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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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118/825

118・死闘、門番の騎士像1

更新が遅くなって、すみません。


第118話になります。

よろしくお願いします。

(……神の証?)


 どういう意味か、わからない。


 それは僕だけでなく、他のみんなも同様で、誰もが困惑の表情を浮かべていた。


 けれど、それを示せなければ、この4枚の翼を生やした騎士像は、きっと僕らに対して容赦のない対応をしてくるだろうと想像はできた。


「…………」


 この騎士像と戦う?


 想像するだけで、嫌な汗が流れてくる。


 騎士像からの異常なまでの『圧』は、僕が転生してから今日までで一番の大きさだ。間違いなく、僕史上で最強の敵になる。


 あの金印の魔狩人キルト・アマンデスでさえも、非常に厳しい表情を浮かべていた。


(……どうしたら戦いを回避できる?)


 必死に頭を回転させていると、


「……なるほどね」


 ふと紫色のウェーブヘアをなびかせて、レクトアリスが前に出た。

 え?


「おい?」

「レクトアリス?」


 ラプトと僕は、思わず声をかける。


「大丈夫よ、ラプト、マール」


 彼女は、優雅に笑った。


 そして、4枚の翼を生やした巨大な騎士像の前に立つ。


 もしも、その手にある天に掲げた剣が振り下ろされたら、確実に届く距離だ。


 固唾を飲む僕らの前で、彼女は告げる。


「私は、大いなる正義の神アルゼウスが『神牙羅』、名はレクトアリス! ――さぁ、神の証の審判をなさいな?」


『承知した』


 抑揚のない声が応じた。

 そして、


 ヴォオオン


 まるでレクトアリスの第3の目のように、騎士像の赤い瞳から、放射状の光が放たれて、そこにいる美しき『神牙羅』の女の全身を照らした。


(レクトアリス……っ)


 僕は、いつでも飛び出せるように身構える。


 オォォ……ン


 けれど、何事もなく放射状の赤い光は消えていく。


『――神の証を確認した。汝の通行を許可しよう』


(おぉ!?)


 厳かに告げる騎士像の声に、僕らは目を見開いた。


 レクトアリスは、豊かな胸元を片手で押さえ、「ふー」と大きく息を吐く。


「やっぱりね」


 と呟いた。


「おい、どういうこっちゃ?」


 ラプトが、僕ら全員の疑問を、彼女に問う。


 レクトアリスは、こちらを振り返って、


「彼は門番なのよ」


 と答えた。


(……門番?)


「そう」


 頷き、彼女は、この広大な白い空間を見回して、


「そもそも、この迷宮は『神武具』を保管するための生命維持装置。そして、それを求める『神の眷属』のための場所。……つまり、本来は人間が立ち入ってはいけない領域なのよ」


 あ……。


 ラプトは、驚いたように言う。


「それはあれか? 要するに『神の証を示せ』ちゅうんは、『神の眷属』かどうか、確認させろっちゅうことか?」

「みたいね」


 レクトアリスは、自分に何もしない4枚の翼を生やした騎士像を見上げて、頷いた。


(……それじゃ、まさか)


 僕ら『神の眷属』が同行していたら、195名のアルン騎士は、死ななくても良かったってこと?


 あんまりな事実だ。


 キルトさんもダルディオス将軍も、自分たちが判断を間違ったせいで、多くの命を散らしてしまったのだと表情を強張らせ、そして後悔の色を滲ませる。


(……でも、2人は責められないよ)


 僕は思う。


 結果が出たあとで、文句を言うことは誰でもできる。


 でも、正解のわからぬ答えを選ばねばならない時に、それを間違えたとしても、誰も責める権利なんてないはずだ。


 だって僕らは誰1人、未来を知る術なんてないんだから。


 2人は、最善を選ぼうとした。


 そして僕らは誰1人、それを止めることはしなかった。

 責任は全員にある。


(……きっと、195名のアルン騎士たちだって、怒ってないよ)


 あの時見送った、その誇り高い背中たちを、僕は忘れていない。


「なるほどな」


 ラプトが呟いた。


 パンッ パンッ


 そして、キルトさんと将軍さんの背中を強く叩いて、驚く2人の視線を浴びながら、彼は4枚の翼を生やした騎士像の前へと歩きだす。


 騎士像の前で止まり、それを睨むように見上げた。


「ワイは、ラプトや。レクトアリスと同じ、大いなる正義の神アルゼウスの『神牙羅』や。――さっさと確認せい」


『承知した』


 ヴォオオ……オォォン


 赤い光が放たれ、そして消える。


『神の証を確認した』


「さよか」


 金髪碧眼の少年は、軽く肩を竦めると、僕を見る。


「次は、マールや」

「う、うん」


 僕も歩きだす。


「……マール」


 イルティミナさんの心配そうな声が背中にぶつかった。


(……大丈夫。きっと大丈夫)


 彼女にというより、自分自身に言い聞かせるようにして、巨大な騎士像の前に立った。


 大きく息を吸う。

 そして、


「僕は、マール。そして、狩猟の女神ヤーコウルの『神狗』アークインでもあるんだ。――さぁ、神の証を確認して!」


『承知した』


 重々しく感情のない声が応じる。


 そして、


 ヴォオオオン


 赤い光が僕を照らして、


 ヴォオオン ヴォオオオオオン


(……ん?)


 2人に比べて、やけに長い気がした。緊張しているせいだろうか?


 ヴォオオン


「おい、やけに長くないか?」

「えぇ」


 ラプトとレクトアリスの呟きが聞こえる。


「マール?」

「……本当に大丈夫なのか?」

「わ、わからないわよ」


 後ろで待機している5人からも、ざわめきが聞こえてくる。


 と、


 ヴォォ……ォォン


 赤い光が消えた。


『――ヤーコウルの神狗アークインの肉体と確認した』


(ほっ)


 厳かな声に安心した。


『しかしながら、その魂には異物が混入している。通行は許可できぬ』


(え?)


 続けられた予想外の言葉に、思わず全員が呆けた。


『そしてここは、女神コールウッドの造りし《白き聖域》。それを汚した罪は、《死》によってあがなわれなければならない』


(――は?)


 ガギィイン


 いつの間にか振り下ろされていた騎士像の巨大な剣は、けれど、盛大な火花を散らして、僕の眼前で止まっていた。


 すぐ目の前には、2本角を生やした少年が両腕を交差し、その剣を受けている姿がある。


「ぐっ……無事か、マール?」

「ラ、ラプト!?」


 パチッ パチチッ


 彼の放つ強い神気が、白い輝きとなって、周囲に散っている。


 レクトアリスが怒鳴った。


「やめなさい、門番! 彼は私たちの仲間よ!?」


『否』


 騎士像は無機質に応える。


 ベキッ バコォッ


 どれほどの圧力がかかっているのか、剣を防ぐラプトの足元の床が凹み、白い石片を散らして両足が沈んでいく。


『求めるは《神の証》のみ。証なく足を踏み入れし咎人たちは、その大罪を《死》によって贖うべし』


「ぐ……阿呆か?」


『断罪を邪魔するならば、汝らも《神敵》と見做し、《死の裁き》を執行する』


 ヴォオン


 4枚の翼を生やした騎士像の『圧』が膨れ上がった。


「うぎっ!?」


 剣を受けるラプトの両腕が、変な方向に折れ曲がった。


(――ラプトっ!)


 僕は、『妖精の剣』を抜刀して、


「し、『神牙羅』をなめんなぁあああっ!」


 バチチッ ガガァアアン


 突如、ラプトが全身を輝かせ、巨大な騎士像が弾き飛ばされた。


 巨体が、背面の壁へとめり込む。


「くはっ……くそぅ」


 片膝をつき、声を荒げるラプト。


 その周囲には、まだ神気の火花が激しく散っている。


「ラ、ラプト!」

「ラプト!」


 僕とレクトアリスは、すぐに駆け寄る。


 ガラッ ガララン 


 白い瓦礫を床に落としながら、身長3メードの騎士像は、めり込んでいた壁から身体を起こした。


 今のでダメージを受けた様子は、まるでない。


(な、なんて奴だ……っ)


 僕らは、ラプトに肩を貸して、後ろに下がる。


 キルトさんたちも、僕らの元へと駆け寄り、そして前に出た。


「結局、どうしても戦わねばならなかったようじゃの」

「そのようだ」


 金印の魔狩人は『雷の大剣』を構え、アルン最強の将軍も小ぶりな『炎の剣』を抜く。


(正解なんて、本当にわからないね)


 この遺跡の神々しい姿の門番たちは、恐ろしいことに、ここに『神の眷属』以外の存在が足を踏み入れた時点で、皆殺しにするようプログラムされていたようだった。


 もし195名のアルン騎士に、僕らが同行していても、戦闘回避は不可能だったのだろう。


『汝らの敵対行動を確認した』


 ヴォン


 巨大な騎士像が、赤い眼光を輝かせて告げる。


 途端、白い石の壁の中を、6つの赤い神文字の光が流れてきて、そこに並んでいた6体の人間サイズの『2枚の翼を生やした騎士像』たちの中へと吸い込まれた。


 ヴォン ヴォン ヴォン ヴォン ヴォン ヴォン


(……うわっ)


 凄まじい『圧』が、その6体の騎士像からも感じられる。


 ズンッ


 身長3メード、一際大きな『4枚の翼を生やした騎士像』が、地面を揺らして前に出る。


 神々しい巨大な剣を僕らに向けて、


『――汝らの断罪を執行する』


 感情のない冷酷な声音で、そう告げた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 接近する7体の騎士像に対して、僕らは武器を構えながら、ゆっくりと後退した。


 ジュォオオ


 折れていたラプトの両腕が、自己修復機能によって白煙をあげながら回復する。


「くそったれが」


 悪態をつくラプト。


 キルトさんは、彼を庇うようにその前に立ち、『雷の大剣』を『4枚の翼を生やした騎士像』に向けながら問いかける。


「まだいけるか、ラプト?」

「当たり前や!」


 吠えるように答え、彼は立ち上がる。


 金印の魔狩人は頷き、僕ら全員に指示を出す。


「よし。――まずは、あのデカブツじゃ。他の6体も強そうじゃが、あれだけは、頭2つ、3つ抜けておる。あのデカブツを倒さねば、他6体を倒せたとしても、この場はどうにもならぬ」


 僕らは、頷く。


 確かに、あの一際大きな騎士像だけは、他の6体以上の凄まじい『圧』を放っている。


(……あれ1体のせいで、僕らは全滅させられるかもしれない)


 そんな予感がある。


 歴戦の猛者であるキルト・アマンデスならば、その脅威を、もっと感じているのだろう。


「ラプト、レクトアリス、2人はわらわと共に来い。3人でデカブツを倒すぞ」


 彼女は言った。


「ラプトは盾になり、デカブツの隙を作れ。レクトアリスは、前のように結界で、わらわとラプト、あのデカブツを封じ込めよ。――その中で、わらわは『鬼神剣・絶斬』を放ち、一気に片をつける」


 覚悟のこもった声。


(……キルトさんが最大奥義を用いなければ勝てない、そんな相手なんだね?)


 脅威の大きさを、皆が思い知る。


「……ったく、簡単に言いよって!」

「わかったわ」


 ラプトは仏頂面をしつつも拒否はせず、レクトアリスも素直に頷いた。


 イルティミナさんが問う。


「私たちは?」

「他の6体を倒せ」


 キルトさんの答えは、簡潔だ。


「あとのことは考えるな、全力じゃ。マールも『神体モード』で戦え。ここを越えねば、どちらにせよ先はない」

「うん」


 僕は大きく頷く。


 ズシッ ズシン


 僕らに向かって接近する、7体の騎士像たちの動きが速くなった。


 僕ら8人も、覚悟を決め、それぞれの武器を構えて迎え撃つ体勢になる。


 最後に一言、


「――皆、死ぬなよ」


『金印の魔狩人』はそう告げる。


 そして次の瞬間、彼女は誰よりも速く、その恐るべき迷宮の門番たちへと襲いかかっていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「鬼剣・雷光連斬!」


 バヂィ バヂィイイン


 強襲したキルトさんの連撃が、先頭にいた『4枚の翼を生やした騎士像』を狙う。


 青い雷光が白の世界を青く染めるが、その攻撃は、全て巨大な剣で防がれる。けれど、その威力によって、巨大な騎士像は、大きく後方へと弾き飛ばされていた。


 他の6体と距離が空く。


「今や!」

「わかってる!」


 ラプトとレクトアリスが、そちらに駆ける。


 途中で振り下ろされる6本の剣は、全て、レクトアリスの生み出した赤い光の盾が防ぐ。

 そして、強引だったキルトさんの隙を狙った『4枚の翼を生やした騎士像』の巨大な剣の1撃を、ラプトが両手を突きだして受け止めた。


「レクトアリス!」


 キルトさんの叫び。


 同時に、第3の目を開いたレクトアリスは、紫色のウェーブヘアをたなびかせ、半球状の赤い魔法結界を創りだす。


 キルトさん、ラプト、巨大な騎士像――2人と1体を完全に包み込む。


 これで、キルトさんは全力の1撃を出せる。


 また光の結界の表面には、無数の神文字や魔法陣が流れている。


 かつてダルディオス将軍宅での経験からか、今回の結界は、より強固な物らしく、その密度が高くて赤色が濃いため、中の様子が見えない。


 バシュ バシュウウ


 内側の衝撃に反応して、時折、魔法結界の赤い光が強くなった。


(キルトさん! ラプト!)


 いったい、あの中で、どんな戦いが行われているのか、想像するのも恐ろしい――けれど、


「こちらに集中しなさい、マール!」

「!」


 イルティミナさんの一喝が、僕を現実へと引き戻す。


 僕らの前には、人間サイズの『2枚の翼を生やした騎士像』たちが6体も存在していた。

 皆、凄まじい『圧』を放っている。


 対する僕らは、5人。


 その内1人は、守り手の必要な魔法使いのソルティスだ。


(……人数的に不利、かな?)


 いや、違う。


 イルティミナさんが翼飾りの開いた『白翼の槍』を掲げ、


「羽幻身・白の舞!」


 その魔法石から、3人の『槍を手にした光の女』たちを召喚する。


(僕だって!)


「大地の精霊さん、力を貸して!」


 左腕の『白銀の手甲』を高く突き上げる。


 ジ、ジジ……ジ、ガ、ガガァアアアア


 白銀の輝きが震えたかと思うと、魔法石から白銀の鉱石が溢れだし、気高くも美しい『白銀の狼』が姿を現した。


 こっちは、これで9人だ。


「行きますよ、マール!」

「うん!」


 イルティミナさんと共に走りだす。


(全力だ!)


 僕は、『神気の蛇口』を解放する。


 ギュオオ……ッ


 燃え滾るマグマのようなエネルギーが全身に流れ込み、耳と尻尾が生えてくる。


 周囲の時間の流れは遅くなり、逆に、僕は誰よりも速くなる。


 イルティミナさんを追い越して、僕は、一番近くにいる『2枚の翼を生やした騎士像』に襲いかかった。


 ヒュッ カキィン


(!?)


 簡単に剣が弾かれる。 


 その剣速に、驚いた。


『神狗』の力を解放した僕の世界で、その騎士像は、普通に動いて見えたんだ。もしも『通常モード』であったなら、その剣は見えなかったかもしれない。


 それぐらいの強敵!


(くっ……負けるか!)


 ヒュッ カン ギギン ギャリイン


 無数の火花が弾ける。


 速く、力もあり、剣技も確か。


 でも、『神体モード』の限界である3分以内に、コイツを倒さなければいけないんだ。


「おぉおおお!」


 かつてない気合いと集中で、攻め続ける。


 そして、戦いは他の場所でも、すでに火蓋を切っていた。


 イルティミナさんは、残像を残すステップを刻みながら『白い槍』での攻撃を繰り返し、対する騎士像は強引に『剣の間合い』へと踏み込もうとしては押し返され、空間の支配権を巡る攻防を繰り広げていた。


「シィッ」

『――断罪を』


 今はイルティミナさんが優勢だけれど、体力的に長期戦になれば、不利になりそうだ。


 その横では、騎士像の剣をかわした『白銀の狼』が、その喉に喰らいつき、回転しながら投げを打っていた。


 ズガァアン


 床を砕き、クレーターのように陥没させる威力。


 けれど、


 カヒュッ


 倒れたまま繰り出された剣閃が、『白銀の狼』の前足を切断した。


 大きく後方に跳躍する『白銀の狼』――その表情には、こうも簡単に自身の強固な肉体を切断されたことに対する驚愕がある。


 ボコボコ


 前足は、すぐに再生する。


 そして、白い破片をこぼしながら、『2枚の翼を生やした騎士像』は床から身を起こした。


 兜の奥の赤い眼光が、鋭く輝く。


『白銀の狼』は、強者との戦いに歓喜の咆哮を響かせながら、再び襲いかかっていく。


 少し離れた場所では、ダルディオス将軍とフレデリカさんが協力し合いながら戦っていた。


「ぬぅん!」


 ガッ ギキィイン


 将軍の正確無比な『炎の剣』が、襲いくる『2枚の翼を生やした騎士像』の剣を弾き返している。


 その父の背面から、フレデリカさんは、かなり離れた距離で弓を構えていた。


 黒い弓だ。


 弦は、鋼鉄製のワイヤーのようで、それだけ弓の張力が強靭なのだろう。


「――ふっ」


 彼女はそれを、弛まぬ鍛練と技術によって、当たり前のように引いてみせた。


 矢が番えられると、鏃にあった小さな部品が外れ、


 ボウッ


 鏃が炎に包まれた。


 次の瞬間、『炎の矢』が放たれる。


 それは正確に将軍さんと斬り合う騎士像の兜に命中し、


 ドパァアン


 爆発を起こした。


 残念ながら損傷はなく、けれど傾く巨体に、ダルディオス将軍の『炎の剣』が襲いかかる。しかし、騎士像もすぐに体勢を立て直し、応戦し始める。


 フレデリカさんも、再び弓を構えた。


 その背後では、3人の『槍を手にした光の女』たちが、ソルティスを守るようにして、2体の騎士像と戦っていた。


 ガッ ジィン ギギィン


 その激しい戦いの奥で、少女は目を閉じ、精神を集中させている。


「…………」


 小さな身体の正面で、大杖を両手で持って構えながら、極度の集中で額には汗の玉が滲み、その周囲には魔力の凝縮によって、陽炎のような揺らぎが生まれている。


 大杖の魔法石は、凄まじい光を放っていた。


 その大魔法の発動を待つために、『槍を手にした光の女』たちは、一歩も引かずに2体の騎士像と戦い続ける。


 ――どこも全て、一進一退の攻防だった。


 でも、


(どこか1つが勝利を収めれば、雪崩式に勝敗は決するはずだ!)


 勝った人が別の戦いに加勢すれば、そこでも勝利が得られる。

 その繰り返しだ。


 だから、その流れを、絶対にこちらに引き寄せる!


 ジャッ


 騎士像の剣が頬をかすめ、鮮血が飛んだ。


 構わない。


(回避の動きを小さくして、より攻勢を強めるんだ!)


 ガキッ ギギィイン


 おかげで僕の剣が、騎士像の鎧に当たり始め、次々と火花を散らし始めた。


 いけ!


 いけ、いけ、いけ!


(このまま、倒す!)


 ヒュコッ


 騎士像の右足首に、完璧な1撃が入った。呆気ないほど簡単に、その足首は切断される。


(よしっ!)


 機動力を奪ったなら、もう僕の勝ちだ。


 返す刀で、その胴体を狙う。


 スカッ


 片足がないのに、騎士像が有り得ない高さまで跳躍し、剣は空を斬った。

 え?


 慌てて見上げる。


「は?」


 騎士像が、空に浮いていた。


 いや、正確には、背中の2枚の翼をはためかせ、滞空していたんだ。


 ……まるで天使みたいに。


 思わず、見とれた僕に、奴は急降下してくる。


(……っっ)


 ガギィイン


 辛うじていなしたけれど、降下の勢いを加えた1撃は、床を大きく抉り取るほどの威力だった。


 そして、1撃を加えた騎士像は、再び上空へ。


(うわ、嘘でしょう?)


 手が出せない。


 何度も落ちてくるけれど、その攻撃をかわすので手いっぱいで、反撃のカウンター技を合わせる余裕もなかった。


 ガァン ガガァン ギギィイン


「~~~~」


 一方的に、嬲られる。


(くそっ)


 強引にカウンターを合わせようとしたけれど、逆に、腕ごと叩き潰されそうになってしまった。  


 もうすぐ3分、経ってしまう。


 時間切れになったら、僕は、間違いなく殺される。


(このまま、黙ってやられるぐらいなら……っ)


 また上空から強襲される。


 僕は、それをギリギリで回避する。 


 ズガァン


 床が抉れた。


 破片が吹き飛ぶ。


 迫るそれらを見ながら、僕の中の何かが切れた。


「――――」


 瞬間、僕は足を走らせる。


『神狗』の凄まじい脚力を利用して、近くにあった柱を駆け上がると、そこから、空中に戻った『2枚の翼を生やした騎士像』目がけて跳躍した。


 ヴォオン


 兜の奥の赤い眼光が、僕を捉える。


 空中で避けようのない、翼のない僕へと横薙ぎの剣が迫ってくる。


(――翼はなくても)


 ビュオッ


 僕は、お尻から生えた太い狐のような尾を振るった。


 クルッと姿勢が変わる。


 騎士像の剣は、凄まじい勢いで、僕のすぐ真下を通過した。


 タッ


 兜の上に、着地する。


 見上げる騎士像の兜の奥にある、赤い眼光、


 ガシュッ


 僕は、そこに『妖精の剣』の半透明の美しい刃を、思いっきり突き刺した。


『お、おぉぉおおおおおお……っっ!』


 ビリリリッ


 鼓膜を震わせるような断末魔の声。


 そのまま、15メード以上の高さから落下する。


 激突する寸前、僕は跳躍して、


 ガガァアアン


 床に墜落した騎士像は、粉々に砕け散り、周辺に破片を振り撒いた。


「うわっとっと」


 遅れて、僕はなんとか地面に着地する。


 と、その瞬間、3人の『槍を手にした光の女』と戦っていた騎士像の1体が、突然、こちらを向いた。


 ドンッ


 床を蹴り、着地した直後の僕へと襲いかかってくる。


『光の女』たちは、ソルティスを守ろうと足止め目的で戦っていたために、その急な行動変化に反応し切れない。


(――へ?)


 慌てて剣を構えようとした瞬間、耳と尻尾が消えていくのを感じた。


 時間切れ。


 ま、まずい!? 


 死の恐怖が心を捕らえようとした時、


「マールを守れ、太陽の神鳥よ! ――ラー・ヴァルフレア・ヴァードゥ!」


 少女の叫びが聞こえた。


 次の瞬間、大杖の魔法石から、10メードはある巨大な『炎の鳥』が現れた。


 ジュオッ


 それは一瞬で、少女たちの前にいた騎士像の上半身を溶かして消滅させると、そのまま恐ろしい速度で、僕に迫る騎士像の背後から飛来する。


 気づいた騎士像が翼をはためかせ、上空へと逃げるも、それを追いかけ、あっさりと嘴で捕らえて飲み込んでしまった。


 ギュルン


 炎の鳥は形を変えて、まるで太陽のような球体になった。


 内側では、飲まれた騎士像が、外に出ようと何度も剣を突き立て、拳を振るって暴れている。


 けれど、球体はビクともしない。


 ジュオオ……ッ


 内部は、白く光るほどの高温だ。


 その騎士像の指が、手が、足が、胴体が溶け始めた。

 最後は、全身が水飴のようになって、球体の内側を流れていく。

 やがて、それさえも飲み込んで、球体は、一際、白く強く発光すると、そのまま消えてしまった。


(…………)


 床に座り込んだまま、僕は、呆けたようにそれを見上げていた。


「だ、大丈夫、マール!?」


 と、視線を落とせば、3人の『光の女』を引き連れて、命の恩人である少女がやって来る。


 僕の前に、両膝をついて、僕の両肩が強く掴まれる。


「怪我は!?」


 凄い剣幕で聞いてくる。


「あ、う、うん、大丈夫っ」


 コクコク


 僕は、思わず、何度も頷いてしまった。


 ソルティスは、大きく息を吐いた。


「そう……よかった、間に合って」

「…………」


 よく見たら、彼女は、酷く汗をかいている。

 紫色の艶やかな髪も、しっとりと濡れているほどで、白い肌は、青白くさえ見えるほど血の気がなかった。


 それだけの大魔法。


(……凄いね、ソルティス)


 改めて、そんな大魔法を使える少女のことを尊敬だ。


 そして、心配してくれた少女に、僕は笑って、立ち上がる。


 これで3体。


 でも、まだ3体、半分が残っている。


 僕は、しばらく『神体モード』が使えないし、ソルティスも、もう1度、同じ威力の魔法は難しいだろう。

 それでも、形勢はこちらに傾いた。


(彼女たちもいるし、うん、なんとかなるよ)


 イルティミナさんによく似た3人の『槍を手にした光る女』たちを見つめて、1人頷く。


「ソルティス、立てる?」


 右手を差し出す僕。

 ソルティスの真紅の瞳は、それを見つめて、


「もちろん」


 彼女は力強く頷き、僕の手を取って、立ち上がった。


(さぁ、もう少しだ)


 僕らは残された力を振り絞り、仲間たちの加勢に向かうために走りだした。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日の日中(※0時過ぎではありません)になります。また年内最後の更新になります。どうぞ、よろしくお願いします。


※来年の更新は、1月7日からの予定です。

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