表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/825

104・神牙羅との邂逅2

第104話になります。

よろしくお願いします。

 ――気づいたら、僕は、草原に立っていた。


 空は青く、高く、どこまでも澄み渡っている。

 風は涼やかで、穏やか。


 とても、美しい景色だった。


(……また夢を見ているのかな?)


 そう気づいた。


 と、ふと自分の手を見て、驚く。


(あれ? これ、マールの手じゃない)


 そこにあったのは、光でできた大人の手だった。


 見下ろした自分の身体は、全て、光で構成されていて、はっきりと輪郭を見ることはできない。でも、自分の中の懐かしい感覚が、これが前世の自分の姿なのだと教えてくれていた。


 なぜ?


 頭の中に、疑問が溢れていた時、ふと背後に気配を感じた。


 振り返る。


(あ……)


 そこに、1人の子供が立っていた。


 柔らかい茶色の髪。

 まるで眠っているみたいに細い、綺麗な青い瞳。


 ゆるやかで穏やかな雰囲気の少年。


 ――それは、マールだった。


(いや、神狗アークインの方かな?)


 彼は、こちらを見上げて、笑った。


 見ている人を安心させる、不思議な笑顔だと思った。同じ身体であったとしても、僕には真似できない。きっと、これが本来の彼なんだろう。


『…………』


 彼は、草原に座った。


 ポンポン


 隣を、小さな手で叩く。


(わかったよ)


 アークインに促されるまま、光となった大人の僕は、そこに腰を下ろす。


 あぁ、いい風だ。


 アークインの茶色い前髪も、柔らかく揺れている。

 彼も気持ちよさそうだ。


 見えているのは、地平の果てまで続く緑の草原と、どこまでも広い青い空。


 とても平和だ。

 このまま、時間が止まってしまえばいいのに。


『…………』


 アークインも笑って、頷いた。


 その笑顔につられて、僕も笑ってしまう。


 彼は、色々と話してくれた。


『……、…………、……』


 でも、声が聞こえない。


 少し残念だった。


 だけど、彼は楽しそうに、時々、悲しそうに、また嬉しそうに、身振り手振りを交えて、一生懸命、話しかけてくれていた。


 だから僕も、ずっと聞いていた。

 不思議なもので、声が聞こえないのに、ちゃんと伝わってくるものがあったんだ。


(うん、うん)


 僕らは、笑顔だった。


 気がついたら、僕も、アークインに話しかけていた。


 色んな話。


 世界のこと、『闇の子』のこと、好物の料理のこと、イルティミナさんのこと、好きなこと、嫌いなこと、キルトさんやソルティスのこと、ここまでの冒険のこと、曖昧になってしまった前世のこと、色んな話題を、いっぱい、いっぱい話した。


 彼も頷きながら、聞いてくれた。


 共感をしてくれた。


 不安や悩みへの答えも、しっかり教えてくれた。


 逆に、諭されたりもした。


 一生懸命に聞いて、答えてくれる彼が好ましかった。声が聞こえないのが、残念だ。伝わってくるものも、言葉じゃないから、記憶に残らないかもしれない。それも残念だった。


 この夢から、醒めたくないな。


 本気で思った。

 でも、


(そういうわけには、いかないよね)


 大切なあの人が、待っている。


 アークインも頷いた。


 そして僕らは、見つめ合った。


(…………)


『…………』


 なんとなく、アークインとは、もう会えない気がした。

 彼も気づいてる。


 だから、こうして会いに来てくれたんだと思った。


(本当にいいの?)


 コクン


 彼は頷いた。


 そして、その青い瞳が、僕の顔を見つめてくる。


 そっちこそ、いいの?


 そう問われている気がした。


 なるほど、そっか。

 アークインが消えてしまうように、今の僕も消えてしまうのかもしれない。でも、大丈夫。


(僕はもう、生まれ変わったつもりだったから)


 彼は頷き、笑った。


 小さな右手を差し出される。


 僕の大人の光の手は、それをしっかりと握った。


 ギュッ


 幼く、温かい手。

 転生してから今日まで、ずっと使ってきた手だ。


 それが、光を帯びる。


 アークインの身体が、真っ白な光に包まれた。

 目が眩む。


『…………』


 アークインが、何かを言った。やっぱり聞こえない。

 でも、僕も答えた。


(ありがとう。これからも、よろしくね)


 光の彼が、また笑った気がした。


 ――そして、繋いだ僕らの光の手が、ゆっくりと溶けていく。


(あぁ……)


 ずっと混ざっていた僕ら。

 その境界が、本当の意味でなくなっていく。


 僕らは、1つの光になっていく。


 草原も、空も、その輝きに照らされ、やがて見えなくなっていった。世界は、まるで生まれ変わる直前に見たように、真っ白になっていた。


 その時、ふと誰かに呼ばれた気がした。


(うん……もう、起きなきゃね)


 そう思った。


 1つの光となった僕らは――僕マールは、そうして、ゆっくりと目を覚ました。



 ◇◇◇◇◇◇◇

 


「――起きたか、マール?」


 最初に見えたのは、間近にある金髪碧眼の美少年――ラプトの顔だった。

 その額にあった角は、今はもう消えている。


 奥には、レクトアリスの姿もある。


「よかったわ」


 安堵の吐息をこぼす彼女。

 その白いおでこにあった、第3の瞳も、すでに閉じられていた。


 どうやら僕は、まだベッドに寝ているようだった。

 ゆっくりと上体を起こす。


「大丈夫か?」

「気分が悪かったり、どこか痛かったりしない?」


 2人の心配そうな声。


 僕は、首を振る。


「ううん、大丈夫」


 そして、2人の手を見た。

 僕と繋いでいてくれた手は、僕の爪が裂いてしまったようで、少し血がこぼれていた。


「ごめん、ラプト、レクトアリス」


 謝る僕の視線に気づいて、2人は笑った。


「構へん」

「こんなの、傷の内に入らないわ」


 そして、こちらに向けられた手が突然、光を放つと、そこにあった裂傷が消えていく。


(わおっ?)


 ずっと『癒しの霊水』だけを食してきた影響なのかな?


 まるで、その『癒しの霊水』をかけられたように、2人の傷が治っていた。

 もし僕も、2人と同じようにずっと『癒しの霊水』だけを飲んでいたなら、こういう肉体に変化していたのかもしれないね。


 驚く僕に、レクトアリスが問う。


「一応、神気の経絡は、開いたけれど……どうかしら?」

「うん」


 僕は、頷いた。

 実は、目覚めてからずっと、自分の肉体の変化を感じていた。


(身体の奥に、物凄い力を感じるよ)


 今まで使っていた魔力は、温かなお湯だった。


 でも『神気』は、まるで灼熱のマグマのようだった。


 しかも、僕の体内にあった魔力の量がコップ1杯だとするなら、この神気の量は、広大な湖みたいな量である。

 そして今、そこに2つの蛇口がついている感覚だ。魔法を使う時には、どちらの蛇口を開くか、自由に決められる感じ。


(これは、凄いな)


 ちょっと『神気の蛇口』を開いて、体内に巡らせる。


 熱い、熱い!


 慌てて、閉じた。

 でも、それだけで、全身から炎が立ち昇るような感覚で、力が溢れてくる。


「お?」

「あら?」


 ラプトとレクトアリスが、驚きの声をあげた。


 2人の視線が、僕を凝視してくる。


(? ……なんか、頭とお尻がムズムズする)


 思わず、その感覚に、身体を揺らしていると、


「さすがやな、マール。もう力を解放できるんか」

「え?」


(……力?)


 ラプトの感心した声に、キョトンとする僕。

 すると、レクトアリスが怪訝そうに問う。


「気づいてないの?」

「……何に?」


 2人は、微妙な表情で、互いの顔を見合わせた。


(???)


「マール、ちと、こっち来い」


 困惑する僕の手を、ラプトの手が引いて、僕はベッドから降ろされる。そのまま、部屋に用意されていた姿見の鏡の前に連れてこられた。


「ほれ」

「…………」


 鏡の中に、犬耳と尻尾の生えた子供が、突っ立っている。


 ……え?

 何これ?


 髪と同じ、茶色い耳に触る。


(か、感触が、ちゃんとある……)


 尻尾も1メートルぐらいの長さで、まるで狐みたいな、茶色のモフモフだ。


「え、えぇえええっ!?」


 グルグル


 思わず、鏡の前で、自分の尻尾を追いかけるように回転してしまう。


 2人が苦笑した。


「自分、落ち着けって」

「大丈夫よ。それが『神狗』としての、本来の姿なんだから」


 ほ、本来の姿?


(これが!?)


 獣人みたいな自分に、困惑する。

 いや、確かに『神のいぬ』だけどさ。


「ワイの角や、レクトアリスの3つ目と一緒や。神気を肉体に流すことで、『神体』に変化へんげできるんや。身体強化や特殊能力を発揮できるんやで」

「そ、そうなんだ?」


 さすがに驚いた。


(ん?)


 あ、すぐに『神気』の蛇口を閉じたせいか、犬耳と尻尾が、シュワアア……と白い煙をあげて消えていく。

 元の姿に戻った。


 ほ~、ちょっと一安心だ。


 そんな僕を、レクトアリスは、また第3の目を開いて、紅い光で照らしながら見つめてくる。


「ん、なるほどね」

「え?」

「やっぱり、マールの肉体は、神饌以外を食し続けた影響で、だいぶ変質してるわ。『神体』でいるのは、3分ぐらいが限界かしら。それ以上の時間だと、肉体の方が崩壊するかもしれないわね」


 そ、そうなの?


(3分だけの強化モードって感じかな?)


 ラプトが、彼女に聞く。


「今からマールにも、神饌だけを摂取させたら、どうなんや?」

「無理ね」


 艶やかな紫の髪を揺らして、首を横に振る。


「今の状態で、マールの肉体は安定している。多分、これ以上の変質は、何をどう食べていこうと起きないわ。――彼はもう、ほとんど人間なのよ」

「……さよか」


 少し寂しそうなラプト。

 僕は、笑った。


「でも僕としては、今までと変わらないよ。ううん、むしろ強化してもらったんだ。ありがとう、ラプト、レクトアリス」

「……マール」

「ううん、どういたしまして」


 ラプトは切なそうな顔をして、レクトアリスは、大人らしく微笑んだ。


「でも、気をつけて」

「ん?」

「神気の経絡は、使わなければ、また閉じていくわ。1日1回は、神気を流して、道を開いておいてあげて」


 なるほど。


「わかった。……また痛い思い、したくないし」

「そうね」


 彼女は苦笑する。


(それにしても、『神体モード』かぁ)


 自分がまさか、変身できるようになるとは思わなかったよ。いや、耳と尻尾が生えるだけなんだけどさ。


(……ん? 尻尾が生えた?)


 気づいて、僕は、手を伸ばす。


「あ、あああ!?」


 ビククッ


 思わず、突然の大声をあげてしまった僕に、2人は驚き、硬直する。


「な、なんや!?」

「どうしたの?」


 何事かと、緊張した面持ちでこちらを見る『神牙羅』の2人。


 僕は、2人に泣きそうな顔を向けた。


「し、尻尾のせいで、お尻のズボン、破けちゃってる……」

「…………」

「…………」


 数秒の沈黙。


 そして、2人の弾けるような爆笑が、客室内に響き渡った。

 な、なんだよ、もう!



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ズボンの穴は、上着の裾に何とか隠れてくれたけれど、


「ごめんて」

「笑って、悪かったわ」


 ふてくされる僕に、2人は笑いを収めて、必死に謝る。


「もう数少ない『神の眷属』同士なんや。……な? 堪忍してや?」


 ラプトが、顔の前で両手を合わせて、言う。

 ……もう。


(そういう言い方は、ずるいよね)


 僕は、大きく息を吐く。


「わかったよ」

「さすが、マールや! おおきに」


 ラプトは大袈裟に喜び、レクトアリスは苦笑しつつ、「ありがと」と言う。


(調子いいなぁ、まったく)


 僕も苦笑して、とりあえず、気を取り直す。

 そして、ソファーに腰かけ、向かいのソファーに座る2人に訊ねてみることにした。


「でも、数少ないっていうけど、具体的には『神の眷属』って、今、どのくらいの人数なの? この世界に来てるのも、僕ら3人だけみたいだけど」

「そやなぁ」


 ラプトは、難しい顔で腕組みした。 


「300年前の『災厄の戦い』ん時は、100人以上はいたんや。けど、8割方、人間たちの砲撃に殺されよったしな」

「……じゃあ、20人ぐらい?」


 思ったより、少ない。

 レクトアリスも、艶やかな髪を撫でながら、言う。


「今回の召喚に応じなかった『神の眷属』は、結構、多いのよ。それと、その眷属の主人である神様の方で、引き留める場合もあったようだわ」

「…………」


 そっか。

 でも、300年前の人間のしたことを思えば、仕方ないのかもしれない。


「今回、人界に来たんは、ワイらも含めて、10人ぐらいやないか?」


 300年前の10分の1か。


(思った以上に、厳しい状況だね)


 そこに、レクトアリスが、重く付け加える。


「あとは、マールの報告にもあったように、『闇の子』に先手を打たれて、殺されている可能性もあるわ。……私たち以外、もう本当に生き残ってないのかもしれない」

「…………」

「…………」


 冷たい沈黙が、客間に落ちる。


(3人だけ、か)


 絶望が、僕らの心に、重く圧し掛かる。

 それを振り払うように、ラプトが明るい声で、突然、こんなことを口にした。


「そういえば、マール?」

「ん?」

「シュムリア王国の方には、もう1人、『神の眷属』が召喚されたみたいやないか? 自分、会ったことないんか?」


 え?


 レクトアリスも、僕を見つめた。


「1ヶ月以上も前だけれど、私たち、『お告げの夢』を見たわ。貴方は見なかったの?」

「お告げの夢?」


 キョトンする僕。


「闇の世界に、天から『光の星』が落ちる夢よ」


 そういえば、見た気がする。


(あれは……金印の魔学者コロンチュード・レスタさんの大樹の家に、お泊まりした日の夜だっけ)


 あの不思議な夢は、『神の眷属』が召喚された『お告げ』だったんだ。


 ラプトが言う。


「星の落ちた場所は、位置的に、間違いなくシュムリア王国のはずや。きっと、マールの近い場所に召喚されたはずやで?」


 そうなんだ?


「ごめん。夢は見たけど、会ってないよ」

「……さよか」

「そう」


 2人は、ちょっと落胆した様子だった。

 僕は、言う。


「シュムリアの王女様に、手紙を書くよ。きっと、すぐに探して保護してもらえると思う」

「せやな」

「えぇ、そうしてもらった方がいいわ」


 うん。


(なんとか『闇の子』よりも先に、見つけてもらわないと!)


 僕自身は不完全な『神狗』だけれど、それでも、もうこれ以上、『神界の同胞』たちには死んで欲しくない。


 その時、ふと窓の外を見たら、もう夕暮れだった。


 ずいぶんと長話をしていたようだ。


「もうこんな時間なんだ? ――ラプト、レクトアリス。僕は一度、今の仲間が心配しているだろうから、そっちに戻るよ」

「なんや、つれないな」

「今夜は、ここに泊まっていったら?」


 不満そうに唇を尖らせるラプト。

 レクトアリスも、大きなベッドを見ながら、そんなことを言う。


 僕は、申し訳なさそうに笑った。


「ごめんね。でも彼女たちも、今の僕にとって、大切な仲間なんだ」

「…………」

「…………」


 2人は、ため息をこぼした。


「わーった」

「そう」

「……2人も一緒に来る?」


 そう言ったけれど、首を横に振られてしまった。


「今はええわ」

「そうね。……人のために戦うと決めたけど、まだ感情の整理がつかないもの」


 そっか。

 僕は頷き、ソファーから立ち上がった。


「わかった。2人のこと、みんなには僕から伝えておくよ」

「好きにしや」

「わかったわ」


 素っ気ない返事だけれど、許可は得た。


(すぐには無理でも、少しずつ、2人もみんなと仲良くなってくれれば、いいな)


 そのためには、僕が橋渡し役をしないと。

 うん、がんばろう。


「また、ここに遊びに来るよ」

「おう」

「待ってるわ」


 僕の言葉に、2人は嬉しそうに笑ってくれた。

 こちらも笑顔を返す。


 そうして僕は、薄暗い客間のソファーに座って、淡い光を放つ2人の『神牙羅』に見送られながら、夕暮れの部屋をあとにした――。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。よろしくお願いします。


※小説と関係ありませんが、新生したサッカー日本代表は、なんだか凄くワクワクします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ