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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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148・謁見の時1

すみません。

前回、147話のサブタイトル『決死の稽古』を『午前の稽古』へと変更しました。

こちらの方が、イメージに近いかなと思ったので……。

小さなこだわりなのですが、どうか、ご了承ください。

(※本文については、まるで変っていません)


それでは、本日の更新、第148話になります。

よろしくお願いします。

 最近のイルティミナさんは、どんどんと強くなっている。


 大迷宮で、『不死オーガ』や『翼を生やした騎士像』を圧倒していた姿は、記憶に新しい。まるで『金印』のような強さだと思った。


 一方のキルトさん。


 相変わらず、とんでもない強さの女性だけど、その彼女が稽古で、木製とはいえ『大剣』を手にするのは、初めて見た。


 使い慣れた武器。


 そこに、彼女の本気度が窺える。


 ――こんな2人の対決である。


 僕はもう興味津々で、2人の一挙手一投足を見逃さないようにと、ワクワクしながら観戦することにした。


 だというのに、


「…………」

「…………」


 2人は向かい合って、互いの武器を構えたまま、動かなかった。


(???)


 30秒経っても、1分経っても変化がない。


 えっと……?


 思わず、声をかけようとして、僕は自分の異変に気づいた。


(!? 声が出ない……?)


 いや、声だけじゃなくて、手も足も動かせない。

 な、なんだ、これ?


 混乱する僕は、2人の顔を見上げて、その瞬間、理由に気づいた。


 鬼気迫る表情。


 お互いに無表情に近い顔なのに、とてつもなく張り詰めた何かがある。


(……戦ってる)


 そう気づいた。


 実際に手を出しているわけじゃない。


 でも、動き出す予備動作、あるいは、その気配――何らかの予兆に対して、2人はそれぞれに対応する予兆を発している。


 要するに、()()()()()()()()()が行われていたんだ。


(……僕の身体が動かないのは、そのせいだ)


 2人を中心に、ここら一帯には異様な『圧』が充満していた。


 吹き飛ばされるような『圧』とは違う。


 ジワリ、ジワリと気配もなく広がり、気づいた時には、全身を絡めとって動けなくさせるような、煙のように儚くて、けれど、鋼鉄のように重く、そのまま潰されそうな圧力だった。


(こんな『圧』、初めてだよ……)


 僕が戦っているわけではないのに、必死に気合を込めて、心が押し負けないようにする。


 僕の視界では、まるで2人のそばの空気が歪んでいるようだった。


 と、その時、


「……っ」


 イルティミナさんの表情が、苦しげなものに変わった。


 キルトさんは変わらない。


 ガクッ


 そして、唐突にイルティミナさんは、その場に崩れるように膝をついた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 美貌からドッと汗が吹き出し、荒い呼吸が漏れる。


 キルトさんは、木の大剣を引いて、「ふぅぅ」と大きく息を吐いた。


 決着。


 どうやら、軍配はキルトさんに上がったようだった。


(あ……空気が軽くなった)


 手足も動く。


 僕は、すぐにイルティミナさんの下へと駆け寄った。


「大丈夫?」

「……はい」


 彼女は微笑み、僕の手を借りて立ち上がる。


 額には、汗がびっしょりだ。


 ただ睨み合っていただけなのに、異常な消耗だった。


「負けました、キルト」

「うむ」


 頭を下げるイルティミナさんに、『金印の魔狩人』は鷹揚に頷く。


「腕を上げたの、イルナ」


 キルトさんは、そう笑った。


 僕の肩を借りながら、イルティミナさんは苦笑する。


「貴方の相手をしていると、実感が湧きません」


 いつも負けるから、判断できなくなるのかな?


(でも、気持ちはわかるよ)


 キルトさんは肩を竦めた。


「いや、間違いなく強くなっておる。数ヶ月前のそなたならば、30秒も持たずに根を上げていたであろう」


 今回は、3分ぐらいだった。


 でも、どっちにしても、キルトさんが勝つのは前提らしいね。


 それには、イルティミナさんも、また苦笑だ。


「2人とも、本当に強うなった」


 並ぶ僕らを見つめて、キルトさんは感慨深そうに呟いた。


 そして大きく頷き、


「これならば、問題あるまい。将軍経由で、皇帝陛下にも推薦状をお願いしておくかの」

「推薦状?」


 何の話だろう?


「いやいや、何でもない」


 キルトさんは、顔の前で手を振った。


「ま、シュムリア王国に帰ったら、楽しみにしておけ」

「?」

「?」


 僕とイルティミナさんは、顔を見合わせる。


 そんな僕らを眺めて、キルトさんは1人で、ただ愉快そうに笑い声を青空に響かせていた。 



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その後は、普通に稽古をして、やがて午後になった。


 軽い昼食を食べた僕らは、皇帝陛下との謁見のための準備をする。


 全員、お風呂で身を綺麗にしてから、フレデリカさんたちダルディオス家が用意してくれた衣装に着替えた。


(?)


「なんか、黒っぽい服ばかりだね?」


 広い部屋にたくさん並べられた衣装を見て、僕は着替えながら呟く。


 着付けを手伝ってくれるイルティミナさんが、教えてくれた。


「喪に服すためです」

「あ……」 


 これから行う謁見は、『大迷宮の探索』というアルン神皇国主体の大事業の成果報告会でもあったんだ。


 アルン騎士300名の犠牲。


 その悲しい出来事についても、報告がされる。 


 着替えを終えた僕の左腕に、イルティミナさんは、最後に『黒い腕章』を巻いてくれた。


 喪章だ。


(そっか……)


 それに触れながら、目を閉じる。


 彼らと接した時間は、少なかった。


 もしかしたら、キルトさんやダルディオス将軍が、僕を気遣って、必ず犠牲者の出る彼ら部隊との接点を減らすよう、配慮してくれていたのかもしれない。


 それでも10階層で、彼らの炊き出しを手伝ったのを覚えている。


 僕がよそったシチューを笑顔で受け取り、美味しそうに食べてくれた。


 最下層では、魂だけになりながら、『暴君の亀(タイラント・タートル)』を倒すために力を貸してくれた。


「…………」


 ちゃんと伝えよう。


 彼らが忠誠を尽くしたアルン神皇国の皇帝陛下に、彼らの勇気と強さを、しっかりと。


 全員が、黒系統の色をした衣装に着替えた。


 女性陣は、ドレスの左胸に『黒いリボン』をピンで留めていたりする。


「よし、行くぞ」


 リーダーであるキルトさんの号令に、僕らは頷いた。


 そうして屋敷を出ると、豪華な貴族用の竜車にみんなで乗って、皇帝陛下の待っている皇帝城へと謁見に向かうのだった――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 神帝都アスティリオの大通りを抜けて、皇帝城に到着する。


(相変わらず、煌びやかなお城だね)


 まるで宮殿のような美しく、大きなお城――検問のような場所で停車して、身元確認を受け、駐車場へと入っていく。


 それから、徒歩で城内へ。


 案内の女官さんを先頭に、天井の高い通路を歩いていると、すれ違う人たちが僕らを見て、何事かをヒソヒソと話していた。


「な、なんだか注目されてるね?」

「英雄のご帰還だからな」


 戸惑う僕に、フレデリカさんが笑って教えてくれた。


 なるほど。

 大迷宮の探索を成功させたというのは、結構な偉業らしい。


 そうして僕ら7人は、控室に通された。


 30分ほど待機。


 やがて、


「おぉ、皆、揃っておるな」


 ダルディオス将軍が控室へと合流した。


 いつもより装飾が多い鎧を着ていて、豪華なマントもなんだか動きにくそう。実戦向けではなく、どうやら、式典用の鎧みたいだ。


 ちなみにアルン騎士のフレデリカさんは、軍服姿。

 胸や肩には、勲章が幾つか並んでいる。


 艶やかな青髪も頭の後ろでまとめられて、キリッとした男装の麗人といった印象だ。


 そのまま、みんなでお茶をしながら、もう15分ほど待った。


 ラプトが退屈し始めた頃、


「皇帝陛下との謁見のお時間です。皆様、どうぞこちらへ」


 ついに呼び出しがかかった。 


 案内の人について、僕ら8人は移動する。


(あぁ、緊張するなぁ)


 段取りとしては、受け答えは、やはり将軍さんやキルトさんが担当してくれるらしい。


 でも、今回の謁見では、


「そなたらの『神武具』を陛下の前でお見せするからの」


 とのこと。


 もちろん、その場には大勢の人がいるだろう。そこで、今回の旅の成果をお披露目するわけだ。


(ち、注目されるの苦手なんだよなぁ……)


 逃げたい。


 正直、戦ってる方が楽な気がするよ。


(でも、みんなに恥をかかせるわけにもいかないから、がんばろう)


 他の7人の顔を見て、そう自分に言い聞かせた。


 そして、大扉の前へ。


「――アドバルト・ダルディオス将軍、ならびに大迷宮を踏破されたご一行、到着なされました」


 ゴゴォン


 声と共に、重そうな扉が、観音開きに開いていく。


 その先に広がるのは、謁見の間。


 まるで荘厳な神殿みたいな広い空間で、左右には大勢の貴族や騎士たちが並んでいる。正面の壁には、巨大なアルン国旗。


 そして、僕らの視線の先、階段のようになった最上部の玉座には、


(……陛下)


 金髪蒼眼の美しい、あのアザナッド・ラフェン・アルンシュタッド皇帝陛下がおわすのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 赤い絨毯の上を、僕らは進む。


 そして、ダルディオス将軍とキルトさんが並んで跪き、その後ろで、僕ら6人も膝をついて、顔を伏せた。


「――皆、面を上げよ」


 艶のある美しい声。


 思わず、ブルッと背筋が震える。


 僕らは陛下の望むままに、顔を上げた。


 本当に綺麗な人だと、男の僕でも思う。


 シュムリア王国の国王様は、武人らしく、壮健で頼もしい印象だった。皆を守ってくれる、強い王様といった感じだ。


 でも、アルン皇帝は違う。


 陛下は、中性的な顔立ちで、まるで浮世の人とは思えない神聖な雰囲気が感じられた。


 侵してはならない天上人。


 それが、僕らの前にいるアルン皇帝陛下の印象だった。


(しっかりしないと、心が吸い取られそう)


 チラッと見れば、ダルディオス将軍やフレデリカさんは、今まで見たことがない感極まった顔をしている。


 心底、心酔しているとわかった。


「長き苦難の旅であったろう。皆、本当にご苦労だった」


 柔らかな労いの声。


「はっ、勿体なきお言葉であります、陛下」


 ダルディオス将軍は、より深く平伏する。


 それから報告会が始まった。


 今回の『大迷宮の探索』では、総勢800名ほどの人員が動員されていた。


 食料や装備を用意したり、残された騎士団の編成などの裏方の仕事なども含めれば、関係者は1500名を超える規模だったそうだ。


(そ、そうだったんだ?)


 今更ながら驚き、慄く僕である。


 ダルディオス将軍の朗々とした声での報告は、長く続く。


 校長先生の長いお話みたい。


 人員の編成、移動、そして探索に話が及んで、300名の犠牲が出たことにも触れた。


「全ては、私の責任です」


 将軍さんは、そう言った。


「誰あろう、我が国最高の将軍であるアドバルト・ダルディオスが為せなかったのだ。他の誰にも為すことは不可能であったろう。――尊き犠牲となった、その300名の我がアルンの騎士たちの気高き勇気を、余は誇りに思う」


 陛下の透き通った声。


 将軍さんの目から、一筋の涙がこぼれた。


 いや、謁見の間に集まった人々の中にも、すすり泣く声が聞こえてくる。


(なんでだろう? ……僕も泣きたいよ)


 これが陛下のカリスマ性なのかな?


 その声を聞いただけで、心が揺さぶられる。


 陛下のお言葉には、きっと300名のアルン騎士の魂も喜び、安らかに眠れるだろうと思えたんだ。


 知らず、全員が静かな黙祷をしていた。


 誰かの合図があったわけでもない。ただそれぞれが、故人を思って、自発的に生まれた黙祷だ。


「…………」

「…………」

「…………」


 静かな、美しい時間だった。


 やがて、春に雪が解けていくように、皆が目を開ける。


「――さぁ、アドバルトよ。余に、そちたちの勇ましき話を続けておくれ」

「はっ」


 皇帝陛下の声に応じて、将軍さんは、また報告を続けた。


 灰色の女神コールウッドの遺跡。


 その内部にあった恐ろしい騎士像や流入した魔物、そして、女神に見捨てられた悲しい地下都市と人々の存在。


 大迷宮の真実が語られ、謁見の間にいた人々は、皆、驚く。


 最後に、『暴君の亀(タイラント・タートル)』の脅威。


 もし地上に出ていたら、アルン神皇国に甚大なる被害を与えたであろう存在と、それを打ち倒した存在についてを語った。


 打ち倒した存在――つまり、僕だ。


(あぁぁ……)


 誇らしいような、恥ずかしいような複雑な気持ちだよ。


 そして皇帝陛下は、


「ほう。それでは、『神武具』は無事に手にすることができたのか」

「はい、陛下」


 ダルディオス将軍が首肯する。


 そして、彼の視線は、僕とラプトとレクトアリスの3人へと向けられた。


(つ、ついに出番だね)


 キルトさんとフレデリカさんも、こっちをチラリと見ている。ソルティスは、我関せずで視線を合わせてくれない。


 隣のイルティミナさんは、僕をしっかりと見ていた。


『がんばって、マール』


 美しい真紅の瞳が、そう励ましてくれていた。


(うん)


 それに勇気をもらって、僕は大きく息を吸う。


 ラプト、レクトアリスと目配せして呼吸を合わせると、『神の眷属』である僕ら3人は、一斉に立ち上がり、ゆっくりと前に進み出た。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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