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頭中将はお仕事中

がさがさと山をかきわけ、道なき道を突き進んでいく。

狩衣に引っかかる枝はこどごとく折って、帰りの道が楽になるようにしておく。


物怖じしないで進んでいく実明に、随伴していた賀茂実胤(かものさねつぐ)は感心した。


「お前ここに来た途端雑になったな。まぁとろとろと進むよりは良いが」

「こんな山の中で他人の目を気にする必要はないからね。それに早く仕事を片付けて帰りたいんだ」


実胤の言葉に実明は淡々と返した。


実明と実胤は仕事上、よく一緒になることが多い。二人とも帝から目をかけられている点で共通しているので、帝からの些細な勅命はよく一緒に受けるのだ。互いに出世の邪魔になるような立ち位置にはいないから、いつからか気のおけない友人になっていた。

そんな友人との仕事だからこそ、普段は一分の隙もない実明も被っている衣を脱ぎ捨てているわけだが。


ざくざくと荒れた道を通っていく。

まだまだ青い葉が多いが、ちらほらと落ち葉も積もっている。

そういった落ち葉を踏みつけて、実明は噂の葡萄の木を探す。


秋とはいえ昼間から動き回ればさすがに暑くなる。

一度立ち止まって額に浮かんだ汗を袖で拭うと、実明はまた歩きだす。


「見つからないな」

「広い山のようだしね。僕らはまだ近場だけど、野宿も覚悟で行かせた者達が心配だ」

「あの国司め……まったくもって忌々しい」


実胤が毒づく。

葡萄を献上した国司は実明たちが勅使としてやって来ると、宿や身の回りの世話をする事は申し出てくれたが、肝心の葡萄の在りかについては頑なに話そうとはしなかった。

葡萄を見つけたという者の居場所すら教えない始末。

それでこうやって人海戦術を駆使した上で自らも散策しているのだが……


「これはちょっと難航しそうだね。実胤が葡萄を占えたら早かったのに」

「俺の易占的中率が低い事への嫌みか」

「あはは、天気は百発百中なのにね。お天気お兄さん」

「誰がお天気お兄さんか。せめて葛羽がいてくれれば……」


実胤は舌打ちした。

葛羽とは今弘徽殿に仮住まいを置かせている実胤の弟……いや妹弟子だ。男ではないので大内裏の陰陽寮に仕えることのできないかわりに、自由のきく術者なので重宝している。なお術師としては実胤と葛羽は互いに弱点を補うような関係なので、手元に置くにはこれまた都合がよかった。

宇治葛羽(うじのくずは)といえば陰陽寮で知らない人はいないくらいの有名人であるのだが……とりあえず葛羽と実胤の話はまた別の話。


葛羽の霊力だったら易占でかなり良い結果を出してくれるだろう。独自の謎式紙占術を編み出していたくらいだ。

だがしかしこれでは無い物ねだり。

実胤は不機嫌そうな顔で歩みを進める。


「本当なら俺は見極めのために同行したんだ。なのに何故葡萄探しを手伝わねばならんのか」

「だってその神の地が見つからないと君の仕事も始まらないからねぇ」


元はといえば国司が黙秘をするせいだ。

戻ったらちょっとおどかして吐かせてやろうかと実胤は考える。


つらつらと考えていると実明が立ち止まった。

なんだと思って実胤も立ち止まる。


「どうした」

「駄目だ、行き止まり」


見れば高い崖が。

やれやれと思って実胤が踵を返そうとして、ふと立ち止まる。


「あぁ、待て」


実胤は懐から一枚の紙片を取り出した。

太陽の位置を確認して崖の上にめがけて飛ばす。


「葡萄を探せ」


呪文を唱え、印を組むと、紙片は鳥になる。

その鳥に短く命ずると崖の上へと飛んでいった。


「こういうの何て言うんだっけ。……ええっと、式?」

「ああ。これで崖の上の様子はわかる」


印を組んだまま実胤は答えた。

へぇ……と感心した風情でうなずいていた実明は、ふと思いつく。


「それ、山全体に飛ばせないのかい?」


それが出来たら探索はもっと楽になるだろう。


「馬鹿言え。せいぜい俺に扱えるのは二つが限界だ。右手と左手で違う絵を描くようなものだぞ」

「そうか……それは残念」

「ただ俺には、って話だがな。俺の後輩にもっとすごいのがいる。明日戻ってくる奴等にも見つけられなかったら、あいつを呼ぶのは良い手かもしれん」

「駄目だったらお願いするよ」


茶化すようにお願いすれば、信じてないだろうと言うような目で見られた。


休憩しながら実胤の式を待つ。

ここは山の中、腰を下ろせば土で汚れてしまうからあんまり休んだ気分にはならないが。


じりじりと待っていると、ふわりと上から葉が一枚落ちてきた。

実胤が気づいて落ちてきた葉と周りの木々を見比べるが、実明がその葉を拾い上げ声をあげた。


「どうした」

「それ、葡萄の葉だ」

「何っ?」


実胤は慌てて上を見ると、彼の式が宙で旋回している。

どうやら見つけたらしい。


「戻れ」


命じると式は実胤の手に収まり、元の紙片へと戻った。


「この上にあるのか」

「道を探さないといかんな」

「そうだね。だけど今日はもうここまでだ」


空はまだ青いが、ここまで来た道のりを思えば国司の屋敷に戻る頃には日が傾いてしまうだろう。

それまでに使者を送り出して山狩り部隊に戻るよう指示を出さねばならない。

追いつくところに居れば良いのだが……


◇◇◇


次の日、実明は戻ってきた者達を連れ、昨日の場所までやってきた。

がさがさと上へ続く道を探す。


崖沿いに左右に別れて探していると右側の方に綺麗な沢を見つけた。

水が勢いよく岩の段差から落ちてきて、ちょっとした滝のようになっていた。とても澄んでいて、底が見える。浅いようだ。

しかし一つの報告が上がってくる。

供の一人が手巾をその沢に落としてしまったらしく、取ろうと思って沢の中に入ったらしい。足が着くと思った場所に水底はなく、実際には深かった。


その沢こそが国司の言っていた沢だと確信し、上流に進む道を探す。沢の向こう側は上流に進めそうだった。


「ふむ……こちらからは無理か」

「おーい、実明!」


ぼやいたと同時に頭上から声がかかる。

どこだと探して上を向けば、崖の上から実胤が顔を覗かせていた。


「沢を渡れ! 向こう側に葡萄らしきものが見える!」


実胤の言葉に実明は頷くと供の者に声をかけた。


「一度下り、向こう岸に渡れる場所を探す!」


実明の号令で、皆進んでいく。

少し下ったところで水は地中に潜り、沢は途切れた。そこを通って、沢を登っていく。


厄介な仕事だと最初は思ったが、思ったよりも早く京へと帰れるかもしれないと思うと、進む足にも力が入る。


沢に落ちないように少し離れた場所を歩く。

折れた木や腐葉土で足場の悪い斜面だが、よくよく目を凝らせば人一人が通れそうな道のようなものができているような気がした。

それを丁寧にたどる。

そして沢の向こうに実胤達の別動隊が見える頃、実明の目には大木に絡み付いた葡萄の蔦と、丸まると太った実が飛び込んできた。


「ここか……!」


たどり着いて、見つけて、ほっとする。

しかしまだ気は抜けれない。

まだ仕事は残っている。


「実胤、どうすれば良い」

「力が一番強い場所を定めて、内裏からの正しい方角を捻出しろ」

「力が一番強い場所っていったって……」

「何でも良いから一見して神器っぽいのはないのか」


実明は命じて探させる。自分も少し歩いてそれっぽい物を探す。

葡萄なのだから葡萄の元の場所を探せば良いのではないかと考えて、蔦の先を追っていく。

すると、葡萄の木々が絡まりあい、一本の木のようになっているものがあった。

他の供の者も同じところに至ったから、これで間違いはないだろう。

元の場所に戻って、実胤に伝える。


「分かった。それならそれが御神体だな」

「そんな簡単に決めちゃって良いのかい?」

「違っていたらその時だ。後で占うから問題ない」


二人が沢越しに話していると、突然誰かの悲鳴が上がった。

なんとも情けないその声に、二人とも声のする方を見た。


「なんだろう?」

「誰か足でも取られたか?」


言い合っていると、顔を真っ青にした従者が実明に報告する。


「実明様、不浄のものが御座いまして……!」

「不浄?」


実明は目を細める。

こんな吉兆のある場所に不浄のもの?


「し、死体が……」

「死体? 猪か? 熊か?」

「い、いえ、違います。お、おとこです」

「男?」

「人の死体が御座います───!」


実明が驚いた顔をする後ろ、沢の向こうでは実胤が厳しい顔をした。


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