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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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152・開戦の刻

第152話になります。

よろしくお願いします。

 ドーナツ状に造られた防衛砦。

 その円形の外壁には5ヶ所、見張りのための高い塔が築かれている。


 僕ら8人は今、その塔の1つの屋上にいた。


(……風が強いな)


 髪をなびかせる風圧に、思わず、僕は青い目を細める。 


 眼下に広がるのは、雄大な大自然。


 大半が樹海に覆われ、所々に草原や大きな河が見えている。また樹海の中には、巨大な岩山が、まるで柱のように何本もそびえているのが見て取れた。


 その遥か遠方――地平線上に、砂煙が舞っていた。


「なるほど、ずいぶんと集まっておるの」


 隣で双眼鏡を覗き込んでいるキルトさんが、低い声で呟いた。


 それから、僕に双眼鏡を渡してくれる。


 覗いてみた。


(……うわぁ)


 レンズで拡大された視界に、砂煙の中で、とんでもない数の魔物が蠢いているのが映り込んだ。


 ゴブリンや邪虎、魔熊や白牙狼などなど色んな種類の魔物が、樹海の樹々をなぎ倒しながら、こちらに進軍してきている。


「やだ? トロールもいるじゃないの」


 同じように双眼鏡を覗き込んでいたソルティスが、呆れた声を出す。


 あ、本当だ。


 森の木々より、頭1つ抜けた巨人の姿も見える。


 その背には、背負子のような物が負われていて、そこに造られた足場に、4~5人の人間たちが乗っていた。


 白い仮面に黒ローブ。


(……神血教団ネークス)


 彼らの手には、魔物を操る道具らしい、奇妙な形の杖がある。


 確認できるだけでトロールは、100体以上いる。


 見える範囲以外でも、教団員たちは存在しているだろうから、ひょっとしたら2000~3000人はいるかもしれない。


 正規の教団員は、数千~1万人と聞いている。

 それを思うと、


「神血教団ネークスも、かなりの覚悟でこの戦いに臨んでいるようですね」


 イルティミナさんが冷徹な声で呟いた。


(うん)


 僕らは頷く。


 そうして僕は、しばらく魔物の軍勢をしっかりと確認した。


「マール。()()の姿はあったか?」


 キルトさんが真剣な声で問う。


「ううん」


 僕は、首を横に振った。


 少なくとも、見える範囲にアレ――『闇の子』の姿は見えなかった。


『闇の子』は、人間の目から姿を隠せる。


 その発見は、唯一その姿を見ることができる、僕ら『神の眷属』の役目なんだけど、


「……どこにもおらんな」

「こっちも同じね」


 ラプトとレクトアリスは、金属製の翼を生やして上空に浮かびながら、魔物の群れを眺めて、僕と同じ返事を落としてくる。


 屋上に降り立ち、ラプトは言う。


「あれだけの魔物の数や、見落としてるのかもしれん。……けど、なんや、おらんような気がするわ」

「ふぅむ」


 キルトさんは唸った。


「そうか。……実は、わらわも同じに感じている」


(え?)


「ケラ砂漠であった時のような、薄ら寒く、悍ましい気配があの群れの中からは感じられぬ。あの集団に、『闇の子』はおらんのかもしれぬの」


 そうなの?


 思わず、僕らは『金印の魔狩人』を見つめてしまう。


 ダルディオス将軍が頷いた。


「この鬼娘の言うことだ。真実かもしれん」

「うん」

「そうですね」


 僕らも同意だ。


 なぜかわからないけれど、こういう時のキルトさんの言葉は、当たる気がした。

 野生の勘というか、鬼姫の勘というか、戦いに関しては、常人には理解できない領域に、彼女の感覚は達していると思えるんだ。


「でも、万が一もあるわ。一応、注意はし続けておくわね」

「頼む」


 レクトアリスの冷静な言葉に、キルトさんは頷いた。


 と、フレデリカさんが懐中時計を見て、


「父上。そろそろ時間だ」

「そうか」


 ダルディオス将軍は、重々しい武人の顔になって頷いた。


 2人は、それぞれに部隊を率いて、あの魔物の群れと戦うのだ。


 すでに兵士たちは、砦の外で整列している。


 3万5000人ものアルン兵。


 そしてダルディオス将軍は、そのアルン全軍の指揮官だった。


 歴戦の猛将として、彼は兜を被り、僕らに背を向けると甲冑を鳴らしながら歩きだす。


「将軍さん」


 僕は、思わず呼びかけた。


 将軍さんが、こちらを見る。


「『闇の子』はいないかもしれない。でも、刺青を宿した『魔の眷属』は、きっと紛れていると思う。……どうか、気をつけて」

「あいわかった」


 僕の警告に、彼は頼もしく頷いた。


 黒騎士のフレデリカさんが、女性らしく微笑んだ。


「行ってくる、マール殿」

「うん。……フレデリカさんも気をつけてね」


 黒い手甲に包まれた手が、僕の頭を撫でた。 


「マール殿も」

「うん」

「どうか、ご武運を」


 ゆっくりと手が離れていく。


 そして勇ましい父娘は、アルンの敬礼を僕らに残して、屋上から階段を下りて去っていった。


「…………」

「…………」

「…………」


 強い風が吹いている。


(どうか、無事でいてね……)


 青い空の太陽を見上げながら、僕は、そう強く願った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 塔の屋上に、僕らはいる。


 眼下の砦前では、整列したアルン全軍の前で、黄金の鎧に身を包んだアルン皇帝陛下が、戦場に向かう前の兵士たちに激励の言葉をかけていた。


「――400年前、人類は過ちを犯した」


 美しい声。

 淡々としているのに、通り良く、集まった全ての兵にまで不思議と声が届いている。


「慈悲深き神々は、その窮地より我らを救ってくだされた。その御業の1つが、この地に残されている封印そのものである。これを守り続けることは、神の御心に応える行いだ。しかしながら、愚かな者たちは、それを理解しなかったようだ」


 静かな声。


 だからこそ、そこに、あのたおやかな皇帝陛下の秘めたる怒気を感じた。


「聞け、勇ましき我がアルンの戦士たちよ! 封印が破られれば、恐るべき悪魔が蘇る。この一戦は、アルンのみならず、世界の命運を賭けた戦いだ! 我らは、神々に反旗を翻す者共を、魔の生き物諸共に滅し、この正しき意思を天上におわす神々に見せつけるのだ!」


 ビリリッ


 あの細身の体のどこから声が出ているのか、塔の屋上にいる僕らのお腹の中まで声が響く。


 燃え立つような熱が、集まった兵士たち全体に広がっていく。


「我が戦士たちよ、アルンの誇りと共にいざ行かん!」


『おぉおおおおおおっっ!』


 3万5000人の兵士たちが吠えた。


 まるで地鳴り。


 世界全てが振動し、雄叫びを上げているような感覚。


(う、わぁ……)


 思わず、圧倒されてしまった。


 あのラプトやレクトアリスも、ちょっと目を剥いている。


「ほんま、凄いな、あの皇帝陛下は」

「えぇ」


『神の眷属』である2人に、こうまで言わせる陛下は、さすがだと思ったよ。


 戦いにおいて、気持ちがどれだけ大切になるかは、これまでの経験でよくわかっている。恐怖に負けない強い心、それを、たった1人の人間が、3万5000人の兵士に与えられるというのは、本当に凄いことだ。


(……これはキルトさんでも、無理かもね)


 そう思う。


 こうして、士気は最高潮に盛り上がった。


 皇帝陛下は、このまま砦に残り、前線に向かう全軍の指揮は、ダルディオス将軍が執り行うことになる。


「僕たちは、どうするの?」

「ここで待機じゃ」


 キルトさんは言った。


 遠方から土煙を上げて迫る魔物の軍勢を睨みながら、


「あの中から、『闇の子』とは違う……けれど、強く禍々しい気配が幾つか感じられる。そなたが言ったように、間違いなく『魔の眷属』がおるようじゃ」

「…………」


 刺青の人たち。


「奴らが動けば、戦局が変わる。そこを見極め、我らは、奴らを叩く」

「うん」


 それまでは、この戦場全体を見渡せる場所から、その位置を特定する必要があるんだね。


 ドクッ ドクッ


 緊張で、心臓が高鳴る。


 これから始まるのは、敵味方合わせて、7万近い集団戦――もはや戦争だった。


「大丈夫ですよ、マール。私がついています」


 僕の肩に触れて、彼女が微笑む。


(うん)


 僕は、大きく深呼吸。


 そして、前世の世界も含めて、初めて目撃する大規模な集団戦闘が、僕の目の前で行われ始めた――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「砲撃、撃てぇー!」


 ドゴゴォオン


 ダルディオス将軍の号令と共に、防衛砦の外壁に空いた穴から顔を覗かせる大砲の砲身が、次々に火を噴いた。


 鼓膜が痺れる。


 数秒の間があり、樹海のあちこちで爆発が起きた。


(う、わ……)


 まるでイルティミナさんの白い槍による攻撃みたいだ。


 弾けた木々と一緒に、手足の千切れた魔物たちが空中に舞い上がっている。


 トロールの1体などは、上半身が完全に吹き飛ばされ、膝から地面に崩れ落ちた。その背負子の足場にいた教団員たちは、慌てて逃げだし、逃げ遅れた者は、トロールの巨大な死体に押し潰されていた。


「前進!」


 更なる号令。


 アルンの黒い兵士たちが、整然と前に進んでいく。


 ギュア ガァアア


 樹海の奥より魔物の群れが近づき、そして、ついに木々の檻を突き破って、その姿を現した。


 ――接敵。


 アルン軍の前衛は、全身がすっぽり隠れるほど巨大な盾を構えた重装兵だ。 


 ガギィイイン


 整列した重装部隊が、魔物の突進を受け止める。


 足場の大地が抉れ、数メード、後方へと押し込まれた――が、そこで停止する。


 鍛え上げられた兵士たちは、突進の力を受け止め切ったのだ。


「槍兵!」


 ダルディオス将軍の声が響き、重装兵の後方にいた、長さ3メード以上の長槍を装備した兵士たちが一斉に、重装兵たちの盾の隙間から槍を突き出した。


 ドスッ ボシュッ ズドンッ


 盾に堰き止められた魔物たちが、その無数の長槍によって絶命する。


「前進!」


 ズガァン


 重装兵たちは、一斉に盾を押し込み、魔物の死体を弾き飛ばした。


 そのまま前へ。


 新たな魔物の群れが襲いかかって来るのを、また盾で受け止め、後方の長槍部隊がそれを仕留めていく。


(凄い……)


 塔の上からだから、よくわかる。


 一糸乱れぬ集団。


 これだけの人数の集まりが、まるで1個の生物のようにまとまり、精密に動いている。


 いったいどれだけの練度を重ねれば、これほどの集団行動ができるのか。


 背筋がゾクゾクする。


 そして、重装の盾部隊、長槍部隊の後方に控えていた、黒鎧の弓兵たちが弓を引き絞った。


 構えられるのは、炎の矢。


「放てぃ!」


 ドヒュウウッ


 弦の震えが大気に響く。


 炎の矢は、まさに雨のように、まだ接敵していない魔物たちに降り注ぎ、その肉体を負傷させ、あるいは生命ごと奪っていく。


 と、トロールの1体が、何本も矢に刺さりながら、大きな岩を投げつけてきた。


「魔法兵、撃ち落とせ!」


 号令と共に、弓兵の更に後方に控えていたローブ姿の兵士たちが大杖を振るった。


 彼らの前方空中に生まれた、光り輝くタナトス魔法文字。  


 そこから、吹き出す炎が集合して、『炎の巨人』が生み出された。


『炎の拳』が、大岩を打ち砕く。


 ゴパァアン


 大岩は破砕して、細かい小石となって、兵士たちの頭上に降り注ぐ。


 もちろん完全装備の彼らにとって、落ちてくる小石など何のダメージにもならない。


 ソルティスが目を輝かせた。


「凄いわ! 『火炎国の大王』を創り出すなんて、アルンにも凄い術者たちがいるわね!」


『炎の巨人』が腕を振るう。


 そこから生み出された火球たちが、炎の矢と一緒に、魔物たちへと降り注がれていき、魔物たちは次々と焼かれていく。


 戦局は有利に進んでいる。


 だが、相手は魔物だ。


 ほとんどの魔物は、1対1で人間を凌駕する戦闘力を秘めている。


 まだ楽観はできない。


「騎竜隊、出撃する!」


 ガチャン


 ダルディオス将軍が、黒い兜の面覆いを落とし、黒い鎧を纏った2足竜に跨った。


 手には、巨大な円柱槍ランス


 将軍さんを先頭に集まる騎竜の部隊には、フレデリカさんも加わっているはずだった。


 そして、アルン最強の将軍自ら率いる3000人の騎竜部隊は動きだし、左右に分かれて自軍を大きく迂回すると、集まった魔物の側面へと突っ込んだ。


 ドパパァン


 魔物の群れが、吹き飛んだ。


 よく見れば、円柱槍の先端が、魔物の肉体に突き刺さった瞬間、凄まじい勢いで回転して、その肉を抉り、引き裂いている。

 これまた、技術大国であるアルン特製の武器のようだ。


「なんつー突破力や」


 ラプトが感心したように唸る。


(うん、本当に)


 騎竜隊のぶつかった部分から、魔物の群れが2つに分かれていく。


 ダルディオス将軍たちは、まるで上空に目があるかのように、魔物の数の多く集まった地点を切り裂いて、味方が戦い易くなるようにしていた。


 そして、これだけの乱戦の様相なのに、同士討ちがない。


 炎の矢は、騎竜隊のいない場所を正確に射抜き、重装兵たちは少しずつ魔物たちを追い込むように前進していく。


 教団員たちの指示の下、魔物の群れも体勢を立て直そうとしている。


 けれど、将軍さんの部隊がそれを許さない。


 体勢を立て直しかけた群れへと、すぐに突っ込んでいく。


(う~ん?)


 僕らの位置からならわかるけれど、あの戦場にいながら、どうやってそれが見つけられるんだろう?


 さっぱりわからない。


「あのような芸当は、世界広しといえど、あのアドバルト・ダルディオス将軍しかできんな」


 キルトさんの口から賞賛がこぼれる。


 時間が進むにつれて、アルン側にも被害は出ている。


 けれど、人がいなくなった場所には、すぐに新しい兵士が入り込み、穴を埋めていた。それ以上、被害を広げないよう努めている。


(これも、凄まじい練度の成果なんだね)


 いまだ魔物の個体戦闘力は侮れないけれど、戦局は確実にこちらに傾いていた。


 特に、魔物を指揮する神血教団ネークスの術者たちを倒せ始めたこともあって、魔物の同士討ちなども起き、混乱に拍車がかかっている。


 ここまで来たら、勝利が確定するのも時間の問題だと思えた。


 ――その時だ。


 ドパァアン


「!?」


 突如、攻勢だった重装部隊の一角が、吹き飛んだ。


 まるで爆弾が落ちたようだった。


 隊列の穴を埋めようと兵士たちが殺到するけれど、その瞬間に、またその兵士たちが吹き飛ばされている。


「キルトさん!」

「うむ」


 彼女は、険しい顔で双眼鏡を構えた。


「いたぞ、()()()()()()たちじゃ」


 ドクンッ


 僕らは息を呑んだ。


 手渡された双眼鏡で、僕もその地点を確認した。


(……いる)


 白い仮面を外し、黒いローブだけとなった男女がいる。


 その数、10人。


 男女の顔には、1人の例外もなく、青白い刺青が禍々しく光り輝いていた。


 その1人には、見覚えがある。


「あの飛竜ワイバーンの女ですね」


 隣のイルティミナさんが、双眼鏡を外して、低い声で呟いた。


「ついに出たか」

「で、どうするの?」


 ラプトが、左手のひらに右拳をぶつけ、レクトアリスが冷静に問う。


「決まっておる」


『金印の魔狩人』は、背負っている雷の大剣の柄を握りながら、迷いのない声で告げた。


「――奴らを狩るぞ」

ご覧いただき、ありがとうございました。


この文章を書いている最中、イチロー選手の引退会見が行われていました。

身勝手ですけれど、同じ日本人として誇らしくて、見ていて本当にワクワクドキドキする選手でした。

イチロー選手、本当にお疲れ様でした!


(小説と関係ない内容でしたが、胸がいっぱいで書かずにはいられませんでした。どうかお許しくださいね)


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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