001・旅立ちの記憶
初めてのネット小説、投稿になります。
どうぞ、よろしくお願いします。
「――旅立ちの心の準備は、できましたか?」
森にある丘の上で、その女の人は、ゆっくりとこちらを振り返り、そう言った。
風になびく、深緑色の長い髪。
東洋と西洋のハーフのような白い美貌には、柔らかな微笑みが浮かび、真紅の瞳は優しく僕を見つめている。
(…………)
その胸元までの身長しかない子供の僕は、その白い美貌を見上げた。
彼女の手にあるのは、真っ白な槍。
先端にある美しい刃と魔法石を隠すように、大きな翼飾りが閉じられている。
着ている物は、真っ白な鎧。
薄い装甲を何枚も重ねた、動き易さを重視した金属の鎧だけど、今、その脇腹部分には、大きな穴が空いてしまっている。
背中には、大きな背嚢。
重そうな荷物の詰まったそれを、けれど彼女は、軽々と背負っている。
――その女の人は、冒険者さんだった。
彼女の桜色の唇が開き、美しい声が言葉を紡ぐ。
「不安ですか?」
「…………」
コクッ
僕は、正直に頷いた。
彼女は優しく微笑み、その白い手が、労わるように僕の頭を撫でる。
「大丈夫、私がついています」
「…………」
「貴方は、見知らぬこの私の命を救ってくれた。だからこそ、今度は私が……このイルティミナ・ウォンが、何があろうと貴方を守ります」
力強い声。
その真紅の瞳は、己の覚悟を示すように、真っ直ぐ僕を見つめている。
想いの熱が伝わり、それは僕の胸を焼く。
「うん」
僕は、信頼を込めて、彼女に頷きを返した。
彼女は、嬉しそうに笑った。
そうして視線を眼下に向ける。
そこに広がるのは、地平の果てまで続いている大森林だ。
遥か彼方、数十キロも続いていそうな緑の木々が集まった世界だった。
そして、この見渡す限りの範囲に、人の暮らす町や村は1つもない。
(…………)
大自然の恐ろしさに、嫌でも心と身体は震える。
ギュッ
そんな僕の手を、隣に立つ美しい女の人は、強く握ってくれた。
「大丈夫です」
もう一度、同じ言葉。
森を見つめるその真紅の瞳には、強い覚悟の光が宿っていた。
「貴方は、私が守ります。必ず2人で、この森を抜けましょう」
「うん」
僕は、大きく頷いた。
繋いだ手のひらは、とても熱い。
僕らは笑い合い、木々の広がる大森林へと足を踏み出し、丘を下って歩きだした。
歩きながら、その端正な美貌を覗き見る。
(…………)
この森で彼女と出会ったのは、数日前。
――その美しい横顔を見上げながら、僕はふと、彼女と出会うまでの数日間を思い出していた。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※書籍化&コミカライズいたしました!
2024年7月、コミック1巻が発売しました。
もし興味を持って頂けましたら、コミックファイア様にてコミカライズが好評連載中ですので、まずはご試読下さいませ。
URLはこちら
https://firecross.jp/ebook/series/525
もし少しでも気に入って頂けましたら、ぜひご購入のご検討をお願いします。
コミック1巻には描き下ろしのおまけ漫画も掲載されていますので、どうかその手に取って楽しんで下さいね♪
また、HJノベルス様より小説の書籍1~3巻も好評発売中です。
1巻
2巻
3巻
どれもWEB版以上に楽しんで貰えると思いますので、もしよかったら、こちらもぜひ♪