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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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106・神帝都アスティリオの観光1

第106話になります。

よろしくお願いします。

 翌日、僕は、イルティミナさんとソルティスの姉妹と一緒に、フレデリカさんの案内で、神帝都アスティリオの観光をすることになった。


「キルトさんは、行かないの?」

「うむ」


 徹夜で、将軍さんと酒盛りをしたというキルトさん。


 彼女は、酔い覚ましの水をがぶ飲みしながら、これからダルディオス将軍と話し合ったり、アルンの有力貴族の何人かと面会する予定があるのだと教えてくれた。


「まぁ、他国の人間が動くためには、こういう根回しが必要での」

「ふぅん?」


 他にも、アルン領内における『闇の子』による被害の確認や、反シュムリア王国派貴族の動向調査、『大迷宮の探索』を実施するために必要な関係各所への調整も含めて、色々と面倒な仕事が山積みらしい。


(……複雑なしがらみが、色々あるんだね?)


 世界の危機が迫っても、人間は、一枚岩にはなれないみたいだ。

 ……業が深い。 


「……僕も、残ろうか?」

「残ってもらっても、そなたには、何もできぬよ」


 申し訳なくて、そう提案したら、笑って拒絶された。


 というか、むしろ『神狗』である僕は、面会に来る貴族に会ってしまうと政治利用される可能性があるので、いない方がいいんだって。

 う~ん、そうなのか。


「こういうのは、大人の仕事じゃ。子供のそなたは、遊んで来い」


 クシャクシャ


 甘いお酒の匂いがする銀髪の美女は、そう笑って、頭を撫でてくれた。


 ちなみに、あの3人のシュムリア騎士さんが、キルトさんの秘書代わりに色々やってくれるそうだ。

 4人目の『神の眷属』に関する、僕からレクリア王女への手紙も、彼らが清書して、すでに翼竜便で送ってもらっていた。しかも、万が一に備えて、同じ内容を5羽も飛ばしたんだって……総額5万リド(500万円)の郵便だとか。


(ま、世界のためだもんね?)


 そう考えたら、安い出費なんだろう。


 とにかく、そんなこんなもあって、僕らは神帝都アスティリオの観光へと出発することにしたのだ。


(どんな街なのかな?)


 こんな時に不謹慎だけど、少しワクワクしてる僕だった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕と美人姉妹の3人は、あの巨大な騎竜車ではなく、今は、フレデリカさんの用意してくれた馬車に乗っている。


 貴族らしい優雅な馬車だ。

 内装も手が込んでいて、とてもお洒落である。


(僕なんかが乗っていて、いいのかな?)


 そんな不安に思ったり。


 イルティミナさんやソルティスは、フレデリカさんが用意してくれた高級な衣装に身を包んでいる。観光なので動き易い服装なんだけど、2人とも美人なので、本物の貴族令嬢みたいだった。

 凄く似合ってる。


 一方の僕は、


(馬子にも衣装……かな?)


 おかしいね?

 夢の中でアークインに会った時には、もっと素敵に見えたのに、中身が僕になると鏡に映った印象も変わるのだ。


(……深く考えるのは、やめよう)


 そう悟る僕なのだった。


 さてさて、そんな僕ら3人の対面の座席に座っている本日のガイドさん――フレデリカさんは、


「今日の観光では、マール殿たちにも、我らがアルンのことをぜひ知ってもらいたい」


 と、熱く語った。


 予定としては、貴族などの暮らす高級住宅地から1つ目の城壁を抜けて、1つ目と2つ目の城壁の間にある一般市民の暮らしている第2区画へと向かうのだという。 


 正義の神アルゼウス、愛の神モアの神殿や、そこに保管された『神武具』の視察。


 市井の人々の暮らしぶりの確認。


 可能ならば、そこで食事をしたり、買い物をしたりして、色々と楽しんでもらいたいとのこと。


 そう語ったフレデリカさん。

 でも、


「……楽しめるかしら?」


 ボソッと、ソルティスが窓の外を見ながら、呟いた。


 僕も、少し心配だった。


 彼女は、『魔血の民』だ。

 そして、ここまでの旅の道中、僕らは、アルン領内での魔血差別を目の当たりにし、体験もしてきたんだ。

 ソルティスの口から、こんな呟きが漏れるのも、無理からぬことだろう。


 イルティミナさんも、無言だった。


 少女の呟きに、フレデリカさんは、何かを言おうとした。

 でも、それを飲み込む。


 そして、代わりに、


「……そうだな。だからこそ、そのソルティス殿の目によって、しっかりと、このアスティリオを見てもらいたい」


 と言った。


 ソルティスは答えず、ただ窓の外を見ていた。


 ゴトゴト


 貴族たちの煌びやかな邸宅が並ぶ、美しい景観が後方へ流れていく。

 

 馬車の向かう先には、巨大な石造りの城壁が、立ち塞がるように迫り上がってくる。振り返れば、貴族たちの邸宅のずっと先に、天高くそびえるアルン皇帝城の威容があった。


(………アルン神皇国、か)


 やがて、城壁門での手続きを終え、僕らの馬車は、神帝都アスティリオの第2区画へと入っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 神帝都アスティリオの一般の人々が暮らす第2区画は、とても賑やかで、活気があった。


(まるで、シュムリア王国の王都ムーリアみたいだ)


 人や馬車の数も、それぐらい多い。

 ひょっとしたら、神帝都アスティリオの方が上回っているかもしれない。


 そして、驚いたことが、もう1つ。


「ここは、車道と歩道が別れているんだね?」


 街中の道が舗装されているのは、王都ムーリアも一緒だ。


 でも、ここはそれが『人の歩く歩道』と『馬車や竜車の通る車道』に、ちゃんと別れている。しかも、車道は、左側通行の片側2車線だ。中央分離帯には、芝生と樹木が植えられている。


「これは立派ですね」

「そうね」


 美人姉妹も、素直に感嘆している。


 嬉しそうなフレデリカさんが付け加えた説明によれば、神帝都アスティリオの主要な道は、皆、この構造なのだそうだ。さすがに全ての道を整備するのは、まだ無理だけれど、将来的にはそうする予定なのだとか。


(アルンの技術は、世界一……かぁ)


 前に彼女の言った言葉が、誇張ではないことを実感する。 


 そうした素晴らしい道を走る僕らを乗せた馬車が、やがて辿り着いたのは、大きな神殿の前だった。


「正義の神アルゼウスの神殿だ」


 誇らしげなフレデリカさん。


 馬車を下りた僕らは、その巨大さに、思わず口をあんぐりと開けてしまった。


 シュムリア王国にある戦の女神シュリアンを称える人々の総本山、シュムリア大聖堂と比べても、2倍近い規模があったんだ。


 参拝客も、凄い数。


「こっちだ」


 小国の田舎者丸出しな僕ら3人を、ダルディオス家の令嬢が呼ぶ。


 慌てて、ついて行く。


「…………」


 神域と現世の境界となる巨大な門を潜ったところで、ソルティスが困惑したように、左右を見た。イルティミナさんも、少し警戒するように周囲を見ている。


(?)


 2人とも、どうしたんだろう?


 不思議に思っていると、ソルティスが、門の近くに立っていた若い神官さんに声をかけた。


「ねぇ?」

「はい、なんでしょう?」


 穏やかに応じる若い神官さん。

 ソルティスは、ちょっと硬い表情で、声を潜めて訊ねた。


「ここって、魔力探知機ないの?」

「え?」

「……私たち、『魔血の民』なんだけど、この神殿の境内に入っていいの?」


 その言葉に、僕は驚いた。


 そして、気づく。

 多分、こういう神聖な場所に『魔血の民』が近づくことは、この世界の世間一般的には許されない行為なんだ。


 でも、


「はい、構いませんよ」


 若い神官さんは、あっさりと答えた。

 ソルティス、ちょっと呆然。


「ここは、正義と愛の都、神帝都アスティリオですからね。どなた様でも歓迎いたします」

「…………」

「…………」


 姉妹は、顔を見合わせる。


 全ての様子を眺めていたフレデリカさんが、ゆっくりと口を開いた。


「驚いたか?」

「…………」

「これが、偉大なる皇帝陛下の統治する神帝都アスティリオの姿だ」


 彼女は、教えてくれた。


 30年前、アルン神皇国とシュムリア王国が『魔血の民』への差別をやめるよう共同声明を発した際に、実は、神帝都アスティリオでは、差別者に対する法的な罰則が設けられたそうだ。

 声明当初は、声明を守らぬ人も大勢いた。


 しかし、先代のアルン皇帝は、その全員に厳罰を処したのだ。


 アルンの人々は驚き、当時は反発もあったが、騎士団による武力で鎮圧し、アルン皇帝も自らの声で国民への説得を繰り返して、やがて、神帝都アスティリオでの差別は、年々減っていって、現在は、限りなくゼロに近い数値になっているのだそうだ。


「恐らく、神帝都アスティリオでは、シュムリアの王都よりも差別はない」


 フレデリカさんは、そう断言した。


 僕らは、驚きすぎて、声も出ない。


 ただ、彼女は悔しそうに、こうも続けた。


「しかし、それはまだ、この神帝都アスティリオや、その周辺の中央地域だけの話なのだ」


 アルン神皇国には、2つの問題があった。


 1つ目は、アルン神皇国が、各地の小国を滅ぼして、現在の領土を全て統一したのは、まだ50年前と最近の話であったこと。各地には、まだ複数の価値観があり、アルンに対する反感も存在していた。


 2つ目は、世界一の大国であるが故の、領土の広さ。


 この2つの問題が重なり合うことで、アルンの中央と辺境では、『魔血の民』に対する意識に、極端な温度差が発生しているのだそうだ。


 そして、仮に差別があったとしても、


「……中央に届く前に、それらの情報が握り潰されるのだ」


 フレデリカさんの美貌は、辛そうに歪んでいた。


 自分たちの古き価値観を守るため。


 また、アルン神皇国への嫌がらせのため。


 それ故に辺境では、いまだ『魔血の民』への差別が発生し、けれど、それを正す以前に、その差別行為自体が中央まで伝わってこない。


「…………」

「…………」

「…………」


 ナルーダさんの村は、そんな下らない理由で被害にあっていたのか。


 アルン中央の人たちも、何度も極秘の視察団を辺境に送ったりしているが、移動距離の長さと時間によって、視察団の存在に気づかれたり、差別行為そのものの隠匿が行われてしまう。


 なるほど。


(前世のような通信手段も、映像による証拠なども用意できない異世界だもんね)


 これが、現実にできる対応の限界なんだ。


 まさに、広大過ぎる国土の弊害。


「貴殿らには、言い訳に聞こえるかもしれない。しかし、我らアルン神皇国は、決して『魔血の民』への差別を寛容している国ではないのだ」

「…………」

「…………」


 フレデリカさんの碧色の瞳は、真っ直ぐ『魔血の姉妹』を見つめている。


 2人は黙って、それを受け止めた。


 やがて、イルティミナさんが口を開いた。


「そうですか」

「…………」

「しかし、『魔血の民』に優しい神帝都には、けれど、あまり『魔血の民』はいないようですね?」


 真紅の視線を、周囲へ送る。

 優れた戦士である彼女には、周りの人々の魔力の強さが、わかるのだろう。


 フレデリカさんは答えた。


「そうだな。……首都である神帝都アスティリオは、どうしても物価が高い」

「……あぁ」


 納得した声を出す、イルティミナさん。


「辺境で虐げられる『魔血の民』に、蓄えなどありませんものね。こちらに来たくても、来られないのですね」

「…………」

「なるほど。シュムリアに逃れる難民が多いわけです」


 フレデリカさんは、何も言えなかった。


 そして、その難民の中には、この2人の姉妹も含まれている。


(…………)


 別に、イルティミナさんの口調には、悪意はなかった。

 ただ淡々と確認しただけだ。


「すみません。何も、貴方を責めている訳ではありませんよ?」

「あぁ、わかっている」


 彼女は、大きく息を吐く。


 そして、今まで黙っていたソルティスは、ゆっくりと視線を周囲に巡らせた。


「…………」


 そこにいるのは、笑顔の参拝客ばかり。

 それは、差別をしないという人々。


 目の前には、正義の神アルゼウスの大神殿が建っている。


 かつて、神の名の下に処刑された『魔血の民』と同じ血を流す少女は、けれど今、その神域の中に足を踏み入れていた。


 少し癖のある紫色の髪。

 眼鏡をかけた少女の指は、その毛先をクルクルと弄んだ。


「……今まで敬遠してたけど、私ももう少し、アルンのこと勉強しようかしら?」


 フレデリカさんが、ハッと顔をあげた。


 イルティミナさんは、微笑と共に、美しい真紅の瞳を伏せる。


 僕も、笑った。


「いいね? 僕も一緒に勉強したいよ」

「そ。ま、いいわよ」


 いつものように肩を竦めるソルティス。

 そして、


 ギュッ


 その小さな手で、僕の手を掴む。


「じゃあ、まずは、この神殿についての勉強しましょ?」


 そう笑いながら、引っ張った。


「わ? ちょっと、ソルティス?」

「ほら、早く早く」


 そして、立ち止まっている2人にも声をかける。


「ほら、イルナ姉も早く! フレデリカも、貴方が案内してくれないと、私たちが困るのよ?」


 2人の美女は、顔を見合わせる。

 そして、苦笑した。


「はい。すみません、ソル、マール」

「わかった。私が、色々と教えてやろう」


 笑いながら、2人も、すぐにやって来てくれる。


 見上げる空は、快晴だ。

 降り注ぐ太陽の光は、アルゼウス大神殿を白く輝かせ、笑い合う僕ら4人のことも、優しく照らしてくれている。


 ――そうして僕らは、多くの観光客や参拝客と一緒になって、この荘厳なるアルゼウス大神殿の内部へと入っていくのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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