142・神狗マールVS黒き飛竜!
突然ですが、ご報告です。
実は、『転生マールの冒険記』は、ブクマが1000件に到達しておりました!
皆さん、ありがとうございます!
そして、また嬉しいことが重なりまして、昨日はレビューも頂きました。
レビューを書いてくれたのは、同じ作家さんである室士郎さんです。
室士郎さん、素敵なレビューをありがとうございました!
こうして読んで下さる皆さんの応援や期待に応えられるよう、これからも精一杯頑張って、自分なりに日々、精進していきたいと思います!
皆さん、本当にありがとうございました!
それでは、本日の更新、第142話になります。
どうぞ、よろしくお願いします。
血流にのって、『神なる力』が熱く全身へと流れていく。
頭部と尾てい骨の先に、くすぐったいような感触が生まれて、ピンと立った獣耳と狐のようなフサフサの尻尾が生えてくる。
パシッ パシシッ
溢れる神気が、周囲で白い火花を散らす。
「……マ、マール君?」
イルティミナさんの呆けた視線を、背中に感じる。
それを無視して、僕は大きく息を吸い、
(さぁ、行くぞ!)
思い切り、大地を蹴った。
ドン
『神狗』の筋力は、軽い子供の体重を楽々と上空へと運び、僕は、前方にいたルド村の大人たちの頭上を越えて跳躍する。
落下地点には、白い仮面と黒ローブの集団。
神血教団ネークス。
その最前列に並んだ、炎の矢を構える射手の1人へと、着地と同時に『妖精の剣』で斬りかかった。
ヒュコン
「……え?」
仮面の奥から、驚きの声が聞こえた。
彼は、そのまま崩れ落ち、黒ローブの下に血だまりが広がっていく。倒れた拍子に外れた仮面――その下にあったのは、普通の若い男の顔だった。
(…………)
心は殺せ。
僕は、その場で竜巻のように回転し、周囲にいた教団員たちも斬り捨てる。
ヒュゴオッ
真っ赤な鮮血と共に、教団員たちが弾け飛ぶ。
「な……っ!?」
その向こうに、刺青の女の驚く顔があった。
(――――)
ドンッ
僕は、そちらへと超低空姿勢で接近し、下段から剣を振るう。
ヒュコン
黒いローブを裂きながら、女の左腕を肘の辺りから切断する。
「がっ!」
美貌をしかめた女は、右手で斬られた左腕を掴み、凄まじい速度で後方へ10メード以上も跳んだ。
ヒュオッ
直前まで女のいた場所を、返した僕の刃が通り抜けていく。
(――速い)
さすがに不意打ちで倒せる相手ではなかった。
「教主様!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
教団員たちは、負傷した刺青の女に駆け寄り、僕から庇う防波堤のように前に立ち塞がった。
女は息を吐き、
「大丈夫よ」
斬られた左腕を、切断面に押しつける。
ジュォオオ……
繋がる左腕。
指先を確かめるように開閉し、彼女の血のような赤い双眼は、『神狗』となった僕を見つめた。
「…………」
「…………」
周囲で炎の燃え盛る中、僕らは見つめ合う。
教団員たちは一斉に、僕へと炎の矢を構えた。
ルド村の人たちは、決死の覚悟していた中、突然、現れた乱入者に呆然としていた。
「マール坊か!?」
「お前……その姿はいったい……っ!?」
気づいた村長さんとオルティマさんが叫ぶ。
僕は、刺青の女を睨んだまま、答えた。
「みんな、下がって」
「…………」
「この人たちの相手は、僕が1人でする。邪魔にならないよう、全員、絶対に手を出さないで」
村人たちは、戸惑いを見せる。
僕はもう一言。
「――お願いだよ」
その声に秘められた覚悟に気づいてもらえたのだろうか、村長さんとオルティマさんは息を飲んだ。
そして、
「わかった、マール坊」
「皆、後ろへ引け! 彼の邪魔をしてはならない!」
2人の指示で、村人たちが下がっていく。
「すまん。頼むぞ」
オルティマさんが最後に告げた。
僕は振り向かずに、大きく頷く。
そんな僕を見つめて、刺青の女が妖しく唇を歪め、そして壮絶に笑った。
「驚いた……驚いたわ。まさか、こんなところで出会えるなんて」
「…………」
僕は、『妖精の剣』を正眼に構える。
それに彼女は、笑みを深くする。
「『ヤーコウルの神狗』……その憎き姿を、再びこの目にする日があるなんて。この300年、恥を晒し、生き永らえてきた甲斐があったわ」
重く、禍々しい声。
(……300年?)
その意味を考える前に、彼女は、淡い光を放つ刺青に包まれた両手を、翼のように大きく広げた。
「我が主の仇、討たせてもらうわ! ――皆、あの獣の子供を殺せ!」
狂乱の開幕を告げる声。
狂信者であるネークスの教団員たちは、迷うことなく、その教主の言葉に従った。
シュドドッ
(!)
撃ち出される炎の矢。
けれど、『神狗』となった僕の感覚では、全てがゆっくりと飛んで見えている。
何十本と迫る矢をかわしながら、前へと走る。
ヒヒュン
炎の矢の射手を狙って、次々に斬り捨てる。
距離がある場合は、弓や弦だけでも破壊して、最低限、遠距離武器だけは潰しておく。これは僕だけでなく、ルド村の人まで狙われることがないようにと思ってだ。
泥の中を動いているような、動作の鈍い人間たち。
僕は、その中を神速で走り回り、大量の返り血を浴びながら、彼らを斬り殺していく。
(~~~~)
人を殺す嫌悪は、凄まじい。
でも、僕の守りたいものを守るためには、それ以外の方法を知らなかった。
(心を殺せ、マール!)
自分に言い聞かせながら、剣を振る。
斬った相手の首を掴んで、引き寄せ、射られた矢を受ける盾にする。
ドシュシュッ
手のひらに伝わる、断末魔の痙攣。
ブォン
その死体を放り投げ、教団員たちをなぎ倒す。
と――奥の方で、奇妙な杖を手にした教団員たちが、何か呪文のような物を呟いている姿が見えた。
(!)
途端、後方に集まっていた魔物が動きだす。
――速い。
人間より遥かに素早く動き、僕を殺そうと襲いかかってくる。
白牙狼。
魔熊。
邪虎。
名前も知らない魔物もたくさんだ。
「おぉおおおあああっ!」
僕は吠えた。
こちらも獣のように咆哮し、正面から魔物の群れに走り寄る。
白牙狼の襲撃してきた頭部を逆に踏みつけ、頭蓋を破壊しながら跳躍すると、青い空から落下するようにして、魔熊の頭部を叩き割る。力のなくなったその太い腕を握りしめ、自分の20倍以上の重さを振り回して、周囲の魔物を弾き飛ばしていく。
片手に剣を、片手に魔熊の死体を。
それらを駆使して、近寄ってくる魔物を次々に殺していき、
「があっ!」
最後は、魔熊の死体を放り投げる。
ドゴゴォオオン
狙った先には、魔物を操っていた教団員たちがいた。
とんでもない重量物をぶつけられ、彼らの手から杖が弾け飛び、折れた。外れた仮面の奥からは、凄まじい圧力で眼球が飛び出してしまった男の顔が見える。
(……お?)
その瞬間、何体かの魔物が制御から外れたようだ。
彼らは、近くの教団員にも襲いかかり、仮面の奥から大きく悲鳴があがる。
ガシュッ グチャ バキッ
魔物同士の同士討ちも起きている。
もはや大混乱だ。
教団員たちは、弓を捨て、剣や盾などを構えて、魔物へと応戦を始めている。
一瞬だけ。
僕へと襲いかかる手が、1つもなくなった。
(…………)
炎の中で荒れ狂う殺戮場の向こうに、ふと離れたルド村の人たちの姿が見えた。
皆、怯えた顔をしていた。
僕のことを、恐怖に満ちた視線で見ていた。
(あぁ……)
仕方のないことだ。
自分でも異常な力だと思っているし、それが殺戮のために使われているのならば、当然の感情だと思う。
当たり前だとわかっている……なのに、
(……胸が痛いよ)
思わず、泣きたい気持ちになった。
あの少女の姿もあった。
オルティマさんの背中で庇われながら、僕の姿を、顔を引き攣らせながら見つめていた。
(…………)
僕は、無理をして笑った。
大丈夫、みんなを必ず守るから――そう思いを込めて、安心させようと。
見えていたかわからない。
もし見えたとして、それで伝わったかもわからない。
「――――」
ただ、彼女は息を飲み、こちらに足を踏み出した。
オルティマさんが、慌てて娘の肩を押さえる。
少女は何かを叫んだ。
でも、周りの争いの音、炎が家屋を焼いている音に紛れて、声は聞こえなかった。
そちらに意識が向いたその時、
ギュオッ
「!?」
突然、巨大な魔熊の死体が投げ返されてきて、僕は、そちらへと剣を振った。
ガヒュッ
切断された死体が、僕の左右を抜ける。
そして、裂かれた肉の先には、刺青の女が何かを投げた体勢でいる姿があった。
「やはり、私が手が下さないと駄目ね」
彼女は笑っていた。
その血のような赤い双眼には、戦いによる興奮の光がギラギラと輝いていた。
教主の盾になろうと前に立っていた教団員の頭を、彼女の細い手は無造作に掴む。
「邪魔よ」
ゴキン
その首の骨をあっさりへし折った。
ブンと横に放り投げる。
大した力を込めたとも思えないのに、その死体は、まるで『神狗』の力で投げられたのと同様に軽々と宙を舞い、遠方の燃え盛る家屋に激突した。
ドゴッ ガガァアアン
轟音が響き、崩壊する。
衝撃で、炎が天まで届くほどに猛り、火の粉が盛大に舞い上がった。
教団員たちの動きが止まった。
いや、恐ろしい魔物も全て、その動きを止めていた。
――刺青の女から、凄まじい『圧』が放出されていた。
彼女は、悠然と歩む。
1歩。
また1歩。
その全身から放たれる、恐ろしいほどの『圧』によって、進路上にいた全ての人と魔物が退いていく。
その先にいるのは、この僕だ。
炎の猛る世界で、僕ら2人は向かい合った。
「…………」
「…………」
僕は、ゆっくりと『妖精の剣』を正眼に構えた。
刺青の女は、艶然と微笑む。
両手をゆっくりと広げると、黒いローブがスルリと落ちる。
その下から現れた美しい裸身。
その全身には、淡く発光する刺青が刻まれている――その輝きが、見る見る内に強くなり、禍々しい力を発動し始めた。
血のような赤い双眼が、僕を見つめる。
「さぁ、『ヤーコウルの神狗』よ。あの懐かしき300年前の続きを、始めましょう?」
メキッ
刺青の輝きと共に、女の全身が膨れ上がった。
ピキッ ミチチィッ ゴキィ
皮膚が裂け、筋肉が盛り上がり、黒い鱗が生えてくる。
刺青の女は、その身に宿した魔の本性を顕わにし、ついに『漆黒の飛竜』へとその身を変身させたのだった――。
◇◇◇◇◇◇◇
黒い鱗に覆われた四足竜は、体長10メード弱。
けれど、その肩甲骨の辺りから巨大な飛膜の翼が生えている。もしも翼を広げれば、20メード近くになるだろう。
凶悪にして、強大な空の魔物。
その恐ろしい姿から、かつての『赤牙竜ガド』のような強烈な威圧感が放出されている。
ビリリ……ッ
肌の表面に、弾けるような『圧』を感じながら、僕は上段へと『妖精の剣』を構え直した。
(……300年前、か)
今、この7年前の世界に、『闇の子』は存在しない。
けれど、300年前には、初めて地上に現れた『悪魔の欠片』――初代の『闇の子』がいたはずだ。
もし、その初代の『闇の子』が、僕の知っている『闇の子』と同様、人を魔物に変える力を持っていたとしたら?
目前の飛竜の正体は、恐らく、そういうことだろう。
(……けど)
それがなぜ、神血教団ネークスの教主に?
『魔血の民』は、むしろ悪魔の血を引いた存在として、魔の勢力にとって仲間と認識されると思っていた。
ズンッ
黒い飛竜が、1歩、前に出る。
「――――」
考えている暇はない。
村を救っても、この竜に殺されても、どちらにしても僕の時間はここで終わる。
なら、
(みんなを守って、僕は消える!)
気圧されないよう、僕も1歩、前に出た。
瞬間、黒い飛竜は、巨大な砲弾のように突進してくる。
(速い――けどっ)
『神狗』の動体視力は、その動きをしっかり捉えている。
噛みつく牙をかわしながら、すれ違い様にカウンター剣技で前足を狙った。
ギャコン
火花が散って、刃が弾かれた。
「くっ」
反動で、僕の身体は回転しながら、吹き飛ばされる。
尻尾を使って、空中で体勢を立て直し、なんとか着地。
顔を上げる。
飛竜の右前足は、鱗が裂かれ、わずかな紫色の血液を流していた。
完全に斬ることはできなかったけれど、多少なりとも傷を与えることはできたようだ。
『……さすが、〈神狗〉ね』
こちらをゆっくりと振り返りながら、黒い飛竜が人語を喋る。
その凶悪な貌に、かすかな笑みを浮かべたように見えた。
「…………」
僕は無言で、『妖精の剣』を構え直す。
黒い飛竜は、ゆっくりと僕を中心に円を描くように移動する。
パチッ パチッ
周囲の燃える家屋から、火の粉が風に流され、争い合う『黒い飛竜』と『神獣の子供』の姿を照らしていく。
ドウッ
黒い飛竜が、また突っ込んできた。
僕も前方へと踏み込みながら、カウンター剣技で応戦する。
ガィン ギンッ ガヒュッ ギゴォン
無数の火花が散った。
巨大な牙を、鋭い爪を、太い尾を、僕は必死にかわし、あるいは防ぎながら、黒い巨体に小さな傷を何度も負わせていく。
炎に包まれた家屋が、その攻防に巻き込まれ、振り回された飛竜の尾によって、簡単に倒壊する。
(~~~~)
死の恐怖。
それを飲み込み、勇気を振り絞って、剣を振る。
1撃もらえば終わりの猛攻だ。
紙一重の生を、必死に掴み取り続ける。
そして、
「やぁああ!」
ヒュコン
僕のカウンター剣技が、ぶつかり合った飛竜の牙を1本、火花を散らしながら斬り裂いた。
回転する白い牙。
ザシュッ
長さ50センチはある鋭い牙が、地面に突き刺さる。
黒い飛竜が跳躍し、ついに下がった。
「…………」
『…………』
再び、一定の間合いを取って、睨み合う。
僕は、また『妖精の剣』を上段へ。
漆黒の飛竜は、口唇をめくらせながら、なくなった牙の部分から湯気をくゆらせ、目の前の『神狗』を威嚇する。
と、その背にあった巨大な翼が大きく広がった。
(!)
まずい!
気づいた僕は、そちらへと突進する。
けれど間に合わない。
ドバァン
次の瞬間、僕の目の前で、凄まじい羽ばたきが発生した。
「ぐ……っ」
強烈な風圧に耐えながら顔を上げた僕の前で、10メードはある巨体が空中へと浮かび上がっていた。
睨みつける僕の頭上を、飛竜は旋回する。
(やられたっ)
あんな上空では、手が出せない。
そして、飛竜は翼を羽ばたかせながら、空中で停止して、その頭部をこちらへと向けた。
喉がボコンと膨らむ。
硬質な皮膚が引き伸ばされ、黒い鱗の隙間の奥に、赤い色が生まれるのが、透けて見えた。
「――――」
その意味に気づいた僕は、総毛立った。
慌てて周囲を見回す。
後方に、倒れている巨大な魔熊の死体があるのを見つけると、一直線にそちらへと走りだした。
(間に合え!)
飛竜の口が、バカンと限界まで開いた。
その奥に生まれた赤い輝き。
そして、
バォオオオオオオッ
凄まじい炎が放射状に吐きだされた。
火炎の息。
背後から迫る熱気を感じながら、僕は、魔熊の巨体を持ち上げた。
ザシュッ
肉を裂き、大量の血液を浴びる。
そして、傷口に身を沈めるようにして、その死体を被った。
直後、
ジュオォォオオッ
凄まじい熱気が、周囲全体を包むように湧き起こった。
(熱……っ)
肉の焼ける臭気。
何かの蒸発する音。
僕は、魔熊の死体を盾にして、十数秒、必死にそれに耐える。
やがて、熱気が消えた。
ドゥン
すぐに焼けて沸騰した死体を投げ捨てる。
「ぷはっ」
止めていた息を吐く。
瞬間――僕の上に、巨大な影が落ちた。
(!?)
漆黒の飛竜は、僕めがけて急降下をしていたのだ。
ルド村を囲っていた岩山さえ破壊した威力の体当たり――気づいた僕は、反射的に、全力で後方へ跳躍する。
ドゴォオオン
大地が吹き飛ぶ。
辛うじて直撃は回避したけれど、かすれるように硬い竜の皮膚が当たって、僕の小さな身体は弾き飛ばされた。
僕の中だけで、パキンと左腕の折れた音がする。
痛みを感じる前に、
ガガァアン
僕の身体は、燃え盛る1軒の家屋に突っ込んだ。
「ぐ、は……っ」
衝撃で息ができない。
肌が焼かれる。
その時、炎と黒煙の向こうに、再び上空へと舞い上がっていく黒い飛竜の姿が見えた。
(……逃がすか!)
痛みと闘志に弾かれ、僕は『妖精の剣』を口に咥えると、右手で近くの燃える柱を掴んだ。
メキッ
『神狗』の膂力は、その木材に指を食い込ませ、軽々と持ち上げさせる。
「がぁああ!」
手のひらを焼かれながら、僕はそれを投擲する。
燃える柱は、巨大な炎の槍となって、空気を吹き飛ばしながら、黒い飛竜へと迫った。
『!?』
予想外の攻撃だったのだろう。
燃え盛る炎の柱は、慌てて避けようとした飛竜の左の飛膜を貫き、引き裂いた。
錐もみしながら、飛竜は墜落する。
ドドォオン
「な……き、教主様!?」
「う、うわぁあ」
落下地点にいた教団員たちが、何人か巻き込まれて、巨体に押し潰される。
土煙と血飛沫が舞う。
「う……ぐっ」
僕は、転がるようにして燃える家屋を出た。
地面に転がって、服に燃え移っていた火が消える。
けれど、全身がビリビリと火傷の痛みを訴え、左腕は骨折の激痛も加わり、まるで動かせなくなっていた。
(まだ、だ……っ)
右腕は動く。
四つん這いになっていた僕は、手にしている『妖精の剣』の柄を強く握りしめる。
そして、顔を上げた。
漆黒の飛竜も、教団員たちの死体を踏みつけながら、こちらへと動き出していた。
けど、落下のダメージがあったのだろう。
動きが鈍く、足元が覚束ない。
(チャンスだ!)
千載一遇の好機に、僕は、最後の力を振り絞って立ち上がり、そちらへ突進しようとする。
その足を1歩踏み出した――瞬間、
バシュゥゥ……
(!?)
あろうことか、このタイミングで僕の全身から白い煙が吹き出し、『神狗』の証である耳と尻尾が消えていったのだ――。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。よろしくお願いします。




