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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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124・死者たちの地下都市

第124話になります。

よろしくお願いします。

暴君の亀(タイラント・タートル)』の脅威を逃れた僕らは、最下層の階段へと通じる通路を歩いていた。


「大丈夫、キルト?」


 イルティミナさんに背負われる僕の隣で、ソルティスが心配そうに問う。


「大したことはない、案ずるな」


 問われたキルトさんは、笑ってそう答える。

 けれど、その顔色は悪く、歩いている最中も、右手は左の脇腹に添えられていた。


『暴君の亀』に吹き飛ばされて、壁に激突した際の負傷だ。


 イルティミナさんの見立てでは、恐らく、肋骨にヒビがあるか、最悪、折れているだろうとのこと。

 でも、キルトさんは、少女の回復魔法を断った。


『炎の鳥』の大魔法、折れた僕の右足の治療――この2つに加えて、これまでの行程で消耗していたのもあり、ソルティス自身の残り魔力が乏しかったからだ。


「先のために、まだ余力は残しておけ」


 とのリーダー命令。


 なら、僕がせめて『微回復ヒーリオ』をと思ったけれど、


「『神武具』を使うには、『神気』が必要なのであろ? ならば今は、無駄に使ってはならぬ。そのせいで本来の目的が果たせなくなっては、本末転倒じゃ」

「…………」


 そう言われては、僕も黙るしかなかった。


(……でも、無理しすぎだよ、キルトさん)


 僕らは、それでも痛みは顔に出さずに歩き続ける彼女の背中を、ただ見守ることしかできなかった。


 と、彼女の隣を歩くダルディオス将軍が、そんな空気も読まずに言う。


「しかし、不覚であったの、鬼娘」

「む?」


 キルトさんの視線に、将軍さんはあご髭を撫でながら、


「まさか1撃でやられるとは、さすがに思わんかったわい。あの魔物の実力を読み違えたのか?」


 と訊ねた。


 言われてみれば、確かに、あんな風にやられるキルトさんは、初めて見た。


(何か、理由があったのかな?)


 皆の視線が集まり、彼女は、かすかに表情を難しくして、こう答えた。


「正直、将軍の言う通りじゃ」


 ちょっと驚く答え。

 彼女は、短いため息をこぼして、話を続ける。


「これまで多くの魔物と相対してきた。その経験から見て、いかに『暴君の亀』と言えど、あの1撃は、そこまでの威力と思えなかったのじゃ。……しかし、実際に剣で触れた瞬間、有り得ぬ肉の重量と力を感じた。そして、気づいた時には手遅れじゃった」

「…………」


 悔しそうな声と眼差し。


 僕らは、何とも言えない。


 と、レクトアリスが少し考える表情を見せたあと、


「それは、きっと『神気』の影響による可能性が高いわね」


 と呟いた。

 僕らの視線が、今度は、その『神牙羅』の美女に向く。


「どういうこっちゃ?」


 とラプト。

 レクトアリスは説明する。


「門番の騎士像たちが破壊されていたの、覚えている? 中には、捕食された物もあったでしょう」


 そういえば、


(うん、頭とか腕とか、かじられた残骸もあったね)


「『神武具』の生命を維持するために、この遺跡では『神気』が生成されている。そして、騎士像を動かすために頭部に宿る、あの赤い光の『神文字』も、当然、『神気』を使った『神術』なのよ」


 あ……。


「その『神気』も一緒に『暴君の亀』は食べていた?」

「正解」


 呟く僕に、レクトアリスは教師のように笑った。


「あの赤い光は、小さくても膨大な『神気』を宿していたわ。それが、あれだけの騎士像の数よ? もし、それだけ大量の『神気』を摂取したのだとしたら、その肉体は変質を起こして、通常では考えられない強度になっているでしょうね」


 ……なるほど。

 例えるなら、『プラスチックバット』で殴られると思っていたら、実は『金属バット』でしたってイメージかな。


(つまり、その変質のせいでキルトさんは、実力を読み違えたんだね?)


 僕らは、キルトさんを見る。


 不覚を取った原因がわかったキルトさんは、けれど浮かない顔で前髪をかき上げながら、


「例えそうでも、言い訳にしかならぬの」


 と、苦しそうに呻いた。


 どんな理由があろうと、やられた事実は変わらない――誇り高い『金印の魔狩人』にとっては、それが全てなんだろう。


(……でも、神気を手に入れた魔物、か)


 その巨大な姿を思い出しただけで、恐怖が甦る。


 こちらの攻撃は一切通じず、ただ一方的にやられるばかりで、何とか逃げ延びれたのだって、まさに紙一重の結果だった。

 こんな状況、初めてだった。


(あの『闇の子』相手でも、ここまでじゃなかったよ?)


 もしかしたら、あの『暴君の亀』の戦闘力は、『闇の子』以上なのかもしれない。


「…………」

「…………」

「…………」


 皆も、あの脅威を思い出しているのか、表情が冴えなかった。


 あの『暴君の亀』は、今も、僕らを捕食しようと大量の瓦礫に向かって、体当たりを繰り返しているのかな?

 この階層全体を揺らしていたような振動が、まだ身体の芯には残っている。そして、その恐ろしい行為は、現在も続けられている気がしてならなかった。


 と、その時だ。


「あ……階段」


 僕らの前に、最下層へと通じる階段が、不意に現れた。


(そうだ、今は前だけを見よう)


 僕の足の痺れも、取れた。


「イルティミナさん、もう大丈夫。ありがとう」


 彼女の背から降りる。

 イルティミナさんは、まだ心配そうに僕の頬を撫でて、


「無理はしないでくださいね、マール」

「うん」


 僕は笑って、頷いた。


 それから、大きく深呼吸すると、みんなを見回して、


「――じゃあ、行こう」


 皆の目を見ながら、言う。

 全員、頷きを返してくれて、そして僕らは歩きだした。


 カツーン カツーン


 8人分の靴音を響かせ、長い階段を降りていく。


 …………。

 今までよりも、距離がある気がした。


 やがて、


(……あ)


 これまでの階層の入り口にはなかった、高さ5メードはある巨大な門が行く手を遮った。


「鍵はかかってないわね」


 第3の目を開いて、レクトアリスが確認する。


 イルティミナさんとダルディオス将軍が、それぞれの扉に身体を押し当て、力を込める。


「ふっ」

「ぬぅうん」


 ゴ、ゴォォン


 砂埃を落とし、軋む金属音を重く響かせながら、少しずつ『30階層の門』が開いていく。 


 ――やがて、僕らの視界には、驚くべき光景が映った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 解放された扉の向こう側にあったのは、洞窟のような岩盤剥き出しの広大な空間だ。

 そして、


(街だ……街がある!?)


 そこにあったのは、廃墟と化した1つの都市だった。


「……な、何よ、これ?」


 思わず、ソルティスが呟く。

 いや、全員が呆然と、目の前の光景を見つめている。


 僕らがいるのは、その街全体を見下ろせる丘の上だった。

 壊れかけた石の長い階段が、ここから、その廃墟となった街まで延々と続いている。


 見上げれば、100メードほど上方に、洞窟の天井が見える。ぼんやりと青白く光っているのは、光苔か何かだろうか? まるで月光や星々の輝く明るい夜空みたいだ。きっと『光鳥』やランタンなどがなくても、充分、視界が通ると思う。


 街の周囲は、切り立った崖だ。


 崖下には、地下水の川が流れていて、街の対岸となる洞窟の壁からは、その川に向かって、大量の地下水が何本もの滝となって流れ込んでいた。


(…………)


 街の中に、人気はない。

 魔物の姿や気配も、やはりない。


 完全なゴーストタウン。


 でも、『大迷宮』の最深部がこんな風になっているなんて、思いもしなかった。


「あそこに、神殿らしきものがありますね」


 イルティミナさんが遠くを指差す。


 ここからは、ちょうど街の反対側となる部分の丘に、大きな建物が見えていた。


 その尖塔らしい部分が、洞窟の天井にまで届いている。

 相当な高さと大きさだ。


 僕らは、しばらくそれを見つめた。


「……行ってみるかの」


 脇腹を押さえながら、大きく息を吐いて、キルトさんが言う。


 僕らは頷き、謎の廃墟への階段を降りていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ボロッ


「おっとっと?」


 石段は脆くなっていて、時々、足下が崩れる。


 パシッ


 バランスを崩した僕の腕を、素早くイルティミナさんの手が取って、支えてくれた。


「大丈夫ですか、マール?」

「あ、ありがと、イルティミナさん」


 笑ってお礼を言う。 

 イルティミナさんも微笑み、


「ぎゃん!?」


 ドデン


 その時、隣にいたソルティスの足元も崩れて、彼女は転倒した。うわ、大丈夫? 


「……な、なんで私は支えてくれないの?」


 恨みがましい視線が姉に向く。


「……マールで手が塞がっていたもので」

「…………」

「…………」


 い、いや、僕のせいじゃないよ?


 まるで怨念のこもった視線に、僕はブルブルと首を振るのだった。


 そんな風に、階段を降りていると、不意に、先頭を歩いていたラプトとレクトアリスが立ち止まった。

 ふと2人の視線を追いかける。


(――――)


 そこに、死体があった。


 階段の端に、座り込むようにして3人分の骸骨があったんだ。


 とても古い物らしく、衣服は着ているけれどボロボロだ。その骨の首や手首には、装飾品らしきものも見受けられる。


 キルトさんは、その前に膝をつき、死体を確認する。


「……目立った損傷はない。じゃが、死後、数百年は経っておるの」

「…………」


 つまり、過去の調査隊の人たちではない。


(なら、やっぱり、この街の住人ってことなのかな?)


 いったい、この街はなんなのだろう?


 得体の知れない不気味さに、思わず、街全体を見回してしまう。


 それから3人の死者に短い黙祷を捧げてから、僕らは先へと進んだ。


 階段の途中には、何人もの骸骨となった死者がいた。


「…………」

「…………」

「…………」


 皆、何も言わずに通り抜けて、ようやく街へと入る。


 土が剥き出しの道と、質素な石造りの家々が並んでいる。崩壊している建物もあるけれど、ほとんどが、しっかりと形を残したままだった。


「あまり、見たことのない造りね?」


 知識豊富な天才少女が呟く。

 黒騎士のお姉さんも頷いて、


「アルンの建築方式に似ていなくもないが、しかし、どこか違うようだ」

「ふぅん?」


 相槌を打ったソルティスは、軽くその民家の扉に触れた。


 キィィ


 簡単に動いた。


「…………」

「…………」


 思わず、顔を見合わせてしまう。


 他のみんなも、迷った顔を見せていた。


「鬼娘、少し調べてみるか?」

「ふむ」


 ダルディオス将軍の言葉に、キルトさんはしばし考え込み、頷いた。


「そうじゃな。この遺跡については、まだ謎が多すぎる。それに『神武具』に関する手がかりが、何かあるやもしれぬ。多くの時間は取れぬが、しばし街の探索をしてみようぞ」

「うん!」

「そうしましょう!」


 頷く僕ら。

 特に、知的好奇心が旺盛なソルティスは、あからさまに喜色を浮かべていた。


 まずは、扉の開いた民家に入る。 


 何もない家だった。

 空っぽの棚、空っぽの壺。そして、どこも砂埃にまみれた室内。


 部屋の仕切りらしい、もはや色の落ちた古びた布を払いながら、隣の部屋へ移動すると、そこは寝室のようだった。


(…………)


 そこにある寝台に、2つの死体が横になっていた。


 大きな骸骨と小さな骸骨――多分、親子だったんだろう。親が子を抱くような姿勢のまま、2人は永遠の眠りについていた。


 寝室の窓からは、あの丘の神殿が見えていた。


(……勝手に押し入って、ごめんなさい)


 心の中で謝って、全員で黙祷する。 


 そのまま民家を調べ終えた僕らは、また別の家へと向かって、街の探索を続行した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 数時間、僕らは、この廃墟と化した街を調べて回った。


 街中の通りには、たくさんの死体があった。


 壁に寄りかかって座り込む者、そのまま道に倒れている者、そのどれもが衣服を着ていて、正確な死因は特定できないけれど、少なくとも魔物などに襲われた痕跡は、どこにも見受けられなかった。


 通りには、枯れた噴水跡がよく見られた。

 そこに伏せる死体も、多くあった。


 やがて僕らは、神殿前の広場に辿り着く。


(…………)


 そこには、神殿の方を向きながら座っている、何百人もの骸骨の死体が集まっていた。一番、神殿に近い死体の1人は、風化しているけれど、少し豪奢な司祭のような衣服をまとっていた。


 死者たちの向く先には、長い階段があり、その先に大きな神殿がある。


 探索の途中で、幾つかの本を見つけた。


 長い年月の損傷によって読めない部分もあったけれど、古い時代のアルン周辺にあった国の文字だと、ソルティスとダルディオス家の父娘が見抜き、その内容を判読してくれた。


「……どうやら、日誌ね」


 少女は呟き、そして教えてくれる。


 それらの本の内容を組み合わせて、僕らは、この謎めいた廃墟の都市の正体を知ることができた。


 この都市が造られたのは400年前――あの神魔戦争の時代だった。


 神々と人類が共闘し、悪魔たちと争った裏側で、けれど、力のない多くの人類は、その戦渦に巻き込まれて大勢が亡くなっていた。


 その哀れな人々を救うため、女神コールウッドが、人々の避難所として創造したのが、この地底深くに築かれた大都市だった。


(……あのコールウッド様が?)


 僕の中にある神狗アークインの感覚は、驚きを感じていた。


 いや、同じ『神の眷属』であるラプトとレクトアリスも、酷く驚いた表情を浮かべている。それほど、あの灰色の女神が見せた慈悲は、珍しいものだったのだ。


 この『コールウッドの地下都市』には、一時、2千人もの人々が暮らしていたそうだ。


 もちろん、この地下都市には、人類の避難所としてだけでなく、『神武具』の生命維持装置としての役割も与えられていた。

 人々は、女神コールウッドだけでなく、その『神武具』に対しても崇拝の意を示していたらしい。


 薄暗い地下ではあったけれど、食糧として『癒しの霊水』が湧く噴水も用意されており、人々の暮らしは慎ましくも平穏なものだったそうだ。


(……そういえば、道に噴水の跡がいっぱいあったね)


 あそこから、『癒しの霊水』が湧き出ていたのだろうと思った。


「……状況が変わったのは、数年後」


 文章を読むソルティスの声が、少し低くなった。


 恐らく、神魔戦争が終結したであろう時期から、灰色の女神コールウッドは、突然、人々の前に姿を見せなくなった。


「……その人間らから、興味を失いよったな」


 ラプトが呟いた。


 灰色の女神様は、気紛れに人を助け、そして、気紛れに人を見捨てる。

 神魔戦争が終わると同時に、彼女は、その人々のことを忘れて、神界へと戻られてしまったのだろうと僕らは推測した。


 もちろん、当時の人々に、そんなことはわからない。


 神魔戦争が終わったことも、知らなかったろう。


 そして、閉じられた暗い地下空間で、やがて人々の中には、今の避難生活への不安と疑念が生まれ始めた。


『――外の様子を見てくる』


 誰かが言った。

 彼に同調した数人が、僕らも通ったあの街の門を抜け、上の階層へと向かった。


 ところが、数日して戻ってきたのは、1人だけだった。


『……上の階層に魔物がいて、外に出られない』


 そこで判明した事実。


 どうやら騎士像たちは、外部からの侵入に対して反応するけれど、内部に暮らしていた彼らには、反応しなかったようだ。けれど、11階層から上には、遺跡の外から侵入してきたであろう『不死オーガ』や『石化の魔蛇女(メデューサ)』たちが存在していた。


 彼らは、その魔物たちに遭遇し、襲われたのだ。


「…………」

「…………」

「…………」


 僕らは、その意味に青ざめる。


(つまり、ここで暮らしていた2千人もの人たちは、こんな地底深くに閉じ込められてしまったってこと!?)


 当時の人々も、当然、それに気づいた。


 決死隊を募り、魔物を突破しようとしたけれど、アルン騎士の精鋭300名が全滅するような環境を、戦争避難民である彼らが越えられるはずもなく、生きて帰る者は現れなかった。


『戻らなかったのは、外に出たからだ』


『彼らが、いつか助けを連れて、戻って来るだろう』


 残された人々は、強引に楽観論を展開して、自分たちの心を慰める。そうでもしなければ、絶望で心が壊れてしまいそうだったのだ。


 薄暗い地下空間。


 太陽の光も届かない、希望のない生活。


 それでも、当時の人々は、必死にそれまで通りの生活を続けていた。すでに外の世界を知らない赤ん坊たちも、この地下都市では生まれていたのだ。その子らのためにも、絶望だけの世界にはできなかった。


 危うい均衡で保たれた日々。


 もちろん、人々の中には、地下水の川に身を投げたりして、自死を選ぶ者も少なくなかったそうだ。


 ――その生活は、30年続いた。


 灰色の女神コールウッド様を祀りながら、人々の暮らしは、希望はなくとも安定はし始めていた。……人口は少しずつ減り続け、未来が徐々に削り落とされていく日々であっても、だ。


「――でも、ある日、それが一変した」


 ソルティスは、表情を強張らせながら続けた。


 大きな地震があった。


 かつても、この地では地殻変動が頻繁にあったのだろう。

 その結果、


「この街の噴水から、突然、『癒しの霊水』が湧かなくなった、とあるわ」


 地盤の移動によって、その水路が断線したんだ。


(…………)


 僕は、きつく目を閉じる。


 みんなも、口元を押さえたり、やり切れない表情を浮かべていた。


 人々は、必死に少ない土地を開拓し、畑を作ったりしたという。けれど、ここは日光のない地底深くだ。当然、作物もしっかりとは育たない。


 彼らは、地底深くに閉じ込められながら、生存に必要な食糧さえも奪われたのだ。


(……死体に外傷がない理由が、わかったよ)


 人々の死因は、恐ろしいことに『餓死』だったのだ。


 いや、正確には、当時の神殿の司祭が『永遠の眠りにつく薬』を作って、街の人々に配ったのだと日誌には記されていた。 


 キルトさんが呟く。


「……服毒死か」


 僕らは顔を上げる。


 目の前には、神殿前の広間に集まり、座ったまま亡くなっているたくさんの人々の姿があった。


「…………」

「…………」

「…………」


 死をまとう空気が、僕らの肌を撫でている。


 ソルティスが、パタンと日誌を閉じた。


「……司祭様の首飾りが、神殿の宝物庫を開く鍵になってるそうよ」

「…………」


 僕らは、その司祭様の骸骨に近づいた。


 その骨の首に、青い魔法石のついた金色の飾りが下がっていた。


(お借りします)


 僕は手を合わせ、それから首飾りを外させてもらった。


 チャラッ


 灯りに反射する魔法石は、僕の目には、なんだか悲しげな輝きに見えていた。 


「マール」


 イルティミナさんの白い手が、慰めるように僕の肩に乗る。


(……うん)


 僕は顔を上げた。

 目の前にある長い階段の果てに、『灰色の女神コールウッド』を祀った大きな神殿があった。


 求める『神武具』は、そこにあるはずだった。


「…………」


 大きく深呼吸すると、僕ら8人は、物言わぬ数百の骸たちの視線を背中に浴びながら、その長い長い階段を登り始めた――。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、アジアカップの日程と重なるため、1日前倒しをして、明日の木曜日0時以降の更新となります。よろしくお願いします。

そして、日本代表、決勝トーナメント進出決定おめでとうございます! やったー!(小説関係なくて、すみません……)

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