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#1  偽りの聖女の心臓を握りつぶせ

 

 爆音が響く


 雷鳴轟く砂煙より、巨大な竜の姿が露わとなる。

 

 竜が砂煙より現れると同時に、黒い人影が吹き飛ばされた。



「・・・・・・思ったより、妙に硬いな」 


 受け身をとりつつも、割と低めの声で息交じりに吹き飛ばされた青年は呟いていた。

 

 この青年が挑んでいる竜は作り物ではあるが、この世界に生息する竜と実力は大差ない代物だ。


 この作り物は、技量と経験を積むために青年自ら調整しているが、一瞬の油断で命取りとなるほどの作り物である。なぜ彼が、そんな作り物と戦っているのか?これには、いろいろ事情がある。


 竜が青年に狙いを定め、鋭い爪を振り下ろしたが彼は焦りを見せるどころか嘲笑うかのように素早く攻撃を回避し、竜の腕を太刀で切り落とした。




「まだ上手く基礎魔法すら使えないこんな状態で、あの依頼は自分には荷が重すぎる。もう少し技量を積まないとな ・・・・・・前途多難だな」


 

 頬をかきながらも、今後を思うと彼はため息をつかずにはいられなかった。


 青年をよそに竜は尚も攻撃を続けるが、青年はすべて紙一重で攻撃を回避している。ある程度の実力は身に付けているものの、彼はどうも慎重に事を構えたいらしい。


 彼は、心底めんどくさそうに右手で虫を払う仕草をとった。それと同時に、竜の影から巨大な黒い槍が複数現れ一瞬で竜は串刺しとなり息絶えてしまった。



 串刺しとなった竜は黒い霧となり消えていく。

 

 青年はその光景を見つつも、その場に座り込み胡坐をかきながらこの空間を見渡していた。青年と竜が対峙していたこの空間はかなり異質なのだ。



 (確か、閻魔王が言うには進む時間が違うって言ってたっけ?)


 彼が言うには、現実世界で三分しか時間が進んでいないのに対し、この空間では三か月ほど時間が経過するという。現実世界と誤差が生じるこの空間には、神殿のような建物もあり何より島が丸々空に浮いているのだ。


 (どういう原理で浮いてんだ?)


 見渡す雲海はとても美しいのだが、彼はどうも素直に喜べなかった。経験を積むには適したこの空間であったとしても。


「なるべく、アオぐらいは守れる実力が欲しいところだな」


 彼は、比較的低めの地声で呟きつつ出会ったばかりの少年のことを考えていた。アオという少年はこの世界にきて初めて出会った人間なのだ。


 (・・・・・・とても不思議な出会い方ではあったけれども)


 だが、閻魔王曰く私が女性の姿から男性の姿に変わってしまったのは、なんでもその少年の影響を強く受けているのが原因なのだという。


 今の彼女の外見は、髪は黒く艶があり頭のトップ辺りは短めなのだが襟足の髪の長さは膝まで伸びている。カソックに雰囲気が似ている服を着ており、少し切れ長の蒼い瞳を持つ顔立ちの整った青年の姿をしていた。


 なぜこのような事態となったのかと考えつつ、太刀を自分の影にかざした。すると太刀は、彼の影に吸い込まれていく。太刀を影に納めつつ「朝倉 翼」は、少し自分の状況を整理するために芝生の上に寝そべることにした。




「朝倉 翼」


 彼女は平凡を絵にかいたような黒髪の女性だった。


 別に仕事に不満があるわけでもなく、家族関係が複雑というわけでもない。ただ恋愛には余り関心を示さなかったが友人関係にも恵まれ、日々を楽しく生きている20代後半の女性だった。



 だがその日は運がなかった。


 ・・・・・・この一言に尽きる。


 彼女は、運悪く交通事故により命を落としてしまったのだ。




 翼が次に目覚めたのは、彼岸花が咲き誇る川のほとりだった。川の流れはとても緩やかで灯篭が流れている。


 彼女は、ここはあの世「地獄」なのだと不思議なほどに抵抗なく受け入れていた。常夜灯には明かりが灯っており、奥には石段と鳥居が見えていた。


「地獄」とは、幼い頃から恐ろしい場所だと思っていた。


 だが、今見えている景色はとても美しく、そして穏やかな時間が流れていた。蛍のような鬼火が浮いているのだが、突っ込む気力すらわかないほど清々しい気分になっていた。



 ふと、景色に見入っていた翼の傍まで小舟が近づいてきた。


 およそ成人男性の平均身長ぐらいだろうか、頭に二本の角の生えた「鬼」が小舟に乗っていた。すると 「鬼」は翼に話しかけてきた。


「運がなかったな。あんたまだ死ぬの当分先だったはずだが?」


「・・・・・・へッ?!」


 彼女は思わず素っ頓狂な声を上げた。


 少しウエーブのかかった彼女の長い黒髪が風にゆれた。






 灯篭が流れていく。

 



 小舟に乗って現れた鬼の名前は「源十郎」という名前なのだという。


 紹介しなければいけない人物がいるとのことで小舟に揺られつつ、私の身に起こっていることを少し教えてくれた。


 私の死期は当分先で本来なら起こりえない事だったのだというのだ。どうも、私のような出来事に会い死期でもないのにあの世にきてしまう人々が過去665人もいたのだ。


 いわゆる、「呪詛」のようなものを受けており強力な呪いのため、死に至らしめるほどの不幸を招いてしまったのだ。私で、丁度666人目となってしまいこれから会う人物もこの事態に頭を悩ませているのだという。


 どうにも、私達に掛けられた「呪詛」は生まれた世界で掛けられた物ではないらしい。何でも、別の世界の存在に掛けられた呪いだというのだ。


 世界は、複数存在しているのだという。多くの生き物が生息、文明を築いているのだと。彼は、にわかには信じきれない事を教えてくれた。そして、現在多数存在する世界の中で異常事態がおきている世界があるのだという。


 今まで、どの世界から影響を受けているのか判別できず、相当参っていたようだ。だが、一番「呪詛」の影響を受けている私があの世に来たことで、ようやく特定するに至った。    


 そして、「呪詛」をかけた人物はその異常事態が起きている世界にいることも判明したというのだ。


 (・・・・・・とてもはた迷惑な話)


 話をしていると、目的地でもある宮殿についていた。外装は、どことなく厳島神社のそれによく似ていた。


 あちらこちらで、蛍の様に小さな鬼火が浮いている。


 ここに、私の身に起こった出来事を知る人物「閻魔王」がいるのだ。思わず足が竦んでしまった。 



「正直なところ、不安しか感じません。・・・・・・私は呪いをいつ受けたのか知りませんか?」


「残念だが、その件については俺にもわからん。だが、前触れのようなものはあったようだぞ。それについても、奥にいる閻魔様が詳しく話してくれるはずだが、判明していないこともある。ひょっとしたら、あんたの協力がいるかもしれない」


「・・・・・・協力ですか?」


「あんたの今後にも関わる話だ。閻魔様は、無茶な依頼をあんたにするかもしれない・・・・・・いや、恐らくは・・・・・・あの方は何分変わった方でな、癖も強い。予め謝っておく、申し訳ない」


 まだ、会ってもいない閻魔王について移動の際に何故か源十郎に謝られる事態となり翼は、内心不安をつのらせてしまった。すると、目の前に大きな扉が見えてきた。


 ふと、翼はあの世の常識などを知らないことに気づき慌てて彼に尋ねると、ぽかんと口を開け驚いてから彼は苦笑いを浮かべた。別に気にしなくてもいいと言ってくれたものの不安を消すことは出来なかった。



 目の前の大きな扉が開く。すると、


 「あっちの巻物とってこい! あと、こっちの書類を巻物にまとめろ!」

 

 「すいやせん! こっちの巻物は使用されますかィ!」


 「面倒だ! そこに置いとけ!」


 「へィ!」

 



 時折、巻物が宙を舞う。


 おい書類どこやったなどの業務的内容が室内で飛び交う中を、源十郎さんは何事もなく進んでいく。彼は、一番奥の机の傍まで先導してくれた。目の前には、巻物の山があった。数えるのも嫌になるほどの巻物の山である。そこには、巻物を睨む少し大柄な人物がいた。

 

 彼が「閻魔王」その人である。


 巻物から目を離した閻魔王と目があった。なぜか不思議と怖いという印象を受けなかった。何というか、とても懐かしい感覚が翼には感じられた。閻魔王は翼を見ると驚いた表情をし、すぐに眉間にしわを寄せ何かを考え始めた。


 「名は、朝倉 翼で間違いないか?」


 翼が返事をした後、彼は頭を抱え項垂れてしまった。すると、彼は震えながらこう呟いた。


 「あのクソ女、ろくなことしねぇなぁ・・・・・・心臓をつぶしておけばよかったな・・・・・・ホント」


 地を這うような低い声で彼は呟いた。


 (ッ!・・・・・・かなり心臓に悪い)


 すると


 「あれの始末より、彼女の置かれている状況をお話しください魔王様」


 (・・・・・・会話に少し物騒な言葉が含まれている気がするけど?!)


 源十郎が額に手を当て閻魔王に呆れたように説明を促した。彼は、慌てて私に謝罪をし私が置かれている状況を話し始めた。



 内容は、私を死に至らしめる影響を及ぼした「呪詛」についての話から始まった。



 私以外の665人の「呪詛」に掛かった人々は、何でも「地獄」に来ることで呪いを解くことができたのだという。元々、この「呪詛」は別の世界に住むある人物から届く救助信号のようなもで、本来は他者を死に至らしめる強力な「術」ではなかったのだ。


「呪い」でさえなかったというのだ。 


 だが、その人物の身に何かが起こり、「術」歪み「呪詛」に転じてしまった。


「呪詛」を受けた人々は様々な国に住んでいたにもかかわらず、共通の「兆し」を受け取っていた。同じ内容の「夢」を見ていたというのだ。国によっては、言葉が異なるものの必ず同じ声で助けを求めるのだという。


 「・・・・・・助けて・・・・・・怖い・・・・・・嫌だ」と小さな子供の声が、光の無い暗闇から聞こえるといった内容の夢を見たというのだ。翼は驚き、少し顔をしかめた。


 なぜなら彼女も数日前からその夢を見るようになっていたからだ。ただ、翼が見た夢の内容は少し違っていたようだ。


 正しくは、事故にあう前日に見た夢はどうも他の呪いを受けた人たちは見ていない内容のものだったからだ。これには閻魔王も予想していなかったようだ。


 差し支えがなければ話して欲しいと閻魔王に頼まれた翼は、静かに夢の内容を話し始めた。


 


 「・・・・・・声の主が、近づいてきました」


 夢の中で、彼女は一歩も動けずただ声の主が近づくのを待つしかなかった。彼女以外の姿が見えない暗闇で、ただ得体のしれない恐怖に耐えるしかなかった。


 姿が見えない「それ」の気配が自分の傍まで来ると、今までとは違う低めの声で耳元でこう囁いたのだ。



 ー 見つけてくれ ー


 ただ一言、何を見つければいいのか翼には分からなかった。あるいは、誰かを見つけて欲しかったのか。




 漠然とした一言だった。



 だが、彼女はこの夢が「兆し」でわなく、「証」だと気づくのは少しあとになる。そして、彼女は、夢の真意を知らぬまま。後日、交通事故に会い命を落とすことになるとも知らずに。





 沈黙が流れた。



 閻魔王は、机に置かれていた果物を手に取り口を開いた。


 「・・・・・・夢の主は、恐らく被害者の一人だろうな」



 さらに閻魔王は、話を続けた。


 翼に掛けられている「呪詛」は、地獄では治せない類いの物に変わってしまっている。今でも悪霊にならず人型を保っているのがやっとの状態であると。無理に呪いを解けば翼の霊体、つまり「魂」が砕けてしまうというのだ。


 翼は、愕然としてしまった。


 「・・・・・・呪いを解く方法はあるんですか?」


 「一つだけ方法があるが・・・・・・かなり厳しいぞ。それに、後戻りもできん・・・・・・それでも聞くか?」


 翼は、頷くことしかできなかった。


 その方法に、縋るしかなかったのだ。 


 ー 呪いを解く方法 ー


 この方法は翼にとって、それは余りに現実からかけ離れた内容だった。 


 翼の肉体は既に火葬され墓に埋葬されている。この時点で、翼は元の世界には帰れないことを意味していた。


 また、人間は同じ世界に転生できる回数は「魂の残量」によって決まっているのだという。だが、翼の魂は何度目かの転生を繰り返しており既に魂が寿命を迎えていた。同じ世界に生まれなおすのは難しい状態であると。


 魂の寿命を迎えたものは、今度は別の世界で生まれ直すか地獄に住み「管理者」となるか選べるのだという。 



 ただし、選ぶには魂を清めなければならない。


 しかし、翼の呪いは余りに強い為、地獄でも清めることか出来ない状態である。これを放置すると悪霊になってしまうため、何としても呪いを解かなければならない。


 呪いを解くためには、異常事態が起きている世界に自ら赴き、「呪詛」をかけた人物に会いに行かなければいけない。



 翼は、冷や汗をかいていた。


 (そもそも、会いに行く事が出来るのか? 今の私は別の世界に生まれることさえできない状態だというのに?)


 彼女の不安は、膨れ上がっていくばかりだった。思わず、閻魔王に問いかけてしまったのだがその点に関しては問題はないと言われてしまった。


 だが、閻魔王は悲しげに話を続けた。



 その世界では「神殺し」が起こってしまったと


 その世界の管理を行っていた大多数の神が何者かによって殺された。今だかつて前例がない悲劇が起きてしまったのだと。それも、魂を管理していた神が殺されるという異常事態かおきた。


 そして、現在その世界は管理者不在となっており、その全権が急遽、翼の目の前にいる閻魔王に回ってきてしまったというだ。


 簡単な話、その全権を利用すれば翼の「魂の残量」を削らずにその世界に送ることができるというのだ。



 翼は、愕然とした。


 凡人として生きていた彼女には、手に終えない話だと感じていたからだ。しかし、そうも言ってられない。何せ、自分に関わる事だからだ。だが、会いに行ったとして何かしら手掛かりがないと探せない。何より、「被害者」とはどういう事なのか。 


 (元々、呪いは救援信号だと言うし嫌な予感しかしない)


 その人物は、今はどうなっているのか?無事なのだろうか?でないと困るのは私なのだと考えていた矢先、彼女の疑問は直ぐ解消される。


 「被害者」は今も、「神殺し」を促した存在と共にいるという。


 促した存在は、聖女の力を奪った存在であまつさえ自らを聖女と偽り、「被害者」を利用したのだというのだ。翼は、余りの内容に参ってしまった。


 閻魔王は更に、翼にトドメをさした。


「被害者」を助けなければ、呪いは解けないと


「・・・・・・大変申し訳ありませんが。聖女の力を使う存在からどうやって救いだせは良いのか、皆目検討つかないのですが? 

 ・・・・・・具体的にはどのような方法で助ければ良いのか?」


 なんとか翼は、素の性格がでないよう慎重に言葉選びながら閻魔王に問いかけた。だが、閻魔王は彼女の期待を裏切るとんでもない方法を提案してきた。


「単純な話、このようにあのクソ女の心臓を粒せはいい」


 笑顔を浮かべた閻魔王は持っていた果物を、握力で握りつぶした。まるで、破裂させた様に。どうも、「あのクソ女」とは偽物の聖女の事だったらしい。相当、頭に来ているようだ。


 (・・・・・・私、そんなに握力有りません!!)


 翼の顔色は、真っ青になりつ元の世界が恋しくなった。


 





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