やっぱり屋上にて
ここは十階建ての建物の屋上。
人気のない建物内の階段を駆け足
息を切らしながら最上階へ
立入禁止と書かれた立て札の横を駆け抜ける。
所々ひび割れ薄汚れた石畳にそこそこの年月を感じさせる錆びついた鈍い銀色の鉄柵。
周りには同程度の高さのマンションや
見上げるのに少しだけ首が疲れる高いビル群
夜空を背景にして乱雑に建ち並んでいる。
そんな景色を背景に白いワンピースを着た少女が1人、屋上の端で夜景を眺めていた。
思わず息を飲んだ。
夜風になびく少女の長く美しい黒髪がさらさらと夜空に溶けるようにして広がる様はどこか神秘的でとても「絵になる」と思った。
それだけでも十分目を惹く光景ではあったのだけれど目を奪われた一番の理由は他にある
彼女が錆色の鉄柵の向こう側に立っていたからだ。
この神秘的な景色は今にも凄惨な景色に変わってしまうのではないかと予感させた。
だから今 俺はここに居てー。
俺はシャープペンシルを机に転がし、目の前の紙をぐしゃぐしゃと丸めてそれを思いっきり自室の隅に置かれたゴミ箱に向かって放り投げた。
「ダメだダメだ」
ため息混じりの独り言を吐き出しながら椅子の肘おきに手をかけるようにして立ち上がる。
「あー、くそぅ」
投げ捨てて床に転がった"つまらなもの"を拾い上げ、至近距離からゴミ箱に投げつけ…勢いよく黒いプラスチック製のゴミ箱の中へ収まった。
ふと窓の外に目を向けると日はとっくに沈み丸い月が顔を出していた。
なんとなく窓の外に並ぶビル群を
眺めているとあるものに気づいた。
「…マジか」
俺は白地によく分からないデフォルメされた動物のキャラクターがプリントされた安物のTシャツと学校指定のジャージといった部屋着まま玄関へ向かいサンダルに足を突っ込むと自宅の扉を乱暴に開け放ち家を飛び出した。
暗くなった窓の外、月明かりに照らされたビルの屋上の一角に今まさに飛び降りてしまいそうな少女の姿を見つけたから。