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#2   【箱庭】と少年と

 

 閻魔王の手のひらから果汁がしたたり落ちる。



 「・・・・・・魔王様?彼女が引いております」


 沈黙を破ったのは、源十郎だった。


 翼は、彼に感謝した。彼女は、彼のおかけで現実逃避から目が覚めることができたからだ。しかし、彼女も顔が青ざめつつ不思議と頭は冷静に動いていたようだ。


(・・・・・・呪いの話を聞いていた時から嫌な予感はしていたけど、かなり問題がありすぎる! 呪いを解くことは別にいい、問題は自分が無事にたどり着けたとしてもその世界の知識がまるでないこと! そもそも「偽りの聖女」? どいう言うことだよッ! こっちはただの凡人なのにッ!!)


 彼女の考えでは、異世界に行くことは既に決定していたようだ。

 

 とっくに腹を決めていたのだ。「被害者」に合わなければ呪いが解けないのだから。


 しかし、翼は混乱していた。ついこの間まで、彼女は普通に仕事をして生活をしていたのだ・・・・・・無理もない。


 だが、話から察するにこれから行くことになる異世界は、彼女が住んでいた世界とはかなり違いがあるようだ。「聖女」が話に含まれた時点で確実となっていた。


 翼は恐る恐る口をひらいた。


 「・・・・・・聖女?といいますと、まさか魔法みたいなものとか魔物?みたいなものがいたりしますか? ・・・・・・もしそうなら、流石に一人では対応しずらいのですが・・・・・・というより!私戦えませんよ!何よりその世界の事情まるで知りませんし!!」


 若干翼は、素の性格を表に出していた。ゲームの世界や漫画の様に、とんでもない世界だったら彼女の手に負えないのだ。最低限度の知識は、欲しいのだ・・・・・・これは、死活問題に関わるのだから。


 これに驚いていたのは閻魔王のほうだった。


 少し驚いきつつ彼は彼女に尋ねた。嫌ではないのかと、異世界に行く事を容認してくれるのかと。


 「・・・・・・呪いの件に関してもそうだが。こちらの不手際でお前を見知らぬ異世界に送るのだぞ?嫌ではないのか?かなり無茶な要求をしているのだぞ?」


 閻魔の問いかけは、至極真っ当な質問であった。誰だって、理不尽だと感じるだろうと・・・・・・だが、翼の答えはとてもシンプルなものだった。


 「行く必要があるから行くだけですよ!・・・・・・何より、その聖女?のせいで私含む666人呪いのを受けたんですよ!・・・・・・個人的に、殴らないと気が収まりません!」


 翼は相当頭に来ていたようだ。何より、自分含む666人に被害が出たのだ冗談ではない!と怒りをあらわにするほどだ。これには、源十郎は驚き閻魔王はなぜか爆笑し始めた。


 翼はまさか、爆笑されるとは思っていなかったようだ。すると、


 「それもそうだ・・・・・・おい、源十郎!彼女に、【箱庭】を渡してやれ!」


 「・・・・・・ということは本格的にあれを始末すると

・・・・・・腕が鳴りますね!」


 二人は恐ろしいほどに笑顔である。若干周りの気温が下がっているのは気のせいだと思いたい程に。


 (・・・・・・悪寒を感じる・・・・・・)


 源十郎は【箱庭】の準備のため、この場を離れた。先ずはこれから向かう世界について説明だな!と、かなり乗り気で閻魔王は話し始めた。


 やはり、翼は向かう世界は魔法が生活・文化に影響を与えている世界なのだという。しかし、「偽りの聖女」の行いのせいで、世界の半分は緩やかではあるものの滅びを迎えつつあるのだという。魔物も生息はしているが、かつての様な数はいないのだと。それでもまだ、魔物は生息している。その世界では、魔物を討伐を請け負う「ギルド」と呼ばれる組織があるようだ。ある程度、戦う知恵・技術がなくては所属することができないようだ。


 ただ、資金稼ぎにはちょうど良いという。


 (・・・・・・確かに、あちらで生活をするのだから重要にもなるか)


 翼は、戦う技術を持たない為【箱庭】で修業してもらう流れとなった。


 どうも、その世界は自分の実力を数値で確認できるという。いわゆる、「レベル」で判別が可能なのだという。しかし、「レベル」を確認するには「魔法」が最低限度使えなければいけない。翼は、「魔法」がまだ使えないため、数値を確認できる道具を受け取る形となるとのことだ。


 これに関しては【箱庭】に着きしだい渡されることになるらしい。


 そして、「魔法」に関しても同じで修業して習得してもらう形となった。


 (思いのほか、話が進んでいく・・・・・・元々用意していた?)


 翼は、苦笑いを浮かべつつも閻魔王の話を静かに聞く。


 しかし、「魔法」に関して少し問題があるようだ。「魔法」は、分かりやすく例えるなら陰陽五行のような物となるのだと言う。大まかに「陰」と「陽」に分けられており木・火・土・金・水の5つの要素で分けているという。翼の場合、「呪詛」を受けている関係もあり少し厄介な状態にあるらしい。


 どうも、「陰」との相性が良すぎる余り「陽」を使うのに少し支障をきたすかもしれないとのことだった。だが、使えないわけでないので翼の修業次第では使えるようになるとのことだった。


 ふと、彼女は気づいた。妙に待遇が良すぎていると。 


「・・・・・・かなり待遇がいいように感じますが?なぜここまで手助けしてくれるのですか?」


 彼女は、問いかけずにはいられなかった。すると、閻魔王は頭をかきつつ、翼に背中を向けた。


「・・・・・・あ~そのことはだな、単純な話因縁みたいなのがあってな・・・・・・こっちとしてもクソ女をどうにかしたいと思っている・・・・・・それに、被害者も助けてやらんことにはこちにも支障が出るんでな・・・・・・はぁ」


 少し、答えが曖昧だと感じたが嘘は言っていない様子だった。しかし相当、仕事に支障が出ているようだ。閻魔王の背中がそう語っていた。


 周りにある、巻物の山はこれから行く異世界の全権が記された書類かもしれないと。翼は、冷や汗をかきつつもそう感じられた。


 翼が頬をかきつつ苦笑いを浮かべていると、側を離れていた源十郎が戻ってきた。


 「準備が整いました魔王様」


 どうやら、【箱庭】の準備が整ったようだ。いよいよ、異世界に行くこととなるようだ。


 「さっそくあちらの世界に移動してもらいたい ・・・・・・すまないな」


 何に対する謝罪なのか翼には分からなかった。ここまで親切に対応されたのは初めてでもあったからだ。


 「・・・・・・いろいろと説明して下さり、ありがとうございました・・・・・・お聞きし忘れたのですが、言葉?などの違いはどうすれば?」


 「それに関しても問題はない、後でこちらと連絡も取れる端末を渡すが問題はないな?」


 むしろ、感謝の言葉しか出てこないと翼は閻魔王に伝えた。



 すると、彼女の足元に魔方陣に様なものが浮かび上がった。ふと気づくと、隣には源十郎が傍にいた。どうやら、彼と【箱庭】まで移動するようだ。

 

 そして、翼は源十郎と共に魔方陣に吸い込まれるよう姿を消した。





 たどり着いた場所は「暗闇」だった。


 

 まるで、宙に浮いた状態で翼はそこにいた。しかし、地面に立っている感覚もある。なんとも奇妙な空間に彼女はいた。


 

 (・・・・・・ここが、異世界?)


 辺りを見渡してみると、先ほどまで側にいた源十郎が見当たらない。まさか、はぐれてしまった!と翼は思ったが、聞こえてきた音で違うのだと気づく。

 

 声である。


 遠くの方から、子供の鳴き声が聞こえてきたのだ。同時に、彼女が事故に合う前日に見た夢の内容と酷似していることに気がついた。翼は、焦りを見せていた。


 しかし、どうも声は近づいてはこないようだ。


 (・・・・・・体は動かせる・・・・・・多分夢じゃない)


 此処に居ても仕方がない。翼は怖いもの見たさもあり、声のする方に歩を進めた。



 そこには、踞って泣いている子供がいた。


 焦げ茶色に近い髪の、5歳ほどの少年がそこにいたのだ。


 (まさか本当にいるとは思わなかった! ・・・・・・ッどうしょう!)


 

 翼は、かなり焦っていた。彼女は、実は子供が苦手だったのだ。何より、子供を落ち着かせる方法を知らない。冷や汗をかきつつも、どうすれば!と考えていたら。

 

 「・・・・・・誰?」


 翼の存在に気づいたのか、泣きながら少年が顔を上げた。少年の、青く宝石のような瞳は不安げに揺れていた。


 (腹を括るしかないッ!!)


 翼は、少年に近づくことにした。


 勿論、子供を刺激しないよう目線が合うように、背を低くて少年に訪ねた。


 翼は、少年が此処にいるのかも分からない。状況を知るためにも、少年に少しでも警戒を解いてもらいたかった。まず、彼女は自分の名前を伝えることにした・・・・・・それとなく、少年の名前を訪ねるために。


 しかし、彼の答えは意外な物だった。


 ー自分の名前が分からないー


 これには、翼は流石に戸惑ってしまった。しかし、そうもいってられなかった。一番恐い思いをしているのは少年だからだ。

 

 「・・・・・・えっと、じゃ~君のことアオ君て呼んでもいい?」


 どうやら、少し警戒を解いてくれた様子だった。彼は、頷いて意思を示してくれたのだ。少年は、愛称で呼んでもいいと了承してくれたようだ。


 そして、何故此処に一人でいるのかも訪ねてみた。


 するとこの質問には、答えてもらう事が出来た。「怖い物」から逃げてきたというのだ。しかも、その「怖い物」というのがどうも異質だった。


・・・・・・「蜘蛛みたいオバケ」だったというのだ。


 (・・・・・・まさか・・・・・・魔物に襲われた?)


 異世界は、魔物が普通に生息している。もしこの場所が、異世界なら魔物に襲われるのも不思議な話ではない。少年が一人で此処に居続けるのも良くないと感じた。できるなら、此処から少年を連れ出してあげたい。


 しかし、無理やり連れ出すのも気が引ける。


 そこで翼は、少年にもし良かったら一緒に行かないかと訪ねてみた。しかし、断られる可能性は十分あり得る。ひょっとしたら、この場所は少年にとって安全な場所かもしれないからだ。けれど、この少年がどうしたいか知りたかったのだ。彼女は、少年の意思を尊重したかったのだ。

 

 少年は、たどたどしく翼も一緒なのかと訪ねてきた。勿論そうだと、翼が彼に伝えると、少し嬉しそうにしてくれた。どうやら、一緒に来てくれるようだ。


 


 翼が、アオに手を差しだ。


 アオが、翼の手を握ると、まるで眠りから覚めるかの意識が浮上した。






 柔らかいお香の匂いが漂う


 

 突然、源十郎が翼の顔を覗いてきた。


 さすがにこれには翼も驚き、飛び起きてしまった!どうやら、眠っているうちに、無事【箱庭】にたどり着いていたようだ。しかし、翼を見る源十郎の顔は驚いたままだった。どうかしましたか?と訪ねると、ふとあることに気づいた。


 (・・・・・・声が、低い?)


 翼が、手で喉元を押さえ首を傾げる。すると、源十郎はどこから出したのか分からないが手鏡を貸してくれた。


 「・・・・・・見ればわかる。今お前とんでもないことになってるぞ」

 

 源十郎は、かなり引きった顔で翼に鏡を見るよう促した。


 



 翼が手鏡を除くと


 その鏡には、見知ら青年が写っていた。




 


 

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