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FOREVER~君の笑顔を永遠に

作者: 桜風瑠那

これは、もう3年も前の話になる。

僕が初めて彼女に出会ったのは、7月の冷房もきかない図書館の中だった。


「ねえ」

不意に僕は声を掛けられて振り向いた。

「そこの、上にある本、取ってもらえる?」

一目惚れだった。僕にそう言った女性ひとは、色白でとても綺麗だった。僕は思わずその人を見つめてしまっていた。

「あの…」

「あ、この本ですか?」

「ありがとう」

彼女はそう言って僕に笑いかけた。とても眩しい笑顔だった。

彼女が去って行った後も、彼女の笑顔が頭から離れなかった。

その日から僕は、その図書館に通っては彼女の姿を探すようになった。彼女は毎週水曜日に図書館に来ているようだった。

そんなある日、彼女が僕に話し掛けてきた。

「毎週ここに来てるのね。本が好きなの?」

まさか彼女を探しに来ているだなんて言えない。

「君も、毎週ここに来てるんだね。よく見かけるから」

「ええ、私本が好きなの」

「この間の…あの人の本好きなの?」

「ええ。あなたも一度読んでみたら?」

「うん。そうするよ」

「そういえば、まだ名前言ってなかったわね。私は桜沢愛美おうさわまなみ、あなたは?」

「僕は草薙海くさなぎうみ

それから僕らは、時々会って話をするようになった。


「桜沢さん」

9月に入ったある日、僕は彼女に告白する事を決意した。

「何?」

「あの…」

「どうしたの?今日の草薙君、ちょっと変よ」

彼女が少し笑ってそう言った。

「僕…」

いざとなると、言葉がなかなか出て来ない。

「ひ…一目惚れなんだ」

「え?」

少し赤くなって、彼女が聞き返した。

「あの日、初めてここで会った時から、君の事が…好きなんだ」

「私もよ」

笑顔で彼女がそう言った。

「私も、草薙君の事が好き」

僕は、天にも昇る思いだった。

それから僕らは、付き合うようになった。


「今日は何処に行く?」

いつの間にか待ち合わせ場所になっていた図書館で、僕は彼女にそう聞いた。

「私ね、水族館に行きたい」

僕らはバスで水族館に向かった。僕も彼女も車の免許を持っていない。とは言っても、僕はまだ学生なのだが。


話忘れていたが、その頃僕は17歳で、学校にも行かず働きもせずに家にいた。彼女は20歳だったが、車の免許は取っていなかった。


水族館に着くと、僕らはまず先に熱帯魚の水槽に行った。2人とも熱帯魚が好きなのだ。

僕らの趣味は、共通している事が多かった。

「熱帯魚って綺麗だよね」

「うん」

「私もあんな風に泳いでみたいな」

彼女が言った。

「気持ち良さそうに泳いでるよね、本当。僕、かなづちなんだ」

僕はちょっと笑ってそう言った。

「私も」

そう言って彼女も笑った。

彼女の笑顔が見れるだけでも、僕は幸せだった。この幸せが、ずっと続けばいいと思った。


冬が過ぎ、2度目の夏がきた。


「海」

いつもの図書館で、彼女が呼びかけた。

「何?今日は少し元気がないみたいだけど…」

「ごめんなさい」

「…?」

「私もう、あなたとは付き合えないの」

突然の出来事だった。

「本当にごめんなさい」

そう言って彼女は図書館を出て行った。

僕は何が何だか、わからずにいた。それでも僕は、いつも待ち合わせていたはずの図書館に通い続けていた。

あれが夢だと、思いたかった。


そんなある日、いつもの図書館で、僕は突然女の人に声をかけられた。

「草薙…海君?」

知らない人だ。どうして僕の名前を知っているんだろう?」

「そうですけど…」

「私、鈴井真穂すずいまほ。愛美の事で、あなたに会いに来たの」

「愛美の事で?」

「ええ。愛美が、あなたの事をよく話していたから…あなたには、話しておかなきゃと思って…」

「…でも、僕は彼女とはもう…」

「わかってるわ。その理由を話しに来たの」

何が何だか、わからなかった。


「本当は、あなたには知らせるなって、言われてたんだけど…愛美、今入院してるの」

「愛美が?」

「愛美、ガンなのよ」

鈴井さんは、淡々と話し始めた。

「愛美、もう末期に入っていて、もうどうにもならないの。医者に、後1年の命だって言われて…それであなたに別れ話を…」

「そんな…」

「いつもあなたの事を話していたわ。すごく、幸せそうに。本当は、あなたに話そうかどうか迷ったんだけど…このまま知らずに過ごすより、彼女と過ごした方がいいんじゃないかと思って。愛美も、本当はあなたといたいのよ」

「じゃあどうして?」

「ガンってね、末期にもなってしまうと、すごく苦しむの。いくら薬で抑えていても。だから、そんな姿をあなたには見せたくないって…」

「…」

「愛美は愛美なりに考えたんだと思う。だけど私には、黙っている事の方が…」


「愛美の入院している病院を、教えて下さい」

「ええ。そう言ってくれると思っていたわ」


それから僕は、彼女のいる病院に行った。


病室に入ると、彼女は眠っていた。

僕は、青白い彼女の顔を見ながら決意していた。

彼女の傍にいる事を。


「…!?海、どうしてここに?」

目を覚ますと彼女は、ベットの横にいる僕に向かってそう聞いた。

「鈴井さんに、聞いたんだ。僕は、君の傍にいる」

「でも私…」

「傍に、いさせてほしいんだ。何があっても、僕は君から目を逸らさない」

僕は、はっきり彼女にそう言った。

彼女の頬に、涙が伝わっていった。

「君が、好きなんだ」


それから僕は、毎日彼女の入院している病院に通った。

「海、おはよう」

笑顔を作る彼女に、僕も笑顔を返す。

「おはよう」


彼女が助かるという可能性は、ないに等しい。彼女は日に日に体力を失っていく。でも僕には、彼女を見守っていく事しか出来ない。


「海、屋上に行きたい」

急に彼女が言った。

「でも…」

「平気よ。今日はいつもより少し調子がいいの。ね?少しだけ」

「いいよ。じゃ、行こう」

彼女はわかっているのだ。自分が後どれ位生きられるのかを。


屋上に着くと、彼女は気持ち良さそうに少し背伸びをして、僕に言った。

「ねえ海。私、もう長くないわ」

「…」

「わかるのよ。夏まで、持たないかも知れない」

「愛美…」

「海、私が死んでも、忘れないでね」

「…忘れないよ。絶対に」

そう言って僕は、彼女の唇にそっと、自分の唇を重ねた。


2度目の春になっていた。


8月の半に入った頃には、彼女はもうベットから起きられなくなっていた。

話す事すら辛くなっていたようで、毎日ただ痛みに苦しんでいた。


「海、私、あなたに会えて、とても幸せだった…本当に、ありがとう」

「愛美、僕も君と会えて幸せだった。本当に好きな人と、巡り会えたんだ」

「私が死んでも、あなたは幸せになってね」

それが彼女の、最期の言葉だった。

彼女は静かに、幸せそうに息を引き取った。


僕は、彼女が死んでも泣かなかった。

彼女は今も、僕の心の中で生きているのだから。

肉体は滅んでしまっても、心はずっと、生きているのだから。

彼女の人生は、無駄なものではなかったのだから。


君の笑顔を永遠に…。

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