア王城を目指した。


 服は、ちょっと上等な品。


 でも、アルン神皇国で着たような燕尾服やドレスなどではなく、もっとカジュアルな服装だった。


「公式の謁見ではないからの」


 とは、キルトさんの言葉。


 まぁ、ドレスで街中を歩くわけにも行かないけれど、仮にもこの国を治める王族に会うのにいいのかな? とも不安に思う。


(でも、2人も気にしてないから、いいか)


 姉妹の様子を見ながら、そう気持ちを切り替えた。


 そうして、王城前の聖シュリアン大聖堂へ。


 ここは、聖シュリアン教の総本山であると同時に、女神シュリアンの子孫だといわれるシュムリア王家の人々が暮らす王城への入り口ともなっている。

 要は、門番の役目。


 大聖堂内で、参拝とは別の受付があり、


「キルト・アマンデスとその仲間じゃ。レクリア王女との面会の約束がある」


 そう伝えると、すぐに関係者以外立ち入り禁止の部屋へと案内された。


 冒険者印による身元確認。


 武装の解除。


 書類や宣誓書などへの記入。


 強そうな10名ほどの神殿騎士さんに見張られながら、それらを済ませると、神殿の偉い神官さんに挨拶をして、ようやく王城に通じる階段への通行を許された。


 ここまで1時間。


(……前は、ここまで大変じゃなかったのにな)


 あの時は、王女の侍女であるフェドアニアさんが一緒だったからかな? などと思いながら、階段を上った。


 高みに上るほど、涼やかな風が強くなる。


 振り返れば、王都ムーリアの広大な街並みが見て取れた。


 眼下の湖には、青い空が美しく反射している。


 やがて、巨大な門へと辿り着き、門番の兵士さんとキルトさんがやり取りをする。


 その間に、ふと見れば、イルティミナさんはいつもと変わらない平然とした表情だったけれど、ソルティスは何だか落ち着かない様子だった。


(ソルティス、こういう場は苦手そうだもんなぁ)


 なんだか可哀相だけれど、仕方がない。


 がんばれ、ソルティス。


 やがて許可が下りて、城内に入ると、すぐそこにメイド服を上品に着こなした女性が、深々と頭を下げて、僕らを待っていた。


「ようこそ、お待ちしておりました」


(あ)


 さっき思い出した、レクリア王女の侍女であるフェドアニアさん、その人だった。


 僕の視線に気づき、


「お久しぶりです、マール様」


 相変わらず、笑顔を見せない彼女は、淡々と挨拶する。

 そして、


「レクリア王女がお待ちです。皆様、どうぞこちらへ」


 フェドアニアさんは、僕らを先導して歩きだした。


 美しい城内。


 それらを眺めながら案内されたのは、前回、レクリア王女と会った時と同じ空中庭園のような場所だった。


 出入り口には、女性騎士たちが立っている。


(……ん?)


 庭園内には、誰もいなかった。


「すぐに参ります。ここで、お待ちください」


 疑問に思う僕らに、フェドアニアさんはそう言葉を残して去っていった。


 僕らは顔を見合わせる。


 キルトさんが、軽く肩を竦め、


「ふむ……ならば、待つしかあるまい」

「うん」

「そうですね」

「へ~い」


 僕らは頷き、庭園に咲いている綺麗な花などを眺めて、時間を潰した。


 10分ほどだろうか?


 人の気配に気づいて、僕らは顔を上げる。


「皆さん、お待たせしましたわね」


 優雅な声。


 空中庭園の入り口に、僕と同じ年ぐらいの美しい少女が立っていた。


 艶やかな水色の髪は肩口で切り揃えられ、端正な美貌には、蒼と黄金のオッドアイが煌めいている。


 刺繍がふんだんに施された薄紅色のドレス。


 高級そうな耳飾りや首飾りなどの装飾品。


 繊細でたおやかそうな姿でありながら、その美貌には、強くしなやかな意思が感じられ、一目で周囲の人々の視線を吸い寄せる何かがあった。


 レクリア・グレイグ・アド・シュムリア。


 このシュムリア王国の第3王女にして、女神シュリアンの巫女でもある少女だった。


 僕は、慌てて頭を下げようとした。


 でも、できなかった。


(…………)


 彼女のそばに、もう1人、大人の男の人が立っていたからだ。


 会ったことはない。


 でも、知っている。


 僕だけでなく、キルトさんやイルティミナさん、ソルティスの3人も、驚愕の表情を浮かべている。


 年齢は、50歳。


 豊かな白金の髪に、整えられた逞しく髭。


 鍛え上げられた肉体は、年齢以上に彼を若々しく見せ、その豪奢な衣装を内側から持ち上げている。


 そして何よりも、その蒼い瞳の放つ鋭い眼光。


 恐ろしいほどの威圧感と威厳を感じさせるその人物は、僕ら4人の姿をゆっくりと見回した。


 ザッ


 キルトさんが慌てて膝をつく。


(!)


 一拍遅れて、僕ら3人も、服が汚れることも構わずに、その庭園の土の地面に跪いた。


「ふむ。この者たちか、レクリア?」

「はい、お父様」


 厳かな問いに、優雅に答えるレクリア王女。


 ――お父様。


 その言葉の意味に、僕は震えた。


 シューベルト・グレイグ・アド・シュムリア――このシュムリア王国を治める偉大な王が、僕らのすぐ目の前に立っていた。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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