超絶美少女タイムことゴールデンタイム
寒い帰宅路を歩きながら、携帯の時計を見た。先月バイト代で買ったばかりのスマホの画面が眩しい。16時58分。バイトの時間がせまっている。そろそろ、着替えなきゃまずいなと思い、僕は足早に家へと向かった。
松下愛斗。
いたって、平凡の高校2年生だ。
強いて言うなら、高身長ということ。
それくらいしか、取り柄がない。
クラスで人気者というわけでもなければ、勉強ができるわけでもない。
顔もいたって普通、可もなく不可もなくだ。
僕が、RPGゲームにでるとしたら、間違いなく村人A.B.C.Dのどれかに抜擢されるだろう。そして、ここまでくるともはや当たり前のことだが彼女もいない。
彼女がいない言い訳をするならば、
僕の通う桜道高等学校、通称 桜道 には女子が圧倒的に多い。そして、そのせいなのか、なぜか男嫌いの女子が多い。女子が圧倒的に多いと聞いて、これは彼女ができるチャンスなのでは!? と浮かれていたのは、僕だけではないだろう。でも、僕には女の子にモテる期間がある。期間というには語弊があるな。『時間』があると言った方が正しいだろう。これは、並大抵の人には、味わえない僕だけの『特別な時間』だ。通称『ゴールデンタイム』。僕を村人役から外すとしたら、この能力しかありえないだろう。ゴールデンタイムは、3の付く日の午後19時から22時までの時間だ。
つまり、毎日ではないということだ。しかし、この時間だけ、僕は男でありながら超絶美少女になれるのだ。松下愛斗という面影はどこにもない超絶美少女に!
僕は、この時間のために生きてると言っても過言ではないくらい、この時間が生きがいとなっている。
高校生になって、年も明けるというころだっただろうか、約1年間前に僕はこの時間を手に入れた。毎年、毎年のお年玉が少なかったがために神様がくれた慈悲だろうか。どちらにせよ、ありがたいものだ。そして、この時間をフルに活用するために半年前からとあるバイトをしている。桜道の女子に密かに人気の女の子による女の子のためだけの女の子と二人っきりで対談できるカフェ。ゆりカフェこと『しらゆり』だ。最初は、超絶美少女の身体になれる。それだけで、青少年の日々の支えとなっていたが、ゆりカフェの存在をしり、
普段普通にしている女の子たちが、本性をさらけ出し
自ら自分に触れてくる。あろうことか、女の子である僕にだ。そう考えたら、居ても立っても居られず翌日にはゆりカフェに行き、面接をしていた。もちろん、ゴールデンタイム時ではなければ、面接もできないので超絶美少女として面接に行った。ゴールデンタイムが3のつく日の19時から22時でしか、発動しないためあまり働かないとは説明したのだが、細身でヒゲの濃いオカマな店長には、そんなこと関係なかったのか見た目だけで合格してしまった。女の子になってる時の名前やバイト時のニックネームは、考えてなかったため、本名の松下愛斗から取って、『松永愛梨』バイト時のニックネームは『らぶ』にした。
そんな安易な考えで、始めたゆりカフェも今では指名率ナンバーワンの人気ゆりっ子になっていた。
ゆりっ子とは、しらゆりで働く女の子の俗称だ。人気ともなれば、いろんな女の子の接客もするし、予約も殺到する。ファンつまり常連さんもでてくる。そして、この仕事のおもしろいところが、お客さんの女の子のほとんどが桜道の生徒であるということだ。